天下界の無信仰者(イレギュラー)
宿4
夜の静けさが部屋を包む。窓際から差し込む月光は二人が並ぶベッドを照らしていた。
 白いシーツに浮かぶ二人分の影が静寂に映る。
その一人、恵瑠の目の前には神愛の背中があった。いつもそばにいるのにここまで近くで見ることは初めてで恵瑠(える)は見つめ続ける。
天羽として居場所を失い、場違いである人間と共に暮らしていた恵瑠には孤独が多かった。ようやくできた友達もいつかは失うのではないかと怖かった。
ずっと、長い間を一人で生きてきた。明るく振る舞っていたけど、心の底では寂しかった。本当の自分を偽り、ずっと不安だった。
だけど、彼は違う。
いつまでも友達だと言ってくれた。自分を怖がらずにそばにいてくれた。かつて、人間を襲った天羽だと知っても、なお。
 そんなことを言ってくれる人が、あと何人いるだろう? 怖がられて、疎まれて、それが当たり前だというのに。なのに、彼は友達だと言ってくれた。
それが、恵瑠にはとても嬉しかった。感動と言っていいほどに感謝した。
(ありがとう、神愛君)
恵瑠は、彼の背中をずっとずっと見続ける。
自分の友人である、彼の背中を。
「ねえ神愛君、次の問題ね」
そう言って恵瑠は人差し指を背中へと当てた。細く長い指がそっと触れる。
その指先に、恵瑠は心からの思いを込めた。
感謝している彼がここにいる。
助けてくれた人がここにいる。
救ってくれた。
守ってくれた。
恵瑠は指を動かす。緊張した面持ちで、けれど指はしっかりと軌道を描く。
『す』
まるで恐れるように、だけど力強く。
恵瑠は伝えた。
『き』
自分の、想いを。
「ねえ……分かる?」
背中から指を離す。通じただろうか。恵瑠は不安な気持ちで神愛の答えを待つ。
もし、断られたらどうしよう。せっかく友達だと言ってくれたのに、これで壊れてしまったらどうしよう。
不安と心配の眼差しで、恵瑠は神愛の答えを待ち続けた。
「神愛君。……神愛君?」
だがなかなか答えが返ってこない。それで恵瑠は体を起こし神愛の顔を覗き込んでみた。
「スゥ……スゥ……ううん……」
「眠っちゃったか」
神愛はすでに眠っていた。恵瑠はホッとしたような寂しいような複雑な気持ちになったが、安らかな寝息を立てている彼の顔に自然と笑みが浮かんだ。
恵瑠は横になると彼の背中に額を当てた。目を瞑り、彼を一番近くで感じる。
「大好きだよ」
こうして一緒にいる。自分を受け入れてくれる。これ以上の喜びなんてない。
「神愛君。ずっと、一緒にいてね」
幸せに包まれて、恵瑠は眠りについていった。
 白いシーツに浮かぶ二人分の影が静寂に映る。
その一人、恵瑠の目の前には神愛の背中があった。いつもそばにいるのにここまで近くで見ることは初めてで恵瑠(える)は見つめ続ける。
天羽として居場所を失い、場違いである人間と共に暮らしていた恵瑠には孤独が多かった。ようやくできた友達もいつかは失うのではないかと怖かった。
ずっと、長い間を一人で生きてきた。明るく振る舞っていたけど、心の底では寂しかった。本当の自分を偽り、ずっと不安だった。
だけど、彼は違う。
いつまでも友達だと言ってくれた。自分を怖がらずにそばにいてくれた。かつて、人間を襲った天羽だと知っても、なお。
 そんなことを言ってくれる人が、あと何人いるだろう? 怖がられて、疎まれて、それが当たり前だというのに。なのに、彼は友達だと言ってくれた。
それが、恵瑠にはとても嬉しかった。感動と言っていいほどに感謝した。
(ありがとう、神愛君)
恵瑠は、彼の背中をずっとずっと見続ける。
自分の友人である、彼の背中を。
「ねえ神愛君、次の問題ね」
そう言って恵瑠は人差し指を背中へと当てた。細く長い指がそっと触れる。
その指先に、恵瑠は心からの思いを込めた。
感謝している彼がここにいる。
助けてくれた人がここにいる。
救ってくれた。
守ってくれた。
恵瑠は指を動かす。緊張した面持ちで、けれど指はしっかりと軌道を描く。
『す』
まるで恐れるように、だけど力強く。
恵瑠は伝えた。
『き』
自分の、想いを。
「ねえ……分かる?」
背中から指を離す。通じただろうか。恵瑠は不安な気持ちで神愛の答えを待つ。
もし、断られたらどうしよう。せっかく友達だと言ってくれたのに、これで壊れてしまったらどうしよう。
不安と心配の眼差しで、恵瑠は神愛の答えを待ち続けた。
「神愛君。……神愛君?」
だがなかなか答えが返ってこない。それで恵瑠は体を起こし神愛の顔を覗き込んでみた。
「スゥ……スゥ……ううん……」
「眠っちゃったか」
神愛はすでに眠っていた。恵瑠はホッとしたような寂しいような複雑な気持ちになったが、安らかな寝息を立てている彼の顔に自然と笑みが浮かんだ。
恵瑠は横になると彼の背中に額を当てた。目を瞑り、彼を一番近くで感じる。
「大好きだよ」
こうして一緒にいる。自分を受け入れてくれる。これ以上の喜びなんてない。
「神愛君。ずっと、一緒にいてね」
幸せに包まれて、恵瑠は眠りについていった。
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