連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第七話
全てがつつがなく終わって、私はホッとしている。
愛を冠る私が失敗などしたら、困るのだから――。
瑞揶くん――。
君はこれでようやく、全ての憂いから解放され、自由に生きることができる――。
新しい一歩を歩み出すことができる――。
人生は幕を開けた――。
愛から生まれた少年の命――どんな人生になるのだろう――。
私は貴方の心で見守っている。
優しく、暖かく、ずっと見守る。
これからは自身で決めていく、貴方の人生を――。
◇
「あー……その……」
「……なによ?」
「……いろいろ迷惑掛けて、ごめんなさい……」
気が付いたら僕達は自宅のリビングにいた。
とりあえず、いろいろと迷惑を掛けてしまった沙羅に謝る。
沙羅は僕の言葉に首をかしげ、こう言った。
「じゃあ付き合ってよ」
「……それとこれとは話が別じゃない?」
「……瑞揶の恋人になれるなら、なんでもいいわよ」
「あはは……」
乾いた笑いしか出なかった。
僕としては、沙羅ならば――と思う。
だけど、もう二度と女性を悲しませないためにも、僕は真剣に自分の好きな人を自分で決めたい。
「……瑞揶、私を捨てるの? ひどいわ、私には貴方しかいないのにっ」
「捨てないからっ! 変なこと言わないでよーっ!」
「でも実際、瑞揶が私以外に女作ったら私の居場所がないわよ? どうしてくれんの? だから私と付き合いなさい」
「……むーっ。むーっですっ! 僕は自分で好きな人決めるのーっ! というか、まだ霧代のこと全然忘れられないんだからむりーっ!」
「……チッ。まぁさっきの今じゃ無理ね」
「それを言うなら昨日の今日だよ……って、あれ?」
自分で言って気付く。
いま何時だろう?
なんとなく見た時計には、残酷的な時刻が表示されていた。
確か、僕が1階奥の部屋に行った時は5時だったはず。
そして、いま時計が指している時刻は4時。
…………。
……窓から朝日が見えるんだけど?
「……沙羅、どうしよう? 僕はかなり疲れてて眠いんだけど……」
「……ええ、同感ね。私もすごく眠いわ……」
「…………」
振り替え休日はとっくに終わり、今日は文化祭の後片付け。
「……ちょっとズルいけど、僕が熱出したって事にしよっか。昨日出たのは事実だし」
「……そうね」
そういうわけで、みんなには悪いけどズル休みする事にした。
朝ごはんは食べようかどうか悩んだけど、起きたら簡単なものを作って食べることに。
……それでもって、
「沙羅!僕の部屋に入ってこないのーっ! ダメーッ!」
「嫌よ! 一緒に寝るの! そして既成事実を――」
「そんなの絶対許さないんだからねっ! あと、沙羅変わりすぎだよーっ!!」
沙羅が僕の部屋の扉を壊さんと必死になってたから、超能力で眠らせたのだった。
……これからの生活がいろいろと不安になるなぁ。
◇
「……むーっ」
「……なによ?」
起きたのは昼頃。
沙羅は僕より後に起き出して、2人でリビングでサンドイッチを食べていた。
いつもソファーに座りながら食べるんだけど……いつになく沙羅との距離が近い、というか僕の腕に背中がくっ付いている。
そのせいですごく食べにくいし、動けない。
「……沙羅、いくらなんでも変わりすぎだよ。沙羅が僕を好きなのはよくわかるけど、行動が空回りしてない?」
「なんでもいいのよ。私は欲しいものは手に入れる。……本気で好きなの。瑞揶だって私を可愛いと思うんでしょ?」
「…………」
それは確かに可愛いと思う。
