オタとツン属性を併せ持つ妹に、なぜか連夜催眠術を施されることに
第1話
私は今、妹である莉里那《りりな》の部屋で椅子に座らされている。
そしてその私の前には、オレンジのTシャツにグレーのハーフパンツとラフな格好の莉里那が。
つい先日、数年ぶりに妹の部屋に入ったばっかりなのだが、まさかそれからこうも頻繁にこの部屋へ出入りすることになるとは——。
「——ニィーニ、ちゃんと意識を集中するのです! 」
「あっあぁ、すまない」
そこで私の黒縁メガネが、さっと莉里那から取り上げられてしまう。
「これは罰、なんですからね」
眼鏡を取られたためよく見えないが、どこか嬉しそうに悪戯っぽい声色で私の黒縁メガネをする莉里那が、手の動きを再開させる。
「ほら、この五円玉の動きをよ〜く見るのです」
先程と違い鮮明には見えないが、命じられるまま振り子のように横へと動く紐に吊るされた五円玉の陰を私は目で追っていく。
さてと、今日も催眠術にかかった猿芝居をしなければいけないわけか。
二つ下の莉里那は、私が猿芝居をしていることに気がついていない。私が本気で催眠術にかかりやすいと信じているようだ。
しかしいつからだろう?
八年前に親父が再婚をしたことにより、血は繋がらないが私と莉里那は兄妹になった。
すぐに懐いてくれて私の後をずっと付いてくるおとなしい女の子だったのに、三年ほど前から私に寄り付かなくなり、今では話しかけて来ることも無くなった——。
妹である莉里那《リリナ》は街一番の美少女と噂される中学二年生である。この表現には肉親である贔屓目は含まれていないし、決して大袈裟に言っているわけでもない。
客観的に見て私もそう思うし、また実際に私の友人知人たちに至っては、他の女の子たちと一線を画すほどの魅力が莉里那にはあるそうだ。
恐らくそう言わしめる理由の一つに、戸籍は紛れもなく日本人であるが見た目が普通の日本人ではないことが挙げられるだろう。
愛くるしい大きな瞳に高い鼻筋、そして生まれつき何故か茶褐色の肌に赤味がかった白髪と言う、本当に日本人? と言うか地球の人ですか? と言う二次元レベルのクオリティである造形と色彩をその身に宿している。
そのため莉里那のことを知らない別の街を歩けば、妹を視界に入れた十人中十人が必ず振り返る、別の言い方をするならば嫌でも目立つ稀有な容姿の持ち主であるのだ。
ただそんな人と違った外見をしているがため、莉里那は病を発症してしまっていた。
その病名とは中二病。
小学五年生の頃から『この世界は魔素が少ない』とか、『ステータスオープン』とかのちょっとアレな独り言が増えだし、莉里那が中学に入る前にそれとなく話した時には、彼女は異世界から来た聖女と言う設定になっていた。
その設定は日に日に細かくなっているようで、義母である涼子《りょうこ》さん情報では、自宅に帰るとネットサーフィンで異世界の情報収集を行ない、ひと月ほど前からどうしたら異世界に旅立てるかを相談される日が続いたそうだ。
莉里那は実の母親である涼子さんも異世界人であると疑っていたのだ。
しかしそれは二週間前に解決をした。色白で線が細そうな涼子さんであるが、かなり意志の強い人である。そのため違うと言い張る涼子さんに、ついに莉里那が折れたのだ。
ちなみにそれからは、莉里那は異世界転移した両親から生まれたのではなく、自身が異世界転生をしてこの世界に来た設定になっているらしい。
そして涼子さんがもう一つ心配していることは、莉里那の成績がゆっくり下降してきていることである。
しかし二週間前、涼子さんは異世界関係で莉里那と喧嘩をしている。それを引き摺っている莉里那は、涼子さんの言うことを聞かない。言っても反発をして勉強をせずに、逆に異世界情報収集に精を出してしまう負のスパイラルに陥っていた。
そうして最近、私は涼子さんから莉里那のことで相談されるようになっていた。
昔はどこに出しても恥ずかしくなかった妹が、日に日に内側からダメになっていくのは、兄である私も心配である。
そこで三日前、私と涼子さんは小《プチ》家族会議を行なった結果、とあるミッションを行なうこととなった。
そのミッションとは、私が異世界に興味を示して莉里那に近づき、そこで彼女を煽てながらも勉強をしようねと、少しづつ誘導していく、妹《りりな》補正計画である。
しかしこれには大きな不安があった。
それは私が中学に入ってから話す機会が減り、莉里那が中学に上がってからは、ろくに話した記憶が無かったからだ。
しかも最近、莉里那と涼子さんが喧嘩してからは、意味もなく鋭い眼光で睨まれる事があるというのに、涼子さんは私なら導いてくれると信じて疑っていない。
……成功への道筋が見えて来ないのだけど。
そうしてミッション決行日の晩飯時。
三人でテーブルを囲んで食事をしている中、私は涼子さんが手筈通り先に食べ終わり食器を台所へ持っていくため席を立ったのを見計らって意を決する。
行動しなければ成功率0パーセントである。
とにかく私はやるぞ!
