連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜
第3話:再生・前編
やっと現れた、私の愛しい人。
そして最も憎んだ人。
貴方をここで殺し、私も死のう。
魂をも消滅させて、相殺を願う。
だって、もう生きるのも疲れたのだから――。
◇
「響川瑞揶はどこだ?」
何を聞いてくるかと思えば、彼は口を開くなりそんなことを聞いた。
教える義理もなかったけれど、教えたら彼が残念がると思って素直に教える。
「一足遅かったわね。響川瑞揶なら転生させたわ。ヤプタレアでの記憶を消して、ね。フフフ、彼は今、絶望の底にいるわ」
「そうか……礼を言いたかったんだがな」
「……礼?」
なんのことだかわからない。
アキューと響川瑞揶の戦いはずっと見ていた。
ただ、精神に干渉しあった際に、何をしていたのかまでは知らない。
あの時――何かあったのかしら?
「まぁいい。とりあえず、君に話がある」
「ええ、私も話があるわ」
「えっ!?」
「ん?」
私の言葉に彼が驚き、思わず聞き返す。
嬉しそうな驚きだった。
変な奴……さすがは自由の総括神ね。
「まぁいいわ。お先にどうぞ」
「あぁ、そうかい? なら言わせてもらおうか……こほん!」
態とらしく彼は咳をする。
ぎこちない態度を見せる姿は不気味だった。
だってあの無鉄砲に行動するアキューが、改まった態度を示すなんて変だもの。
まぁ何を言われようが構わない。
宣戦布告ならなおいい。
私の言うことも、宣戦布告なのだから。
ここで死んでもらう、それで悲願を果たす。
私の生は、それで全うする。
しかし、アキューの口から放たれた言葉は呆れる内容だった。
「僕と復縁してくれ」
「貴方、私をバカにしてるの?」
理性が吹っ飛びそうになった。
昔のことは全てアキューのせい、アキューが悪い。
なのに復縁ですって……?
今更よりを戻そうなんて頭がおかしい。
あれからどれだけの星を数えたとも知れないのに、しかも私がコイツに憎んでるのを知ってて言うなんて――!
「いやいや……。まぁすぐにというのは無理かもしれないし、復縁というのも変な表現なのはわかってる。僕たちは、結婚してないしな……?」
「ええ、そうよ。貴方と戻す関係なんて敵ではあっても友人以上なんて何があろうとありえないもの!」
「……なぜそこまで拒むんだ。僕は君を助けるのが遅れただけで、殺す気は無かった。今も好きなんだぞ?」
「……。……へぇー。へぇ、そう。なるほどね」
好きという一言で全部繋がった。
私はずっとアキューを嫌っていた。
32億年という、途方も無く長い間。
しかし、アキューは私を好きだった。
それがどれほどの期間かわからないし、響川瑞揶に言われて恋心を思い出しただけかもしれない。
だけど、私のことを好き、と――?
気持ち悪い――。
「笑わせないで」
冷たい声で言い放つ。
彼の言葉は笑えない冗談にしか聞こえなかったのだから。
はらわた煮え繰り返るほどの怒りが全身を駆け巡る。
「笑わせる? 僕は真剣だよ。君と仲直りがしたいんだ。そのためにここに来たんだからね」
「今更貴方と仲良くなんてなれないわ! バカも休み休み言うのね!」
「僕は真剣なんだがなぁ……」
わかってくれないかなぁとため息を吐くアキュー。
ふざけてる、狂ってる。
コイツは本格的に頭がおかしい。
なんでもっと早く私を探さなかった?
なんで今になってよりを戻そうとする?
