連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第11話
「うー……思ったより辛いわね」
「痛みやわらげる?」
「いや、耐えるわ」
ベッドを急遽仕舞い、今沙羅の部屋には布団が敷かれている。
その中で仰向けに寝そべる彼女は僕の方を見ている。
本を読んでいるのに、そう見つめられるとページがめくれない……。
「……子供の教育と社会問題と遺産」
本のタイトルを読み上げられる。
エッセイなんて初めて読んだけど、結構面白いし、ためになるね。
「しっかりしたお父さんになりたいんだ〜っ♪」
「そうね〜……。私も人の親になるんだし、何か読みたいわ……」
「だめだよーっ。安静にしてないと……ね?」
「……そうねー」
「…………」
寂しそうな顔をする沙羅を見て、僕は本を閉じて彼女の頭を撫でた。
その手をほっぺまで回すと、彼女は優しく頬擦りをする。
お互い微笑んで、それから少しスキンシップを取ったりっ、雑炊を作って食べさせたり。
「むー……」
「……美味しくなかった?」
「違うわよ……。なんか、こう……夫婦っぽいわよね、って」
「……そうだね」
こうやって身篭った奥さんに尽くすのも、夫婦らしいと言えるだろう。
僕は殆ど家に居るし、沙羅の要望はなんでも叶えてあげられる。
それが嬉しい。
こうして沙羅が妊娠して暫くの間、ずっと2人きりで、もしくは時々やってくる友人たちと過ごした。
つわりが治まってくる頃には沙羅のお腹も膨らんで、沙羅も元気を取り戻した。
お腹の子のためか、ご飯もいっぱい食べるようになった。
変化は沙羅だけじゃなく、僕にもあった。
幾つか本を読んでいくと知識が身について子供が待ち遠しくなる。
名前をつけるのだってまだだけど、どうせなら2人の名前から文字を使って名付けたい。
その旨を沙羅に話すと、ベッドに横たわりながら彼女はうーんと唸る。
「女の子なら、“さや”、かしらね? 沙揶?」
「“さや”、かぁ……。沙羅を呼ぶときと間違えないかな?」
「私の事はこれからお母さんって呼ぶんじゃない?」
「にゃー……。そしたら僕、お父さん!?」
「そうよ。パパのほうがいいかしら? 私はママって呼ばれるのはちょっと嫌なのよね、ママって感じじゃないし」
「僕はお父さんでいいよーっ♪」
別に呼はれ方は気にしない。
お父さんとお母さんに決まり、再び名前を考えることに。
「“さや”がダメなら、“さあや”かしら? それなら大丈夫じゃない?」
「……ふにゃー。さあや、さーや……響川さあや……」
「目がキラキラしてるわよ……。猫目になったり、アンタの目はどうなってんだか……」
沙羅の言葉も耳に入らず、さあやさあやと頭の中でやまびこのように反芻する。
さあや……。
「……決定です!!!!」
「そ。漢字は……後でいいわね。男の子だったらどうする?」
「うーん……。“みずや”と“さら”で、男の子の名前かぁ……」
女の子なら“みさ”とか、一文字加えて“みさき”とか“さやか”とか、いろいろ考えられるけど……。
「……男の子は無理だね!」
「無理ね。何か意味のある名前を考えましょ」
ということで、考えることに。
「幸せになってほしいよね〜っ?」
「なら幸せの字を入れる?」
「……うーん、でも安直かなぁ?」
「そうは思わないけど……」
「男らしくなってほしーよねー?」
「男らしくないお父さんがそれを言うのはどうなの」
ごめんなさい、自粛します……。
そんな感じに沙羅に呆れられながら名前を考える。
「私たちに共通する文字を入れたいわね」
「……共通する。それなら――」
パッと思いつくのは音、優、愛、能力。
あとは家事、家庭、早起き……これらは共通といっても、日常的というか、うーん……。
思いついた文字をお互いにノートに書いて見ると、沙羅の方には恋や世界、寿命なんてものがあった。
だいたい一緒な字が多いのは、同じ生活をしているから当然といえる。
「恋や愛は、男の子だとちょっとつけにくいかな?」
「こっから意味のある名前を考えるのよ。愛も恋もとっときなさい」
「は、はい……」
ぴしゃりと叱られ、肩を狭める。
うーんうーんと頭を悩ませるけど、考えるのは沙羅の方が得意だから彼女をじーっと見つめた。
「……そんなすぐ決まるもんじゃないわよ」
しかし、沙羅も悩んでいるようで、僕も悩み続けた。
そして妊娠9ヶ月目のこと。
沙綾と優生の名前を決め、10ヶ月目に入ると出産の日がやって来た。
◇
お父さんはここで待っていてくださいと分娩室から追い出されるも、体を抗菌してから沙羅にだけ見えるようにして透明化し、室内に突入。
陣痛を歯噛みをして耐える沙羅の腕を握り、ささやかながらにもエールを送った。
「……み、ずや? くっ……っぅ……!」
