連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜

川島晴斗

第十五話

 結局瑞揶は瑛彦に電話で呼び出されてどっかに行ってしまった。
 それが8時半の出来事で、私は環奈の家に残って畳の上に転がりながら教科書を読んでいた。

《〜〜♪♪〜〜♪〜〜〜〜♪》
「おぅおぅおー♪」

 そして家主である環奈はラジオを聴きながら何かを歌っていた。
 およそ客人をもてなす気など無いようだけど、無理にもてなされるよりは落ち着いて良い。

「沙羅ぁ〜、ウチはもうダメだぁ。退屈過ぎる〜」
「アンタ、いつも1人なんでしょう? 慣れてんじゃないの?」
「慣れてるけど、客人が居るのに歌うほど暇だぁあ。というわけでなんか面白い話しして」
「じゃあその前に、アンタの“面白い”を知るために趣味の話でもしましょうよ」
「作詞!」
「はい?」

 環奈が何か叫んだけど、なに?
 作詞?

「詩を書くの?」
「そーそー。ウチは詩を書くのが好き。あと歌うのもね。結構上手いよ?」
「へー、そりゃいいわ。今度“カラオケ”とやらにも行きたいから、一緒に行きましょ」
「あぁ、あの100点しか出ないやつね。ふふん、いいよん」

 どこか挑戦的な態度で環奈が了承する。
 100点の凄さは知らないけど、きっと凄いんだろう。
 歌ね、私は歌ったことすらないわ。

「沙羅の趣味は何?」
「んー、料理したり……っていうのは言ったわね。あ、ドラマをよく見るわ」
「ウチにはテレビなんて高級品はないから関係ないね」
「そうねー」

 どうやら噛み合いそうにない。
 まぁそれでも、これから何か繋がるものがあるでしょう。
 そうしてゴロゴロしながら幾つか会話を交わして時間を潰した。

 そういえば歌というと、楽器を使う瑞揶と相性が良さそうだー、なんて思ったけれど、そんな事は高校に行く時間には忘れていたのであった。







「広いっ!!!」

 到着した高校とやらの門をくぐると、広くスペースが取られ、遠くの方に6階ほどある校舎が視界いっぱいに広がった。
 広い、そしてブレザー姿の他の学生がみんな歩いていく。
 ふっふっふ、スケールは十分。
 めちゃくちゃ人がいるってことは、楽しめるわね。

「そんなに広い? ウチの通ってた中学と大差ないよ?」

 一緒に来た環奈がはてな顏で質問をぶつけてくる。
 やばい、学校に通った事がないのをバレてしまう。

「わ、私が通ってたところは田舎なのよ。ほら、従兄弟だって言ったじゃない?」
「あー、遠くから来たんだね。じゃあ広いのかな?人多いし」
「そーそー、多いし、広いわ。良いわね、ワクワクするじゃない」
「まぁなんでもいいけど、とりあえず校舎入ろうよ」
「……そうね」

 話聞く気なかったのに質問したんかいっ。
 そうツッコミを入れようにも、私を含めて知人はみんなマイペースだから気にしないのだった。
 2人で上履きに履き替え、校舎の張り紙に示された案内に従い、上の階に上がる。
 4階まで上がらせられたのは中々こたえるが、自分の入る教室探しになるとやる気がみなぎる。

「……1-1。私はここね」
「ウチは1-2だからクラス別だね」

 私は1組で環奈は2組のようだ。
 隣のクラスだし、休み時間とかに遊びに行けるわね。
 序でに言うと、瑞揶と瑛彦も1組だった。
 瑞揶が居るのは良いことね、予定や家の事をいつでも聞けるのだから。

「じゃ、また後で会おうね〜」
「そうね。また後で」

 簡単な別れを告げ、お互いにクラスの教室に入る。
 およそ40近くある机、室内では殆どの生徒が沈黙して自分の席に座していた。
 立って話す一部の生徒、その中には知人がいらっしゃる。

