天下界の無信仰者(イレギュラー)
心配
エノクとペトロとの戦いが終わってから俺はミルフィアと逃げていた。街並みの路地を縫うように走り抜けていく。どこかを目指しているわけではないが、とりあえずあそこから少しでも離れないと。
「くそ、にしてもやられたな」
もともと行き当たりばったりの勢いだけの作戦だったがまさかあんなものを出されるとは思わなかった。おかげでこちらの収集はなし。恵瑠の手がかりは未だゼロだ。
「主、大丈夫ですか?」
焦りを口にしてしまったからかミルフィアが聞いてくる。俺は足を止めた。
「ああ。俺はな」
顔が下を向く。俺は大丈夫だが、今もこうしている間に恵瑠の身になにかあるのではないかと思うと心配でいられない。
無事でいてくれよ。
そう、祈るしかない。
「神愛ー!」
「見つけた」
「お前ら」
すると俺たちの背後から加豪と天和が駆け付けてきた。
「どうしてここに? サン・ジアイ大聖堂に向かってたんじゃないのか?」
「向かってたわよ。そしたらパレードでどでかい神託物が見えたからまさかと思って急いで戻ってきたんじゃない。そしたら着いたら着いたでどこかに飛ばされるしさ」
加豪は不満を次々と言っていくが、突然俺を睨みつけてきた。
「そんなことより」
そのままずんずんと近づいてくると顔を寄せ睨みつけてきた。
「なにしてんのあんた!? 自分がなにしたか分かってるの!?」
顔面すれすれの距離から大声で叫ばれる。ちけえよ!
俺は顔を逸らすが加豪はまだ顔を前に出してくる。
「だ、だって仕方がないだろ」
「仕方がなくなんてない!」
言い訳は焼け石に水のようだ。すぐに怒声がぶつけられる。
そう言われても……。
俺は困るが、加豪は顔を引いていった。
それで俺を見つめるが、その瞳は悲しそうだった。
「どうしてそんなに心配かけるの?」
「加豪……」
さきほどまでの怒りが嘘のように加豪は消沈していた。
「どうして一言でも相談してくれなかったの? 私たちのこと、そんなに信用できない?」
悲しそうな声と表情に俺も罪悪感っていうか、負い目を感じてしまう。加豪の顔から目を逸らしそうになる。それほどまで加豪の俺を見る目はその、辛かった。
「そうじゃなくて、お前らまで巻き込めないだろ?」
「それが信用してないって言うんじゃない。他にも方法はあったでしょう。あんた、こんなことして、もう引き下がれないじゃない。神愛まで捕まって、ずっと牢屋の中で過ごすかもしれないのよ!?」
加豪の必死な声は胸が引き裂かれているように辛かった。さっきの怒りも心配の裏返しだったんだ。
慈愛連立を敵に回したこと。それにより俺は大罪人だ、死ぬまで追いかけられるだろう。
それに加豪(かごう)は胸を痛めていた。自分のことじゃないのに、俺のことを思って泣きそうな顔をしている。それが俺にも辛い。
でも、だからこそ、加豪の思いに応えるように、俺も真剣になった。
「加豪」
しっかりと相手を見つめて、まっすぐな思いで。俺も本気になって、加豪に伝えた。
「俺に、引き下がる気なんてないんだ」
俺の言葉に、加豪は驚いたのか無言になる。
「お前の言う通りだよ、俺が馬鹿だった。なんとかしなきゃならないって頭に血が上ってさ、周りが見えてなかった。お前たちにも心配かけた。すまなかったよ。でもな、お前たちに止められても、俺はきっと行ってたと思う」
「……どうして?」
俺の言葉に加豪が静かに聞いてくる。それに、俺はフッと笑った。
「お前はさっき牢屋で過ごす人生が恐ろしいって言い方してたけどさ」
俺はなんでもないことのように言う。でも、きっと周りからは悲しそうに笑っているように見えたかもしれない。
「俺は、お前らがいない人生の方がよっぽどこええよ」
「…………」
俺の言葉を聞いたまま、加豪はじっと俺のことを見つめていた。そのうち、耐えきれなくなったように目を地面に逸らした。
「あんた、今までどれだけ辛い人生送ってたのよ……」
「はは」
乾いた笑い声が漏れる。どれだけと言われも。さて、どれだけなんだろうな。でも、俺から言わせればそんなのけっきょく過去でしかない。今は違う。こんなにもいい友達に囲まれている。
だからこそ、その友達のためなら、人生だって賭けられる。
「すまなかった。今はそれしか言えねえ。でも、俺は恵瑠を助けたいんだ」
「ふん。分かったわよ」
俺の意思が通じたようで加豪は不貞腐れた顔をしていたものの認めてくれた。申し訳ない気持ちはあるがとりあえずホッとする。
「天和も悪かったな。心配したか?」
「全然」
「そこはしとけよ……」
それはなに、信じてたの? それともどうでもよかったの?
