連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第七話
葉優さんはおそらく退院の手続きをしている頃だろうと思い、こっそりと転移で理優の荷物を取りに行った。
荷物がないと、学校とかも行けないしね。
「直れ〜っ、直れ〜っ」
「……わーっ」
家に帰って理優のアコーディオンを直す。
直れと念じたら勝手に直り始めた。
とは言っても、外側が壊れてるのは布が破れてるぐらいで、直す大部分は中身だから見てもわかんないんだけど。
10秒立たずで直ったのが伝わり、理優にその旨を告げる。
「直ったーっ」
「ありがとうね、瑞揶くんっ」
「どういたしまして〜っ」
理優がリビングのフローリングに置かれたアコーディオンを抱きしめる。
思い入れあるよねぇ……。
僕も楽器壊れたら悲しいし、一奏者として楽器を思いやる理優を見ていて嬉しい気持ちになる。
「1日3食瑞揶メシと申すか。理優盛りか沙羅盛りなら、俺は喜んで頂くんだがなぁ……」
「アンタそろそろ冗談抜きに殺すわよ?」
ソファーの方からは沙羅と、さっき来た瑛彦がそんな会話をしていた。
瑛彦がいたいけな少女達に良からぬことをする妄想をしているけど、たぶん事を行った後は沙羅になぶり殺しにされるか、理優に呪い殺されるかのどっちかなんだよね。
どうせ妄想で終わるから何も言わないけど。
「つーかなんで俺が呼ばれてんの?」
「……瑞揶が、たまには泊まりにおいで〜、って。理優も泊まるから」
「なんだ、そういう事か。瑞っちには俺が付いてねーとダメだかんなぁ〜、本当によ〜」
「…………」
でっち上げられた理由なんだけど、それを聞いて瑛彦は満足そうに笑い、頭を掻いていた。
僕も瑛彦を呼んだ本当の理由は知らないし、なんなんだろう?
わざわざ隠すってことは教えてくれないんだろうから聞かないけどね。
4人になって、少し騒がしくなった響川家。
理優も少しずつ以前見せてくれた笑みを見せるようになったから、住まわせるようにしたのは正解だったんだろう。
そう思い込むことにして、もう日も暮れたことだし、僕は夕飯の支度にとりかかるのだった。
◇
1日のする事を終えて、みんな揃ってソファーに座ってテレビを見ている。
座る順としては男2人が端っこで、僕の隣には沙羅がいる。
この順だと沙羅が瑛彦を叩けないため、両者口を噤んでいた。
それでもテレビは騒がしいバラエティー番組がやっていて、4人で笑う事もしばしば。
笑い合うというのに、あまりにも会話が無くてどことなく気持ち悪い。
やっぱりみんな、空気の重さを少なからず気にしてるのか、それとも瑛彦が何かしでかさないか待っているのか。
後者なら良いけど、十中八九前者だろう。
時計の指針はちょうど10時を回ろうとしており、僕はそろそろ寝ようと立ち上がる。
「僕はもう寝るから、あとはよろしくね。ガスは切ってあるから」
「……待って、瑞揶」
「……ん?」
言うことだけ言ってそのままリビングを出ようとするも、沙羅に呼び止められる。
既にパジャマに着替えてある彼女も立ち上がり、僕の背中を優しく叩いた。
「少し、相談があるの。部屋に行かせて」
「……はーい。じゃ、2人ともまた明日〜っ」
部屋に残る2人に挨拶し沙羅に押され出る形でリビングを後にする。
リビングで話さず、僕にだけ持ちかける話。
瑛彦と理優に言わないというなら、それはきっと、理優の話だろう。
彼女は無言のまま僕の部屋の前まで付いてきて、2人で部屋に入った。
「ふっ……!」
電気を付けると、沙羅がすぐにベッドへと跳躍した。
入り口からベッドまで3mはあるのに、軽々飛んでベッドにその体を埋め、反動で数回バウンドしていた。
「……はぁ」
そしてふかふか具合に満足したのか、目を閉じて掛け布団をグシャグシャにして抱きしめる。
……何しに来たんだろう?
