連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜

川島晴斗

第十九話

「何が悲しくて女2人で恋愛映画観にゃならんのよ」
「終わったこと引きずらんでよ。面白かったからいいじゃん」

 なぜだか私と環奈は映画館に来て最近話題の恋愛映画を見る事になり、涙が出るような良い話でも私は口元を吊り上げ、ムッと唸る。
 瑞揶が居なくて寂しいのに何故ここで恋愛映画をチョイスするか、嫌がらせか。

「いやぁ〜、今日も平和ですな。んで次どこ行く?」
「どこでもいいわよ。とっとと行って、とっとと帰りましょ」
「えー? 連れないなぁ。休日に家にこもってると干からびるよん?」
「何よもう……わかったから、行きましょ」
「ほいほーいっ」

 気ままな環奈に連れられ、私は次なる店に向かった。
 それからはまぁ、服を見たり、美味しいスイーツのある店に行ったりと、女子高生らしい事をしたと思う。
 夕暮れ時まで付き合わされ、私はなんとも言えない気持ちで過ごした。
 ただ、楽しいかそうでないかと言われれば、楽しかった。

「沙羅ってけっこう大食いだよね。あのパフェ全部食べるとかどんだけよ」
「食べようと思えば食べれるだけよ。普段から大食いなんじゃないわ」

 街を歩きながら先ほどのパフェの件を話す。
 環奈が無謀にも1m級パフェを注文し、私が9割食べる羽目になった。
 明日はお腹壊しそうで怖い。

「いやー、遊んだ遊んだ。いい気分転換になったっしょ?」
「……どうかしらね。まっ、悪くはなかったわ」
「あっはっは、沙羅は素直じゃないねぇ」
「…………」

 あっけらかんと笑ういつもの環奈がバンバンと私の背を叩く。
 まさかとは思うけどコイツ、私を励まそうと1日使ったと?
 …………。

「……そのうち借りは返すわ」
「借り? なんのことだかねぇ?」
「アンタは飄々として流そうとするけど、私は忘れないからね。いつかあっと驚かせてやるわ」
「そりゃ楽しみだねぇ」

 くつくつと笑って返す環奈が遠い存在に思えた。
 ……大人ってこんな感じなのかしらね。
 自分よりもなんだか遠い存在に思える。

「うん? ウチの顔になんかついてる?」
「……いえ、なんでもないわ」
「ならいいけど。……ん? あれ瑞揶じゃない?」
「……え?」

 環奈が前方を指さす。
 その先には、買い物袋を両手に持った瑞揶が1人、歩いていた――。







 秘密基地に行ったら子供達が占領していて、瑛彦と神下くんは子供達と鬼ごっこをする羽目になった。
 僕は体力が無いから不参加だったため、遊んだ2人より体力があって、瑛彦と神下くんは疲れ果てて先に帰ってしまった。
 夕陽の傾斜がだいぶ傾いて、僕は1人でスーパーに夕飯の買い出しに行ったのでした。

「重いよぅ……ぬむぅ……」

 両手に大きな袋を提げていて、僕は料理をするぐらいだから少しは腕の力があるはずだけど、それでも瑛彦の家の人数分の材料は重い。
 よたよたと歩いていると、僕の手を掴む手があった。
 その手は僕から買い物袋を片方奪い、取った本人はため息を吐いている。

「なにしてんのよ瑞揶。買い物?」

 1日聴いてなかった彼女の声に、僕は胸に1つ大きな動悸が起こる。
 顔を上げると、少しむくれた様子の沙羅が立っていた。

「……わぁ。沙羅、偶然だね」
「そうね。運命とも言うけれど、どう?」
「……大げさだと思うよ」

 話しているうちに、ひょいひょいっともう片方の買い物袋も沙羅に取られてしまう。
 魔人の力だと軽そうだね〜っ。

「……って、あれ? 環奈は?」
「……?」
「さっきまで居たのよ。帰っちゃ……いや、どうせ隠れて見てるわね」
「あはは……」

 沙羅の物言いから事態を察する。
 環奈が盗み見ですにゃ?
 2人きりじゃないのには少しだけ安堵する。
 2人きりだと、沙羅が何してくるかわからないもん。

「ま、私はアンタに会えて嬉しいわ。フフフ、このまま家まで帰って来なさい」
「えぇ〜……。まだ待ってね? 最近いろいろと考えてるんだから……。少し旅に出るかここに居るか、愛ちゃんの所に行くか……」
「そ。最終的に帰ってくるならアンタがどこに行こうと構わないわ。けど、姉さんも帰ってくる。それまでには帰って来なさい」
「えっ……あっ、そうだっ!」

