天下界の無信仰者(イレギュラー)
ほらよ
時は遡り、ここはサン・ジアイ大聖堂、時は神愛たちが初めてきた日の夕刻だった。優美と荘厳な装飾を誇る廊下は慈愛連立の文化的誇りだ。
小さめではあるが等間隔に置かれたシャンデリアは輝き純白の内装には一つの汚れもない。積み重ねた歴史がここには凝縮されていた。
そんな優雅な廊下を誰が気にもせず乱雑に歩くだろう。
しかしそれはいた。踏み荒らすような歩調で進むのは、どう見ても政府高官には見えない司法庁長官、サリエルだった。
白い制服に身を包んでも隠せない粗暴な雰囲気になにより薄い黒のサングラス。
彼の能力上しかたのないアイテムではあるが、それを知らない者から見れば奇異な格好に小首を傾げるのも無理はない。
「サリエル長官、お疲れ様です」
「おう」
ちょうど廊下をすれ違った男性職員からの挨拶にも適当に応え歩いていく。彼の背後では職員が「どうしてあんな人が?」と言いたげな顔で背中を見つめていた。
政府高官どころか慈愛連立にも合ってないとしか思えない。
「おおそうだ」
すると立ち止まったサリエルに職員はすぐに背筋を正す。振り返ったサリエルのサングラスから見える切れ長の目が職員を舐めるように見つめていた。
(まさか、バレタのか?)
職員に緊張が走る。
「ここに来るのは久しぶりだったから忘れちまったわ。売店ってどこだ?」
「あ、売店ですか? ここの突き当たりを右に行ってもらえればすぐです」
「そうか、サンキューな」
サリエルは振り直り職員はホッとした。
「ああ、あともう一つ」
「はい、なんでしょう?」
しかしサリエルは一度は正面を向いた顔を再び職員に向けてきた。
「文句があるならてめえが出世しろや」
そして今度こそ廊下を歩いて行った。
(バレテたのか……)
職員はその場にとどまりサリエルの背中を唖然と見つめていた。
サリエルの性格は不良のそれだが高い能力の持ち主であることは疑いようがない。
好戦的な性質も天羽を裁く天羽という役割に合っている。彼本来の職務上戦闘が多いからだ。
七大天羽サリエル。ここにいる職員は知る由もないが、彼こそは由緒ある天羽の一体だ。
サリエルは職員に教えてもらった通りに進んで行くと右左側に売店が見えてきた。新聞や雑誌から、小腹が空いた時に助かる軽食やお菓子などが置いてある。
それ自体は他の売店と大差ないが、ここには少し変わったものが置いてあった。
それがラップに包装されたチーズケーキだ。一ピースにカットされたものが棚に置いてある。
「お、一つか」
残り一つだったそれをおもむろに手に取りレジに持っていく。職員である中年女性が退屈そうに立っていた。もう何年も顔なじみのここの主だ。
「あんたもそれ好きねえ」
「うるせえよ」
商品をカウンターに置く。
「ほらよ」
「二八〇サインね」
「分かってるよ」
いちいちうるせえなと胸の中で愚痴を吐きつつポケットを探る。
「ん?」
が、探してみてもなかなか手ごたえがない。反対側か? と両手で探ってみても中は空っぽだ。
「ちっ」
財布がない。どうやら忘れてきたようだ。
「なあばあさん」
「お姉さん」
「ああ? てめえのどこがお姉さんだ年考えろったく。財布忘れた、支払いはツケだ。もらってっていいだろ」
「いいわけないでしょ、それ持って私の視界から消えてみなさい。窃盗罪で捕まえるわよ」
「ちっ」
サリエルは舌打ちと同時にチーズケーキをレジに置いた。ここに何年も通う常連だが店員はチーズケーキのように甘くはないようだ。
「あんたねえ、司法庁長官ともあろう方がそんなんでどうするんだい。こんなこと売店のおばさんに言われてちゃ駄目でしょうが」
「そうだったなッ、忘れてたよ」
店員の忠告に厭味ったらしく返事をしてからサリエルは財布を取りに廊下に戻った。
「ったく、少しくらい大目に見ろよな」
それから部屋に財布を取って売店に戻る。廊下をイライラしながらサリエルは歩いていた。それでもうそろそろ売店が見えてくるという時だった。
客でもいるのか売店から声がする。
「お姉さんこれください」
「あら偉いわねえ、二八〇サインよ」
「わーい!」
