連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第八話(※)
それは次の日の事。
部活では文化祭のため、“Calm Song”の練習をスタートしてみんな疲れていた。
それでも僕は帰宅すれば夕飯の用意をするし、他の誰かがお風呂を沸かしたり、学校に行く前に干してた洗濯物を畳んだり、沙羅は普段やらない事もしてくれたりで、4人での響川家の生活も良いスタートになった。
だからだろうか。
みんなの雰囲気が朗らかなものに戻りつつあるからか、沙羅はリビングでこう言ったのだ。
「理優。アンタ能力無くしたくない?」
「――え?」
昨日と同じようにみんなでテレビを見ている中、理優の驚嘆の声がハッキリと聞こえた。
沙羅は真摯な瞳で理優を見据えている。
「前から思ってたのよ。能力の事で揉めてるなら、能力自体を無くしてしまえばいい。そこに瑞揶が居るんだから、無くしたければきっと叶えてくれる。そしたらお母さんとも仲直りできるんじゃないの?貴女のお母さんは、理優に呪いがあるから嫌なんでしょう?」
「……うん。それは、そうだけど……」
理優は言い淀んで、俯いた。
戸惑う彼女の様子に、沙羅は首を傾げる。
「……何を戸惑うことがあるの? 嫌じゃない? 人を呪う力なんて」
「そうだけど……この力を無くしたら、私は今まで――」
――苦しんできた意味が、なくなっちゃう。
理優の言葉がぬめりとした鉛のように、僕の胸に降りてきた。
苦しんで……そう、彼女は苦しんできた。
この能力があるから友達を作らず、母親から暴力を受けてきた。
彼女は幾度となく、この能力が無ければと思ったはず。
何度も嘆いて、能力がある事を恨んだはずだ。
だけど、無ければ無いで、自分の傷ついてきた理由がなくなって、それでスッキリできるわけかない。
能力がなくなっても、過去は変わらない。
能力が無くなったら、理優は葛藤に追われるはずだ。
私はなんで、暴力を振るわれなきゃいけなかったの、って。
原因だけを取っ払っても、ダメなんだ。
俯く理優が僕に重なって見える。
僕は、霧代が僕を許していようといなかろうと、自戒のために自傷行為をしただろう。
今はできる環境ではないけど――あの行為を繰り返した過去は変わらない。
そこに、急に目の前に霧代が現れて、怒ってないと言われれば、どうだろう――。
いや、多分僕なら勝手にやったことだから何も言わない。
けど、理優は――。
殴られたくなんかなかったはずだ。
痛いのだけはどんな人間でも絶対に嫌なはずなんだ。
なのに自分の怒りの矛先である能力を失えば――行き場のない怒りは、彼女の中で爆発するだろう。
「……理優。僕は理優の能力は、消したくない」
ポツリと僕は呟いた。
僕の言葉はすぐに理優まで伝わって、顔を上げた彼女は淡い笑顔を浮かべた。
――ガタン
だが、僕の隣に座る沙羅は立ち上がり、冷たい視線で僕を見下した。
沙羅にこんな目を向けられたのは、初めてだ。
「……瑞揶、アンタ何言ってるの?」
「……僕は、取らない方がいいと思っただけだよ。理優は能力が嫌いで、なくなればいいと思ってるかもしれない。だけど、それで大団円になるかどうかはわからないし、なにより、理優の今まで冷遇にあった理由を、なんの見返りもなしに取り上げるのは、ダメなんだ……」
「それで人をまた傷付けるかもしれない能力をむざむざ残しておくというの? 少なくともこの先の理優の人生では確実に不要なものじゃない」
「――例え話にするよ。罪人が1年間牢に入れられて、突然無罪が証明されたらどうするの? 賠償を要求するはずだ。見返りが必要なんだ。それは誰に? 理優のお母さんに行くはず。だけど、理優はお母さんに立ち向かえるほど強くないし、お母さんの方だって傷付いてて許せなくて――」
「じゃあ何も変えなくていいっていうの!?」