パジャマ姿でテレビを見ながらサラダをムシャムシャ食べている莉里那へ向け、小声で呼びかける。
「莉里那、莉里那……」
私の呼びかけに対して莉里那はすっと目を細めると、こちらを一瞥したあとまたテレビに視線を戻す。
「……なんですか? 」
その遅れてきた妹の投げやりな言葉に傷つきながらも、今回は使命を帯びているため、私はいつものようには引き下がらない。
「実はね、ニィーニも、……異世界に興味があるんだ」
久々に話しかけた事と異世界なんて恥ずかしいワードを口にしたがため、たどたどしい言葉遣いになってしまった。
しかし妹は予想外に食い付いた。
凄い勢いでこちらに首を振り、目を剥いて私を見だしたのだ。
いや、その、途轍もなく凄い迫力であるのだけど。
「……発条《ぜんまい》が動き出した? まさか、メドォレーゼの影響下なのに——」
え? なにか今、頭に入ってこない言葉が妹の口からスラスラ出て来た!?
そこで莉里那は、呆然としてしまっていた私の視線に気がついたようだ。
首をブンブン振った後に冷静さを取り戻し、レタスにフォークを突き刺し口に運んでいく。
しかし依然、小声で何か呟き続けている。
「だから高校から部活を始めたのですね。そう言えばノイズが激しいですし、ダウンロードをし……いやまさか、ゲートが——」
なんか険しい表情で私の方をチラチラ見ながら意味不明な言葉を意味深に言われるのは、ある意味新鮮ではあるのだけど、そのあまりにも未知な領域に不安な気持ちが一気に膨れ上がっていく。
まさか、妹の中二病がここまで進行していたとは。
とっ、とにかく、向こうにペースを握らせてはいけない気がする!
「そっ、それでさ、莉里那が知ってること、良かったら色々と聞かせて欲しいんだけど、駄目かな? 」
「え? 」
キョトンとした妹の顔が、少しの間を置きパァッと明るくなっていく。
「……いっ、いい、良いですよ! そっ、そしたら——」
そこで私は人差し指を立て口元に当たると、わざとらしく涼子さんの方を横目に見ながらに言う。
「ここじゃなんだから、食べ終わったらどちらかの部屋に集合しないかい? 」
すると莉里那《リリナ》は素直にコクコクと頷いたあと、少し逡巡してみせたあとにその口を開く。
「でしたら部屋の片付けが終わりましたら、LINEを……って」
そこで言い澱む莉里那。
そう言えば、私たちは互いのLINEアカウントも知らないのであった。
「用意が出来たらニィーニの部屋へノックしに行きますので、そしたらリリィの部屋に来て下さい」
「わかった」
すると莉里那はおかずを少し残したままの食器を、洗い物をしている涼子さんのところに持っていく。
そしてそのままドタバタと自室がある二階へと駆け上がっていった。
なんとかうまくいったのか?
