エデンの先

RIKU

七話 希望

ニュースキャスターが自殺した後、街のあちこちで悲鳴や爆発音などが聞こえてきた。アメリカに帰ってきた時の平和は跡形もなかった。一心不乱に人を殺す者、殺人の恐怖に怯える者、狂鳴する者、恐怖に耐えかねて自殺する者、街は殺人と暴動のオンパレードだった。

「これでは空港まで行けるかどうか・・・」

「ならこのままWHO本部まで行って!その方が近いわ。」

もうこの惨劇を止める者は誰もいない。止まることは許されなかった。本部に行くまでに何人も人を轢いた。車は血だらけにりまともに前も見えないくらいだった。でもそんな事は気にしていられなかった。日本に行かなくちゃいけない。その事しか頭になかった。 本部に着いたが本部の人達もまた同じだった。

「もうこの人たちも正気じゃない。 ヘリなんて乗れませんよ。」

「なら 無人機を奪うわ。このまま突っ切るから援護して!」

「あなたも正気じゃないねもう〜」

そう私もまた正気じゃなかった。いつのまにか人の死がなんとも思わなくなっていた。いつからそうなったのだろう? この暴動が始まってから?それともリヤンが死んでから?それとも生まれた時からすでに?リヤンの死を悲しむ暇が無かった訳ではなくもう何も感じないのかもしれない。

「フフフ・・アハハハハ・・」

笑うしかなかった。余程今の方が人間が人間らしい。恐怖を本気で感じている。本気で怒っている。必死になっている。

「これが私の望んだ世界なのかもしれないな。」

これで望みが希望が叶ったと思った。でも私はこれを止めたいと思っていた。

「結局私は本気で世界を嫌ってなんていなかったのか」

そんな事を思った。ただ世界に嫌悪している自分に価値を見出したいだけだったのかもしれない。ただの自己満足だったのかもしれない。私は所詮アンジーを気取っていただけなのかもしれない。でもだから私は"今 "の世界に抗いたい。この狂った世界で全てがどうしようもない世界に抗いたい。そしたらいつか私が本当に望んだ世界が私の価値が見えるのかもしれない。 そんな希望を持って私は走り続け無人ヘリに乗り込んだ。

「ヒャー危ないところでしたねぇ」

「あんな狂った人間に殺されなんてしないわ」

「あなたはこれからどうするの?」

「ほとぼりが冷めるまで何処かに身を潜めますよ」

「そう・・・」

私は名刺を眺めながら考えていた。気がつけばもう太平洋の中腹まで来ていた。

「アンジーの目的は何? 新しい世界って?・・・」




「ねぇこの本知ってる?」

「知らない。どういうお話なの?」

アンジーの肩に少し寄りかかって聞いてみる。

「この物語はねある少年が行方不明になった恋人を探す物語なの。でもどんなに探しても手掛かりすら見つからず結局諦めて自殺してしまうの。」

「悲しい話だね」

「そうね・・でも本題はそれじゃないの。この本はね沢山の人を殺したのよ。」

「本がどうやって人を殺すの?!」

「この物語を読んだ人達が主人公に共感して同情して主人公と同じように自殺してしまうの。」

「ねぇハダリー言葉はね人を殺す力を持ってるの。言葉はどんな銃や刃物よりもずっと恐ろしい凶器なのよ。言葉一つで人の感情を変えられる。言葉一つで人間を動かせる。殺すのなんて造作もない事なの。」

昔アンジーとそんな会話をしていたと思う。今日はよくアンジーの事を思い出す。この事件の犯人の証拠はないが私は確信していた。そしてこれはアンジーが私に何か問いかけているのだと気づいた。

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