天下界の無信仰者(イレギュラー)
もしくはその先か
「あいつは勇敢かつ優しい男だったよ。琢磨追求の被害など知ったことではなかろうに、それを助けにいくとやつは立ち上がった。ゴルゴダとスパルタの昨今の友好関係はやつの功績と言ってもいい」
歴史的に禍根(かこん)を残すゴルゴダ共和国とスパルタ帝国だが、エノクの救援は両国の架け橋となり協力体制きっかけになったのは間違いない。
「その魔王戦争と今回の出来事になんの関係がある?」
だが、人々の記憶に強烈に残った魔王戦争も過去の話だ。今回の出来事とはまるで関係がない。
だが、その前提が違っていれば話は別だ。
「魔王戦争は、まだ終わっていないとしたら?」
「なに?」
その質問に、ペテロは再び驚いた。
ガブリエルはコーヒーを一口飲むと再度コーヒーカップへと視線を落とした。
「その時我々は勝てるのか? 魔王、そしてやつが率いる魔人と魔物の軍勢。かつて慈愛連立、琢磨追求、無我無心、三つの勢力が連合となって戦ったにも関わらず、苦戦を強いられた魔王軍に」
魔王戦争が終わっていない? ペテロに疑念が浮かぶ。
魔王戦争は終わった。それが世界一般の認識だ。魔王戦争終結後、魔王、並びに魔人による被害は出ていない。
にわかには信じられない。しかし今でこそ聖騎士第一位という地位にいるペテロでも知らないことはある。特に魔王戦争では単なる信仰者でしかなかったペテロでは。
不明な点はいくつかある。
たとえば、神徒(レジェンド)でも苦戦した魔王を、どのようにして倒したのか?
そもそも、魔王とは何者なのか?
魔王戦争には謎が多い。世間一般には魔王の発生、それは一人の神徒(レジェンド)の暴走と言われているが、神徒(レジェンド)になるほどの信仰心が暴走するものなのか? 暴走する時点で神徒(レジェンド)の資格などあるはずがない。
答えは不明。考えたところで分かるものではない。魔王戦争の続き、それがあるのかも。
「天羽(てんは)再臨がその時の兵力増強だと?」
「いや、天羽(てんは)再臨となればそれだけに留まらないだろうがね。まあ、今のは側面だ、言ってしまえば体裁よく見繕っただけ。大義名分さ。天羽(てんは)再臨をする以上本質は別。二千年前の再現だ」
ガブリエルは苦笑してそう言った。どうやら今のはただの建前らしい。聞こえよくしただけの言い訳だ。
「ミカエル。やつが起こした天羽(てんは)再臨の計画。その目的に魔王戦争への備えがあるのは間違いない。もしくは『その先』か」
「…………」
ペテロは黙って聞いていた。口に出したくなかったからだ。
その先。そんなもの、あってはならない。絶対に。
「だがね、しょせんは大儀だ。人間用の。私にはやつの考えが分かるよ、二千年の付き合いだ」
そう言うとガブリエルはカップに口を付け中身を飲み干した。ふぅと一息つく。その表情は寂れており、物静かなものだった。
「我々はかつて失敗した。二千年前だ」
二千年前。失敗。天羽(てんは)降臨のことだ。彼らの使命は遂げられることなく失敗に終わった。
「その時、手痛い裏切りにあってしまってね。今でもたまに思い出す」
この時、ガブリエルの様子はもの悲しいものだった。意気は落ち、若干沈んでいる。少なからず心に傷を負っているのが伺える。
するとガブリエルの目線が上がり、ペテロのカップを見つめてきた。
「飲まないのか?」
ペテロは話に集中していてカップに手をつけていなかった。それ以前に敵の差し出す飲食物を口に入れるほど浅はかでもない。
だが、ペテロはカップを手に取った。
そのままコーヒーを飲んでいく。それも一気に。ゴクゴクと喉に通していき飲み干した。
口を離す。小さく息を吐き、ペテロはガブリエルに空のカップを向けた。
「もう一杯もらえるか?」
「……ふふ」