怒声のような反論を沙羅はしてきた。
彼女の足がテーブルにぶつかり、乗っていたグラスが落ちる。
割れた衝撃音が響くも、僕は気にも留めずに沙羅を凝視した。
「今の状態を維持して、その先に何があるのよ! ずっと住まわせたってそりゃ私達は構わない。だけど、もやもやするてしょ! 嫌なのよ、そういうの!」
「そんなの沙羅の都合じゃないか! 強要し過ぎなんだよ! 瑛彦だって理由もよくわからないのにうちにこさせて!」
「なんですって!!?」
「おいやめろよ二人とも!!!」
いがみ合う僕達に瑛彦が割って入る。
沙羅はキッと僕を睨んで踵を返し、
「瑞揶がそんな人だとは思わなかったわ」
ありがちなセリフを1つ残し、リビングから姿を消した。
その言葉の意味がイコール嫌いになったと理解すると、僕は途端に冷静になる。
クリアーな思考の中、目の前に居た瑛彦だけが目に入った。
「……瑛彦、ごめん」
「いいよ。理優っちもそんな泣きそうな顔すんな。2人は理優っちのためを思って言ってたんだかんな」
「だっ、だって……私のせいで、2人が仲違いしたら……!」
理優が目元に涙を浮かべて、震えていた。
僕たちが理優の事を考えているように、理優も僕たちの事を考えてくれている。
知らぬうちに、彼女を追い詰めてしまったのかもしれない。
「……理優、大丈夫だよ」
慰めるように、僕は理優の肩にポンと手を置いた。
顔を上げる彼女に、僕は笑いかけて言う。
「――家族の絆は、こんな事じゃ切れたりしないから」
「瑞揶くん……」
「今回の事は、理優の家族の事でしょ? だから沙羅も、あそこまで熱をいれてるんだと思う。少なくとも、僕は沙羅を嫌いになってないし、沙羅は……」
――瑞揶がそんな人だとは思わなかったわ
「……わかんないや」
少しだけ不安が篭る。
でも、きっと大丈夫だよね――。
◇
「あぁ~っ……ほんっと最低……」
部屋に1人で閉じこもり、ベッドに顔をうずめて私は独り言を話す。
最低、それを誰に言ったかといえば自分に向けてである。
あの瑞揶に向けて、そんな人だと思わなかった?
綺麗に頭の中を整理して考えてみると、アイツの発言は全部理優のためのものだったし、私情を入り込んだ私の方が非難されたって仕方ないとは思う。
なのに私は瑞揶に酷い事を言って、たぶん心に傷を負わせた。
瑞揶はかなり心が弱いから、私の言葉一つでかなりへこむはずだ。
今更ながら、なんて事を言ってしまったのだと後悔する。
「……謝るなら今、なのかしら」
謝るのは早い方がいい。
明日になって瑞揶に「沙羅なんて嫌い。もう知らない」なんて言われでもしたら私の方が立ち直れないだろう。
私にとって、瑞揶以上に大切な存在は、今現在存在しないのだから。
「でもなぁ……」
今リビングに行けば、まだみんな居るだろう。
瑞揶には私が謝ることは稀にあるからいいが、理優や瑛彦に自分に非があるところは見せたくない。
いや、それこそ自分の都合だけど……でも、今の空気で戻るなんて笑い者でしかない。
明日、明日の朝謝ろう。
そう心に決めて、私は眠った。
◇
僕は、眠りについたはずだった。
もしも沙羅が僕の顔も見たくないとか言い出したらどうしようと、不安が徐々に募って現実から逃げるように寝たはずだ。
だけど起きたら、異様に暖かい場所にいた。
目を開けるとそこは色とりどりのハートが大小関係なく至る所に浮いていて、まるで人の心を観測でもしているような空間。
僕が起きたからなのか、手前に1つ、僕の肩幅ぐらいのオレンジ色のハートが降りてくる。
両手でそっとキャッチすると、ハートは消えてしまう。
「……あれ?」
何が起きたのかわからず、自分の身の回りを見渡すが、何も変わっていない。
あたり一面に広がるハートはほわほわと浮いていて、この空間には僕以外の存在も見受けられなかった。
