天下界の無信仰者(イレギュラー)
天羽降臨
聞き慣れない言葉に眉根が寄る。加豪は必死な表情で言っているが、それはそんなに重要なことなのか?
俺は分からなかったが、周囲からはどよめいた声が聞こえてきた。
「なぜお前がそれを知っている!?」
髭が加豪に近づく。えらく焦った形相で加豪を問い詰めるている。そこへ話に参加していなかったペテロが口を開いた。
「……手紙を読んだのか」
「ええ」
ペテロのつぶやきに加豪は小さく、そして力強く応えた。
「手紙にはこう書かれてた。神官長派の高官たちが、二千年前の再現、天羽(てんは)降臨を目指しているって!」
「天羽降臨?」
「こうしている場合じゃないわ! なんとかしてそれを阻止しないと、今回の騒ぎどころじゃない。世界的な危機よ!?」
加豪がここにいる全員へと向け叫んでいる。その表情はただ事ではないと伝わってきた。
皆がざわついている。俺の隣にいるミルフィアも思案顔でつぶやいていた。
「天羽降臨……」
「ミルフィア、どういうことだよ?」
「それは……」
ミルフィアは俺を見るが、その顔は半信半疑といった感じだった。
ぽつりとミルフィアが話し始める。
「天羽降臨。それは実際に二千年前に起きた出来事です。一般的に天羽の降臨は神の誕生、信仰による時代の始まりを告げる吉報として知られています。ですが、正確には人類に対して侵攻してきた歴史があるのです。ですが、当時の天羽長ルシファーの裏切りにより天羽軍は二分され、最終的にはルシファーの間で協定が結ばれました」
「協定?」
「はい」
ミルフィアは頷いた。
「天羽は人間たちに手を出さず、また天羽のいる天界と天下界を繋ぐ扉、ヘブンズ・ゲートを閉じること。そして、ルシファーはその身を差し出し処刑されることです。こうして天界紛争は終結し、多くの天羽は天下界を去りヘブンズ・ゲートは閉じられました」
「その通りだ」
聖騎士としてペテロも詳しいのだろう、話を聞いていたペテロがミルフィアの話を引き継いだ。
「ヘブンズ・ゲートは閉じられた。一部の天羽は天下界に居残ったようだが」
「それって、まさか」
いや、ここまでくればまさかもないだろう。恵瑠が天羽であり、そして恵瑠と親しかった連中といえば、
「神官長派の高官たちだ」
国務長官のガブリエル、行政庁長官ラファエル、そして神官長ミカエル。あの三人も天羽だったのか。
どうりで。本来恵瑠と接点のあるはずがない政府関係者の高官と仲が良かったのは仲間だったからか。
「天羽のやり方は強引だった。だが、そうした経緯があるにしても我らと天羽は同じ慈愛連立。その後は協力して取り組んできた。それ以降ヘブンズ・ゲートが開かれたことも天羽による侵攻も起きてはいない」
ペテロは厳めしい態度のまま語っていく。昔はいろいろあったもののミカエルたち天羽とゴルゴダ共和国は協力関係を結んでいたわけか。
「だけどさ、それがどうして今さら天羽降臨なんてしようとするんだ?」
天羽は二千年も動きを見せていなかった。にも関わらずヘブンズ・ゲートを開き天羽を出現させようとする目的はなんだ?