おかしい、どれもこれもおかしい――。
「もういいわ」
「?」
刀を一本、右手に顕現させる。
しっかりと柄を握りしめ、【確立結果】を施す。
“アキューを確実に仕留めるように”、と。
アキューは私が刀を出したにも関わらず、一歩たりとも動かずに首を傾げていた。
逃げる気もなく、武器も出さないのは争う気もないということかしら。
「ここで死になさい。私を愛してるなら、ねぇ? 言うことを聞いてくれるんでしょう?」
「生憎だが、共に生きる道を選びたいな」
「フフフ、そんな道は初めからないわ!!」
空間内で転移を繰り返す。
空間にいくつも穴が開き、穴が閉じる間も無く次の転移を行って翻弄する。
それでも彼は動じることなく、地上のない空間で佇んでいた。
動かないならそれでいい。
一撃で確実に仕留め、魂を破壊する。
本当なら嬲り殺したいが、2撃目はない。
普通に戦えば戦いにすらならないのはわかっているし、いままで同じ顔の人をいたぶったからもう構わない。
殺す――その明確な殺意をもって、彼の後ろに転移する。
振り上げた刀を、彼の脳天目掛けて一気に振り下ろした。
その斬撃には何の迷いもなく、刀は彼の頭を2つにせんと突き進む――。
「――はぁ」
私の動きはあまりにも無駄すぎた。
私は刀を振り下ろしたはずだったのに、今眼に映るのは、すぐそばに落ちた刃の破片が地面に刺さったもの。
私の刀はどうやってか折られ、私は一瞬で組み伏せられていた。
やっぱり次元が違う。
虚無がアキューに勝ったからと、私は調子に乗っていたのかもしれない。
私には虚無みたいな、唯一確実な能力もないのに。
「……あまり力技は好きじゃないんだがな」
馬乗りになった彼が呟き、私の体を半回転させる。
無理やり目を合わせてきて、言葉なく瞳を覗き込まれた。
私は抵抗する気もなくなった。
私は世界を飛んでフラフラと遊んでいたのに対し、彼は500億年生きた律司神の弟子になってから律司神となった男。
私程度では、勝ち目はないんだもの。
「アキュー……私をどうする気?」
なんとなく尋ねた。
両手を広げて無抵抗の意を示しながら言うと、彼は意外に思ったのか、逆に聞き返してきた。
「気は済んだのか? もう抵抗しないのは好都合だがな」
「気は済んでないわ。でも、私じゃ何もできない。あの子の仇も取れない……」
「……子供を殺したのは僕じゃないんだが」
「そう……そうね。仇のあの神を殺したのは、貴方だったわね」
思い返してみれば、私と子供を殺した神を、アキューは殺していた。
毎年100人を食らう、あの神を。
なら、もういいか――。
自決しよう――それが私の、最後にできることかもしれない。
機械に頼ることもない、ここにいるのは私本体。
魂を【確立結果】で消滅させれば、それで――
モニュン
「…………」
モミモミモミ……
「…………」
モミモミモミモミモミモミ……
「……何を、しているのかしら?」
思わず聞き返した。
布越しに胸に感じる指の感触には怒りを覚える。
「いやなに、見てたら揉みたくなってしまってな。まぁ許せ」
「許さないわよバカ! どけ! どきなさい!!」
「そんなに怒らなくても……何か減るわけでもないしな」
「そういう問題じゃないでしょうが!!」
「いたっ!!?」
顔面をブン殴ってやると、よろめきながら彼は私の上から降りて顔をおさえた。
息を切らしながら私は立ち上がり、拳を握り締める。
こんな……こんなバカでスケベな男に負けて……私は真剣に自刃まで考えてたのに……!
「まったく……君は昔から横暴だ。暴力でなんでも解決させようだなんて、どうかしてる。もっと理性的になってくれ」
「私は十分に理性的よ! アキューの方が本能むき出しじゃない! そんだけ年取ったのに性欲尽きないわけ!?」
「年をとったのは精神だけだ! 僕の体はまだ10代だぞ!?」
「そんなの知らないわよ!」
「クローン作ってるの知ってるくせに何言ってるんだお前は!?」
そんなことはどうでもいい。
いや、もういろんな事がどうでもよくなった。
アキューは何年経とうとも変わることがない。
多少知識がつこうがいろんな経験をしようがその気質はまったく変わってなかった。
私はいろいろなものを失ったし、多くの時間が流れたけれど、
今はまるで、あの頃に戻れたよう――。
「……なぁ、セイ」
「なにかしら? 私を殺すならさっさとして頂戴。神の世界でも私は犯罪者として有名人だし、どうせ殺されるわ」
「ああ、それなら大丈夫だぞ?」
「……?」
「そうだろう師匠? どうせ居るんだろ?」
「な……」
アキューが声を張って辺りを見渡す。
すると、私の後ろから2人分の足音が近付いてきた。
そこに居たのは、愛と虚無の少女達――。
そして最も憎んだ人。
貴方をここで殺し、私も死のう。
魂をも消滅させて、相殺を願う。
だって、もう生きるのも疲れたのだから――。
◇
「響川瑞揶はどこだ?」
何を聞いてくるかと思えば、彼は口を開くなりそんなことを聞いた。
教える義理もなかったけれど、教えたら彼が残念がると思って素直に教える。
「一足遅かったわね。響川瑞揶なら転生させたわ。ヤプタレアでの記憶を消して、ね。フフフ、彼は今、絶望の底にいるわ」
「そうか……礼を言いたかったんだがな」
「……礼?」
なんのことだかわからない。
アキューと響川瑞揶の戦いはずっと見ていた。
ただ、精神に干渉しあった際に、何をしていたのかまでは知らない。
あの時――何かあったのかしら?