「――オレンジは落ち着きの心。喧嘩した貴方の心を落ち着かせるもの」
誰も居ないと思った。
その刹那に聞こえた声は幼児が発するような高音で、女の子のものだった。
「……誰? どこにいるの?」
「後ろっ」
「わっ!?」
すぐ後ろから声が聞こえたと思えば、腰もとに衝撃を感じる。
体を捻って後ろを見ると、そこには僕の腰もとより少し大きいだけの背丈をした少女がいた。
身長は120cmぐらいか、小学生みたいだ。
目鼻立ちは僕にそっくりで、しかし髪と瞳は薄い桃色だった。
髪型は僕が女装した時のように、ストレートになっていて緑に光る冠が頭に載っていた。
服は沙羅と同じようなピンク色の和服姿だけど、羽織りを着ているのと、羽衣が5重でどれもハートの形を成している。
<a href="//12250.mitemin.net/i168869/" target="_blank"><img src="//12250.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i168869/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
姿形から言えば、魔人なのだろうか?
魔人なら着物の理由も頷けるから。
だけど、僕に抱きついている少女の腕の力は魔人のそれではなく、弱々しい人間のものだった。
「……あ〜っ、こうして会ってみたかったんだよね〜っ」
感嘆し、僕の背にすりすりと頬を付ける少女。
会ってみたかった?
僕と彼女は、面識があるだろうか?
「あの、君は……?」
「あっ、ごめん。まだ名乗ってもないし、私の事わかんないよね?」
そう言って少女は抱きつくのをやめ、くるりと回りながら僕の前に立つ。
「初めまして、私の後世の後世。私は愛。瑞揶くんの体の中に住まわせてもらってる、君の大元の存在だよっ」
少女――愛ちゃんはにこやかに笑い、そう告げた。
部活では文化祭のため、“Calm Song”の練習をスタートしてみんな疲れていた。
それでも僕は帰宅すれば夕飯の用意をするし、他の誰かがお風呂を沸かしたり、学校に行く前に干してた洗濯物を畳んだり、沙羅は普段やらない事もしてくれたりで、4人での響川家の生活も良いスタートになった。
だからだろうか。
みんなの雰囲気が朗らかなものに戻りつつあるからか、沙羅はリビングでこう言ったのだ。
「理優。アンタ能力無くしたくない?」
「――え?」
昨日と同じようにみんなでテレビを見ている中、理優の驚嘆の声がハッキリと聞こえた。
沙羅は真摯な瞳で理優を見据えている。
「前から思ってたのよ。能力の事で揉めてるなら、能力自体を無くしてしまえばいい。そこに瑞揶が居るんだから、無くしたければきっと叶えてくれる。そしたらお母さんとも仲直りできるんじゃないの?貴女のお母さんは、理優に呪いがあるから嫌なんでしょう?」
「……うん。それは、そうだけど……」
理優は言い淀んで、俯いた。
戸惑う彼女の様子に、沙羅は首を傾げる。
「……何を戸惑うことがあるの? 嫌じゃない? 人を呪う力なんて」
「そうだけど……この力を無くしたら、私は今まで――」
――苦しんできた意味が、なくなっちゃう。
理優の言葉がぬめりとした鉛のように、僕の胸に降りてきた。
苦しんで……そう、彼女は苦しんできた。
この能力があるから友達を作らず、母親から暴力を受けてきた。
彼女は幾度となく、この能力が無ければと思ったはず。
何度も嘆いて、能力がある事を恨んだはずだ。
だけど、無ければ無いで、自分の傷ついてきた理由がなくなって、それでスッキリできるわけかない。
能力がなくなっても、過去は変わらない。
能力が無くなったら、理優は葛藤に追われるはずだ。
私はなんで、暴力を振るわれなきゃいけなかったの、って。
原因だけを取っ払っても、ダメなんだ。
