勇者が救世主って誰が決めた

えう

81_少女と勇者と好きと大切

 交易都市アイナリーの北門。
 まだ陽も顔を出して間もなく、行き交う人々も疎らな大通りを背に……ぞろぞろと門を潜る一団があった。

 朝も早くから北門を潜り抜け、そのまま北上していく街道をひた進む一行。全員がもともと旅慣れしていたこと、(若干二名を除き)ほぼ全員が馬の扱いに長けていたこと、また所帯の戦力が極めて高かったことなどから…………一日目の行程は非常にスムーズに進んでいた。

 その日の目的地であった、街道沿いの野営施設が近づくにつれて。ネリーとシアは積極的に周囲へと目を光らせ、食用に適する植物や美味とされる小型の魔物を……採ったり獲ったりしていた。


 それを興味深そうに見つめていた獣人族セリアンスロープの狙撃手――カルメロ。
 着々と食材調達をこなしていく二人に思うところがあったのか……やがておずおずと切り出した。



 「従者様は、目がとても良いのですね。……ああ、その子の視界ですか?」
 「ん? ……ああ、そうだ。シアの眼に掛かりゃあ獲物なんざ一発で素っ裸よ」
 「ぴっぴぷぴょ」

 馬の背に跨り、更にシアを肩車していたネリーは慎ましい胸を得意気に張る。それによって頭上のシアが大きく揺れるが……シアはバランスを取りながら周囲を見回しながらご機嫌にさえずるという……なんとも器用な真似をしてのけた。
 アーロンソの眷族である鳥たちと賑やかに………というよりはかしましく歌っているシアを見遣り、カルメロは大仰に頷いた。

 「人鳥ハルピュイア……凄まじい、ですね。……僕も普段は極力現地調達してるんですが……見つけるところで難儀して……」
 「へー、あんたも狩り役? ………じゃあ、アレ。仕留められる?」
 「アレ……? …………あ、あぁ………見えました。……凄い、本当よく気付きますね。………エクステンド感覚強化ヴィズ視覚……イル在れ

 しきりに感心しながらも、背中から弓を下ろし構えるカルメロ。馬を止め、矢をつがえ、弦を引き絞り、顔の横に付け、獲物を凝視し………そして魔法を織った。


 「……誘導トレイク指標マーカ。……在れイル。………捕まえた」
 「…………へぇー、面白いな」


 カルメロの用いた魔法。それは任意の座標、目視した一点に……不可視の『マーカー』を指定するうちこむもの。それ自体には実体も攻撃力も無く、単純に『固形化された魔力が貼り付いてる』程度。別の魔力をぶつけられれば容易く破壊されてしまう……それだけではなんの意味も持たないもの。
 逃走する対象にマーカーを打ち込み、追跡に利用することなどに用いられるが……一射の姿勢を崩さない彼の、次の手を察し……ネリーは感嘆の声を溢した。


 「……疾れラフ


 ぼそりと呟いたカルメロの声に応えるかのように、まるで矢が意思を持つかのように放たれ空を翔け……

 魔力のマーカーが打たれたその箇所へと、寸分違わず深々と突き立った。


 左目から頭部へと突き刺さる、一本の矢。
 明らかな致命傷を負った篦角鹿ムースの仔は、あっさりと倒れ伏した。


 「……見えれば、早いんですけどね」
 「…………すっ、げ」
 「ぴー、ぴ」

 肩をすくめ、苦笑するカルメロだったが………ネリーは今しがた披露された一矢、曲芸まがいの超長距離狙撃に唖然としていた。
 その距離……実に三〇〇m。射程と貫通力に優れる複合弓コンポジットボウとはいえ、とりあえず水平撃ちの射程距離では無い。放物軌道で放ったとしても、この距離に届かせるのは極めて困難な筈だ。
 正直、こうも容易く仕留められるとは思っていなかった。課題を自分で振っておきながらも……ネリーは驚きを隠さない。

 同族エルフ達の……弓を用いた狩猟を多く見てきたネリーから見ても――彼の技能、そして誘導魔法と矢を結び付ける応用力は――称賛に値するものであった。



 ………………


 そうして、ネリーがカルメロに感服し。
 またカルメロもネリー達の視野に感服している頃。


 一団の反対側、獲物を拾うため脚の遅れたネリー達と離れた位置には…
 三名の獣人族へと、しきりに人材の営業を掛ける……小さな女の子の姿があった。


 「あれ、あるたー、です。つよい、ゆうしゃ。いいひと、です」
 「ほお…? 『イイヒト』か! 何所まで行ったんだ? 何発ヤった?」
 「んん? んい……あるたー、いいひと。……ど、こ? まで?」
 「めとけテオ。年齢を考えろ」
 「あの……あにさま……」

 三頭の馬に跨る、四人の男女。赤毛の少女が操る馬に相乗りになり、『勇者』ヴァルターの宣伝に勤しみ熱弁を振るうノート。
 耳を傾けてくれている三名に辿々しくも……懸命にプレゼンテーションを行っていた。

 「ゆうしゃ、いっぱい、ひと、たすける。………んい。まもの、たおす、つよい。……いい、ひと。すごい、ひと」
 「そっかそっか。そんなイイヒトなんか」
 「テオ……その下卑た笑みを止めろ」
 「……あにさま………また変なことを……」

 彼の武勇伝エピソードや人柄――気配りの細やかさや優しさ等をたどたどしい言葉で懸命に伝えようと………いかにヴァルターが『勇者』として相応しい人物なのか、自分ではなくヴァルターこそが勇者なのだと刷り込もうとしていたのだが。

 姿かたちは未だ幼げな少女であるノートが、息も荒く異性を……勇者たる青年を褒め称えるその様子は。

 会って間もない第三者の目には………果たしてどう映るのか。


 「………慕って、いるのだな。勇者殿を」
 「? ?? ……した、て? いれる?」
 「下に手を挿入れると来たか!」
 「あにさま黙って下さい!!」
 「勇者殿のことを憎からず…………む? 好ましく…………ううむ、…………勇者殿が、大切なのだろう」


 ――勇者が、大切。
 拙い言葉遣いのノートに合わせ……可能な限り解りやすい言葉を選んだ、アンヘリノの指摘に。

 「………んい。やうす。……ゆうしゃ、たいせつ、わたし」
 「成程……やはり流石は勇者殿、か。……斯様な幼子にも好かれるとは」
 「………ノートさまは……勇者さまが………好き、なのですね」
 「? ? わたし、ゆうしゃ……たいせつ………す、き……?」
 「すぐ恋愛に直結するオマセなアーネこそ兄ちゃんどうかと思うぞ」
 「あにさま……! もー!!」


 また始まった…とばかりに温かな表情で兄妹を見守り、苦笑を溢すアンヘリノ。なんだかんだで二人はよく似ているのだろう。兄からの野次と大男からの苦笑を受け、顔を赤らめ反論を試みるアイネス。
 ……その背後には。


 「す、き。………わたし、ゆうしゃ、たいせつ。……たいせつ、すき」

 与えられた情報を必死に整理し………自分の立ち位置を再認識しようとするノートの姿があった。



 その認識が、本人の意図しているものとは若干ズレていたことを………

 『大切である』ことと『好きである』ことは全く同一イコールでは無い、ということを……

 指摘できるものは、誰も居なかった。

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