「それは分からん。だが、これは明らかなルシファー協定の違反だ。おそらくミカエルの独断だろう。それはラグエルが我々へと宛てた手紙だ。彼も天羽の一人であったが、ミカエルの考えに賛同できず我々に危険が迫っていることを知らせてくれた。手紙には今回のこととミカエルが主導していることが書かれている」
ペテロの目が加豪に向けられる。見れば加豪はポケットから取り出したのか手紙を握っていた。
「だが、閉じられたヘブンズ・ゲートを開くには四大天羽と呼ばれる四人の天羽による承認が必要だ。その一人が」
「恵瑠か……」
ペテロが言う前に俺は呟いていた。こいつらが必死になってまで探していた恵瑠。あえてウリエルと言うが、彼女こそヘブンズ・ゲートを開くために必要な四大天羽の一人だったんだ。
「そう、栗見恵瑠。正確にはウリエルだったわけだ。だが彼女は堕天羽となり四大天羽でありながらヘブンズ・ゲートの鍵としての資格を失った。ヘブンズ・ゲートを開けるには彼女を天羽として復権させる必要があったわけだ。その方法はラグエルも知らず記されてはいなかったが、しかし、その彼女もいなくなり、ヘブンズ・ゲートはこれで永遠に開くことはなくなった。脅威が去ったというのはそういう意味だ」
「なるほど……」
話は分かった。恵瑠を殺したことは今でも許せない。ただ、こいつらがどうして恵瑠を執拗に狙っていたのか、その理由を理解した。
それは天羽による地上侵攻を防ぐためだったんだ。二千年前に起きたという惨劇を再び起こさないために。
 そのためこいつらは地上を襲ったというウリエルというだけでなく、ヘブンズ・ゲートの鍵である恵瑠を襲っていたんだ。
 ヘブンズ・ゲートが開かなければ天羽は天下界に来られない。これで天羽による人類への侵攻は未然に防げる。こいつらの狙い通りになったというわけだ。
「それ、おかしくないかしら」
その時だった。異論の声が上がったのだ。その声の主に全員の目が向く。
それは、天和だった。連れて来られた俺たちの一番後ろにいた天和を皆が見つめる。
「どういうことだ?」
ペテロもまた天和を見つめ聞き返していた。俺もどういうことか聞きたかった。ミカエルたち天羽の狙いは天羽の降臨で、そのためのヘブンズ・ゲートの鍵は失われた。ミカエルたちの計画は失敗したんじゃないのか?
しかし天和は全員からの視線にも眉一つ動かすことなく、平然としたまま話し出した。
「栗見さんがヘブンズ・ゲートの鍵だっていうなら、なんでそんな大事なひと神官長派は放置してたの?」
「!?」
俺は分からなかったが、周囲からはどよめいた声が聞こえてきた。
「なぜお前がそれを知っている!?」
髭が加豪に近づく。えらく焦った形相で加豪を問い詰めるている。そこへ話に参加していなかったペテロが口を開いた。
「……手紙を読んだのか」
「ええ」
ペテロのつぶやきに加豪は小さく、そして力強く応えた。
「手紙にはこう書かれてた。神官長派の高官たちが、二千年前の再現、天羽(てんは)降臨を目指しているって!」
「天羽降臨?」
「こうしている場合じゃないわ! なんとかしてそれを阻止しないと、今回の騒ぎどころじゃない。世界的な危機よ!?」
加豪がここにいる全員へと向け叫んでいる。その表情はただ事ではないと伝わってきた。
皆がざわついている。俺の隣にいるミルフィアも思案顔でつぶやいていた。
「天羽降臨……」
「ミルフィア、どういうことだよ?」
「それは……」
ミルフィアは俺を見るが、その顔は半信半疑といった感じだった。
ぽつりとミルフィアが話し始める。
「天羽降臨。それは実際に二千年前に起きた出来事です。一般的に天羽の降臨は神の誕生、信仰による時代の始まりを告げる吉報として知られています。ですが、正確には人類に対して侵攻してきた歴史があるのです。ですが、当時の天羽長ルシファーの裏切りにより天羽軍は二分され、最終的にはルシファーの間で協定が結ばれました」
「協定?」
「はい」
ミルフィアは頷いた。