僕の顔を見つけて不思議そうな顔をするも、すぐに痛みに堪える顔に戻る。
この痛みをやわらげるのは嫌だと最初から言われていたため、僕にはこれぐらいのことしかできなかった。
痛みに堪える沙羅の顔を見るのは初めてだったかもしれない。
苦しそうな顔と漏れる嗚咽が心臓を掴むようだった。
あとどのくらい続くのだろうと、沙羅の手を掴み、頭を撫でたり、応援したり、繰り返し続けた。
その時間も終わりが来る。
「産まれました……。可愛い女の子ですよ」
大声を出して泣く赤ん坊を、医師の人が見せてくる。
僕と沙羅は一度目を合わせ、それから赤ん坊を見ると笑って泣いた。
「よかったわ……本当に、よかったわ……」
「無事に、産まれたねっ……」
女の子だから、名前は沙綾。
諸々の処置をして、布に包まれた沙綾を沙羅が抱いた。
僕らも人の親になる。
いろんな人と出会い、別れを繰り返して来たけれど、ここにまた、大きな喜びが一つ産まれた――。
どうかこの子の人生にも出会いと別れがあり、やがては幸せに恵まれる事を、願います――。
◇
出産してからの1週間は、人生で1、2を争うほど大変だった。
沙羅が授乳に四苦八苦し、トイレとかオムツとかで慌てたり、睡眠がうまく取れない日々が続いた。
こんな大変な事を全国のお母さん方は1人で体験したのか、もしくは僕みたいに一緒に居られるお父さんや親族が居たか――ともかく尊敬せざるを得ない。
沙綾が夜泣きするし、なかなか寝付いてくれないし、子育てはこの頃から大変だ。
「でもお父さんの手に抱かれるとすぐ寝るわよね」
「…………?」
「いや、瑞揶の事なんだけど」
「あっ、僕か……」
という感じに呼び方も変わってギクシャクしたり。
お父さん……お父さんだ。
新しい人生のスタートみたいな感じ。
……えへへ。
産後3日で退院し、家ではそんな感じに過ごす。
お互いに疲れていても、愛の力で乗り越えられそうですっ。
「さーやっ、さーや〜♪」
「嬉しそうね……。ま、私も嬉しいけど」
「えへへ、僕達の子供だもん〜♪」
産着を着た赤ん坊を抱きながら沙羅と笑い合う。
出生届もしっかり出しました。
響川沙綾、ですにゃ〜♪
「……これからは3人だね、沙羅」
「お母さんでしょ?」
「ん、今は沙羅って呼びたい」
「……そ」
幸せいっぱいで、家族3人、新たなスタートを切るのだった。
異常のない安息の日々、揺るぎない幸せを伝い続けて――。
「痛みやわらげる?」
「いや、耐えるわ」
ベッドを急遽仕舞い、今沙羅の部屋には布団が敷かれている。
その中で仰向けに寝そべる彼女は僕の方を見ている。
本を読んでいるのに、そう見つめられるとページがめくれない……。
「……子供の教育と社会問題と遺産」
本のタイトルを読み上げられる。
エッセイなんて初めて読んだけど、結構面白いし、ためになるね。
「しっかりしたお父さんになりたいんだ〜っ♪」
「そうね〜……。私も人の親になるんだし、何か読みたいわ……」
「だめだよーっ。安静にしてないと……ね?」
「……そうねー」
「…………」
寂しそうな顔をする沙羅を見て、僕は本を閉じて彼女の頭を撫でた。
その手をほっぺまで回すと、彼女は優しく頬擦りをする。
お互い微笑んで、それから少しスキンシップを取ったりっ、雑炊を作って食べさせたり。
「むー……」
「……美味しくなかった?」
「違うわよ……。なんか、こう……夫婦っぽいわよね、って」
「……そうだね」
こうやって身篭った奥さんに尽くすのも、夫婦らしいと言えるだろう。
僕は殆ど家に居るし、沙羅の要望はなんでも叶えてあげられる。
それが嬉しい。
こうして沙羅が妊娠して暫くの間、ずっと2人きりで、もしくは時々やってくる友人たちと過ごした。
つわりが治まってくる頃には沙羅のお腹も膨らんで、沙羅も元気を取り戻した。
お腹の子のためか、ご飯もいっぱい食べるようになった。
変化は沙羅だけじゃなく、僕にもあった。
幾つか本を読んでいくと知識が身について子供が待ち遠しくなる。
名前をつけるのだってまだだけど、どうせなら2人の名前から文字を使って名付けたい。
その旨を沙羅に話すと、ベッドに横たわりながら彼女はうーんと唸る。
「女の子なら、“さや”、かしらね? 沙揶?」
「“さや”、かぁ……。沙羅を呼ぶときと間違えないかな?」
「私の事はこれからお母さんって呼ぶんじゃない?」
「にゃー……。そしたら僕、お父さん!?」
「そうよ。パパのほうがいいかしら? 私はママって呼ばれるのはちょっと嫌なのよね、ママって感じじゃないし」
「僕はお父さんでいいよーっ♪」
別に呼はれ方は気にしない。
お父さんとお母さんに決まり、再び名前を考えることに。
「“さや”がダメなら、“さあや”かしら? それなら大丈夫じゃない?」
「……ふにゃー。さあや、さーや……響川さあや……」