「沙羅、どうしたの?」
「……疲れたから、休みに来たの。最近いろいろありすぎじゃない?」
「……そうだねーっ」
夏休みも瀬羅の事で少し揉めたし、9月に入ってからはすぐに理優の事で、身の周りに変化があり過ぎる。
いつもテレビばかり見てる沙羅も、気苦労してるのだろう。
「……ねぇ、瑞揶。アンタ、瀬羅に私に抱きつくよう頼んだでしょ」
「…………そんなことはないのです」
「間が長い。アホか。……って、それはいいのよ。私としてもありがたい話だったわけだしね」
「……そっかそっか。ならよかったっ」
どうしてその情報が漏れてるのかといえば瀬羅が漏らしたんだろうけど、喜んでくれてるようならそれでよかった。
「……んで、今は瀬羅がいないんだけど?」
「……だけど?」
「……代理」
「…………」
どうやら、僕に抱きつけということらしかった。
僕としては構わないんだけど、家族だからって異性に抱きつくのはどうなんだろう。
僕も感極まったり泣きそうな時は見境なく抱きつくけど、そうじゃないし……。
「あのね、沙羅? あんまり、やたらめったらハグを求めるのはよくないと思うよ?」
「……ダメなの?」
「一応、異性だからね。求めるなら理優にしてよ」
「……理優はどっちかっていうと、抱きつく側じゃない? 私から抱きついたら変よ」
「確かに、そうだけどなぁ……」
というと、他に思い当たる仲の良い女性はレリと環奈。
……どっちも、沙羅が抱きついてきたらビックリするだろうなぁ。
レリとかは面白がりそうなだけだしね。
「……それに、私は瑞揶がいいのよ」
「えーっ? なんで〜?」
「姉さんに抱きつかれるのも落ち着けるんだけど、瑞揶の方が、なんかこう……あー、凄い言い表し難いわ」
「……?」
沙羅がベッドの上でうねり、僕の枕に頭を擦り付ける。
弱い自分を見せてるのが恥ずかしいのか、少し頬が朱に染まっていた。
それからうんうんと唸って、疲れたのか動かなくなる。
声をかけようかと思ったら次の瞬間には起き上がり、どっちなんだと言いたくなった。
「……とにかく、私を抱きしめなさいよ。甘えろって言ってたの瑞揶じゃない」
「それ沙羅もだよ……まぁ、わかった。沙羅はいつも頑張ってくれてるしね」
僕は諦めたようにため息を吐き、沙羅に近付いてそっと抱きしめた。
頭一つ分小さい彼女の体は僕の腕にすっぽりと収まる。
「……いつもありがと、沙羅」
思わず、感謝の言葉が僕の口から漏れる。
こういう風に、近くに居るといつも言えない言葉って出てくるもんだと思った。
「……いいのよ。私は瑞揶にお世話になってるもの」
そう言って彼女は僕の体を抱き返してくる。
力加減が上手いのか、僕の背中を掴む力は驚くほど弱くて、それこそいたいけな少女のようだった。
「……気にしなくていいのに。というか、いつも気にしてないように見えるし」
「うるさい。アンタがなんでもできるのが悪いのよ。家事全般、私より得意ってどういう事よ」
「10年ぐらい一人暮らしだもん……上達もするよ」
「……もう、2人暮らしよ」
「……うん」
僕は抱きしめる腕に力を込めた。
もう出会って5ヶ月。
一緒に暮らし、家族としてお互いにいろいろと強みも弱みも知っている仲になった。
何よりも、やっぱり人肌が近くにあることが、1人だった頃の寂しさを紛らわせてくれる。
だから沙羅じゃなくてもいいってわけじゃないけど、こうして一緒に居てくれるのには感謝しなくちゃいけない気がした。
「……こういうの、なんていうのかな?」
「知ってたら私が言ってるわよ……」
「……家族愛さいこー?」
「……それかもしれないわね」
「わーいっ……あははっ」
はにかんで思いっきり抱きしめる。
どこか、懐かしい気分だった。
人を抱きしめて、優しい気持ちになって、自分の胸の鼓動しか聴こえない。
なんだっただろう、この気分を味わった時は――。
「……ぐぅ……」
「……ん? ……あ」
腕の中で小さな呻き声がした、と思ったら沙羅が寝ていた。
こんな事は2回目だなと思いつつ、今度はパジャマに腕を回されてて動けず、僕は苦笑した。