僕がこの世界で可愛いと感じるのは沙羅だけだろう。
でもさぁ……。
「沙羅は霧代と全然似てないし……」
「なっ……」
「別に、僕に好みのタイプがあるっていうんじゃないよ。だけど、好き好き言って、僕に迷惑掛けてたら、それって本末転倒だと思うよ……?」
「…………」
じわりと、沙羅の目元に涙が浮かび出した。
少し僕から距離をとって、彼女は縮こまる。
「……迷惑だったかしら?」
弱々しい声だった。
すぐにでも泣きそうで、下唇を噛んでこらえている。
そんな顔を見せられたら、僕も強く言えないじゃないか……。
「……沙羅。僕だって沙羅に怒りたくない。だけど、節度はわきまえないとダメだからね?」
「……どうしたらいいのよ。側にいたいだけなのに。私は恋なんて初めてだから、よくわからないのよ……」
「……うーん」
そう言われても、僕は改善案を提案できない。
僕だって恋愛をしたのは1回だけだし、僕から人を好きになった人はいない。
……でも、どうすればいいって言われたら、僕に好かれるためには――
「……普通にしてればいいと思うよ?」
「……普通?」
「うん。今まで通りに過ごせたらいいと思う。家族として……って言ったら悪いかもしれないけど、僕は沙羅と今まで通り、ほのぼのと過ごしたいよ……」
これは多分、本音だろう。
ただでさえ最近は辛かったのに、沙羅まで変わってしまうのは嫌だ。
また夏休み前みたいにほのぼのと過ごせたら……それは幸せだと思う。
「……そう。そうね……」
沙羅は何度か頷いて族の言葉を咀嚼した。
「……納得してくれ、た?」
「……まぁ、1日1回抱きついてくれるなら、許してやるわ」
「それぐらいなら、お安い御用だよ……」
ホッと胸をなで下ろす。
これからの生活は安定しそうだ。
いつも通り、優しい日が続いてくれれば、僕はそれでいい。
その中でまた誰かと恋をして、良い人生を歩めたら――霧代との約束も達成できるだろう。
それからは無言でサンドイッチを食べ合う。
何か話そうにも気まずくて、なんだか会話しにくかった。
それは僕は沙羅にキチンとした返事を返してないからだし、それが悪いんだと思うけど。
返事、返事か……。
瀬羅のときは、ちゃんと断れた。
だけど、今の僕には断る理由はない。
あるとするなら、次は僕から好きになりたいというぐらいだろう。
でも、それで最愛の家族の気持ちを無碍にするつもりは毛頭ない。
それに、僕だって……。
…………。
「……どうしようかなぁ」
「……何か悩み? 聞くわよ?」
「……むー。これからどうしようかなぁ、ってね……」
間違いでもない、遠回しな言い方を返してみる。
彼女は僕の発言を鵜呑みし、言葉の意味のままに考え出した。
「そうねぇ……とりあえず、変わるものはないでしょ? 学校には行くし、部活はするし、家事もやる。別に、これからどうするって、悩むこともないんじゃない?」
「……そうなんだけど、なんというか……生きる目標が無くなった、し?」
「……じゃあ私のために生きてみる?」
「もう生きてると思うけどなぁ……」
「あぁ、そうね」
自分で言ってて納得する沙羅。
家事もなんでも、僕は沙羅に尽くしてるしね。
嫌じゃないからこの先も続けていくけれど。
「……んー。プロのヴァイオリニストでも目指したら?」
「ヴァイオリンは趣味で満足だよ。弾きたいものが弾ければいい。プロになったら、あれこれ大変そうだしね」
「……まぁ、アンタがそう言うならいいけど」
そういうわけでヴァイオリニストの案はボツになる。
今はまだやるものが決まってないけど、そのうち決まる……かな?
