サブキャラですが世界と戦います
おれの親友
「おーおー、随分と立派なミイラ男ですこと。キブンはいかが?アオさん」
さて、とオレは軽くため息をこぼしながら目の前の包帯がぐるぐる巻かれた親友、アオに声をかけた。
「…」
「どした?」
「能力が…」
「うん」
「明らかにサブキャラだった…俺は定められないから逃げられないのか…」
「…はぁ〜」
いつも通りのアオに、ついため息がもれる。やっと能力を手に入れたというのに…
そう、オレ達は無能者「だった」。最近、本当に最近、1週間ばかり前にオレが、そして今日親友もめでたく能力者の仲間入りを果たしたのだ。
この、高校2年生の始め辺りに。
まぁ、そういうことだ。オレは、いや、オレ達は高校に入っても能力が発症しなかったんだ。
別にオレも親友も自殺する気も親に迷惑をかける気もなかったけど、政府からの罰を恐れ親は能力が発症しなかったオレ達に怒りをぶつけてきた。
学校ではいじめられ家では蔑まれる。特に細い神経を持ってるようなオレ達ではなかったが流石に応えていたところに、オレが能力を発症させた、いやさせてしまったんだよ。
それにより掌をくるりとそれまた驚くほど鮮やかに翻した親にオレはもうほとほと愛想が尽きていて、それからはただただ親友の能力が発症することを願っていた。
能力が発症した日に、オレはグチュグチュと化膿して腐りかけの傷口に清潔な包帯を巻いて登校した。そして前の日のオレと同じような傷を晒した親友に
「早く能力を発症させて、語り合おうぜ、親友サン」
なんて、空元気の言葉をかけたのが思い起こされる。
能力が発症したオレは、自由になった体で、あちらこちらのサイトや本を漁り、無能者の能力発症率を調べた。
でも、それは100人に1人ほどという、オレと親友、どちらも発症するにはかなりの豪運を持たないといけないような確率で。
もうダメなのでは、と暗い感情が心にかかり始めた今日この頃。親友があのみたくもないような傷に、清潔な包帯を巻いて登校してきたのだ。
その瞬間、安堵が胸に広がった。この世界になってから無能者はとても分かりやすくなったのだ。高校生ほどの少年少女が酷い傷を晒して歩いていたらそれは十中八九無能者で。
無能者に手当てを受ける資格など無いのだ。
「アオ、アオ。オレの親友。ほんとに、ほんとによかった。あんしんした。お前が…いなくなったらって…」
安心、いつも通り。その安堵感に閉じ込めてた感情が溢れ出す。
「おい、ムラサキ。親友さん。俺はホモじゃないし、やわじゃない」
「でもっ!」
「でもじゃない。まったく仕方ないな…おい、ムラサキ、よく聞け」
言い聞かせるような、まっすぐな声。
「俺は、お前が1週間前、能力を発症させて、あぁ、そろそろだって思ったんだ」
今度は、息に信頼を乗せたようなココロに響く声。
「俺とお前は親友で、俺はお前を信じてる。こんな主人公じみたことを言うのもなんだが俺はお前が能力を発症させて安心したし…」
涙が溢れる。
「言い表せないけど、お前を信用してたから、お前が語り合おうっていうから、だから俺は安心してた。すぐに俺も発症するって。だから、殴られても罵倒されてもなんともなかった。だからな」
彼は少し照れたようにニヒルに笑っていて
「支えてくれて、ありがとう。俺の大親友サマ」
あぁ、オレの親友。アオ。オレだってお前を信じてたよ。でも、信じてても不安なんだぞ…?待つ側の、支える側の気も知らないで。
「…ほんっとに、バカでアホの親友なんだから…」
オレだって
「む、こんな頑張って主人公っぽいことを行ったというのに」
「うるさい。全く、アオはアオなんだから。しゃーない、ご希望どうり話ますか」
「?何をだ?」
オレだって支えてもらったし、信じてたよバカヤロー
「語り合うんでしょ?ネ、オレを信じてくれてた親友サマ」
目も赤くて声も震えてたけど、でもいつもどうりだ。いつもどうり、笑って話して。
「…あぁ、そうだな。存分に語り合おうか」
アオが笑ったその時。やっとあの中学三年生で止まっていた、オレ達の日常が動き出したんだ。
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