天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

長い白髪……?

「起きたか」

「なにしに来たんだイレギュラー」

 その後ペテロとヤコブからも声がかけられる。特にヤコブは露骨に敵意ビンビンで俺を睨みつけてくる。

「今は会議中だぞ」

「知ってるよヒゲ野郎」

「んだとぉ!?」

「落ち着けヤコブ。なにしに来た?」

 隣の席で激高するヤコブをペテロが制しながら聞いてくる。

 ペテロだけじゃない、この部屋にいる全員が俺を見つめていた。

「恵瑠に会いに行かせて欲しい」

「正気か?」

 精悍なペテロの表情に少しだけしわが寄る。

「お前はその彼女に殺されかけたんじゃなかったか?」

「そうかもしれない。でも、俺は違う方を信じてる」

 俺の負った傷は裏切りなんかじゃない。守るためだった。それを決別になんかしてたまるか。

「あいつは俺の友達なんだ。今だって。あいつと二人っきりで話ができれば、違う答えが返ってくるはずだ」

 断言する。自信を持って言ってやった。俺が信じないでどうするんだ。

 俺の発言に周りからは否定的な声が出ていた。「あるわけがない」「あれは敵だ」誰も信じていない。

 全員が敵だと思っていた。そうした雰囲気に気を強く持ってなければ呑み込まれそうになる。

 けれど、俺は揺れなかった。 

「もし違ったら?」

「それを確かめに行くんだよ」

 ここにある否定の数々、それを全部払いのけて。

 俺とペテロの間で無言の間が流れた。辺りも静まりかえり緊張の面もちで見つめてくる。

「…………」

「…………」

 黙ったまま、自分の思いをぶつけ合った。

「失礼します!」

 突然扉が勢いよく開けられた。何事かと振り返る。

「どうした?」

 扉を壊す勢いで入って来た軍服の男にペテロが声をかける。

「ただいま入った情報です。第三基地が天羽の襲撃を受けているとのことです!」

「なに!?」

 襲撃? ミルフィアは大きな動きを見せていないと言っていたが、まさか本格的に攻めてきたのか? 襲撃の報告に周囲もざわついている。

 俺は焦るが、ペテロは冷静だった。

「数は?」

「それが」

 ペテロの質問に軍人は表情を歪め、言いにくそうに話し出した。

「敵は一体のみ。長い白髪に炎を使うとのことです」

「長い白髪……?」

 まさか? そう言われて思い浮かべる天羽なんて一人しかいない。加えて炎を使うと言ったら間違いない。

「恵瑠!?」

 あいつが、一人で基地を襲っているのか?

「やはりか」

「やはり?」

 険しい顔でつぶやいたペテロに向き直る。

「やはりってどういうことだよ?」

 なにか知ってるのか? 俺は聞くが、その疑問には隣に立つミルフィアが答えてくれた。

「主、実は、白色の髪をした天羽による襲撃は初めてではないのです」

「そんな」

 俺が眠っている二日間にそんなことが。

 今回も、そして以前の襲撃も、白色の髪と炎を使うという特徴から恵瑠で間違いないだろう。

 俺の信じることとは裏腹に、恵瑠は天羽として抵抗する人間を襲っている。二千年前の伝説と同じ、審判の天羽として。

 そのことに、俺は自然と目線が下がっていた。

「君の友人によって我々には多大な被害が出ている。彼女の行動は紛れもなく私たちへの攻撃だ。それでもか?」

 ペテロが俺の意思を再び聞いてくる。どんなに信じようとも現実は変わらない。恵瑠は攻撃している、人類の敵だ。

 だけど。

「それでもだ」

 諦めるつもりはない。あいつのしていることが攻撃だって襲撃だって、あいつの心まで見えたわけじゃない。

 もしかしたら事情があるかもしれない。

 その可能性を、俺はまだ諦めていないんだ。

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