「……そういえば、沙羅は何になるのー?」
「え? 私の将来?」
「うん。そういえば、聞いてなかったし」
沙羅はこの世界に来て自由を手にした。
そこに何か成したい願いがあったわけじゃないだろうし、将来の夢なんて考えてもいなかっただろう。
だけど、今はもう考えついてるんじゃないかって、そう思って聞いてみた。
沙羅はうーんうーんと何度か唸り、それから決めたのか、僕の目を見て口を開く。
「旅とか、してみたいわね」
「……旅?」
「そう。せっかく来れたこの世界、広過ぎてきっと400年の寿命でも見て回れないと思う。だけど、私はもっと、いろんなものを見てみたい――」
まぁ1番は瑞揶の嫁になることだけど、と付け加えて沙羅が笑う。
言われてみれば、この世界は元いた世界と比べて広いし、たくさんのものがある。
僕は目で見て感じることがないだろうけど――きっとたくさんの音を感じられるはずだ。
「……いいね、旅。僕もしようかなぁ」
「一緒にする?そしたら結婚もする?」
「……何でもかんでも恋愛関係に持ってくのはやめようよ」
沙羅と同じ目標を持つことは難しそうだ。
ともあれ、この先の僕の目標は必要に思える。
さて、どうしたものか……。
愛を冠る私が失敗などしたら、困るのだから――。
瑞揶くん――。
君はこれでようやく、全ての憂いから解放され、自由に生きることができる――。
新しい一歩を歩み出すことができる――。
人生は幕を開けた――。
愛から生まれた少年の命――どんな人生になるのだろう――。
私は貴方の心で見守っている。
優しく、暖かく、ずっと見守る。
これからは自身で決めていく、貴方の人生を――。
◇
「あー……その……」
「……なによ?」
「……いろいろ迷惑掛けて、ごめんなさい……」
気が付いたら僕達は自宅のリビングにいた。
とりあえず、いろいろと迷惑を掛けてしまった沙羅に謝る。
沙羅は僕の言葉に首をかしげ、こう言った。
「じゃあ付き合ってよ」
「……それとこれとは話が別じゃない?」
「……瑞揶の恋人になれるなら、なんでもいいわよ」
「あはは……」
乾いた笑いしか出なかった。
僕としては、沙羅ならば――と思う。
だけど、もう二度と女性を悲しませないためにも、僕は真剣に自分の好きな人を自分で決めたい。
「……瑞揶、私を捨てるの? ひどいわ、私には貴方しかいないのにっ」
「捨てないからっ! 変なこと言わないでよーっ!」
「でも実際、瑞揶が私以外に女作ったら私の居場所がないわよ? どうしてくれんの? だから私と付き合いなさい」
「……むーっ。むーっですっ! 僕は自分で好きな人決めるのーっ! というか、まだ霧代のこと全然忘れられないんだからむりーっ!」
「……チッ。まぁさっきの今じゃ無理ね」
「それを言うなら昨日の今日だよ……って、あれ?」
自分で言って気付く。
いま何時だろう?
なんとなく見た時計には、残酷的な時刻が表示されていた。
確か、僕が1階奥の部屋に行った時は5時だったはず。
そして、いま時計が指している時刻は4時。
…………。
……窓から朝日が見えるんだけど?
「……沙羅、どうしよう? 僕はかなり疲れてて眠いんだけど……」
「……ええ、同感ね。私もすごく眠いわ……」
「…………」
振り替え休日はとっくに終わり、今日は文化祭の後片付け。
「……ちょっとズルいけど、僕が熱出したって事にしよっか。昨日出たのは事実だし」
「……そうね」
そういうわけで、みんなには悪いけどズル休みする事にした。
朝ごはんは食べようかどうか悩んだけど、起きたら簡単なものを作って食べることに。
……それでもって、
「沙羅!僕の部屋に入ってこないのーっ! ダメーッ!」
「嫌よ! 一緒に寝るの! そして既成事実を――」
「そんなの絶対許さないんだからねっ! あと、沙羅変わりすぎだよーっ!!」
沙羅が僕の部屋の扉を壊さんと必死になってたから、超能力で眠らせたのだった。
……これからの生活がいろいろと不安になるなぁ。
◇
「……むーっ」
「……なによ?」
起きたのは昼頃。
沙羅は僕より後に起き出して、2人でリビングでサンドイッチを食べていた。
いつもソファーに座りながら食べるんだけど……いつになく沙羅との距離が近い、というか僕の腕に背中がくっ付いている。
そのせいですごく食べにくいし、動けない。
「……沙羅、いくらなんでも変わりすぎだよ。沙羅が僕を好きなのはよくわかるけど、行動が空回りしてない?」
「なんでもいいのよ。私は欲しいものは手に入れる。……本気で好きなの。瑞揶だって私を可愛いと思うんでしょ?」
「…………」
それは確かに可愛いと思う。
僕がこの世界で可愛いと感じるのは沙羅だけだろう。
でもさぁ……。
「沙羅は霧代と全然似てないし……」
「なっ……」
