炎獄のナイトクラッシュ

伊那国濤

非運な炎と利運な氷

 ここはギルド本部。一会議室を短時間という理由で無償で気軽に借りた為、比較的大きめの部屋にいた。
しかし休めそうな大きめの長椅子が傍にあるのに、地べたに寝かせられている。
厭、随分と俺の扱いは酷いものだな…

そうして散々、厨二病に否、自称『創造神』に如何にもな…所謂『神聖術』に付き纏われて、挙げ句の果てには物理攻撃力24966のアイアンブローを鳩尾に叩き込まれる次第であった。更に失神しかけて死にさえ直面した。
誰一人としてそんな追加効果は願っていなかったのに……
今はもう最早何の考えすら感じられないような状態。自身を頑張って勇気づけるように励ましを表すが、口から出てくるのは溜息混じりの憂鬱感のみ。

 「はぁー、しんどい…」

 「あれ、今回も恒例のことながら、かなりの大きな溜息だねー。そう言えば、異世界潜ってきてからは初めてだったっけ!」

 毎度毎度のことながら、三波は元気な奴だ…あと一つ僭越ながら言わせてもらえると。そんなに俺って溜息ついていたのか?
自身の頭の中の記憶を回想場面として再生する……
記憶再生終了、やはりありました。序でに言うと、その思い当たる節が多すぎて 何のことなのかも検討がつかない。
まぁ一先ず置いておこう。

 「疲れた…」
 漸くまともな声を発することができた。

 「この後、どうしましょうか?私は皆さんにお任せしますが…しかしこのような場所に留まっていても仕方がないというのもまた事実。どうか、ご判断を。」

 「その通りである。おい!とっとと指示を出さないか!」

 「あ、は、はい。了解しましたー。えーと、それじゃあエリーヌの言う通り、一回外へ出てみよう。第二散策と行こうじゃないか!」

言われるがままに間髪置かずとっとと指示を出した。最後に感嘆符を入れたことで若干引かれ気味になった視線を気にはせずに。

 そしてドアを開け、外へ出る。

 「うわぁ。暑っ!言葉を出すのさえ、疎ましい。」

 今の季節は夏場だろうか?否、そもそも季節などというのはこんな所にあるのだろうか。温暖湿潤気候でもあるまいし…

 はい、却下。
 暑すぎ。

 建物を後にして数秒と経たない内に踵を返した。
だが、この行動はそれはそれは僥倖なることであった。俺達は先までは確かに無かった、この『今現在』を現状打破できるやもしれない素晴らしい光景を目の当たりにした。

 冷却の宝探し
  〜極寒を探求〜

指定物を見つけ、持って帰るだけ!報酬もあり!簡単、楽々、超清涼!

・レベルに相応したコース選択可能
・レアアイテム、装備ドロップあり
・専用服貸出し、専用アイテム支給あり
・この季節にぴったり!凄く涼しいよ!
 
 誰でもご参加承諾致します。(初心者・上級者、男女問わずどうぞ。)

 別途少量の料金が発生します。また時間も少々長めとなります。併せてご了承ください。

 「あれだ!!!!」

 思わず4人同時に声を揃えて叫ぶこととなった。

 俺はその貼り紙の番号を確認して受付を済ませた。
言われたことによるとどうもそのクエストはかなりここから離れるらしく、1日数回しか出ないシャトルバス、というよりシャトル馬車にクエスト希望者全員をまとめて乗せ現地へ行くらしい。無論、交通費は無料だというだから初心者にはとても嬉しいものだ。まぁチュートリアルクリアで所持金はあまり困っていないが。因みにこれは人気のクエストで人は多い、らしい。そんなクエストが降ってきたことも僥倖なることの一つである。
出発は後1時間半。11時20分にギルド前だ。また、専用服は早速貸し出され、着ていくか、現地で着るかは自由だと。

 それではまたお待ちしております。

 それまで暫しの休憩時間だということだ。

 「暑い〜。ねえ、誰か外出る用事のある人いないかな?いるなら、お水買ってきて欲しいな…例えば…東藤君?」

 何だ!?その仕草は!?言うなれば、男子への魅惑!何と狡猾な手段だ。卑怯だ!

 「自身の任務を遂行すべく我に職務を請うと言うならばいいだろう。我にも一つの水を誂えてくれ。」

 「私も水は欲しいのですが、あともう一つ。極寒の地へと行くのですから、温かい飲み物も購入して頂けると助かります。勿論皆さんの分もですが。」
 
 「ちょっと待てよ!何故俺が行く前提!?」

 「説明はいい。貴様は早急に買い出しに行くのだ!因みに我は温かい飲み物はココアを。無ければ、コーヒーでもいいが、ミルクと砂糖の付属は絶対条件だ。」

 「私はコーヒーで。」
 「同じく。」

 「じゃ、俺もコーヒーと水と、あと食料を…ってふざけんな!ノリ突っ込みさせてんじゃねえぞ!」
 
 「否、今のは貴様が勝手に……」

 「はいはい。判りましたよ。行けばいいのだろ!」

 少しばかり自暴自棄になっていることを自覚しつつ飛び出して行った。

 暑っ!

 色々求め、灼熱の太陽の下を走ること、20分強。

 漸く帰ってきた。とにかく中へ入りたい!

 彼女らはテーブルに座っていた。それは驚愕の光景であった。

 「おい、お前ら!何をチェスしたり、読書して休憩時間満喫してんだよ!舐めんなよ!」

 大声で叫んで疲れたからその後は俺もチェスに参加して気を紛らせてやった。一応、総当たり戦で。

 因みに全戦全勝。
には程遠い、全戦全敗。
 結果は一位がエリーヌ。二位が笠原。三位が三波。四位は…ご想像にお任せしよう。

 そして、集合時間となり、予定通りに間に合った。因みに服はみんな着ている。支給アイテムは現地で配られるらしい。あと、魂の賜物の水とコーヒーと食料を確固に鞄へ入れて。

 道路に馬車は7台停められていた。

 馬車内は意外に広々に感じられ、座席も確り設えられていた。

 ここに揺られることになるのは3時間弱程。正直予想以上にいい場所だ。これぐらいなら余裕で過ごせるだろう。

 出発して早速就寝時間に入った俺は夢現の状態へとすんなり入ることができた。
しかし1時間半程すると段々と肌寒くなることを感じ、眠りが浅い状態となった。そして起きる。

 全員寝ているらしかったが、かなり寒そうだということは見れば判る。勿論俺も寒い。
何とか再度の眠りにつけたのはかなり経ってからだった。

 そしてとうとう3時間弱が経過した。馬車を降りると、そこは一面の……

 そこで途切れた。何故なら、地面に反射した光が俺の目にいっきに飛び込み、そのまま失神したから。

自分の体が段々と後ろへ倒れていくのが感じ取れる。

 あっ。笠原。
 何故真顔なのだろう。

その答え。応えは言葉ではなく、行動で教えてくれた。

 倒れていく途中、まだほんの僅か記憶があった時。

 笠原は俺の顔面目掛けて一直線。

 回し蹴りを放った。



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