連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第三話
瑞揶がリビングを過ぎ去って、30分が経過した。
家のどこにも彼の気配はなく、探しても無駄という判断ができたために私はずっと、リビングのソファーで丸くなって座っていた。
テレビも点けずに自分を抱きしめている。
瑞揶がどうなのかはわからないけど、私は間違いなく瑞揶が好きだ。
行動にも出まくってるし、もう隠しようがない。
どうしてこんなに好きになってしまったんだろう。
なんでアイツが居ないとこんなにもどかしいのだろう。
いろんな想いが頭を駆け巡るも、その真ん中に居るのはずっと瑞揶だ。
この広い人間界に来て、最初に出会ったのは瑞揶。
最初に出会った頃は、騙しやすそうで頭が悪そうだ、なんて感想を抱いたもんだ。
でもそれは彼の優しさの体現で、彼はずっと私に対して親切だった。
いつも笑いかけて、なんでも世話してくれて、のほほんとしてて、頼り甲斐のないところもあるけれど……。
今では、アイツの全部が好きだ。
ううん、嫌いになったことなんて一度だってなかっただろう。
ならば、私がこんな感情を抱くのも必然なのかもしれない。
考えるたびに胸が苦しい……。
「早く戻って来て……」
自然と言葉が呟かれる。
彼が戻って来たら、伝えたいことがある。
彼がその手の話がダメなのはわかってるし、辛いのかもしれない。
だけど、自分を貫いてこその私だから――。
今はただ待つ。
家族として生きてきた、あの人を――。
◇
くる、くる、時がくる――。
長い時間を要した気がするけど、それも終わり――。
不幸な運命に苛まれる3人の愛子よ――。
この“愛”が、その仲をとり持ちましょう――。
◇
――痛い。
剣で体を貫くのがこんなに痛かったなんて、すっかり忘れていたように思う。
何回か意識が飛んだけど、その時は自動で剣を刺すようにして無理やり起こした。
それを1時間ひたすら繰り返し、血みどろに染まった部屋でかろうじて時刻が読める壁掛け時計を見て、もうそろそろ戻らないとと立ち上がる。
部屋を出るときは無言だった。
何を思うでもなく、冷めきった心だけを持ってパタンと扉を閉じる。
廊下に出ると、先ほどまで気になった錆びた鉄のような匂いは気にならなくなっていた。
血の匂いを残したら、沙羅に心配をかけるから。
「……むぅ」
リビングにひょっこり顔を覗かせると、同時に沙羅が怒ってると言いたげに頬を膨らませて立っていた。
ずっと待っていてくれたのは、すぐにわかった。
「遅い、遅過ぎるわ……私をどれだけ待たせる気?」
「……別に待ってなくても良かったのに。夕飯までは、まだ時間も――」
「私は用があるのよ」
「……そっか」
短く言葉を返す。
今の僕はとても話を聞ける状況なんかじゃないけど、1時間も待ってた彼女のために、話を聞いてあげたいと思った。
「それで……何の用?」
「……ええ、それなんだけど――」
彼女は僕の瞳をハッキリと見つめた。
そしてそのかよわい口から、一言を僕の耳に届かせた――。
「私、瑞揶の事が――好きなのよ――」
「――あぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
狂ったように僕は叫んだ。
狂わずにいられなかった。
僕の様子に怯えて沙羅が後ずさりする。
「どうして!? どうして僕は好かれてしまうの!? 嫌われるべきなのに! 蔑まれるべきなのに!!」
「……瑞……揶?」
「嫌だ嫌だ嫌だ!! こんな、こんな人生もう嫌だ! 僕は……!」
刹那、何か黒い塊が僕を飲み込んだ。
ドス黒くて気持ち悪いそのナニカに、僕は、僕は――
◇
――始まった。
――始まってしまった。
――あぁ、やっぱりこれだけの“悪霊”が取り憑いていたのか。
――いや、そんな事はわかってはいたことだ。
――さぁ、魑魅魍魎どもよ。
――この私が相手をしてあげよう。
――この旧・愛律司神が!!!
