連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第十四話
――ポタッ
――ピチャッ
音がする、赤い雫が落ちる音が。
赤い月明かりの差し込む廃屋、そこには無造作に死体が転がっていた。
斬られ、魔法で撃ち抜かれ、中には首しか残らなかったものもある。
――ポチャン
静寂を掻き分ける水音を聴きながら、私はただ立ち尽くした。
返り血を浴びた着物を気持ち悪く思うでもなく、手に持った刀は無気力にも関わらず手から滑り落ちることはない。
――ピチャッ
人も魔人も私は殺した。
もうこれで何回めの命令だっただろう。
命令に従わなければ仲間が殺される。
そういう制度だから、誰も逆らえない。
何故、どうして殺すのかも聞かされずに私達は殺す。
他の軍の仲間も、そうして殺す。
殺した後に、殺す理由も知らずに殺した私が、彼らを弔う権利はあるだろうか?
私はたまに思う。
難しい事を考えれるほど賢くもないけれど、殺した私が弔う。
そんな矛盾をして私はどうしたいのか。
謝罪のつもりか、それとも殺した記録をつけてるのか。
答えはまったくわからない。
ただ心が痛い。
答えがわからず、ただ立ち竦むしかないのもそう。
殺す事を誰も咎めてくれないのもそう。
自分が嫌なのもそう。
私は――。
――ウウウゥゥウウウウウウッ!!
その時、サイレンの音が聞こえてきた。
もう警察が来るらしい。
結局どうするでもなく、私はその場を後にした――。
◇
「――うにゃっ!?」
頭に強烈な痛みを感じて目が醒める。
パチリと目を開けばベッドの下。
例によって私は落ちたようだ。
「……いっっったっ! もうっ、なんなのよ……」
なんで自分がこんなに寝相が悪いのかと自身を恨む。
おかげで何か夢を見ていた気がするけど、綺麗さっぱり忘れちゃったわ。
「っと、そういや今日は入学式じゃない。寝坊とか――」
時間を確認すると、壁掛けの時計には6を短針に刺して8を長針が刺している。
6時40分、まだ余裕があるわね。
恐らく瑞揶が朝ごはんを作っているのを予想し、私はゆっくりとワイシャツ、スカート姿に着替えて1階に降りた。
ひょっこり台所を覗くと、白いワイシャツの裾を捲り、スラックスを履いた瑞揶が菜箸を持ってフライパンと睨めっこしていた。
流石は私の下僕――じゃなくて家族、生活に乱れはないらしい。
私は安心してリビングに入り、テレビを点けた。
「おはよー瑞揶」
「あ、おはよう沙羅。あれ? スカート短くない?」
「ドラマでもこんなもんよ。確かに変な感じだけど、これがモテる秘訣なのかもしれないわ!」
「は、はぁ……まぁ、頑張ってね?」
大して熱意のない応援を頂く。
フッ、私はこの美貌でモテる!
高校生活を限界まで楽しみ、今までの人生とおさらばする!
そのためにはまず、私だけのハーレムを作るのよ!
「ま、瑞揶は家族だから加えないんだけどね」
「……なんの話?」
「気にしないで。独り言よ」
「そう? あ、もうちょっとで朝ごはんできるから、ごはんをよそうの手伝って〜」
「はいはいっ」
手伝いの要求に素直に答え、私も彼と並んで台所に立つ。
フライパンの中には茶焦げたハンバーグがジュージュー音を立てている。
流しの横に卵焼きもできてるし、ほうれん草のおひたしもあるし、こんだけ作るって、いったい何時に起きてるんだか。
「アンタ、一体何時に起きてんのよ?」
「ん? 5時半かなぁ……大して早くもないよ?」
「私の感覚じゃ、アンタが何言ってんのか全然わからないわ」
1時間余りで4品――よく見たら味噌汁もあるし、なんなのコイツ。
しかもどれもこれも美味しいんだから、主婦と同等なんじゃないかしら。
絶対生まれてくる性別を間違えてるわ。
失礼な事を考えながら手伝いをし、朝食を並べて一緒に食べる。
この辺はいつもと変わるところがない。
「美味しい〜っ」
「……そうね」
自分の料理に自分で満足してニコニコと瑞揶が笑う。
入学式だと言うのに、彼はどんだけマイペースなんだろうか。
まぁ、瑞揶は小中学校を経験してるし、入学式に大して熱がないのだろう。
私は初めてだからめっちゃワクワクしてるのに。
食後は瑞揶がお皿を洗い、私は先に準備させてもらうこととなった。
準備と言っても、リボン付けてソックス履いて、ブレザーを着るぐらいなのだけど。
荷物は財布と携帯、それと上履きの入ったカバンを持って終わり。
それで私が部屋から出てリビングに出た時には、瑞揶は戸締りも全部済ませてネクタイも閉め、ブレザーを着て待機していた。
おかしい、皿洗いをしてたのになんで私より早いのよ。
能力的に考えて、ツッコんだら負けなのかしら?