よし、これからはさらに慎重に行動をして、機嫌を損ねないようにしなければならない。
そのためにもまずは、莉里那の話をじっくりと聞いて、彼女の信頼を得ないと、だな。
そしてその私の前には、オレンジのTシャツにグレーのハーフパンツとラフな格好の莉里那が。
つい先日、数年ぶりに妹の部屋に入ったばっかりなのだが、まさかそれからこうも頻繁にこの部屋へ出入りすることになるとは——。
「——ニィーニ、ちゃんと意識を集中するのです! 」
「あっあぁ、すまない」
そこで私の黒縁メガネが、さっと莉里那から取り上げられてしまう。
「これは罰、なんですからね」
眼鏡を取られたためよく見えないが、どこか嬉しそうに悪戯っぽい声色で私の黒縁メガネをする莉里那が、手の動きを再開させる。
「ほら、この五円玉の動きをよ〜く見るのです」
先程と違い鮮明には見えないが、命じられるまま振り子のように横へと動く紐に吊るされた五円玉の陰を私は目で追っていく。
さてと、今日も催眠術にかかった猿芝居をしなければいけないわけか。
二つ下の莉里那は、私が猿芝居をしていることに気がついていない。私が本気で催眠術にかかりやすいと信じているようだ。
しかしいつからだろう?
八年前に親父が再婚をしたことにより、血は繋がらないが私と莉里那は兄妹になった。
すぐに懐いてくれて私の後をずっと付いてくるおとなしい女の子だったのに、三年ほど前から私に寄り付かなくなり、今では話しかけて来ることも無くなった——。
妹である莉里那《リリナ》は街一番の美少女と噂される中学二年生である。この表現には肉親である贔屓目は含まれていないし、決して大袈裟に言っているわけでもない。
客観的に見て私もそう思うし、また実際に私の友人知人たちに至っては、他の女の子たちと一線を画すほどの魅力が莉里那にはあるそうだ。
恐らくそう言わしめる理由の一つに、戸籍は紛れもなく日本人であるが見た目が普通の日本人ではないことが挙げられるだろう。
愛くるしい大きな瞳に高い鼻筋、そして生まれつき何故か茶褐色の肌に赤味がかった白髪と言う、本当に日本人? と言うか地球の人ですか? と言う二次元レベルのクオリティである造形と色彩をその身に宿している。
そのため莉里那のことを知らない別の街を歩けば、妹を視界に入れた十人中十人が必ず振り返る、別の言い方をするならば嫌でも目立つ稀有な容姿の持ち主であるのだ。
ただそんな人と違った外見をしているがため、莉里那は病を発症してしまっていた。
その病名とは中二病。
小学五年生の頃から『この世界は魔素が少ない』とか、『ステータスオープン』とかのちょっとアレな独り言が増えだし、莉里那が中学に入る前にそれとなく話した時には、彼女は異世界から来た聖女と言う設定になっていた。
その設定は日に日に細かくなっているようで、義母である涼子《りょうこ》さん情報では、自宅に帰るとネットサーフィンで異世界の情報収集を行ない、ひと月ほど前からどうしたら異世界に旅立てるかを相談される日が続いたそうだ。
莉里那は実の母親である涼子さんも異世界人であると疑っていたのだ。
しかしそれは二週間前に解決をした。色白で線が細そうな涼子さんであるが、かなり意志の強い人である。そのため違うと言い張る涼子さんに、ついに莉里那が折れたのだ。
ちなみにそれからは、莉里那は異世界転移した両親から生まれたのではなく、自身が異世界転生をしてこの世界に来た設定になっているらしい。
そして涼子さんがもう一つ心配していることは、莉里那の成績がゆっくり下降してきていることである。
しかし二週間前、涼子さんは異世界関係で莉里那と喧嘩をしている。それを引き摺っている莉里那は、涼子さんの言うことを聞かない。言っても反発をして勉強をせずに、逆に異世界情報収集に精を出してしまう負のスパイラルに陥っていた。
そうして最近、私は涼子さんから莉里那のことで相談されるようになっていた。
昔はどこに出しても恥ずかしくなかった妹が、日に日に内側からダメになっていくのは、兄である私も心配である。
そこで三日前、私と涼子さんは小《プチ》家族会議を行なった結果、とあるミッションを行なうこととなった。
そのミッションとは、私が異世界に興味を示して莉里那に近づき、そこで彼女を煽てながらも勉強をしようねと、少しづつ誘導していく、妹《りりな》補正計画である。
しかしこれには大きな不安があった。
それは私が中学に入ってから話す機会が減り、莉里那が中学に上がってからは、ろくに話した記憶が無かったからだ。
しかも最近、莉里那と涼子さんが喧嘩してからは、意味もなく鋭い眼光で睨まれる事があるというのに、涼子さんは私なら導いてくれると信じて疑っていない。
……成功への道筋が見えて来ないのだけど。
そうしてミッション決行日の晩飯時。
三人でテーブルを囲んで食事をしている中、私は涼子さんが手筈通り先に食べ終わり食器を台所へ持っていくため席を立ったのを見計らって意を決する。
行動しなければ成功率0パーセントである。
とにかく私はやるぞ!