「……こんな所見られたら、いろいろ勘違いされそうだなぁ」
そうはいっても、沙羅とは家族関係だから疑うのは瑛彦とかナエトぐらいだろうが、瑛彦は僕が女の人と付き合ったりしないの知ってるし、勘違いすることもないだろう。
「……仕方ないなぁ」
僕はそのまま沙羅を抱え、彼女の部屋にそそくさと向かって沙羅を彼女のベッドに下ろした。
掴まれていたけど、超能力ですり抜けて離脱し、事なきを得るのだった。
荷物がないと、学校とかも行けないしね。
「直れ〜っ、直れ〜っ」
「……わーっ」
家に帰って理優のアコーディオンを直す。
直れと念じたら勝手に直り始めた。
とは言っても、外側が壊れてるのは布が破れてるぐらいで、直す大部分は中身だから見てもわかんないんだけど。
10秒立たずで直ったのが伝わり、理優にその旨を告げる。
「直ったーっ」
「ありがとうね、瑞揶くんっ」
「どういたしまして〜っ」
理優がリビングのフローリングに置かれたアコーディオンを抱きしめる。
思い入れあるよねぇ……。
僕も楽器壊れたら悲しいし、一奏者として楽器を思いやる理優を見ていて嬉しい気持ちになる。
「1日3食瑞揶メシと申すか。理優盛りか沙羅盛りなら、俺は喜んで頂くんだがなぁ……」
「アンタそろそろ冗談抜きに殺すわよ?」
ソファーの方からは沙羅と、さっき来た瑛彦がそんな会話をしていた。
瑛彦がいたいけな少女達に良からぬことをする妄想をしているけど、たぶん事を行った後は沙羅になぶり殺しにされるか、理優に呪い殺されるかのどっちかなんだよね。
どうせ妄想で終わるから何も言わないけど。
「つーかなんで俺が呼ばれてんの?」
「……瑞揶が、たまには泊まりにおいで〜、って。理優も泊まるから」
「なんだ、そういう事か。瑞っちには俺が付いてねーとダメだかんなぁ〜、本当によ〜」
「…………」
でっち上げられた理由なんだけど、それを聞いて瑛彦は満足そうに笑い、頭を掻いていた。
僕も瑛彦を呼んだ本当の理由は知らないし、なんなんだろう?
わざわざ隠すってことは教えてくれないんだろうから聞かないけどね。
4人になって、少し騒がしくなった響川家。
理優も少しずつ以前見せてくれた笑みを見せるようになったから、住まわせるようにしたのは正解だったんだろう。
そう思い込むことにして、もう日も暮れたことだし、僕は夕飯の支度にとりかかるのだった。
◇
1日のする事を終えて、みんな揃ってソファーに座ってテレビを見ている。
座る順としては男2人が端っこで、僕の隣には沙羅がいる。
この順だと沙羅が瑛彦を叩けないため、両者口を噤んでいた。
それでもテレビは騒がしいバラエティー番組がやっていて、4人で笑う事もしばしば。
笑い合うというのに、あまりにも会話が無くてどことなく気持ち悪い。
やっぱりみんな、空気の重さを少なからず気にしてるのか、それとも瑛彦が何かしでかさないか待っているのか。
後者なら良いけど、十中八九前者だろう。
時計の指針はちょうど10時を回ろうとしており、僕はそろそろ寝ようと立ち上がる。
「僕はもう寝るから、あとはよろしくね。ガスは切ってあるから」
「……待って、瑞揶」
「……ん?」
言うことだけ言ってそのままリビングを出ようとするも、沙羅に呼び止められる。
既にパジャマに着替えてある彼女も立ち上がり、僕の背中を優しく叩いた。
「少し、相談があるの。部屋に行かせて」
「……はーい。じゃ、2人ともまた明日〜っ」
部屋に残る2人に挨拶し沙羅に押され出る形でリビングを後にする。
リビングで話さず、僕にだけ持ちかける話。
瑛彦と理優に言わないというなら、それはきっと、理優の話だろう。
彼女は無言のまま僕の部屋の前まで付いてきて、2人で部屋に入った。
「ふっ……!」
電気を付けると、沙羅がすぐにベッドへと跳躍した。
入り口からベッドまで3mはあるのに、軽々飛んでベッドにその体を埋め、反動で数回バウンドしていた。
「……はぁ」
そしてふかふか具合に満足したのか、目を閉じて掛け布団をグシャグシャにして抱きしめる。
……何しに来たんだろう?