超能力ではなく、家事のスキル的な意味で。
「見て見て、ブレザー1つ大きめのサイズだよ〜。ちょっとダボダボ〜」
「男ならシュッとしなさいよ。だらしないわよ?」
「……だらしないって、沙羅にだけは言われたくないなぁ」
そんな会話をして玄関に向かい、2人で大空広がる外へ出た。
時間は大体7時20分、入学式は9時半らしいのに、随分と早い。
その理由としては、瑞揶が瑛彦の家に寄っていくと言うのだ。
歩いて5分足らず、瑛彦の住む家に着いたらしい。
大きな一戸建てで、庭に草木が生えてある。
へぇー、瑛彦の分際でこんな家に住んでるとはね。
「あーきーひーこ〜」
瑞揶がインターホンを押しながら呑気な声で名前を呼ぶ。
そんなんで現れるもなく……というか、インターホンもドアも静まり返って音沙汰なしだ。
小鳥の囀りだけが虚しく響く。
「……どうなってんのよ?」
「多分、みんな寝てるんだと思う」
「みんな?」
「瑛彦は弟妹が2人ずつ居るんだよ〜。みんな元気で僕は気後れするんだけどね……」
「へぇ……で、みんな寝てるの?」
「うん。お母さんも何かとルーズな人だし、放任主義だし、どうもこの時間には起きて来そうにないかな」
「ちょっと待ちなさい。今日はどこも入学式。弟妹は昨日から新学期で学校始まってるんじゃないの?」
「羽村家では朝8時に飛び起きて、朝食も食べずに学校に走って行くって、瑛彦が言ってたよ?」
「うちとはえらい差ね……」
響川家では絶対に7時までに起きるのが常識なのに、どういうことなのかしら?
瑞揶の親友なんだから、人の振り見て我が振り直せばいいのに。
「それで、何? 瑛彦に用事があったんでしょう?」
「うん。なんか、携帯が壊れて学校までの行き方がわからなくなったんだって」
「……アイツが死ぬほど馬鹿なのはよくわかったわ」
なんてどうでもいいことで瑞揶を呼び出してるんだろうか、あの男は。
というか瑞揶も瑞揶で付き合ってやらなきゃいいのに、どんだけ優しいのよ……。
「でも瑛彦来ないし、どーしようかな。“7時半に行く! 寄り道しながらのんびり行こうぜー”って言ってたのに……」
「もうほっとけばいいんじゃない?」
「……うーん、でも今から学校に行ってもなぁ。歩いて15分ぐらいで着くし」
「……近いのね」
歩いて15分。
そのくらいなら地図見てすぐ覚えられるんじゃないの?
つーか近隣住民じゃないの?
なんでわざわざ瑞揶を誘う必要があるのかしら?
