天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

ありがとよ弟、あとで同じことしてやる

 ヤコブは他の騎士を戻し二人して走り出した。互いに小言を言い合う兄弟のやり取りをしながら階を下りていく。

 そのままガラスの広いテラスへと出た。本来ならば町が一望できる憩いの場だが雰囲気は物々しい。突然の襲撃に大勢の職員たちが悲鳴を上げながら走っている。

「それで誰の攻撃だ、この俺が相手になってくれるッ」

 怒りをあらわにヤコブがガラスから外を見回すと、遠い場所からピンク色の光源が見えた。

「ん!?」

「あれは?」

 ヨハネもそれに気づき二人して注目する。

 かなり遠いが建物の屋上だろうか。そこに誰かいる。

「あの人は」

 その人物が誰か気づきヨハネは目を見開いた。

 宮殿を襲撃している人物。

 それは、ラファエルだった。高層建築の屋上から吹く風に黒髪とタイトスカートの端を揺らめかせ、その手には弓矢が構えられていた。

 ラファエルは物憂げな表情で立っており、ピンク色の光を手の平に出すとそれを矢に変形させ弓にかける。光は炎のように揺れ動いている。

 弓にセットされながら力を増しているのかその揺らめきが大きくなっていく。

「…………」

 ラファエルの表情は依然として寂しそうだった。乗り気には見えない。

 しかし、彼女は巨大な力となった光矢を、宮殿に向け発射した!

「させるか!」

 ヤコブは空間転移で外へと出た。同時に盾を展開、薄いベールがバリアとなって襲撃してきた光弾を打ち消した。

 それは飛来する中で巨大化していき、直撃するころには直径で三メートル以上の光矢になっていた。

 これでは砲撃だ。ヤコブの持つ盾は物理耐性、異能耐性ともに3という群を抜いて優秀なものであり、それでなければこの攻撃は消せなかっただろう。

 ヤコブは落下する中再び空間転移を念じヨハネのいるテラスへと戻る。

「お見事です。ですが厄介ですね」

「まったくだ」

 戻るなりヨハネに言われヤコブも同意する。

「遠距離からちまちまと! 行政庁長官殿がひどく矛盾したことをしてくれる。ヨハネ、俺たちであいつを止めにいくぞ」

「そうするのがよさそうですね」

 このまま放ってはおけない。ラファエルも天羽てんはのはずだ、あの光矢による強さがそれを物語っている。確実に倒すためにもヨハネと一緒に空間転移すべきだ。

 ヤコブはラファエルの居場所をイメージし、そこに自分とヨハネを飛ばすよう頭に描く。

「おっと、そうはさせねえよ」

「!?」

 瞬間、ヤコブのこめかみを狙って銃撃が行なわれた。

「あぶない!」

 さきに気付いたヨハネがヤコブを突き飛ばす。それによりヤコブは床に倒れ通過していった銃弾が壁に当たった。あと少しでも遅ければ殺されていた。

 ヨハネに突き飛ばされたヤコブが忌々しいという顔で起き上がる。

「ありがとよ弟、あとで同じことしてやる」

「いえ、お礼は結構ですよ」

 ヤコブの棘のある言葉にヨハネは笑顔で答える。

 それで二人は銃弾が来た方向を見る。

 そこにいたのはラファエルと同じ政府長官にて天羽てんはの地上残り組。

「あいつに言いたいことがあるなら俺が聞くぜ、もっとも、生きてればな」

 赤い髪に半透明のサングラス。司法庁長官、サリエルだった。

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