歴史的に禍根(かこん)を残すゴルゴダ共和国とスパルタ帝国だが、エノクの救援は両国の架け橋となり協力体制きっかけになったのは間違いない。
「その魔王戦争と今回の出来事になんの関係がある?」
だが、人々の記憶に強烈に残った魔王戦争も過去の話だ。今回の出来事とはまるで関係がない。
だが、その前提が違っていれば話は別だ。
「魔王戦争は、まだ終わっていないとしたら?」
「なに?」
その質問に、ペテロは再び驚いた。
ガブリエルはコーヒーを一口飲むと再度コーヒーカップへと視線を落とした。
「その時我々は勝てるのか? 魔王、そしてやつが率いる魔人と魔物の軍勢。かつて慈愛連立、琢磨追求、無我無心、三つの勢力が連合となって戦ったにも関わらず、苦戦を強いられた魔王軍に」
魔王戦争が終わっていない? ペテロに疑念が浮かぶ。
魔王戦争は終わった。それが世界一般の認識だ。魔王戦争終結後、魔王、並びに魔人による被害は出ていない。
にわかには信じられない。しかし今でこそ聖騎士第一位という地位にいるペテロでも知らないことはある。特に魔王戦争では単なる信仰者でしかなかったペテロでは。
不明な点はいくつかある。
たとえば、神徒(レジェンド)でも苦戦した魔王を、どのようにして倒したのか?
そもそも、魔王とは何者なのか?
魔王戦争には謎が多い。世間一般には魔王の発生、それは一人の神徒(レジェンド)の暴走と言われているが、神徒(レジェンド)になるほどの信仰心が暴走するものなのか? 暴走する時点で神徒(レジェンド)の資格などあるはずがない。
答えは不明。考えたところで分かるものではない。魔王戦争の続き、それがあるのかも。
「天羽(てんは)再臨がその時の兵力増強だと?」
「いや、天羽(てんは)再臨となればそれだけに留まらないだろうがね。まあ、今のは側面だ、言ってしまえば体裁よく見繕っただけ。大義名分さ。天羽(てんは)再臨をする以上本質は別。二千年前の再現だ」
ガブリエルは苦笑してそう言った。どうやら今のはただの建前らしい。聞こえよくしただけの言い訳だ。
「ミカエル。やつが起こした天羽(てんは)再臨の計画。その目的に魔王戦争への備えがあるのは間違いない。もしくは『その先』か」
「…………」
ペテロは黙って聞いていた。口に出したくなかったからだ。
その先。そんなもの、あってはならない。絶対に。
「だがね、しょせんは大儀だ。人間用の。私にはやつの考えが分かるよ、二千年の付き合いだ」
そう言うとガブリエルはカップに口を付け中身を飲み干した。ふぅと一息つく。その表情は寂れており、物静かなものだった。
「我々はかつて失敗した。二千年前だ」
二千年前。失敗。天羽(てんは)降臨のことだ。彼らの使命は遂げられることなく失敗に終わった。
「その時、手痛い裏切りにあってしまってね。今でもたまに思い出す」
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するとガブリエルの目線が上がり、ペテロのカップを見つめてきた。
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だが、ペテロはカップを手に取った。
そのままコーヒーを飲んでいく。それも一気に。ゴクゴクと喉に通していき飲み干した。
口を離す。小さく息を吐き、ペテロはガブリエルに空のカップを向けた。
「もう一杯もらえるか?」
「……ふふ」
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コメント
奏せいや
>ノベルバユーザー231168
コメントありがとうございます。名前のふりがなが何度も出てきますので、今後は名前のふりがなを廃止しようと思います。
ノベルバユーザー231168
振り仮名があると逆に見づらい