「……仕方ない、瑛彦はほっとこうか」
瑞揶もそう決断を下す。
そうそう、あんな杜撰な男の事なんて気にしたって得する事は何もないわ。
「こんな事もあろうかと手紙用意してあるから、ポストに入れとこう」
「……瑞揶、手馴れてるわね」
「うん、もう9年近くの付き合いだからね。平社員と部長みたいな関係がずっと続いてるよ」
「……そんなコメントに困るたとえ出さないでもらえる?」
「え?ごめん」
どっちが部長でどっちが平社員かは言わずもがなではあるが、頭が痛くなる。
朝から瑞揶のホワホワ脳に悩んでたら午後は大変ね。
ここは好き勝手やらせてもらおうかしら。
「私は環奈の所に行ってくるわ。あの子なら起きてるでしょ」
「じゃあ僕も付いて行っていい?」
「アンタが居ないと、私が学校の場所わからないでしょ?」
「あはは、そうだね。一緒に行こうか〜」
まったりしながら瑞揶が先を歩き、いらぬ雑談をしながら道を歩く。
幾つかの小道を抜けてマンションについて、エレベーターで4回まで上がる。
408号室はエレベーターを出てから道の突き当たりにある家で、私は迷いなくインターホンを押した。
20秒もすれば鉄の扉が開く。
「……おお、親分に姐さん。これはこれは、本日もお日柄がよく――」
「誰が姐さんよ。からかうのは瑞揶だけにしなさい」
「僕も、親分はちょっとなぁ……」
ブレザーを脱いだ状態の制服姿で出迎えた環奈の呼称に難癖を付ける。
彼女は前見たよりも綺麗になっている黒髪を指で弄りながら、んーと唸る。
「じゃあ、みーさんとさーさんで」
「普通に呼び捨てで呼びなさいよ」
「そうだよ。みーさんって、なんか変だもん」
「……瑞揶、沙羅。前回は命を救っていただき、ありがとうございました」
普通に呼んだ序でに土下座をする環奈。
……なるほど、コイツもコイツで面倒くさいわね。
私は彼女の横を通り、勝手に家の中へ上がる。
「あっ、沙羅〜!」
「おっと、瑞揶はここで待っててねん。ウチの着替えが放りっぱなしだから」
「え? ……わかった。また開けて」
「ういうい」
なんか玄関で話しているが、私は耳に入れずにこの前掃除した和室に入る。
相変わらず何もないけれど、机の中を開くとそこには教科書がある。
おそらく、中学校のものであろう。
少しぐらい復習序でに読んでおくのも手であろう。
環奈が脱ぎっぱの衣類を片付けて瑞揶が来るまでの間、少し勝手に借りるとしよう。
ま、まだまだ時間はあるのだから、のんびり読むことになりそうなのだけどね。
――ピチャッ
音がする、赤い雫が落ちる音が。
赤い月明かりの差し込む廃屋、そこには無造作に死体が転がっていた。
斬られ、魔法で撃ち抜かれ、中には首しか残らなかったものもある。
――ポチャン
静寂を掻き分ける水音を聴きながら、私はただ立ち尽くした。
返り血を浴びた着物を気持ち悪く思うでもなく、手に持った刀は無気力にも関わらず手から滑り落ちることはない。
――ピチャッ
人も魔人も私は殺した。
もうこれで何回めの命令だっただろう。
命令に従わなければ仲間が殺される。
そういう制度だから、誰も逆らえない。
何故、どうして殺すのかも聞かされずに私達は殺す。
他の軍の仲間も、そうして殺す。
殺した後に、殺す理由も知らずに殺した私が、彼らを弔う権利はあるだろうか?
私はたまに思う。
難しい事を考えれるほど賢くもないけれど、殺した私が弔う。
そんな矛盾をして私はどうしたいのか。
謝罪のつもりか、それとも殺した記録をつけてるのか。
答えはまったくわからない。
ただ心が痛い。
答えがわからず、ただ立ち竦むしかないのもそう。
殺す事を誰も咎めてくれないのもそう。
自分が嫌なのもそう。
私は――。
――ウウウゥゥウウウウウウッ!!