 言われて僕は思い出した。
 もうそろそろ9月も終わり、瀬羅も帰ってくる。
 戻って来たらお祝いしないとね。

「今日何日だっけ!?」
「25日よ。戻るのは5日後ね。楽しみだわ」
「どうしよう!? 何にも準備してないよ!?」
「……別に、当日準備すればいいんじゃない? 料理も作んのアンタでしょ?」
「そ、そうだけど……」

 僕は肩を落とし、ガックリと項垂れる。
 もっと前から知ってれば……でも、あと5日。

「……考える事が多過ぎて、パニックだよぅ」
「そうねぇ。ま、聖兎の事は解決したようなもんだし、1つは片付いた。こうやって1個1個解決してけばいいんじゃない?」
「そ、そうだよね……あはは」
「なによ、歯切れが悪いわね……」
「…………」

 沙羅に睨まれ、僕は目をそらす。
 問題が重なって不安な心を、沙羅には見せたくない。
 僕の問題は僕で解決していきたいから。

「……隠すなら気にしないけど、早く帰って来なさい。私も待ってるんだから」
「沙羅……まだ2日だよ? 早すぎるんだけど……」
「そうね。ただ、アンタがいろいろ考えてるように、私もいろいろ考えてるのよ」
「……えぇ?」

 嘘だぁと言うような反応をすると、沙羅にほっぺつねられた。
 ごめんなさい……。

「……たとえさ、私達が恋人になったとしても、今までと変わらないんじゃないかって思うのよ」
「……そう?」
「そうよ。家事は瑞揶がするし、学校には行くし、部活やって帰って……生活は変わらないでしょ?」
「……そうだね〜」

 一日中一緒に居るのは、同じ家に住んでる同世代として変わることはない。
 生活リズムが変わるというのは変な話だね。

「それでも、まぁ……2人で居る時間は増えるでしょうね。瑞揶も私も、寝るとき以外は自室に行かないと思う」
「…………」
「……なによ?」
「……そんな照れる事言わないでよぅ」

 自分で顔が赤くなってるのがわかる。
 沙羅もほんのり赤くなってるけど、彼女がそんな恥ずかしいことを言うなんて……。

「照れる照れないは後でいいのよ。それより、もう1つ聞きなさい」
「……なに?」
「私はアンタの邪魔にならないように生きる。この前まで散々迷惑かけて、悪かったわ」
「えっ、えっ……べ、別にそんなの気にしてないよっ」

 何を言うかと思えば、僕が日常を求めていた時の事の謝罪だった。
 僕は全然怒ってないのに……。

「瑞揶……私は本当にアンタが好き。だからずっと好きでいて貰いたい。アンタが家族でいろというなら家族でいる。恋人になるのは、その後で良いから……」
「え〜……我慢してる沙羅なんて、なんか変だなぁ。僕はどんな沙羅でも大好きだよ?」
「えっ……?」
「うん?」
「……ううん。なんでもないわ」

 カーッと赤くなり、沙羅の顔から湯気が立つ。
 今更照れてるなんて……可愛いなぁ。
 丁度今、買い物袋を持ってやじろべえみたいな彼女は抱きしめやすそうで、僕はえいっと抱きついた。

「……ううっ」

 僕の胸の中で沙羅が呻く。
 無抵抗で、両手がふさがってるから抱き返せない彼女はとても無力だ。

「……沙羅、いろいろ考えてくれてありがと。大切に思ってくれて、すごく嬉しいですっ」
「……瑞揶だって、いろいろ考えてるんでしょう? お互い様よ」
「……そう、かな?」
「そうよ」
「…………」

 僕は沙羅の事をいろいろ考えているだろうか。
 自分に起こる出来事に翻弄されて、沙羅のためになる事を考えてなかったんじゃないだろうか。
 そんな自分が嫌だ、こんなに想われてるのに……。

「……沙羅。僕はもう少し頑張るから」
「そ。ほどほどにしなさいよ?」
「……頑張るから」

 そうして力強く彼女を抱きしめる。
 僕もすぐに、君の愛にこたえてみせるから――。

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