俯く理優が僕に重なって見える。
僕は、霧代が僕を許していようといなかろうと、自戒のために自傷行為をしただろう。
今はできる環境ではないけど――あの行為を繰り返した過去は変わらない。
そこに、急に目の前に霧代が現れて、怒ってないと言われれば、どうだろう――。
いや、多分僕なら勝手にやったことだから何も言わない。
けど、理優は――。
殴られたくなんかなかったはずだ。
痛いのだけはどんな人間でも絶対に嫌なはずなんだ。
なのに自分の怒りの矛先である能力を失えば――行き場のない怒りは、彼女の中で爆発するだろう。
「……理優。僕は理優の能力は、消したくない」
ポツリと僕は呟いた。
僕の言葉はすぐに理優まで伝わって、顔を上げた彼女は淡い笑顔を浮かべた。
――ガタン
だが、僕の隣に座る沙羅は立ち上がり、冷たい視線で僕を見下した。
沙羅にこんな目を向けられたのは、初めてだ。
「……瑞揶、アンタ何言ってるの?」
「……僕は、取らない方がいいと思っただけだよ。理優は能力が嫌いで、なくなればいいと思ってるかもしれない。だけど、それで大団円になるかどうかはわからないし、なにより、理優の今まで冷遇にあった理由を、なんの見返りもなしに取り上げるのは、ダメなんだ……」
「それで人をまた傷付けるかもしれない能力をむざむざ残しておくというの? 少なくともこの先の理優の人生では確実に不要なものじゃない」
「――例え話にするよ。罪人が1年間牢に入れられて、突然無罪が証明されたらどうするの? 賠償を要求するはずだ。見返りが必要なんだ。それは誰に? 理優のお母さんに行くはず。だけど、理優はお母さんに立ち向かえるほど強くないし、お母さんの方だって傷付いてて許せなくて――」
「じゃあ何も変えなくていいっていうの!?」
怒声のような反論を沙羅はしてきた。
彼女の足がテーブルにぶつかり、乗っていたグラスが落ちる。
割れた衝撃音が響くも、僕は気にも留めずに沙羅を凝視した。
「今の状態を維持して、その先に何があるのよ! ずっと住まわせたってそりゃ私達は構わない。だけど、もやもやするてしょ! 嫌なのよ、そういうの!」
「そんなの沙羅の都合じゃないか! 強要し過ぎなんだよ! 瑛彦だって理由もよくわからないのにうちにこさせて!」
「なんですって!!?」
「おいやめろよ二人とも!!!」
いがみ合う僕達に瑛彦が割って入る。
沙羅はキッと僕を睨んで踵を返し、
「瑞揶がそんな人だとは思わなかったわ」
ありがちなセリフを1つ残し、リビングから姿を消した。
その言葉の意味がイコール嫌いになったと理解すると、僕は途端に冷静になる。
クリアーな思考の中、目の前に居た瑛彦だけが目に入った。
「……瑛彦、ごめん」
「いいよ。理優っちもそんな泣きそうな顔すんな。2人は理優っちのためを思って言ってたんだかんな」
「だっ、だって……私のせいで、2人が仲違いしたら……!」
理優が目元に涙を浮かべて、震えていた。
僕たちが理優の事を考えているように、理優も僕たちの事を考えてくれている。
知らぬうちに、彼女を追い詰めてしまったのかもしれない。
「……理優、大丈夫だよ」
慰めるように、僕は理優の肩にポンと手を置いた。
顔を上げる彼女に、僕は笑いかけて言う。
「――家族の絆は、こんな事じゃ切れたりしないから」
「瑞揶くん……」
「今回の事は、理優の家族の事でしょ? だから沙羅も、あそこまで熱をいれてるんだと思う。少なくとも、僕は沙羅を嫌いになってないし、沙羅は……」
――瑞揶がそんな人だとは思わなかったわ
「……わかんないや」
少しだけ不安が篭る。
でも、きっと大丈夫だよね――。
◇
「あぁ~っ……ほんっと最低……」
部屋に1人で閉じこもり、ベッドに顔をうずめて私は独り言を話す。
最低、それを誰に言ったかといえば自分に向けてである。
あの瑞揶に向けて、そんな人だと思わなかった?