「沙羅、どうしたの?」
「……疲れたから、休みに来たの。最近いろいろありすぎじゃない?」
「……そうだねーっ」
夏休みも瀬羅の事で少し揉めたし、9月に入ってからはすぐに理優の事で、身の周りに変化があり過ぎる。
いつもテレビばかり見てる沙羅も、気苦労してるのだろう。
「……ねぇ、瑞揶。アンタ、瀬羅に私に抱きつくよう頼んだでしょ」
「…………そんなことはないのです」
「間が長い。アホか。……って、それはいいのよ。私としてもありがたい話だったわけだしね」
「……そっかそっか。ならよかったっ」
どうしてその情報が漏れてるのかといえば瀬羅が漏らしたんだろうけど、喜んでくれてるようならそれでよかった。
「……んで、今は瀬羅がいないんだけど?」
「……だけど?」
「……代理」
「…………」
どうやら、僕に抱きつけということらしかった。
僕としては構わないんだけど、家族だからって異性に抱きつくのはどうなんだろう。
僕も感極まったり泣きそうな時は見境なく抱きつくけど、そうじゃないし……。
「あのね、沙羅? あんまり、やたらめったらハグを求めるのはよくないと思うよ?」
「……ダメなの?」
「一応、異性だからね。求めるなら理優にしてよ」
「……理優はどっちかっていうと、抱きつく側じゃない? 私から抱きついたら変よ」
「確かに、そうだけどなぁ……」
というと、他に思い当たる仲の良い女性はレリと環奈。
……どっちも、沙羅が抱きついてきたらビックリするだろうなぁ。
レリとかは面白がりそうなだけだしね。
「……それに、私は瑞揶がいいのよ」
「えーっ? なんで〜?」
「姉さんに抱きつかれるのも落ち着けるんだけど、瑞揶の方が、なんかこう……あー、凄い言い表し難いわ」
「……?」
沙羅がベッドの上でうねり、僕の枕に頭を擦り付ける。
弱い自分を見せてるのが恥ずかしいのか、少し頬が朱に染まっていた。
それからうんうんと唸って、疲れたのか動かなくなる。
声をかけようかと思ったら次の瞬間には起き上がり、どっちなんだと言いたくなった。
「……とにかく、私を抱きしめなさいよ。甘えろって言ってたの瑞揶じゃない」
「それ沙羅もだよ……まぁ、わかった。沙羅はいつも頑張ってくれてるしね」
僕は諦めたようにため息を吐き、沙羅に近付いてそっと抱きしめた。
頭一つ分小さい彼女の体は僕の腕にすっぽりと収まる。
「……いつもありがと、沙羅」
思わず、感謝の言葉が僕の口から漏れる。
こういう風に、近くに居るといつも言えない言葉って出てくるもんだと思った。
「……いいのよ。私は瑞揶にお世話になってるもの」
そう言って彼女は僕の体を抱き返してくる。
力加減が上手いのか、僕の背中を掴む力は驚くほど弱くて、それこそいたいけな少女のようだった。
「……気にしなくていいのに。というか、いつも気にしてないように見えるし」
「うるさい。アンタがなんでもできるのが悪いのよ。家事全般、私より得意ってどういう事よ」
「10年ぐらい一人暮らしだもん……上達もするよ」
「……もう、2人暮らしよ」
「……うん」
僕は抱きしめる腕に力を込めた。
もう出会って5ヶ月。
一緒に暮らし、家族としてお互いにいろいろと強みも弱みも知っている仲になった。
何よりも、やっぱり人肌が近くにあることが、1人だった頃の寂しさを紛らわせてくれる。
だから沙羅じゃなくてもいいってわけじゃないけど、こうして一緒に居てくれるのには感謝しなくちゃいけない気がした。
「……こういうの、なんていうのかな?」
「知ってたら私が言ってるわよ……」
「……家族愛さいこー?」
「……それかもしれないわね」
「わーいっ……あははっ」
はにかんで思いっきり抱きしめる。
どこか、懐かしい気分だった。
人を抱きしめて、優しい気持ちになって、自分の胸の鼓動しか聴こえない。
なんだっただろう、この気分を味わった時は――。
「……ぐぅ……」
「……ん? ……あ」
腕の中で小さな呻き声がした、と思ったら沙羅が寝ていた。
こんな事は2回目だなと思いつつ、今度はパジャマに腕を回されてて動けず、僕は苦笑した。
「……こんな所見られたら、いろいろ勘違いされそうだなぁ」
そうはいっても、沙羅とは家族関係だから疑うのは瑛彦とかナエトぐらいだろうが、瑛彦は僕が女の人と付き合ったりしないの知ってるし、勘違いすることもないだろう。
「……仕方ないなぁ」
僕はそのまま沙羅を抱え、彼女の部屋にそそくさと向かって沙羅を彼女のベッドに下ろした。
掴まれていたけど、超能力ですり抜けて離脱し、事なきを得るのだった。
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