なにはともあれこうして合流できた。それはよかったことだ。
「それにしてもよくここだって分かったな」
「天和が建物の屋上にいるのを見つけてね。けっこう遠かったけど」
「まあ、なんとなく」
「お前よく分かんねえけどすげえわ」
天和には不思議な力でもあるんじゃないのか? いや、元から不思議なんだけど。
「それでこれからは? どうせ行き当たりばったり作戦なんだろうけど」
「なに言ってんだ、すごいんだぞ。行き当たりばったり作戦の生存率百パーだぞ?」
「それ百か零しかないじゃない!」
「主、ともかく今後の行動を決めなければ」
「うーん」
腕を組んで頭を捻る。一番の目的は恵瑠を助けることだが、それよりも今は逃げることが先決だ。
「まずは隠れる場所かなー……」
とはいえこれだけのことをしてしまった以上、もうサン・ジアイ大聖堂は当てに出来ないし。頼りになる慈愛連立の信仰者もいない。それで隠れる場所といったら。
「…………ッ」
「神愛、どうしたの?」
思い付く場所に嫌な思いが過る。それが顔にも出ていたんだろう、加豪が聞いてきた。
「んー……」
俺は答えなかった。まだ迷いがある。本当はすごく嫌なんだが、しかし他に頼りになる者はいない。となれば残された場所は一つ。嫌という感情で避けて通れるほど甘い状況でもない。
「仕方がない」
俺は観念するように呟いた。
「主、まさか!?」
俺の態度に察したのかミルフィアが近づいてくる。驚き心配しているような表情で俺に聞いてきた。
「主、いいのですか?」
「しゃあねえだろ」
「でも、あの場所は」
そう言うミルフィアの顔には陰が差し込んでいた。どうしてそんな顔をするのか、ミルフィアがなにを言わんとしているのか、俺にはよく分かる。
「ねえ、さっきからなんの話?」
加豪からの再度の問いに俺はミルフィアから加豪へ振り向いた。
「とりあえず今日泊まれる場所さ。宿は手配書が回ってて使えないだろし」
「で、その場所って?」
加豪が首を傾げる。それで俺はため息を一回吐いてから答えた。
なんだって、あそこは人生で最悪の場所だからだ。
「俺の実家さ」
「くそ、にしてもやられたな」
もともと行き当たりばったりの勢いだけの作戦だったがまさかあんなものを出されるとは思わなかった。おかげでこちらの収集はなし。恵瑠の手がかりは未だゼロだ。
「主、大丈夫ですか?」
焦りを口にしてしまったからかミルフィアが聞いてくる。俺は足を止めた。
「ああ。俺はな」
顔が下を向く。俺は大丈夫だが、今もこうしている間に恵瑠の身になにかあるのではないかと思うと心配でいられない。
無事でいてくれよ。
そう、祈るしかない。
「神愛ー!」
「見つけた」
「お前ら」
すると俺たちの背後から加豪と天和が駆け付けてきた。
「どうしてここに? サン・ジアイ大聖堂に向かってたんじゃないのか?」
「向かってたわよ。そしたらパレードでどでかい神託物が見えたからまさかと思って急いで戻ってきたんじゃない。そしたら着いたら着いたでどこかに飛ばされるしさ」
加豪は不満を次々と言っていくが、突然俺を睨みつけてきた。
「そんなことより」
そのままずんずんと近づいてくると顔を寄せ睨みつけてきた。
「なにしてんのあんた!? 自分がなにしたか分かってるの!?」
顔面すれすれの距離から大声で叫ばれる。ちけえよ!