◇
瑞揶が何か黒い塊に飲み込まれたと思ったら、私の意識も暗転した。
何が起きたのかわからない。
ただ、目を開くとそこは灰色の空間だった。
私だけしかいない、とても寂しい場所。
「……どこなのよ、ここは?」
思わず呟いてしまう。
こんな所は見たことも聞いたこともない。
私は帰れるのだろうか、その事が気掛かりだ。
瑞揶に会いたい。
あんなに悲しそうに叫んだ彼を励ましたい。
なのに、なんなのここは――?
「――来たんだね、沙羅ちゃん」
不意に聴こえた声に、私は瞬時に振り返った。
するとそこには、少女が居た。
腰まで伸びた黒髪を持ち、憂える瞳を持った女性だった。
格好は制服、なのだろうか。
ブレザーの上から見える体のラインは急な曲線ばかりでとても体つきのいい、それでいて顔も可愛くて美少女と呼べる女性。
しかし――
足が、透けていた――。
「……誰、アンタ? なんで私の名前を知ってるの?」
堂々と私らしく尋ねる。
少女は無表情のままに、私に向けて呟いた。
「そうね……まずは、自己紹介か」
「早く言いなさいよ。こっちは早く行きたい所があるんだからっ」
「……うん。でもまだ行くことは出来ない。愛ちゃんが今、戦ってるからね」
「訳のわからないことを……」
「急かないで。大丈夫、全部なんとかなる筈だから――」
目を伏せて滔々と話す少女に私は怒りが募る。
しかし、こんな訳のわからない所では彼女だけが頼りだろう。
私は奥歯を強く噛み、堪える。
「じゃあ、私の名前ね?」
一拍おいて、少女は微笑みながら名前を告げた。
「私は霧代……川本霧代。瑞揶くんの――」
恋人だよ――。
その一言に、私は心臓を掴まれたようにぞわっとしたのだった。
家のどこにも彼の気配はなく、探しても無駄という判断ができたために私はずっと、リビングのソファーで丸くなって座っていた。
テレビも点けずに自分を抱きしめている。
瑞揶がどうなのかはわからないけど、私は間違いなく瑞揶が好きだ。
行動にも出まくってるし、もう隠しようがない。
どうしてこんなに好きになってしまったんだろう。
なんでアイツが居ないとこんなにもどかしいのだろう。
いろんな想いが頭を駆け巡るも、その真ん中に居るのはずっと瑞揶だ。
この広い人間界に来て、最初に出会ったのは瑞揶。
最初に出会った頃は、騙しやすそうで頭が悪そうだ、なんて感想を抱いたもんだ。
でもそれは彼の優しさの体現で、彼はずっと私に対して親切だった。
いつも笑いかけて、なんでも世話してくれて、のほほんとしてて、頼り甲斐のないところもあるけれど……。
今では、アイツの全部が好きだ。
ううん、嫌いになったことなんて一度だってなかっただろう。
ならば、私がこんな感情を抱くのも必然なのかもしれない。
考えるたびに胸が苦しい……。
「早く戻って来て……」
自然と言葉が呟かれる。
彼が戻って来たら、伝えたいことがある。
彼がその手の話がダメなのはわかってるし、辛いのかもしれない。
だけど、自分を貫いてこその私だから――。
今はただ待つ。
家族として生きてきた、あの人を――。
◇
くる、くる、時がくる――。
長い時間を要した気がするけど、それも終わり――。
不幸な運命に苛まれる3人の愛子よ――。
この“愛”が、その仲をとり持ちましょう――。
◇
――痛い。
剣で体を貫くのがこんなに痛かったなんて、すっかり忘れていたように思う。
何回か意識が飛んだけど、その時は自動で剣を刺すようにして無理やり起こした。
それを1時間ひたすら繰り返し、血みどろに染まった部屋でかろうじて時刻が読める壁掛け時計を見て、もうそろそろ戻らないとと立ち上がる。
部屋を出るときは無言だった。
