天下界の無信仰者(イレギュラー)

奏せいや

私もいるわよ

 ミルフィアの攻撃に大部分の敵が倒れたがまだ敵は残っている。

 その敵が対峙していたのは、加豪かごうだった。

 大勢の騎士に取り囲まれる加豪かごうだが動揺はない。むしろ静かに敵を見据えていた。

 それもそのはずか。なにせ加豪かごう琢磨追求たくまついきゅうの信仰者。

 己の力を追求する、強者足れとする神理しんりなんだから。

「加減はなしよ」

 加豪かごうはすでに戦士としての心構えが出来ている。相手から向けられる本気の敵意を受けてもビクともせず、それを跳ね除けるほどの気合で返す!

雷切心典光らいきりしんてんこう!」

 加豪かごうの手に琢磨追求たくまついきゅう神託物しんたくぶつが握られる。慈愛連立じあいれんりつ天羽てんはの召喚に対して琢磨追求たくまついきゅうは武器を授かる。

加豪かごうは自身の身長ほどもある刀。電流を迸らせ、バチバチと音を鳴らす雷刃が加豪かごう神託物しんたくぶつだった。

「かかれぇ!」

 騎士たちが同時に襲いかかる。彼らも聖騎士隊に所属するいわばプロだ、烈火の気迫が伝わってくる。いくつもの剣撃が加豪かごうに迫る。

「ふん!」

 それを、一閃で薙ぎ倒した!

「軽い!」

 加豪かごう雷切心典光らいきりしんてんこうは騎士たちが持つ剣の倍近く大きい。それだけ間合いは広くなにより重い。強烈な横薙ぎが敵の攻撃をすべて弾き返した。

 もとより相手がただの剣に比べ加豪かごうの持つ刀は神造兵器である神託物しんたくぶつ、競り負けるはずがない。

 敵の攻撃を弾き今度は加豪かごうの番だ。雷撃を纏った刀で攻撃していく。その威力は強烈だ、それを軽々と振り回してくるのだから脅威的。さらに厄介なのはこの攻撃は『防げない』。

 加豪かごうが連撃を繰り出し、敵が盾で雷切心典光らいきりしんてんこうを受け止めるが、

「がああああ!」

 刀身を走る電気は盾や鎧を突破して敵に襲いかかる。故に防御は無意味だ、すべての攻撃を回避しなければ電撃をまともに受けることになる。

 これには敵も後退していった。加豪かごうと距離を取り様子見をするつもりだ。

 だが、加豪かごう雷切心典光らいきりしんてんこうはそれすら許さない。

「はぁあ!」

 加豪かごうの一閃が宙を走る。その軌跡を追うようにして電気が迸ったのだ。雷撃はムチのようにして離れている敵に襲いかかり感電させた。

「ぐあああ!」「ぎゃあああ!」

 中距離を広くカバーし万能な戦い方を見せ敵を蹂躙していく。

「ごめんなさいね。琢磨追求たくまついきゅうの信仰者として、こと戦いとなれば易々負けられないのよ」

 加豪かごうはまだまだ余裕のある表情でそう言った。

 そんな中、別の場所で大声が聞こえてきた。

「大人しく降参しろ、でなければ容赦せんぞ!」

 騎士たちが剣を構えている。その先にいるのは天和てんほだった。

 小柄な天和てんほと騎士たちの身長差は四十センチちかくもある。まるで壁のように立ち塞がる騎士たち。

 だが、そんな危機的状況でも天和てんほはいたって無表情だった。日常も戦場も関係ない、普段通りで危機感をまるで感じない。

 さらにはこんなことを言い出した。

「好きにすれば」

「なに!?」

 まさかの発言に敵が驚いている。そこへ天和てんほの抑揚のない声が掛けられる。

「あなたは無抵抗な女子を斬り倒し任務達成の喜びに浸ると良い。そんなあなたを周りも無抵抗な女子を斬り倒した騎士だと称えてくれるわ。さあ、すれば」

「くっ!」

 天和てんほの言葉に騎士たちの動きが止まる。構えた剣が見えない力によって縛られているかのようだ。

 ていうかちょっと待て、お前はおかしいだろ!?

 そんなこんなで敵の数は減っていった。こちらの勢いの方が強い。

 だが敵の援軍が到着してしまった。フロアの両隣からさらに甲冑を着た騎士たちが現れる。その中には大柄の体に巨大な盾を持った騎士もいた。

「対スパーダ部隊、前に出ろ!」

 隊長の号令にその騎士たちが前に出る。二メートルほどもある分厚い盾で全身を隠し、横に並べばもはや壁だ。それがゆっくりとにじり寄ってくる。

 相手から攻撃はしてこない。だが対スパーダ部隊と銘打っているだけにそれは正しいことだ。スパーダはそれ未満の信仰者の攻撃を無効化する。

 なら初めから攻撃なんて意味がない。なら防御力を上げられるだけ上げて時間稼ぎをしようというわけか。

「だがなぁ!」

 ゆっくりと迫る巨大な盾の壁に向け俺も歩いていく。その最中、拳に纏う黄金が炎上するかのように大きく燃え盛った。

「この先に守らなきゃならないやつがいるんだ、邪魔すんじゃねえ!」

 これまでで一番のオーラを宿し、俺は叩き付けた!

