幸福論
#1
男は真夜中の高速道路をひたすらに走り続けていた。
目的はあったが、目的地などない。
死ぬのはどこでもよかったのだ。
アクセルを踏む足に力を加える。
男は落ち着いていた。
彼にとって最期という時はなんの特別な意味もなく、ただ、静かに、黙々と、車を走らせながら、'その時'を待っている。
彼の人生に、彼を死に追い込むような出来事があったわけではない。
ただ彼は、ごく自然に、死への決意を固めていたのである。
彼は運転を続ける。
真夜中の高速道路に、彼を阻む車は無い。
カーブに沿ってハンドルを切る。
彼はひとつ舌打ちをして、更に車の速度を上げた。
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