天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

くたばれぇえええ!

 メタトロンは俺を掴んだまま手を持ち上げた。自分の顔の前に持ってくる。そこで、ありったけの力を込めて拳を握り込んできた。

「うおおおおおお!」

 俺は強化と妨害、黄金を爆発させ衝撃に備える。

 そこで、メタトロンの手が完全に掌握された。

 瞬間、光がすべてを飲み込んだ。

 爆発が起こった。あらゆるものを破壊し、創造の礎になるほどの爆発だった。

 手の平が掬った数千を超える星を一度に圧縮し、爆散させたのだ。

 これに比べれば超新星爆発ですら風船が割れたようなものだ。あらゆる質量はエネルギーに変換され消滅する。

 メタトロンは手の平を開いた。手の平にはガス状となったチリや星屑が漂っている。それらを振り払うように腕を動かす。

 ここにはなにもない。宇宙を彩る星々の輝きはなくなりメタトロンの背中から発せられる光だけが広大な闇を照らしていた。

 神聖な白が、世界を塗りつぶしていく。

 だが、その光の中で一粒の黄金が灯った。

『主は傷つけさせません』

 純白に対する黄金の光。それがみるみると広がっていく。

『私のすべてにかけて!』

 俺は、まだここにいる! ミルフィアと共に!

 ミルフィアが片腕を振るう。俺も片腕を横に切った。俺は一人じゃない。デュエット・モードはミルフィアとの二人一組だ。一人では絶対に耐えられなかったが、彼女が守ってくれた。

 この極限での闘いだからこそ分かる。

 メタトロン。お前は強い。その力は本物だ。

 だが、負けるわけにはいかないんだ!

「ミルフィア! 我が理を布教せよ!」

 俺は叫んだ。敵は強い。今まで戦ってきた誰よりも。

 しかし、いくら強くても弱体化させてしまえば意味はない。

『我が主、あなたの命ずるままに!』

 ミルフィアの指が天を差した。

 瞬間、俺たちの上空に黄金の輪が現れた。それは広がりこの宇宙を覆っていく。いくつもの輪が波のようにして広がっていった。

 だがメタトロンの全長はもう説明するのが馬鹿馬鹿しくなるくらい巨大だ。光速で動いても六十億年かかるとか意味が分からない。そんな相手にミルフィアがどれだけ布教しても届かない。

 そう、普通なら。どれだけ早く黄金の輪が広がろうがメタトロンを弱体化させるのは物理的に不可能だ。

 だが、しかし、だとしても!

 理屈なんてない。理論なんてない。そんなの関係ない!

 しん物理ぶつりを凌駕する!

 ミルフィアが発した黄金の輪はメタトロンの頭上に展開されていた。光速を超えた展開速度だが、そもそも物理法則というものは神理の下位法則。神が当たり前にいる天下界では通用しない。

 布教の光が頭上に展開されたことによりメタトロンは弱体化していった。動きが鈍り、体が小さくなっていく。

 その大きさが全長百メートル、元の大きさまで戻っていた。そこへ再び集まった妨害の光に今度こそ縛られる。

 俺はメタトロンの腹部を殴りつけ、次に拳を大振りで振り上げた。

「ワン・トュー! バス、タァアアア!」

 巨体が持ち上がる。その軌跡には黄金の粒子が滝のように流れていた。

 メタトロンはうつ伏せの状態で三百メートルほどまで飛んでいった。全身は黄金のオーラに包まれ身動きが取れない。

 俺は右手を上に掲げた。手の平を中心に五百メートルを超える魔法陣を描く。

 魔法陣にエネルギーが溜まっていく。時間が停止している今、他者から見れば一瞬の出来事だが、体感では五秒くらいを要して充填が完了する。

 魔法陣はそれ自体が輝きを宿し、中央へと力をまとめ上げた。

 標的はメタトロン。出力最大。いつでも撃てる!

 その際、恵瑠の顔が浮かんだ。

『神愛君……こんなの、いやだよ……』

「くたばれぇえええ!」

 俺は魔法陣のエネルギーを放射した。

 魔法陣から直径で百メートル級の光線が宇宙の闇を切り裂いていく。まる神のいかずちのように。膨大な力の奔流にメタトロンの全身が呑み込まれる。

「――――」

 轟音が鳴り響き耳をつんざいている。叫び声も放射の反動にかき消され聞こえない。

 空間が爆ぜる。世界が揺れる。時間が歪曲しそうだ。

 それほどの大破壊力。それをメタトロンは一身に受けている。防御も回避も妨害で封じ、やつのすべてを弾圧する!

 ついに、黄金光線がメタトロンを突き抜けた。光線は宇宙の彼方まで突き進み、出力が切れると消えていった。

 俺は宇宙を見上げる。残留した黄金の粒子が空間に漂っている。ここら辺一帯が黄金で充満していた。

 そこには、バラバラとなったメタトロンの欠片も漂っていた。

 メタトロンは砕け散った。最大の砲撃を受けその身を散らしたのだ。

 勝った。

 この勝負に、メタトロンに、俺は勝利していた。

「…………」

 俺は見上げていた。静かに。黄金が漂う荘厳なまでの光景を。

『終わりましたね、主』

「……ああ、そうだな」

 ミルフィアの声にそれだけ答え、俺は敵のいない宙(そら)をずっと見つめていた。

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