連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜

川島晴斗

第16話

 こんにちは、響川沙綾です!!
 今回はお父さんとお母さんの様子をぐぐっとレポートしたいと思います!
 お父さんが5時半に起きるそうだから、その時間からレポート開始なのですぅう!!!



「ふにゅん、ふにゅん……」

 そして早朝5時半に起きました。
 いつもお父さんの部屋で2人で寝てるけど、お父さんはこんな時間から起きてるんですにゃー。
 ちなみに、お母さんと寝ると蹴り落とされるのであまり好きじゃないです。

 それはさておき、ささっと1階に降りて様子見です。
 あっ、洗面所から出てきました。
 エプロンも装着していて、これから朝ごはんを作るのかな?
 その前に、洗面所を確認ですっ。

 お父さんがリビングに入ったのを機に洗面所へ潜入しました。
 すると、全自動洗濯機がグルグルと回転しています。
 おおおっ、お洗濯……。

「朝からいっぱいやるんですにゃー……」

 それだけ確認すると廊下に出て、リビングの入り口から台所の様子を伺う。
 じゃがいもの皮を包丁でススーッと剥いていて、裸のじゃがいもがボウルの中に次々と放りこまれる。
 ふむふむ、今日の献立は……肉じゃが?
 いやいや、お父さんが朝から肉じゃがなんて作りませんにゃー……。
 じゃあなんだろう? シチューでしょうか?
 むむーっ、わかりません。

「お父さーんっ」

 正解を聞くため、お父さんに声を掛ける。
 お父さんは包丁を手元から離し、くるっとこっちを向いてくれた。

「え? ……わわっ、沙綾。早起きだね」
「何作ってるの〜?」
「まだ何も作ってないけど、このじゃがいもさんでポテトサラダとお味噌汁作ろうかなって……」
「ほほー」

 ポテトサラダは美味しいから好き〜。
 これは朝から嬉しいことが……!

「ところで、どうしてこんなに早起きなの〜?」
「お父さんとお母さんの事が知りたくて……」
「そういう宿題? あはは、密着取材どーぞっ」
「えへへ、わ〜いっ♪」

 宿題じゃないけど、お父さん独り占めですっ。
 後ろから抱きついてホワホワ気分を味わうのです!

 お父さんは優しくて、甘いものも作ってくれて、いっぱい撫でてくれて、私の大好きな人なのですーっ!
 お母さんに弱くていっぱい叩かれてるけど、それでも夫婦の仲も良くて、幸せな家庭の大黒柱なのだー!

「沙綾、動けないよ……」
「えー? お父さんにぎゅーっ!」
「にゃー……。あ、沙綾も胸出てきた?」
「ッ……!?」

 ナニヲイウンデスカ、オトウサン?
 そ、それは確かに、最近はお母さんに下着をどうしようか相談したりしてたけど……。

「お、お父さん直球過ぎるよ! ほんっとデリカシーないんだから!」
「え〜っ? でも抱きついてきたのは沙綾だし、お父さんが娘の成長を知るのはいーでしょー?」
「も、もう! お父さんに抱きついたりしないんだから!」
「にゃ!?」

 お父さんが包丁を落とす。
 あ、危ないよーっ!?

「あ、あはは……。もう言いません、お願いだから許して……」
「……甘くて美味しいケーキが食べたいなー?」
「帰って来る頃には、1ホール作っとくよ……」

 交渉の末、ケーキを1ホールゲット。

「いいえ、2ホールよ」
『!?』

 刹那、お母さんの冷えきった声がリビングに反響する。
 入り口付近を見ると、目を赤く光らせるお母さんが仁王立ちして立ってました。
 あ、あわわわ……。

「おはよー沙羅。じゃあ2ホール作るねー♪」

 だけど、あくまで普通に返すお父さん。
 お母さんは暫く動かなかったけど、やがてムスッとした顔で私たちの方に歩いてきた。
 よく見たら、その手にはノートが……?

「ん、これ」
「今手が離せないから、僕の机に置いといて〜?」
「2階行くのめんどいわ。今受けとんないと、瑞揶の書いた恥ずかしい文を読み上げて――」
「受け取らせていただきます」
「よろしい」

 と、お父さんは包丁を置いてお母さんからノートを受け取った。
 ……?

「お母さん、今のノートは?」
「交換日記よ。もう15年ぐらいずっと書いてるわ」
「……わーっ」

 凄い事実が判明し、思わず口を開いてしまう。
 15年も交換日記を続けてるなんて、ラブラブ過ぎる!!