俺は顔を逸らすが加豪はまだ顔を前に出してくる。
「だ、だって仕方がないだろ」
「仕方がなくなんてない!」
言い訳は焼け石に水のようだ。すぐに怒声がぶつけられる。
そう言われても……。
俺は困るが、加豪は顔を引いていった。
それで俺を見つめるが、その瞳は悲しそうだった。
「どうしてそんなに心配かけるの?」
「加豪……」
さきほどまでの怒りが嘘のように加豪は消沈していた。
「どうして一言でも相談してくれなかったの? 私たちのこと、そんなに信用できない?」
悲しそうな声と表情に俺も罪悪感っていうか、負い目を感じてしまう。加豪の顔から目を逸らしそうになる。それほどまで加豪の俺を見る目はその、辛かった。
「そうじゃなくて、お前らまで巻き込めないだろ?」
「それが信用してないって言うんじゃない。他にも方法はあったでしょう。あんた、こんなことして、もう引き下がれないじゃない。神愛まで捕まって、ずっと牢屋の中で過ごすかもしれないのよ!?」
加豪の必死な声は胸が引き裂かれているように辛かった。さっきの怒りも心配の裏返しだったんだ。
慈愛連立を敵に回したこと。それにより俺は大罪人だ、死ぬまで追いかけられるだろう。
それに加豪(かごう)は胸を痛めていた。自分のことじゃないのに、俺のことを思って泣きそうな顔をしている。それが俺にも辛い。
でも、だからこそ、加豪の思いに応えるように、俺も真剣になった。
「加豪」
しっかりと相手を見つめて、まっすぐな思いで。俺も本気になって、加豪に伝えた。
「俺に、引き下がる気なんてないんだ」
俺の言葉に、加豪は驚いたのか無言になる。
「お前の言う通りだよ、俺が馬鹿だった。なんとかしなきゃならないって頭に血が上ってさ、周りが見えてなかった。お前たちにも心配かけた。すまなかったよ。でもな、お前たちに止められても、俺はきっと行ってたと思う」
「……どうして?」
俺の言葉に加豪が静かに聞いてくる。それに、俺はフッと笑った。
「お前はさっき牢屋で過ごす人生が恐ろしいって言い方してたけどさ」
俺はなんでもないことのように言う。でも、きっと周りからは悲しそうに笑っているように見えたかもしれない。
「俺は、お前らがいない人生の方がよっぽどこええよ」
「…………」
俺の言葉を聞いたまま、加豪はじっと俺のことを見つめていた。そのうち、耐えきれなくなったように目を地面に逸らした。
「あんた、今までどれだけ辛い人生送ってたのよ……」
「はは」
乾いた笑い声が漏れる。どれだけと言われも。さて、どれだけなんだろうな。でも、俺から言わせればそんなのけっきょく過去でしかない。今は違う。こんなにもいい友達に囲まれている。
だからこそ、その友達のためなら、人生だって賭けられる。
「すまなかった。今はそれしか言えねえ。でも、俺は恵瑠を助けたいんだ」
「ふん。分かったわよ」
俺の意思が通じたようで加豪は不貞腐れた顔をしていたものの認めてくれた。申し訳ない気持ちはあるがとりあえずホッとする。
「天和も悪かったな。心配したか?」
「全然」
「そこはしとけよ……」
それはなに、信じてたの? それともどうでもよかったの?
なにはともあれこうして合流できた。それはよかったことだ。
「それにしてもよくここだって分かったな」
「天和が建物の屋上にいるのを見つけてね。けっこう遠かったけど」
「まあ、なんとなく」
「お前よく分かんねえけどすげえわ」
天和には不思議な力でもあるんじゃないのか? いや、元から不思議なんだけど。
「それでこれからは? どうせ行き当たりばったり作戦なんだろうけど」
「なに言ってんだ、すごいんだぞ。行き当たりばったり作戦の生存率百パーだぞ?」
「それ百か零しかないじゃない!」
「主、ともかく今後の行動を決めなければ」
「うーん」
腕を組んで頭を捻る。一番の目的は恵瑠を助けることだが、それよりも今は逃げることが先決だ。
「まずは隠れる場所かなー……」
とはいえこれだけのことをしてしまった以上、もうサン・ジアイ大聖堂は当てに出来ないし。頼りになる慈愛連立の信仰者もいない。それで隠れる場所といったら。
「…………ッ」
「神愛、どうしたの?」
思い付く場所に嫌な思いが過る。それが顔にも出ていたんだろう、加豪が聞いてきた。
「んー……」
俺は答えなかった。まだ迷いがある。本当はすごく嫌なんだが、しかし他に頼りになる者はいない。となれば残された場所は一つ。嫌という感情で避けて通れるほど甘い状況でもない。
「仕方がない」
俺は観念するように呟いた。
「主、まさか!?」
俺の態度に察したのかミルフィアが近づいてくる。驚き心配しているような表情で俺に聞いてきた。
「主、いいのですか?」
「しゃあねえだろ」
「でも、あの場所は」
そう言うミルフィアの顔には陰が差し込んでいた。どうしてそんな顔をするのか、ミルフィアがなにを言わんとしているのか、俺にはよく分かる。
「ねえ、さっきからなんの話?」
加豪からの再度の問いに俺はミルフィアから加豪へ振り向いた。
「とりあえず今日泊まれる場所さ。宿は手配書が回ってて使えないだろし」
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コメント
奏せいや
〉ノベルユーザー174141
コメントありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。更新頑張っていきます。
ノベルバユーザー174141
毎日更新お疲れ様です。続きを楽しみにしてます!