小さい女の子の声だからどうというわけではないが、レジ前にいるその人物を見た瞬間だった。
「なに!?」
目に飛び込んできたのは白色のツインテールに学校の制服。小柄な体のその女の子は、
「ウリエルだぁ!?」
小さめではあるが等間隔に置かれたシャンデリアは輝き純白の内装には一つの汚れもない。積み重ねた歴史がここには凝縮されていた。
そんな優雅な廊下を誰が気にもせず乱雑に歩くだろう。
しかしそれはいた。踏み荒らすような歩調で進むのは、どう見ても政府高官には見えない司法庁長官、サリエルだった。
白い制服に身を包んでも隠せない粗暴な雰囲気になにより薄い黒のサングラス。
彼の能力上しかたのないアイテムではあるが、それを知らない者から見れば奇異な格好に小首を傾げるのも無理はない。
「サリエル長官、お疲れ様です」
「おう」
ちょうど廊下をすれ違った男性職員からの挨拶にも適当に応え歩いていく。彼の背後では職員が「どうしてあんな人が?」と言いたげな顔で背中を見つめていた。
政府高官どころか慈愛連立にも合ってないとしか思えない。
「おおそうだ」
すると立ち止まったサリエルに職員はすぐに背筋を正す。振り返ったサリエルのサングラスから見える切れ長の目が職員を舐めるように見つめていた。
(まさか、バレタのか?)
職員に緊張が走る。
「ここに来るのは久しぶりだったから忘れちまったわ。売店ってどこだ?」
「あ、売店ですか? ここの突き当たりを右に行ってもらえればすぐです」
「そうか、サンキューな」
サリエルは振り直り職員はホッとした。
「ああ、あともう一つ」
「はい、なんでしょう?」
しかしサリエルは一度は正面を向いた顔を再び職員に向けてきた。
「文句があるならてめえが出世しろや」
そして今度こそ廊下を歩いて行った。
(バレテたのか……)
職員はその場にとどまりサリエルの背中を唖然と見つめていた。
サリエルの性格は不良のそれだが高い能力の持ち主であることは疑いようがない。
好戦的な性質も天羽を裁く天羽という役割に合っている。彼本来の職務上戦闘が多いからだ。
七大天羽サリエル。ここにいる職員は知る由もないが、彼こそは由緒ある天羽の一体だ。
サリエルは職員に教えてもらった通りに進んで行くと右左側に売店が見えてきた。新聞や雑誌から、小腹が空いた時に助かる軽食やお菓子などが置いてある。
それ自体は他の売店と大差ないが、ここには少し変わったものが置いてあった。
それがラップに包装されたチーズケーキだ。一ピースにカットされたものが棚に置いてある。
「お、一つか」
残り一つだったそれをおもむろに手に取りレジに持っていく。職員である中年女性が退屈そうに立っていた。もう何年も顔なじみのここの主だ。
「あんたもそれ好きねえ」
「うるせえよ」
商品をカウンターに置く。
「ほらよ」
「二八〇サインね」
「分かってるよ」
いちいちうるせえなと胸の中で愚痴を吐きつつポケットを探る。
「ん?」
が、探してみてもなかなか手ごたえがない。反対側か? と両手で探ってみても中は空っぽだ。
「ちっ」
財布がない。どうやら忘れてきたようだ。
「なあばあさん」
「お姉さん」
「ああ? てめえのどこがお姉さんだ年考えろったく。財布忘れた、支払いはツケだ。もらってっていいだろ」
「いいわけないでしょ、それ持って私の視界から消えてみなさい。窃盗罪で捕まえるわよ」
「ちっ」
サリエルは舌打ちと同時にチーズケーキをレジに置いた。ここに何年も通う常連だが店員はチーズケーキのように甘くはないようだ。
「あんたねえ、司法庁長官ともあろう方がそんなんでどうするんだい。こんなこと売店のおばさんに言われてちゃ駄目でしょうが」
「そうだったなッ、忘れてたよ」
店員の忠告に厭味ったらしく返事をしてからサリエルは財布を取りに廊下に戻った。
「ったく、少しくらい大目に見ろよな」
それから部屋に財布を取って売店に戻る。廊下をイライラしながらサリエルは歩いていた。それでもうそろそろ売店が見えてくるという時だった。
客でもいるのか売店から声がする。
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