連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜

川島晴斗

第十六話

 翌日の天気はぽかぽか陽気の気持ちいい晴れで、僕と沙羅は一緒に登校した。
 朝の始めから実施された実力確認テスト、僕の結果は良く出来た、と言える。
 勉強もしてたから、それも当然かな。
 4時間に渡るテストで午前を埋め尽くした後にはお昼休みがあった。
 わざわざお昼休みがあるということは午後があるということで、なんと午後には部活動紹介があるというのだ。
 英気を養うためにも、僕達は割と人が集まっている屋上、その一角を占拠して昼食を取っていた。

「テスト、思ったより簡単だったね〜」

 藪から棒にテストの話題を瑛彦に振ってみる。
 彼は顔を顰めてため息まじりに僕の言葉を返した。

「俺はあんまり埋まんなかったぜ……」
「私は全部埋めたわ。基礎だけで面白くなかったわね」
「ウチはそこそこかな。簡単だと言う響川の御2人には勉強を教えてもらいたい」
「あはは、いつかね〜」

 テストの出来はバラバラな様で、この4人の集まりに一貫性はない。
 今更ながらに共通点が少ない気がしてならない。
 それを面白い集まりだなーと思うからここにいるんだろうけど。

「つーかよう、俺は沙羅っちが勉強できるなんて、正直思わなかったわ」
「あら、失礼ね。私は30歳までの勉強を先取りしてるのよ?」
「あれ? 魔人なの? それとも天使?」
「魔人よ。超能力は使えないけど、魔法は使えるわ」
「はーん……」

 瑛彦と沙羅のそんな会話を聞いていると、こっちが逆にドキドキした。
 人間界だと魔法は習い事であり、自習するのは危険で普通はやらない。
 習い事をするほど手をかけた娘を居候させるわけがないと、考えられるのであって――。

「ま、魔人でも美人だし、関係ねーよな」

 しかし、この瑛彦の発言に胸を撫で下ろす。
 瑛彦はバカなんだから、怪しまれるだなんて一瞬でも思った僕がバカだったようだ。

「じゃあ瑞揶も魔人だったりするの?」

 ちゃっかり僕に環奈が訊いてくる。
 僕は苦笑しながらも否定を示した。

「僕は人間だよ……。超能力は、一般的なテレキネシスなんだ〜」
「ふーん。あ、ウチ実は魔人だから」
「へ、へー」
「めっちゃ握力あるよ。620kgぐらい? 怖い?」
「ううん。襲ってこなかったら、特に怖くはないかな」
「おー、流石は親分ね。心が広いわ」
「親分はやめてよ……」

 意外な真実を晒されるも魔人だ天使だと言われようと差別する気にはならない。
 環奈はよくカラカラと笑う女の子にしか見えないから。

「というか、環奈と瑛彦は普通に一緒にいるけど、自己紹介とかしたの?」
「してない」
「してねーなー」
「……揃いも揃って能天気ね」

 してないという2人に、弁当を突く沙羅がため息まじりに呟く。
 揃いも揃って、それは僕も含んでるのかな?
 ……あまり否定はできないかなぁ。

「で、かんなぎだっけ? 俺は羽村瑛彦。人間で超能力は“電気を操る”事だ。よろしく」
「環奈、ね。ウチは千堂環奈。クラスじゃあ千堂さんって呼ばれる事が多いけど、この2人はフランクだから環奈って呼んでくれてる。よろしく〜」
「おう、よろしく。いやぁ、瑞揶の近くには可愛い子が寄るから良いよなぁ。なのに瑞揶は可愛いって感じないんだからもったいねー」
「遠回しにウチの事を口説きたいのかね、この馬鹿っぽい男は」
「……君達、もう少し遠慮してお話できないの?」

 素直に人を馬鹿にする2人に僕がそう言うも、特に効果はないのでした。
 ともかく、4人共仲良くなれて良かった。
 昼休みは時期に終わり、部活動紹介のために新入生が体育館前に集められる。

「沙羅、楽しみだね〜」
「私の眼鏡に適うものがあればいいけど、どうかしら……」
「あはは、沙羅ならなんでもできそうだけどね」
「できるできないより、青春を謳歌できるかどうかよ。汗と涙と友情のない部活には死んでも入らないわ」
「……物凄いこだわりだなぁ」

 沙羅の期待に応えられる部活がある事を願い、入場の合図と共に体育館に入った。



 生徒会他の挨拶の後、時間区切りで色々な部活が活動内容を紹介したり、パフォーマンスを披露する。
 中学生の頃にもあったし、吹奏楽部として僕も出ていたから各部の内容は大体把握していたから普通といえば普通だった。
 魔法超能力研究会とか飛行部とかがやっぱりパフォーマンスとして優秀で、音楽系の部活も目立つといえば目立ったけど、盛り上がりはそこそこだった。
 球技とか体育系は僕はダメだし、その辺は見てるだけで終わる。

 気付けば1時間強経過していて、あっさりと部活動紹介は終わってしまった。

「どう、沙羅? 何か入りたいのあった?」
「とりあえず全部入るわ。交互に行って、入らないやつを消去法で消していくわね」
「……僕達と根気が違うなぁ」

 教室に戻りながら、そんな会話を交わす。
 今更だけど、沙羅が毎日部活漬けになるなら僕は部活しないで帰宅した沙羅のために食事とか作れるようにしといた方がいいような気もする。
 別に、超能力で防音室をどこにでも作れるからヴァイオリンは弾こうと思えば弾けるし、部活しなくてもいいかな。

「根気云々は置いとくにしても、私は楽しめることなら限界まで楽しむわ。そうじゃないと、命がもったいないわよ」
「良い生き方だね〜。僕も少しは見習わないと、かな……」
「ほう? じゃあ明日から私と毎日部活しなさい」
「…………」

 …………。
 ……え?