「まぁいい。とりあえず、君に話がある」
「ええ、私も話があるわ」
「えっ!?」
「ん?」
私の言葉に彼が驚き、思わず聞き返す。
嬉しそうな驚きだった。
変な奴……さすがは自由の総括神ね。
「まぁいいわ。お先にどうぞ」
「あぁ、そうかい? なら言わせてもらおうか……こほん!」
態とらしく彼は咳をする。
ぎこちない態度を見せる姿は不気味だった。
だってあの無鉄砲に行動するアキューが、改まった態度を示すなんて変だもの。
まぁ何を言われようが構わない。
宣戦布告ならなおいい。
私の言うことも、宣戦布告なのだから。
ここで死んでもらう、それで悲願を果たす。
私の生は、それで全うする。
しかし、アキューの口から放たれた言葉は呆れる内容だった。
「僕と復縁してくれ」
「貴方、私をバカにしてるの?」
理性が吹っ飛びそうになった。
昔のことは全てアキューのせい、アキューが悪い。
なのに復縁ですって……?
今更よりを戻そうなんて頭がおかしい。
あれからどれだけの星を数えたとも知れないのに、しかも私がコイツに憎んでるのを知ってて言うなんて――!
「いやいや……。まぁすぐにというのは無理かもしれないし、復縁というのも変な表現なのはわかってる。僕たちは、結婚してないしな……?」
「ええ、そうよ。貴方と戻す関係なんて敵ではあっても友人以上なんて何があろうとありえないもの!」
「……なぜそこまで拒むんだ。僕は君を助けるのが遅れただけで、殺す気は無かった。今も好きなんだぞ?」
「……。……へぇー。へぇ、そう。なるほどね」
好きという一言で全部繋がった。
私はずっとアキューを嫌っていた。
32億年という、途方も無く長い間。
しかし、アキューは私を好きだった。
それがどれほどの期間かわからないし、響川瑞揶に言われて恋心を思い出しただけかもしれない。
だけど、私のことを好き、と――?
気持ち悪い――。
「笑わせないで」
冷たい声で言い放つ。
彼の言葉は笑えない冗談にしか聞こえなかったのだから。
はらわた煮え繰り返るほどの怒りが全身を駆け巡る。
「笑わせる? 僕は真剣だよ。君と仲直りがしたいんだ。そのためにここに来たんだからね」
「今更貴方と仲良くなんてなれないわ! バカも休み休み言うのね!」
「僕は真剣なんだがなぁ……」
わかってくれないかなぁとため息を吐くアキュー。
ふざけてる、狂ってる。
コイツは本格的に頭がおかしい。
なんでもっと早く私を探さなかった?
なんで今になってよりを戻そうとする?