「別に、僕に好みのタイプがあるっていうんじゃないよ。だけど、好き好き言って、僕に迷惑掛けてたら、それって本末転倒だと思うよ……?」
「…………」
じわりと、沙羅の目元に涙が浮かび出した。
少し僕から距離をとって、彼女は縮こまる。
「……迷惑だったかしら?」
弱々しい声だった。
すぐにでも泣きそうで、下唇を噛んでこらえている。
そんな顔を見せられたら、僕も強く言えないじゃないか……。
「……沙羅。僕だって沙羅に怒りたくない。だけど、節度はわきまえないとダメだからね?」
「……どうしたらいいのよ。側にいたいだけなのに。私は恋なんて初めてだから、よくわからないのよ……」
「……うーん」
そう言われても、僕は改善案を提案できない。
僕だって恋愛をしたのは1回だけだし、僕から人を好きになった人はいない。
……でも、どうすればいいって言われたら、僕に好かれるためには――
「……普通にしてればいいと思うよ?」
「……普通?」
「うん。今まで通りに過ごせたらいいと思う。家族として……って言ったら悪いかもしれないけど、僕は沙羅と今まで通り、ほのぼのと過ごしたいよ……」
これは多分、本音だろう。
ただでさえ最近は辛かったのに、沙羅まで変わってしまうのは嫌だ。
また夏休み前みたいにほのぼのと過ごせたら……それは幸せだと思う。
「……そう。そうね……」
沙羅は何度か頷いて族の言葉を咀嚼した。
「……納得してくれ、た?」
「……まぁ、1日1回抱きついてくれるなら、許してやるわ」
「それぐらいなら、お安い御用だよ……」
ホッと胸をなで下ろす。
これからの生活は安定しそうだ。
いつも通り、優しい日が続いてくれれば、僕はそれでいい。
その中でまた誰かと恋をして、良い人生を歩めたら――霧代との約束も達成できるだろう。
それからは無言でサンドイッチを食べ合う。
何か話そうにも気まずくて、なんだか会話しにくかった。
それは僕は沙羅にキチンとした返事を返してないからだし、それが悪いんだと思うけど。
返事、返事か……。
瀬羅のときは、ちゃんと断れた。
だけど、今の僕には断る理由はない。
あるとするなら、次は僕から好きになりたいというぐらいだろう。
でも、それで最愛の家族の気持ちを無碍にするつもりは毛頭ない。
それに、僕だって……。
…………。
「……どうしようかなぁ」
「……何か悩み? 聞くわよ?」
「……むー。これからどうしようかなぁ、ってね……」
間違いでもない、遠回しな言い方を返してみる。
彼女は僕の発言を鵜呑みし、言葉の意味のままに考え出した。
「そうねぇ……とりあえず、変わるものはないでしょ? 学校には行くし、部活はするし、家事もやる。別に、これからどうするって、悩むこともないんじゃない?」
「……そうなんだけど、なんというか……生きる目標が無くなった、し?」
「……じゃあ私のために生きてみる?」
「もう生きてると思うけどなぁ……」
「あぁ、そうね」
自分で言ってて納得する沙羅。
家事もなんでも、僕は沙羅に尽くしてるしね。
嫌じゃないからこの先も続けていくけれど。
「……んー。プロのヴァイオリニストでも目指したら?」
「ヴァイオリンは趣味で満足だよ。弾きたいものが弾ければいい。プロになったら、あれこれ大変そうだしね」
「……まぁ、アンタがそう言うならいいけど」
そういうわけでヴァイオリニストの案はボツになる。
今はまだやるものが決まってないけど、そのうち決まる……かな?
「……そういえば、沙羅は何になるのー?」
「え? 私の将来?」
「うん。そういえば、聞いてなかったし」
沙羅はこの世界に来て自由を手にした。
そこに何か成したい願いがあったわけじゃないだろうし、将来の夢なんて考えてもいなかっただろう。
だけど、今はもう考えついてるんじゃないかって、そう思って聞いてみた。
沙羅はうーんうーんと何度か唸り、それから決めたのか、僕の目を見て口を開く。
「旅とか、してみたいわね」
「……旅?」
「そう。せっかく来れたこの世界、広過ぎてきっと400年の寿命でも見て回れないと思う。だけど、私はもっと、いろんなものを見てみたい――」
まぁ1番は瑞揶の嫁になることだけど、と付け加えて沙羅が笑う。
言われてみれば、この世界は元いた世界と比べて広いし、たくさんのものがある。
僕は目で見て感じることがないだろうけど――きっとたくさんの音を感じられるはずだ。
「……いいね、旅。僕もしようかなぁ」
「一緒にする?そしたら結婚もする?」
「……何でもかんでも恋愛関係に持ってくのはやめようよ」
沙羅と同じ目標を持つことは難しそうだ。
ともあれ、この先の僕の目標は必要に思える。
さて、どうしたものか……。
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