綺麗に頭の中を整理して考えてみると、アイツの発言は全部理優のためのものだったし、私情を入り込んだ私の方が非難されたって仕方ないとは思う。
なのに私は瑞揶に酷い事を言って、たぶん心に傷を負わせた。
瑞揶はかなり心が弱いから、私の言葉一つでかなりへこむはずだ。
今更ながら、なんて事を言ってしまったのだと後悔する。
「……謝るなら今、なのかしら」
謝るのは早い方がいい。
明日になって瑞揶に「沙羅なんて嫌い。もう知らない」なんて言われでもしたら私の方が立ち直れないだろう。
私にとって、瑞揶以上に大切な存在は、今現在存在しないのだから。
「でもなぁ……」
今リビングに行けば、まだみんな居るだろう。
瑞揶には私が謝ることは稀にあるからいいが、理優や瑛彦に自分に非があるところは見せたくない。
いや、それこそ自分の都合だけど……でも、今の空気で戻るなんて笑い者でしかない。
明日、明日の朝謝ろう。
そう心に決めて、私は眠った。
◇
僕は、眠りについたはずだった。
もしも沙羅が僕の顔も見たくないとか言い出したらどうしようと、不安が徐々に募って現実から逃げるように寝たはずだ。
だけど起きたら、異様に暖かい場所にいた。
目を開けるとそこは色とりどりのハートが大小関係なく至る所に浮いていて、まるで人の心を観測でもしているような空間。
僕が起きたからなのか、手前に1つ、僕の肩幅ぐらいのオレンジ色のハートが降りてくる。
両手でそっとキャッチすると、ハートは消えてしまう。
「……あれ?」
何が起きたのかわからず、自分の身の回りを見渡すが、何も変わっていない。
あたり一面に広がるハートはほわほわと浮いていて、この空間には僕以外の存在も見受けられなかった。
「――オレンジは落ち着きの心。喧嘩した貴方の心を落ち着かせるもの」
誰も居ないと思った。
その刹那に聞こえた声は幼児が発するような高音で、女の子のものだった。
「……誰? どこにいるの?」
「後ろっ」
「わっ!?」
すぐ後ろから声が聞こえたと思えば、腰もとに衝撃を感じる。
体を捻って後ろを見ると、そこには僕の腰もとより少し大きいだけの背丈をした少女がいた。
身長は120cmぐらいか、小学生みたいだ。
目鼻立ちは僕にそっくりで、しかし髪と瞳は薄い桃色だった。
髪型は僕が女装した時のように、ストレートになっていて緑に光る冠が頭に載っていた。
服は沙羅と同じようなピンク色の和服姿だけど、羽織りを着ているのと、羽衣が5重でどれもハートの形を成している。
<a href="//12250.mitemin.net/i168869/" target="_blank"><img src="//12250.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i168869/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
姿形から言えば、魔人なのだろうか?
魔人なら着物の理由も頷けるから。
だけど、僕に抱きついている少女の腕の力は魔人のそれではなく、弱々しい人間のものだった。
「……あ〜っ、こうして会ってみたかったんだよね〜っ」
感嘆し、僕の背にすりすりと頬を付ける少女。
会ってみたかった?
僕と彼女は、面識があるだろうか?
「あの、君は……?」
「あっ、ごめん。まだ名乗ってもないし、私の事わかんないよね?」
そう言って少女は抱きつくのをやめ、くるりと回りながら僕の前に立つ。
「初めまして、私の後世の後世。私は愛。瑞揶くんの体の中に住まわせてもらってる、君の大元の存在だよっ」
少女――愛ちゃんはにこやかに笑い、そう告げた。
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