おかしい、どれもこれもおかしい――。
「もういいわ」
「?」
刀を一本、右手に顕現させる。
しっかりと柄を握りしめ、【確立結果】を施す。
“アキューを確実に仕留めるように”、と。
アキューは私が刀を出したにも関わらず、一歩たりとも動かずに首を傾げていた。
逃げる気もなく、武器も出さないのは争う気もないということかしら。
「ここで死になさい。私を愛してるなら、ねぇ? 言うことを聞いてくれるんでしょう?」
「生憎だが、共に生きる道を選びたいな」
「フフフ、そんな道は初めからないわ!!」
空間内で転移を繰り返す。
空間にいくつも穴が開き、穴が閉じる間も無く次の転移を行って翻弄する。
それでも彼は動じることなく、地上のない空間で佇んでいた。
動かないならそれでいい。
一撃で確実に仕留め、魂を破壊する。
本当なら嬲り殺したいが、2撃目はない。
普通に戦えば戦いにすらならないのはわかっているし、いままで同じ顔の人をいたぶったからもう構わない。
殺す――その明確な殺意をもって、彼の後ろに転移する。
振り上げた刀を、彼の脳天目掛けて一気に振り下ろした。
その斬撃には何の迷いもなく、刀は彼の頭を2つにせんと突き進む――。
「――はぁ」
私の動きはあまりにも無駄すぎた。
私は刀を振り下ろしたはずだったのに、今眼に映るのは、すぐそばに落ちた刃の破片が地面に刺さったもの。
私の刀はどうやってか折られ、私は一瞬で組み伏せられていた。
やっぱり次元が違う。
虚無がアキューに勝ったからと、私は調子に乗っていたのかもしれない。
私には虚無みたいな、唯一確実な能力もないのに。
「……あまり力技は好きじゃないんだがな」
馬乗りになった彼が呟き、私の体を半回転させる。
無理やり目を合わせてきて、言葉なく瞳を覗き込まれた。
私は抵抗する気もなくなった。
私は世界を飛んでフラフラと遊んでいたのに対し、彼は500億年生きた律司神の弟子になってから律司神となった男。
私程度では、勝ち目はないんだもの。
「アキュー……私をどうする気?」
なんとなく尋ねた。
両手を広げて無抵抗の意を示しながら言うと、彼は意外に思ったのか、逆に聞き返してきた。
「気は済んだのか? もう抵抗しないのは好都合だがな」
「気は済んでないわ。でも、私じゃ何もできない。あの子の仇も取れない……」
「……子供を殺したのは僕じゃないんだが」
「そう……そうね。仇のあの神を殺したのは、貴方だったわね」
思い返してみれば、私と子供を殺した神を、アキューは殺していた。
毎年100人を食らう、あの神を。
なら、もういいか――。
自決しよう――それが私の、最後にできることかもしれない。
機械に頼ることもない、ここにいるのは私本体。
魂を【確立結果】で消滅させれば、それで――
モニュン
「…………」
モミモミモミ……
「…………」
モミモミモミモミモミモミ……
「……何を、しているのかしら?」
思わず聞き返した。
布越しに胸に感じる指の感触には怒りを覚える。
「いやなに、見てたら揉みたくなってしまってな。まぁ許せ」
「許さないわよバカ! どけ! どきなさい!!」
「そんなに怒らなくても……何か減るわけでもないしな」
「そういう問題じゃないでしょうが!!」
「いたっ!!?」
顔面をブン殴ってやると、よろめきながら彼は私の上から降りて顔をおさえた。
息を切らしながら私は立ち上がり、拳を握り締める。
こんな……こんなバカでスケベな男に負けて……私は真剣に自刃まで考えてたのに……!
「まったく……君は昔から横暴だ。暴力でなんでも解決させようだなんて、どうかしてる。もっと理性的になってくれ」
「私は十分に理性的よ! アキューの方が本能むき出しじゃない! そんだけ年取ったのに性欲尽きないわけ!?」
「年をとったのは精神だけだ! 僕の体はまだ10代だぞ!?」
「そんなの知らないわよ!」
「クローン作ってるの知ってるくせに何言ってるんだお前は!?」
そんなことはどうでもいい。
いや、もういろんな事がどうでもよくなった。
アキューは何年経とうとも変わることがない。
多少知識がつこうがいろんな経験をしようがその気質はまったく変わってなかった。
私はいろいろなものを失ったし、多くの時間が流れたけれど、
今はまるで、あの頃に戻れたよう――。
「……なぁ、セイ」
「なにかしら? 私を殺すならさっさとして頂戴。神の世界でも私は犯罪者として有名人だし、どうせ殺されるわ」
「ああ、それなら大丈夫だぞ?」
「……?」
「そうだろう師匠? どうせ居るんだろ?」
「な……」
アキューが声を張って辺りを見渡す。
すると、私の後ろから2人分の足音が近付いてきた。
そこに居たのは、愛と虚無の少女達――。
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