「目がキラキラしてるわよ……。猫目になったり、アンタの目はどうなってんだか……」
沙羅の言葉も耳に入らず、さあやさあやと頭の中でやまびこのように反芻する。
さあや……。
「……決定です!!!!」
「そ。漢字は……後でいいわね。男の子だったらどうする?」
「うーん……。“みずや”と“さら”で、男の子の名前かぁ……」
女の子なら“みさ”とか、一文字加えて“みさき”とか“さやか”とか、いろいろ考えられるけど……。
「……男の子は無理だね!」
「無理ね。何か意味のある名前を考えましょ」
ということで、考えることに。
「幸せになってほしいよね〜っ?」
「なら幸せの字を入れる?」
「……うーん、でも安直かなぁ?」
「そうは思わないけど……」
「男らしくなってほしーよねー?」
「男らしくないお父さんがそれを言うのはどうなの」
ごめんなさい、自粛します……。
そんな感じに沙羅に呆れられながら名前を考える。
「私たちに共通する文字を入れたいわね」
「……共通する。それなら――」
パッと思いつくのは音、優、愛、能力。
あとは家事、家庭、早起き……これらは共通といっても、日常的というか、うーん……。
思いついた文字をお互いにノートに書いて見ると、沙羅の方には恋や世界、寿命なんてものがあった。
だいたい一緒な字が多いのは、同じ生活をしているから当然といえる。
「恋や愛は、男の子だとちょっとつけにくいかな?」
「こっから意味のある名前を考えるのよ。愛も恋もとっときなさい」
「は、はい……」
ぴしゃりと叱られ、肩を狭める。
うーんうーんと頭を悩ませるけど、考えるのは沙羅の方が得意だから彼女をじーっと見つめた。
「……そんなすぐ決まるもんじゃないわよ」
しかし、沙羅も悩んでいるようで、僕も悩み続けた。
そして妊娠9ヶ月目のこと。
沙綾と優生の名前を決め、10ヶ月目に入ると出産の日がやって来た。
◇
お父さんはここで待っていてくださいと分娩室から追い出されるも、体を抗菌してから沙羅にだけ見えるようにして透明化し、室内に突入。
陣痛を歯噛みをして耐える沙羅の腕を握り、ささやかながらにもエールを送った。
「……み、ずや? くっ……っぅ……!」
僕の顔を見つけて不思議そうな顔をするも、すぐに痛みに堪える顔に戻る。
この痛みをやわらげるのは嫌だと最初から言われていたため、僕にはこれぐらいのことしかできなかった。
痛みに堪える沙羅の顔を見るのは初めてだったかもしれない。
苦しそうな顔と漏れる嗚咽が心臓を掴むようだった。
あとどのくらい続くのだろうと、沙羅の手を掴み、頭を撫でたり、応援したり、繰り返し続けた。
その時間も終わりが来る。
「産まれました……。可愛い女の子ですよ」
大声を出して泣く赤ん坊を、医師の人が見せてくる。
僕と沙羅は一度目を合わせ、それから赤ん坊を見ると笑って泣いた。
「よかったわ……本当に、よかったわ……」
「無事に、産まれたねっ……」
女の子だから、名前は沙綾。
諸々の処置をして、布に包まれた沙綾を沙羅が抱いた。
僕らも人の親になる。
いろんな人と出会い、別れを繰り返して来たけれど、ここにまた、大きな喜びが一つ産まれた――。
どうかこの子の人生にも出会いと別れがあり、やがては幸せに恵まれる事を、願います――。
◇
出産してからの1週間は、人生で1、2を争うほど大変だった。
沙羅が授乳に四苦八苦し、トイレとかオムツとかで慌てたり、睡眠がうまく取れない日々が続いた。
こんな大変な事を全国のお母さん方は1人で体験したのか、もしくは僕みたいに一緒に居られるお父さんや親族が居たか――ともかく尊敬せざるを得ない。
沙綾が夜泣きするし、なかなか寝付いてくれないし、子育てはこの頃から大変だ。
「でもお父さんの手に抱かれるとすぐ寝るわよね」
「…………?」
「いや、瑞揶の事なんだけど」
「あっ、僕か……」
という感じに呼び方も変わってギクシャクしたり。
お父さん……お父さんだ。
新しい人生のスタートみたいな感じ。
……えへへ。
産後3日で退院し、家ではそんな感じに過ごす。
お互いに疲れていても、愛の力で乗り越えられそうですっ。
「さーやっ、さーや〜♪」
「嬉しそうね……。ま、私も嬉しいけど」
「えへへ、僕達の子供だもん〜♪」
産着を着た赤ん坊を抱きながら沙羅と笑い合う。
出生届もしっかり出しました。
響川沙綾、ですにゃ〜♪
「……これからは3人だね、沙羅」
「お母さんでしょ?」
「ん、今は沙羅って呼びたい」
「……そ」
幸せいっぱいで、家族3人、新たなスタートを切るのだった。
異常のない安息の日々、揺るぎない幸せを伝い続けて――。
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