五話 虐殺

「ワシントンだけじゃなく 全国で自殺の件数が増えています!」

混乱するWHO上層部。その中に私もいた。

「犠牲者は皆アイサイトカメラを起動したまま自殺しています。」

アイサイトカメラ・・生まれて間も無くに脳に搭載されその人間の思考や体調 見たものを情報化するもの。なおこのカメラの映像は政府も閲覧できる。

「電源を切っていないということはつまり・・・」

「我々政府に見せつけるためかそれともただの気の迷いか」

「そんなわけないだろ!全国各地の人間が合図もなしにほぼ同時刻に自殺しているんだぞ。しかもまだ犠牲者が増える一方だ!さらに言うと犠牲者の間には全く関連のないものもいる。見せつけも気の迷いもありえない！」

少し大柄の男が怒鳴り叫ぶ。

「ここで討論してても仕方ありません。各監視官は調査を進めてください。これは緊急事態です。決して30年前のことを繰り返してはなりません。」

アイシュペクタブルの掛け声とほぼ同時に周りにいた監視官達が消えていく。ハダリーもシャットダウンをした直後に秘匿回線からの通信が届いた。

「秘匿回線とは随分慎重ですね。アイシュペクタブル上等監視官。」

「あなたはリヤン チストレアの自殺を目撃しています。 直ちにメディカルセンターの120時間のセラピーを受けてもらいます。」

「ちょうど5日間ですか・・・オスカーアイシュペクタブル上等監視官。私はその時間を使って戦場を酒場がわりにしていたことやWHOが揉み消してきた事件を洗ってそれを政府に報告できますが？」

「なにを言っているの？そんなことをしてただで済むわけ・・・」

「ないでしょうね。でも私はこの世界が嫌いですからそんなことはどうでもいいんですよ。」

「はぁ わかりました。ハダリーイワンコフ一等監視官 あなたも捜査に加わって頂きます。ただし5日間だけです。それ以上は待てません。」

そう言って通信を切った。

ハダリーは早速リヤンの通話履歴を洗った。すると食事をしていた時間に誰かと通話していたのだ。

「誰かと通話してる？」

フラッシュバックのように思い出す。アンジーの顔。恐る恐るその通話内容を再生してみた。

「・・・久しぶり リヤン聞こえてる？5年ぶりね。今日はリヤンと善悪の善について話したくて電話したの。ねぇ善てなんだと思う？誰かを助けるや誰かを守る？ううん違うそれは善の細かいリテールでしかないの。私はね善というのは価値観が持続することだと思うの。家族という関係が続いたりある物がずっと使われて続けるために何かをする事だと思うの。でも永遠に続くものなんて存在しないの。だから善というものは初めからなかったのよ。私達が普段言っているの善は偽物 偽善でしかなかったのよ。それでも頑張って続けようとする人の心が私は善の本質だと思うの。でもこの世の中には悪が存在しない。悪が存在しなきゃ善を感じることはできない。私はこんな世界を変えたい。永遠だと思っていた人間どもに罰を与えたいの。ねぇリヤン 私に協力してくれるよね。約束したもんね。 だから今その約束を果たして。私に勇気を見せて。」

レストランの風景が浮かぶ・・そしていつのまにかアンジーが目の前にいた。アンジーの言葉はとても力強いものを感じた。私はいつのまにかナイフを自分の首に向けていた。抵抗しても腕が止まらなかった。そして私の首を貫いた。

「うぅ　︎　︎・・・」

風景はいつのまにかホテルの部屋の風景に戻っており自分の拳が喉を抑えていた。恐怖と同時に一つの確信が生まれた。

「アンジーは・・生きてる」