「天羽は人間たちに手を出さず、また天羽のいる天界と天下界を繋ぐ扉、ヘブンズ・ゲートを閉じること。そして、ルシファーはその身を差し出し処刑されることです。こうして天界紛争は終結し、多くの天羽は天下界を去りヘブンズ・ゲートは閉じられました」
「その通りだ」
聖騎士としてペテロも詳しいのだろう、話を聞いていたペテロがミルフィアの話を引き継いだ。
「ヘブンズ・ゲートは閉じられた。一部の天羽は天下界に居残ったようだが」
「それって、まさか」
いや、ここまでくればまさかもないだろう。恵瑠が天羽であり、そして恵瑠と親しかった連中といえば、
「神官長派の高官たちだ」
国務長官のガブリエル、行政庁長官ラファエル、そして神官長ミカエル。あの三人も天羽だったのか。
どうりで。本来恵瑠と接点のあるはずがない政府関係者の高官と仲が良かったのは仲間だったからか。
「天羽のやり方は強引だった。だが、そうした経緯があるにしても我らと天羽は同じ慈愛連立。その後は協力して取り組んできた。それ以降ヘブンズ・ゲートが開かれたことも天羽による侵攻も起きてはいない」
ペテロは厳めしい態度のまま語っていく。昔はいろいろあったもののミカエルたち天羽とゴルゴダ共和国は協力関係を結んでいたわけか。
「だけどさ、それがどうして今さら天羽降臨なんてしようとするんだ?」
天羽は二千年も動きを見せていなかった。にも関わらずヘブンズ・ゲートを開き天羽を出現させようとする目的はなんだ?
「それは分からん。だが、これは明らかなルシファー協定の違反だ。おそらくミカエルの独断だろう。それはラグエルが我々へと宛てた手紙だ。彼も天羽の一人であったが、ミカエルの考えに賛同できず我々に危険が迫っていることを知らせてくれた。手紙には今回のこととミカエルが主導していることが書かれている」
ペテロの目が加豪に向けられる。見れば加豪はポケットから取り出したのか手紙を握っていた。
「だが、閉じられたヘブンズ・ゲートを開くには四大天羽と呼ばれる四人の天羽による承認が必要だ。その一人が」
「恵瑠か……」
ペテロが言う前に俺は呟いていた。こいつらが必死になってまで探していた恵瑠。あえてウリエルと言うが、彼女こそヘブンズ・ゲートを開くために必要な四大天羽の一人だったんだ。
「そう、栗見恵瑠。正確にはウリエルだったわけだ。だが彼女は堕天羽となり四大天羽でありながらヘブンズ・ゲートの鍵としての資格を失った。ヘブンズ・ゲートを開けるには彼女を天羽として復権させる必要があったわけだ。その方法はラグエルも知らず記されてはいなかったが、しかし、その彼女もいなくなり、ヘブンズ・ゲートはこれで永遠に開くことはなくなった。脅威が去ったというのはそういう意味だ」
「なるほど……」
話は分かった。恵瑠を殺したことは今でも許せない。ただ、こいつらがどうして恵瑠を執拗に狙っていたのか、その理由を理解した。
それは天羽による地上侵攻を防ぐためだったんだ。二千年前に起きたという惨劇を再び起こさないために。
 そのためこいつらは地上を襲ったというウリエルというだけでなく、ヘブンズ・ゲートの鍵である恵瑠を襲っていたんだ。
 ヘブンズ・ゲートが開かなければ天羽は天下界に来られない。これで天羽による人類への侵攻は未然に防げる。こいつらの狙い通りになったというわけだ。
「それ、おかしくないかしら」
その時だった。異論の声が上がったのだ。その声の主に全員の目が向く。
それは、天和だった。連れて来られた俺たちの一番後ろにいた天和を皆が見つめる。
「どういうことだ?」
ペテロもまた天和を見つめ聞き返していた。俺もどういうことか聞きたかった。ミカエルたち天羽の狙いは天羽の降臨で、そのためのヘブンズ・ゲートの鍵は失われた。ミカエルたちの計画は失敗したんじゃないのか?
しかし天和は全員からの視線にも眉一つ動かすことなく、平然としたまま話し出した。
「栗見さんがヘブンズ・ゲートの鍵だっていうなら、なんでそんな大事なひと神官長派は放置してたの?」
「!?」
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