「あの雲、豆腐みたいでしょ?」
「瑞揶、それはちげぇ。あれはたい焼きだ」
「うん、瑛彦の目は節穴なんだね」

 教室の後ろ、窓を開けて外を見る2人はどうしようもない会話を繰り広げている。
 そのバカ2人の元に向かい、私は頭をひっぱたいた。

「いてっ。たい焼きが殴ってきた」
「誰がたい焼きよ。ハロー、瑛彦、瑞揶」
「はろ〜。僕はもう殴ってきた手の感触で沙羅だってわかったよ?」
「変態かっ!!」

 話し掛けなければよかったかもしれない。
 その後悔はもう遅く、先生が来るまでの間、3人でしょーもないトークを繰り広げるのだった。

 クラス担任の先生は女性で、数学を担当しているらしい。
 見た目が若くて、天使で、上品な口調で話す人。
 胸も大きくて瑛彦がゲヘヘと笑っていたのが気持ち悪かったのが印象的ね。

 それから間もなく体育館に行って入学式に移ったけれど、これが大して面白くなかった。
 立ってるのが面倒だし、話は面白くないし、主役である私達新入生は何も言わないじゃないの。
 代表が話してても、成績いいだけの代表が何言おうと私にとっちゃ関係ないわけで、聞き流しているといつの間にか終わっていた。

 体育館からそのまま教科書を買い、荷物は瑞揶に持たせて教室に戻る。
 明日は実力確認テストなるものをやるらしく、筆箱を用意して来いとだけ連絡して今日の授業は終わったようだ。

「……舐めてんのかぁぁああああああっ!!!!」

 叫んだ。
 屋上で私は叫んだ。
 魔人も天使も飛べるから解放されている屋上のタイルを踏みしめて、力の限り叫ぶ。
 なんて夢も希望もない入学式なの。
 これが青春のスタート!?
 初日はこんなにつまらないものなの!?

「ドラマと違うわぁぁあああ!!!」
「……沙羅っちの奴は何を叫んでんだ?」
「テレビと現実が違くてガッカリしてるんだよ。ドラマと違って楽しい音楽が流れてるでもないし、ダイジェストでもないからね〜」

 後ろの方で瑞揶と瑛彦がなんか言っている。
 彼らが何を言おうが構わないけど、これだけは言わせて欲しい。

「面白くなぁ〜いっ……」
「まぁまぁ、ウチも学校を楽しいと思った事なんて無いし、仕方ないよ。それに、まだ青春は始まってない。これから沙羅も、頑張って高校生活を謳歌しよ」
「バイト生活まっしぐらのアンタに慰められたくないわぁああ!!」

 私の背中をさすってくれる環奈の片手にはアルバイト許可証があった。
 青春をバイトで埋める女子になぜ私が励まされるの……。
 ……いや、いっその事、私もアルバイトを……。

「そーいや瑞っち、部活どうする?」

 遠くの方で瑛彦が能天気に言う。
 私はハッと目をこじ開けた。

「僕は吹奏楽部だよ〜?瑛彦はやっぱり、軽音行くんだよね?」
「おう。やっぱギターだろ。ま、瑞っちには似合わねーがな」
「えー? 僕なら1時間でなんでも弾けるようになるし、軽音でも良いんだけどね〜。ヴァイオリンダメなら行けないしなぁ……」
「……クックックック」
『??』

 私が笑うと、みんなが不思議そうに見てくる。
 気付いてしまえば簡単な事、青春を感じるには部活というものを楽しめば良いぃ!

「部活! 部活を探すわよ!! そこの下僕1号2号! 手伝いなさい!」
「……僕が1号で」
「俺が2号、か? まぁ、靴を舐めさせてくれるんなら下僕も悪くねぇが……」
「瑛彦、それは変態だよ」

 男子2人は返事とも言えぬ返事をした。
 多分、手伝ってくれるでしょう。

「部活をやるわよぉぉおおお!!!」
「……お前の従兄弟は元気だな」
「あはは……楽しくていいでしょ?」

 男子2人がそんな事を言って今日の放課後は幕を閉じた。

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