何を思うでもなく、冷めきった心だけを持ってパタンと扉を閉じる。
廊下に出ると、先ほどまで気になった錆びた鉄のような匂いは気にならなくなっていた。
血の匂いを残したら、沙羅に心配をかけるから。
「……むぅ」
リビングにひょっこり顔を覗かせると、同時に沙羅が怒ってると言いたげに頬を膨らませて立っていた。
ずっと待っていてくれたのは、すぐにわかった。
「遅い、遅過ぎるわ……私をどれだけ待たせる気?」
「……別に待ってなくても良かったのに。夕飯までは、まだ時間も――」
「私は用があるのよ」
「……そっか」
短く言葉を返す。
今の僕はとても話を聞ける状況なんかじゃないけど、1時間も待ってた彼女のために、話を聞いてあげたいと思った。
「それで……何の用?」
「……ええ、それなんだけど――」
彼女は僕の瞳をハッキリと見つめた。
そしてそのかよわい口から、一言を僕の耳に届かせた――。
「私、瑞揶の事が――好きなのよ――」
「――あぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
狂ったように僕は叫んだ。
狂わずにいられなかった。
僕の様子に怯えて沙羅が後ずさりする。
「どうして!? どうして僕は好かれてしまうの!? 嫌われるべきなのに! 蔑まれるべきなのに!!」
「……瑞……揶?」
「嫌だ嫌だ嫌だ!! こんな、こんな人生もう嫌だ! 僕は……!」
刹那、何か黒い塊が僕を飲み込んだ。
ドス黒くて気持ち悪いそのナニカに、僕は、僕は――
◇
――始まった。
――始まってしまった。
――あぁ、やっぱりこれだけの“悪霊”が取り憑いていたのか。
――いや、そんな事はわかってはいたことだ。
――さぁ、魑魅魍魎どもよ。
――この私が相手をしてあげよう。
――この旧・愛律司神が!!!
◇
瑞揶が何か黒い塊に飲み込まれたと思ったら、私の意識も暗転した。
何が起きたのかわからない。
ただ、目を開くとそこは灰色の空間だった。
私だけしかいない、とても寂しい場所。
「……どこなのよ、ここは?」
思わず呟いてしまう。
こんな所は見たことも聞いたこともない。
私は帰れるのだろうか、その事が気掛かりだ。
瑞揶に会いたい。
あんなに悲しそうに叫んだ彼を励ましたい。
なのに、なんなのここは――?
「――来たんだね、沙羅ちゃん」
不意に聴こえた声に、私は瞬時に振り返った。
するとそこには、少女が居た。
腰まで伸びた黒髪を持ち、憂える瞳を持った女性だった。
格好は制服、なのだろうか。
ブレザーの上から見える体のラインは急な曲線ばかりでとても体つきのいい、それでいて顔も可愛くて美少女と呼べる女性。
しかし――
足が、透けていた――。
「……誰、アンタ? なんで私の名前を知ってるの?」
堂々と私らしく尋ねる。
少女は無表情のままに、私に向けて呟いた。
「そうね……まずは、自己紹介か」
「早く言いなさいよ。こっちは早く行きたい所があるんだからっ」
「……うん。でもまだ行くことは出来ない。愛ちゃんが今、戦ってるからね」
「訳のわからないことを……」
「急かないで。大丈夫、全部なんとかなる筈だから――」
目を伏せて滔々と話す少女に私は怒りが募る。
しかし、こんな訳のわからない所では彼女だけが頼りだろう。
私は奥歯を強く噛み、堪える。
「じゃあ、私の名前ね?」
一拍おいて、少女は微笑みながら名前を告げた。
「私は霧代……川本霧代。瑞揶くんの――」
恋人だよ――。
その一言に、私は心臓を掴まれたようにぞわっとしたのだった。
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