その時、サイレンの音が聞こえてきた。
もう警察が来るらしい。
結局どうするでもなく、私はその場を後にした――。
◇
「――うにゃっ!?」
頭に強烈な痛みを感じて目が醒める。
パチリと目を開けばベッドの下。
例によって私は落ちたようだ。
「……いっっったっ! もうっ、なんなのよ……」
なんで自分がこんなに寝相が悪いのかと自身を恨む。
おかげで何か夢を見ていた気がするけど、綺麗さっぱり忘れちゃったわ。
「っと、そういや今日は入学式じゃない。寝坊とか――」
時間を確認すると、壁掛けの時計には6を短針に刺して8を長針が刺している。
6時40分、まだ余裕があるわね。
恐らく瑞揶が朝ごはんを作っているのを予想し、私はゆっくりとワイシャツ、スカート姿に着替えて1階に降りた。
ひょっこり台所を覗くと、白いワイシャツの裾を捲り、スラックスを履いた瑞揶が菜箸を持ってフライパンと睨めっこしていた。
流石は私の下僕――じゃなくて家族、生活に乱れはないらしい。
私は安心してリビングに入り、テレビを点けた。
「おはよー瑞揶」
「あ、おはよう沙羅。あれ? スカート短くない?」
「ドラマでもこんなもんよ。確かに変な感じだけど、これがモテる秘訣なのかもしれないわ!」
「は、はぁ……まぁ、頑張ってね?」
大して熱意のない応援を頂く。
フッ、私はこの美貌でモテる!
高校生活を限界まで楽しみ、今までの人生とおさらばする!
そのためにはまず、私だけのハーレムを作るのよ!
「ま、瑞揶は家族だから加えないんだけどね」
「……なんの話?」
「気にしないで。独り言よ」
「そう? あ、もうちょっとで朝ごはんできるから、ごはんをよそうの手伝って〜」
「はいはいっ」
手伝いの要求に素直に答え、私も彼と並んで台所に立つ。
フライパンの中には茶焦げたハンバーグがジュージュー音を立てている。
流しの横に卵焼きもできてるし、ほうれん草のおひたしもあるし、こんだけ作るって、いったい何時に起きてるんだか。
「アンタ、一体何時に起きてんのよ?」
「ん? 5時半かなぁ……大して早くもないよ?」
「私の感覚じゃ、アンタが何言ってんのか全然わからないわ」
1時間余りで4品――よく見たら味噌汁もあるし、なんなのコイツ。
しかもどれもこれも美味しいんだから、主婦と同等なんじゃないかしら。
絶対生まれてくる性別を間違えてるわ。
失礼な事を考えながら手伝いをし、朝食を並べて一緒に食べる。
この辺はいつもと変わるところがない。
「美味しい〜っ」
「……そうね」
自分の料理に自分で満足してニコニコと瑞揶が笑う。
入学式だと言うのに、彼はどんだけマイペースなんだろうか。
まぁ、瑞揶は小中学校を経験してるし、入学式に大して熱がないのだろう。
私は初めてだからめっちゃワクワクしてるのに。
食後は瑞揶がお皿を洗い、私は先に準備させてもらうこととなった。
準備と言っても、リボン付けてソックス履いて、ブレザーを着るぐらいなのだけど。
荷物は財布と携帯、それと上履きの入ったカバンを持って終わり。
それで私が部屋から出てリビングに出た時には、瑞揶は戸締りも全部済ませてネクタイも閉め、ブレザーを着て待機していた。
おかしい、皿洗いをしてたのになんで私より早いのよ。
能力的に考えて、ツッコんだら負けなのかしら?
超能力ではなく、家事のスキル的な意味で。
「見て見て、ブレザー1つ大きめのサイズだよ〜。ちょっとダボダボ〜」
「男ならシュッとしなさいよ。だらしないわよ?」
「……だらしないって、沙羅にだけは言われたくないなぁ」
そんな会話をして玄関に向かい、2人で大空広がる外へ出た。
時間は大体7時20分、入学式は9時半らしいのに、随分と早い。
その理由としては、瑞揶が瑛彦の家に寄っていくと言うのだ。
歩いて5分足らず、瑛彦の住む家に着いたらしい。
大きな一戸建てで、庭に草木が生えてある。
へぇー、瑛彦の分際でこんな家に住んでるとはね。
「あーきーひーこ〜」
瑞揶がインターホンを押しながら呑気な声で名前を呼ぶ。
そんなんで現れるもなく……というか、インターホンもドアも静まり返って音沙汰なしだ。
小鳥の囀りだけが虚しく響く。
「……どうなってんのよ?」
「多分、みんな寝てるんだと思う」
「みんな?」
「瑛彦は弟妹が2人ずつ居るんだよ〜。みんな元気で僕は気後れするんだけどね……」
「へぇ……で、みんな寝てるの?」
「うん。お母さんも何かとルーズな人だし、放任主義だし、どうもこの時間には起きて来そうにないかな」
「ちょっと待ちなさい。今日はどこも入学式。弟妹は昨日から新学期で学校始まってるんじゃないの?」
「羽村家では朝8時に飛び起きて、朝食も食べずに学校に走って行くって、瑛彦が言ってたよ?」
「うちとはえらい差ね……」
響川家では絶対に7時までに起きるのが常識なのに、どういうことなのかしら?