 というわけで翌日、僕は仮入部として陸上部に来させられていた。
 連行と言ってもいいだろう。
 体操着姿でトラックの上に立たされ、隣には同様に沙羅が居る。
 ちょっと待ってほしい、走るのはいいにしても、魔人と人間じゃ脚力が――

「位置について、よ〜い――」

 そんな事は全く気に留めない先輩が旗を前に出す。
 酷い、僕の方が絶対遅いのにぃ……。

「ドンッ!!」

 旗が振り上げられ、沙羅と僕が走り出す。
 結果としては、10秒以上の差でゴールした。
 どっちが先かは言うまでもないだろう。





 翌日は漫画研究会。
 仮入部者は好きな絵を1枚描いて提出しろとのこと。
 絵なら下手でもなく上手くもないレベルだからのんびりと1枚、絵を描いた。
 お花を幾つか描いていると、ずいっと沙羅が僕の絵を覗いてくる。

「あら、意外と上手いのね」
「あはは、ありがとう。沙羅はどんな感じ?」
「ふふん、見なさい」

 机の上にA-3サイズの用紙を立てる沙羅。
 そこに描かれているのは……なんだろう。
 一筆書きで頑張ってコタツでも書いたのか。
 コタツの上にはキリンみたいなものが載っていて、横には黒く塗りつぶした塊がある。

「……これは、何?」
「題して、冬のひと時。コタツ、そして猫と暖炉。わかるでしょ?」
「え? あぁ、うん、あはは……とりあえず、漫画研究会はやめようね」





 次の日、僕達は吹奏楽部にやって来た。
 ここなら僕も本領発揮できる。
 今回は体験という事で、顧問の先生に使う楽器の説明やらを受けるということになる。
 僕に至っては説明の必要もないけど、沙羅は必要だから。
 というか――

「なんで瑛彦も居るの?」
「暇だった」

 僕の右隣に立つ瑛彦は質問に即答する。
 左隣に立つ沙羅はなんの楽器にするかを選んでいた。

「それとな、瑞っち。俺は軽音辞めたわ」
「え? なんで?」
「先輩が好かねぇ野郎だし、しかも音楽活動っつーより遊び目的の部活だったわ。入る気失せるっつーの」
「……そっか」

 瑛彦は僕の親友だけあって、音楽を利用、卑下するような輩を好かない。
 それも、昔から僕と一緒に放課後に多種多様な楽器を演奏していたから、本当に音楽が好きになっているせいでもある。
 瑛彦も吹奏楽部の方がやり易いだろうに、エレキギター弾きたいって理由で軽音に入ろうとしたんだもんね。

「……あー、瑞っちと久々にピアノ勝負でもしてぇなぁ。吹部入ろうかねぇ……」
「僕の方がまだ上手いよ。いい勝負できるアコースティックギターなら相手になるけど?」
「……今は楽器使う権利ねぇよなぁ。許可もらえたらやろうぜ」
「もちろん〜」

 嬉々として勝負を受ける。
 10年前後の経験の差を活かして負けないぞ〜。

「あ、私はこれにするわ。お願い」

 瑛彦と話しているうちに沙羅は楽器を決めたようだ。
 その銀色の棒を眼鏡をかけた女性の先生に手渡す。
 その楽器を見ると、僕は硬直した。

「――フルートなのね。貴女には似合いそうよ」
「勿論、自分に似合いそうなのを選んだつもりだもの。当然よ」

 先生と交わす彼女の会話が聞こえる。
 確かに、ブロンドの金髪をそよがせながら沙羅がフルートを吹くとすれば、それは絵になるだろう。
 だけれど僕には、あの不器用ながらも必死でフルートを吹く少女の姿が連想されてしまう……。

 目眩がする。
 体が自然と熱くなり、心臓がばくばくと鼓動が激しい。

 そんな事ではいけないんだ。
 こんな事で沙羅に規制をかけるような真似はしちゃいけない。

「……僕、ちょっとトイレに行ってくるね」
「ん? おう」

 気取られないよう瑛彦にそれだけ伝え、僕は小走りにトイレへと向かっていった。
 とてつもない気持ち悪さが身を襲い、個室に入るとお腹に入ったものを全てぶちまける。
 肩で息をしながら、ふらつく体をなんとか抑えて個室のドアにもたれかかる。

「……しんどい、なぁ……」

 少しでも前世――特に霧代の要素を見つけると心が暗くなったり、吐き気を催す。
 これにはまだちょっと、慣れるのは難しそうだ。

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