「バスタァー!」

 大声で叫び拳を突き出した。踏み込んだ足は床を破裂させ、撃ち出した衝撃は爆風となり正面の騎士たちをはるか後方まで飛ばす。

 重量の鎧と盾を装備した騎士たちがトラックにはねられたピンのように弾かれていった。

「そんな、対スパーダ部隊が」

 防御力に特化した部隊も一瞬で叩きのめし隊長の意気いきが下がっている。足が一歩後退していた。

 俺たちは一列に並んだ。こちらはまだ無傷。対して辺りは倒れた騎士で死屍累々。敵から見れば俺たちの姿は怪物にでも見えるだろう。多勢に無勢、それすらも覆す戦力差だ。

「急げ、こっちだ!」「侵入者を捕らえろ!」

 だがそこへさらなる増援が現れる。これだけでかい宮殿だ、衛兵や騎士などいくらでも湧いて出てくる。

「くそ、数が多い! これじゃキリがねえぞ」

 倒れた騎士たちは敵の仲間が引っ張っていき、ここは時間を巻き戻したように大勢の騎士に囲まれていた。

 これじゃ倒したはずなのに見た目が変わってないしゴールが見えない。嫌になるぜ。

「主、さきに行ってください!」

「ミルフィア?」

 掛けられた声に俺は振り向いた。隣にいるミルフィアは鋭い目で敵を睨んでいたが、俺に振り向くと自信のある明るい顔になっていた。

「ここは私と加豪かごうが引き受けます」

「私もいるわよ」

 ミルフィアの力強い眼差し。その目は俺に行ってこいと言っている。

 俺は加豪かごうを見た。加豪かごうも敵を睨んでいたが、俺に目だけを向けると余裕の表情を浮かべてくれた。

「行ってきなさい神愛かみあ。ここは二人で十分よ!」

「私もいるわよ」

 ミルフィアと加豪かごう。その意思は受け取った。俺は二人の顔を見つめながら頷いた。

「分かった。サンキューな、二人とも」

「私もいるわよ」

 で、さっきからいちいち突っ込んでくる天和てんほに振り向いた。

「分かってるようるせえな!」

「ならいいけど」

 でもお前戦力外だろ! なにが出来るんだよ!?
 
 気を取り直し敵を見据える。

「いくぞ!」

 俺は敵の群衆目掛け走り出した。俺の突撃に敵も合せて剣を突き出してくる。

 その瞬間、俺は地面を蹴って宙を飛び、敵の頭上を越えていった。

「なに!?」

 そのままフロア奥にある階段の踊り場に着地した。

「逃がすか、追え!」

「させません!」

 俺が包囲網を突破したことで騎士が振り向くが、そこへミルフィアが攻撃を加える。光線を撃ち込み敵の足を止めた。また加豪かごうも電撃を飛ばし援護してくれた。

「主、私たちもすぐに後を追います!」

「ミスったら承知しないわよ神愛かみあ!」

宮司みやじ君、あとよろしく」

「おう!」

 三人からの声援に応え俺は階段を昇っていった。

 教皇宮殿の階段は長い。建物自体がとてつもなく高いこともあって見上げれば果てしなく階段が続いている。

 だが臆せず走った。どれだけの距離があろうかなんて関係ない。そんなのどこを目指せばいいのか分からなかった迷いや苦しみに比べれば問題にもならない。

 恵瑠える、あと少しだからな。

 俺が階段を駆け上がる中、他の階からも騎士たちが現れた。

「貴様、侵入者か!?」「こいつ、パレードの襲撃犯だぞ!」

 俺を見かけるなり剣を抜く。構えて道を塞いでくるが俺は止まらなかった。

「どけどけぇ!」

「がああ!」「どああ!」

 立ち塞がる敵を薙ぎ倒していく。進撃は止まらず目的地へと近づいていく。いくつもの階段を上がっていきいくつもの敵を打ち倒し、上へ上へと進んで行く。

 この先に恵瑠(える)がいる。

 待ってろよ、恵瑠える

「うおおおおおおおお!」

 猛然と階段を上がっていく。俺はついに二九階へと到達した。

「ここだな」

 階段からフロアに移る。そこには白い壁と一つの扉があった。まるでここから先には通さないように。俺は無理やり扉を開け中へと入った。

 そこは鋼鉄でできた廊下だった。左右にある部屋の扉も堅牢そうに見える。

「なんだこれ」

 明らかかに今までとはおもむきが違う。これじゃ監獄だ、宮殿のそれとはまったく違う。

 俺は廊下を走りながら恵瑠えるの名前を叫んだ。

恵瑠えるー! いるのか恵瑠える!?」

 名前を呼ぶが返事はない。

 くそ、ここのどこかにいるはずなんだ。ここに来るまで母さんやヨハネ先生、それにミルフィアや加豪かごう天和てんほ、みんなが協力してくれた。体を張って繋いでくれたんだ。

 それを、必ず成功させてみせる!

 俺は廊下を曲がった。その奥に大きな扉があった。分厚い鉄の扉の奥はいかにもなにかを隠しているようで、そこに恵瑠えるがいると確信する。

 なにより、その前に、一人の男が立っていたからだ。

「ここまでだ」

 厳かな声が廊下に響く。ここには俺とそいつしかいなかった。

「ペトロ」

 何度も顔を合わせてきた聖騎士と、俺は再度対峙していた。

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