パジャマ姿でテレビを見ながらサラダをムシャムシャ食べている莉里那へ向け、小声で呼びかける。
「莉里那、莉里那……」
私の呼びかけに対して莉里那はすっと目を細めると、こちらを一瞥したあとまたテレビに視線を戻す。
「……なんですか? 」
その遅れてきた妹の投げやりな言葉に傷つきながらも、今回は使命を帯びているため、私はいつものようには引き下がらない。
「実はね、ニィーニも、……異世界に興味があるんだ」
久々に話しかけた事と異世界なんて恥ずかしいワードを口にしたがため、たどたどしい言葉遣いになってしまった。
しかし妹は予想外に食い付いた。
凄い勢いでこちらに首を振り、目を剥いて私を見だしたのだ。
いや、その、途轍もなく凄い迫力であるのだけど。
「……発条《ぜんまい》が動き出した? まさか、メドォレーゼの影響下なのに——」
え? なにか今、頭に入ってこない言葉が妹の口からスラスラ出て来た!?
そこで莉里那は、呆然としてしまっていた私の視線に気がついたようだ。
首をブンブン振った後に冷静さを取り戻し、レタスにフォークを突き刺し口に運んでいく。
しかし依然、小声で何か呟き続けている。
「だから高校から部活を始めたのですね。そう言えばノイズが激しいですし、ダウンロードをし……いやまさか、ゲートが——」
なんか険しい表情で私の方をチラチラ見ながら意味不明な言葉を意味深に言われるのは、ある意味新鮮ではあるのだけど、そのあまりにも未知な領域に不安な気持ちが一気に膨れ上がっていく。
まさか、妹の中二病がここまで進行していたとは。
とっ、とにかく、向こうにペースを握らせてはいけない気がする!
「そっ、それでさ、莉里那が知ってること、良かったら色々と聞かせて欲しいんだけど、駄目かな? 」
「え? 」
キョトンとした妹の顔が、少しの間を置きパァッと明るくなっていく。
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そこで私は人差し指を立て口元に当たると、わざとらしく涼子さんの方を横目に見ながらに言う。
「ここじゃなんだから、食べ終わったらどちらかの部屋に集合しないかい? 」
すると莉里那《リリナ》は素直にコクコクと頷いたあと、少し逡巡してみせたあとにその口を開く。
「でしたら部屋の片付けが終わりましたら、LINEを……って」
そこで言い澱む莉里那。
そう言えば、私たちは互いのLINEアカウントも知らないのであった。
「用意が出来たらニィーニの部屋へノックしに行きますので、そしたらリリィの部屋に来て下さい」
「わかった」
すると莉里那はおかずを少し残したままの食器を、洗い物をしている涼子さんのところに持っていく。
そしてそのままドタバタと自室がある二階へと駆け上がっていった。
なんとかうまくいったのか?
よし、これからはさらに慎重に行動をして、機嫌を損ねないようにしなければならない。
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