瑞揶の親友なんだから、人の振り見て我が振り直せばいいのに。
「それで、何? 瑛彦に用事があったんでしょう?」
「うん。なんか、携帯が壊れて学校までの行き方がわからなくなったんだって」
「……アイツが死ぬほど馬鹿なのはよくわかったわ」
なんてどうでもいいことで瑞揶を呼び出してるんだろうか、あの男は。
というか瑞揶も瑞揶で付き合ってやらなきゃいいのに、どんだけ優しいのよ……。
「でも瑛彦来ないし、どーしようかな。“7時半に行く! 寄り道しながらのんびり行こうぜー”って言ってたのに……」
「もうほっとけばいいんじゃない?」
「……うーん、でも今から学校に行ってもなぁ。歩いて15分ぐらいで着くし」
「……近いのね」
歩いて15分。
そのくらいなら地図見てすぐ覚えられるんじゃないの?
つーか近隣住民じゃないの?
なんでわざわざ瑞揶を誘う必要があるのかしら?
「……仕方ない、瑛彦はほっとこうか」
瑞揶もそう決断を下す。
そうそう、あんな杜撰な男の事なんて気にしたって得する事は何もないわ。
「こんな事もあろうかと手紙用意してあるから、ポストに入れとこう」
「……瑞揶、手馴れてるわね」
「うん、もう9年近くの付き合いだからね。平社員と部長みたいな関係がずっと続いてるよ」
「……そんなコメントに困るたとえ出さないでもらえる?」
「え?ごめん」
どっちが部長でどっちが平社員かは言わずもがなではあるが、頭が痛くなる。
朝から瑞揶のホワホワ脳に悩んでたら午後は大変ね。
ここは好き勝手やらせてもらおうかしら。
「私は環奈の所に行ってくるわ。あの子なら起きてるでしょ」
「じゃあ僕も付いて行っていい?」
「アンタが居ないと、私が学校の場所わからないでしょ?」
「あはは、そうだね。一緒に行こうか〜」
まったりしながら瑞揶が先を歩き、いらぬ雑談をしながら道を歩く。
幾つかの小道を抜けてマンションについて、エレベーターで4回まで上がる。
408号室はエレベーターを出てから道の突き当たりにある家で、私は迷いなくインターホンを押した。
20秒もすれば鉄の扉が開く。
「……おお、親分に姐さん。これはこれは、本日もお日柄がよく――」
「誰が姐さんよ。からかうのは瑞揶だけにしなさい」
「僕も、親分はちょっとなぁ……」
ブレザーを脱いだ状態の制服姿で出迎えた環奈の呼称に難癖を付ける。
彼女は前見たよりも綺麗になっている黒髪を指で弄りながら、んーと唸る。
「じゃあ、みーさんとさーさんで」
「普通に呼び捨てで呼びなさいよ」
「そうだよ。みーさんって、なんか変だもん」
「……瑞揶、沙羅。前回は命を救っていただき、ありがとうございました」
普通に呼んだ序でに土下座をする環奈。
……なるほど、コイツもコイツで面倒くさいわね。
私は彼女の横を通り、勝手に家の中へ上がる。
「あっ、沙羅〜!」
「おっと、瑞揶はここで待っててねん。ウチの着替えが放りっぱなしだから」
「え? ……わかった。また開けて」
「ういうい」
なんか玄関で話しているが、私は耳に入れずにこの前掃除した和室に入る。
相変わらず何もないけれど、机の中を開くとそこには教科書がある。
おそらく、中学校のものであろう。
少しぐらい復習序でに読んでおくのも手であろう。
環奈が脱ぎっぱの衣類を片付けて瑞揶が来るまでの間、少し勝手に借りるとしよう。
ま、まだまだ時間はあるのだから、のんびり読むことになりそうなのだけどね。
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