「ちょっと読ませて〜っ!」
「ダメだよ……。子供が知っちゃいけない言葉もたまに入ってるし……」
「?」
「あ、いや。僕たちが恥ずかしいから……」
「むーっ」

 読ませてくれないらしい。
 ほっぺを膨らませて怒りをアピールするけど、お父さんは苦笑するばかりだった。

「まぁ少しぐらいならいいじゃない。どれ」
「ああっ……」

 お母さんがお父さんから日記を奪い取り、パラパラと捲った。
 私に読ませてくれるんじゃないの? と思っていると、お母さんが朗読を始める。

「“今日は沙羅から抱きついてきてくれて嬉しかったよ。何年経っても抱きつかれると胸が熱くなって、本当に沙羅が好きですっ。夫婦になっても僕たちはずっと恋人だよね? そう思って今日の曲を作りました。いつもありがとう、愛してる。”これが3週間前に瑞揶が書いたやつね」
「…………」
「…………」

 お母さんが途中から顔を赤くして読み上げたけど、聞いてたお父さんはリンゴみたいに顔全体が真っ赤だった。
 私も言葉が出なかったけど、こんないい恋人さん達が羨ましいなぁ。

「さ、沙羅〜っ!」
「なによ、娘の胸に発情する男には良い罰でしょ?」
「発情してないよー! もうっ、もうっ……」
「……?」

 発情ってなんでしょう?
 お父さんすごく慌ててるけど……こんど調べます。

「で、沙綾はいつまでお父さんに抱きついてるの?」
「ずっとです〜っ!」
「ダメよ、こんなケダモノに抱きついてたら。代わりなさい」
「にゃー!?」

 お母さんに引き剥がされ、私はソファーの影まで退散する。
 お父さんの背中には私に変わってお母さんが抱きついていました。

「……私とどっちが胸あるのかしら?」
「!!?」

 お母さんの言葉に、お父さんは頭をシンクの中に打ち付ける。
 腰が砕けて倒れたようにも見えたけど……大丈夫かな?

「さ、沙羅……今夜覚えときなよ」
「……やっぱりケダモノじゃない」
「うるさいよっ。こうなったら沙羅もケダモノにしてやるんだからっ」
「…………」
「…………」

 お父さんとお母さんが黙ってしまい、周りにピンクのオーラが出ていた。
 2人とも顔赤い……恋っていいなぁ。

 でも

「お父さん、朝ごはん作って〜っ」
「! あ、うん。すぐにっ!」
「私も手伝うわ。沙綾もやる?」
「うんっ! お料理お料理〜っ♪」

 お母さんに促され、結局3人で作りました。
 ベーコンエッグは各自で焼いたけど、やっぱりお父さんが上手な半熟、お母さんも黒い焦げをつけずに完成。
 私だけ黄身も濃い色になるほど焼いちゃって、裏面が黒い……。

「沙綾の作ったやつ食べたい……」
「何言ってんの、沙綾は私と交換するのよ」
「にゃ、にゃー!? 僕も交換して欲しいよーっ!」

 出来が不十分だったのに、私に許可なく食べるつもりらしい。
 結局、私のは半分ずつお父さんとお母さんにあげて、私の元にお母さんとお父さんが作ったものがやってきました。
 どっちもすごく美味しかったですっ。




 朝食を食べた後、私は学校に行く準備をしてからお父さんの様子を見に行きました。
 お母さんは学校の準備だからいいけど、お父さんはこの時間何してるんだろう。

「あれ?」

 てっきりリビングにいると思ったけど、いない?
 どこかなぁと1階を探し回ると、お庭にいました。

「ねこさんふぁいやー♪ 押忍押忍押忍押忍♪」

 ねこさんの歌を歌ってます……。
 歌いながらパッパッと真っ白なタオルを払い、物干し竿に掛けてました。
 洗濯物を干してるのですかーっ、お父さんら朝から良く働くなぁ……。

「……あ、沙綾? まだ取材してるの?」

 お父さんが縁側にいる私に気付いてクスリと笑う。
 優しい笑顔……素敵ですっ。

「取材じゃなくて、観察だよっ」
「あはは、そっか……。って、そろそろお母さんと登校の時間じゃない?」
「むむっ!?」

 そうなのです、学校へ行く準備なんてお母さんはすぐ終わりますっ。
 あああ学校……。
 学校も楽しいけど、家にいる方が幸せなのにぃ。

「こんな所に居た……」
「げっ、お母さん」
「……なによ、その“げっ”は?」
「むひゃ〜っ!?」

 お母さんに頭を鷲掴みにされる。
 い、痛い……。
 暴力反対だよーっ!

「沙羅……。暴力はダメだよっ」
「……確かに、悪かったわ。けど、お父さんも私を名前で呼び過ぎよ。お母さんでしょーがっ」
「咄嗟だと地が出ちゃうもん……。ともかく、2人仲良く行ってらっしゃいっ」
「はーいっ」
「は〜いっ」

 こうして、私とお母さんは今日も一緒に家を出るのでした。

「行ってくるわね〜」
「お父さん、行ってきまーすっ!」
「2人とも、行ってらっしゃ〜いっ」

 優しいお父さんに見送られ、

「ほら、沙綾」
「えへへ」

 お母さんに伸ばされた手を繋いで――。

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