勇者が救世主って誰が決めた

えう

69_無神経な少女と従者の被害

 ーー目が醒めた。


 朝の気持ちのよい微睡みを一瞬で霧消させる『その報せ』に血の気が引いた。昨夜の自分を恨むと共に、思わず苦々しい表情を浮かべずには居られない。

 少なからず心配はしていた。懸念もしていた。しかし何も出来なかった。『だいじょうぶ』を連呼する彼女にとうとう根負けして説得を諦めてしまったが故の、この有り様。

 何よりも本人の意思を尊重しようとした、その考え自体が誤りであったとは思いたくないが……現にこうして被害が出てしまったのだ。



 顔つきも体つきも華奢で可愛らしいからと……やはりそれだけで判断すべきでは無かった。
 容姿がどうてあれ、あの子は『男』。オスなのだ。……あんなにも可愛いお嬢と床を共にして何も仕出かさない筈が無い。



 「待て。ネリー落ち着け。少し待て」

 離せ馬鹿。これが落ち着いていられるか。お嬢の貞操の危機なんだろう。
 そもそもお前は何故何もせずに帰ってきたんだ。子ども同士の行為なんてロクな結果にならない。どう考えても止めるべきだろう。あの子の将来がどうなっても構わないってのか。

 「そうじゃない。だが」

 だが何だ。違うってのか。何が違うんだ。こうしてる間にもお嬢がメアに襲われて

 「だから逆だ。逆なんだ」

 逆が何だ。逆だと言ってもお嬢の危機に変わりは




 …………逆?




 「な、ん………どういう……?」
 「だから…………逆なんだ。……メアノート襲われてたんだ……」
 「………………は?」



 眠気は、跡形もなく消し飛んでいた。



 ………………………………



 ところ変わって、隣の部屋。
 お嬢……ノートが引っ越し居を構え、昨晩からは同居人が増えた二人部屋。

 私とシアの部屋と同じ間取りの空間では…………現在とある事件の取り調べが行われていた。
 丸テーブルを挟んで向かい合い、それぞれ椅子に腰掛ける二人の人物。緊張した面持ちの少女と、唖然とも呆然ともとれる複雑な表情の青年。
 二人の人物は、その姿勢もまた対照的であった。




 「……つまり」

 検察官……もといヴァルターが目眩を抑えるように俯き、絞り出すように声を発した。

 「………つまり、何だ。朝起きてメアの服を剥いて、二人して素っ裸で階段を下りて、こともあろうに男性用浴室に入り込み、鍵も掛けずに入浴していた、と。…………そういうことか?」
 「は……はい…………」
 「……お嬢………おま……おま………」


 容疑者ノートは背筋をぴんと伸ばしてガチガチに強張らせ、お行儀よく椅子に腰かけている。一応自分のしでかした事の重大さを理解し始めたようで、表情も固く冷や汗を垂らし始めた。
 被害者である少年、メアは……寝台の端に腰掛け、真っ赤な顔で俯いたまま。目じりには涙すら浮かび、肩を震わせる弱々しいその姿は…………とても少女を襲うような存在には見えなかった。

 思わず、彼の頭を撫でる。なされるがまま、一切の抵抗を放棄するこの幼子は、やはりどう見ても無害。
 先程までの自分を……恥じるしかなかった。



 「……ノート。一応、聞こうか。…………何で、こんなことをしたんだ?」
 「…………んいい……んい…」
 「何で、メアの……その…………メアにあんな……酷いことしたんだ?」
 「んい……わ…わたし……んい…」

 取り調べを続けるヴァルターに、独特のうめき声をこぼしながらも沈黙を続けるお嬢。しでかした内容が内容なだけに、言いづらいのは解らないでもないが……ならば尚のこと、あの凶行の理由が解らない。マジで意味が解らない。
 四人の視線が集中する中……とうとう俯き、黙り込んでしまった。これは長引きそうか。


 「……ヴァル。私ちょっと下行ってくる」
 「ん? どうした?」
 「おっちゃんに朝メシ遅れるって伝えてくるわ」
 「!! め、めし……ごはん!?」
 「…………やっぱイイコト思い付いたわ」
 「よく解らんが……任せる」
 「おう。任された」
 「ね、ねりー……ごはん………?」



 不安でたまらない…といった表情でこちらを見つめるお嬢を尻目に、部屋を出て一階へ降りる。泣きそうな顔のお嬢はとてもソソるが……少しの我慢だ。
 階段を下りてすぐ右手、従業員室の扉を叩き、出てきたおっちゃんに要望を伝える。朝食の準備で忙しいだろうに、どこまでも人の良いおっちゃんは二つ返事で了承してくれた。


 ……もっと心付けチップ弾まないとな。



 ……………………



 それからしばらくの後。

 秘密兵器を手にお嬢の部屋に戻ってくると………お嬢がテーブルに突っ伏して泣きじゃくっていた。
 待て。たった数分だぞ。何があった。

 「おいヴァルテメェ!! お嬢に何しやがった!!」
 「何もしてねえよ!! なんですぐ俺のせいになるんだよ!!」
 「んい… ごはん…んいい……」

 うわごとのように『ごはん』を繰り返すお嬢。おおかたヴァルターが『ちゃんと説明しなければごはんはお預けだな』とか口にしたのだろう。
 何よりも食事を楽しみにしているこの子にとって……それは致命的とも言える一撃だったのだろう。顔をくしゃくしゃにして嗚咽を漏らしている。


 ………これならば効果は期待できそうだ。

 これより……尋問を開始する。




 「シアこっち。お嬢のおひざ、な?」
 「ぴぴゅ」
 「んい……?」

 寝台の上にぺたん座りしていたシアが、ちょこちょこと可愛らしく歩を進める。 
 何事かと身構えるお嬢の膝上。子どもらしく無駄な脂肪のない太ももに、柔らかい羽毛で覆われたシアのお尻が乗っかる。

 「ふああ……ふああ……」

 とろんとした顔で熱い吐息をこぼすお嬢。……私は知っている。もこもこ羽毛で包まれたシアのお尻は温かく、ふわふわ柔らかでとても気持ちが良い。
 むき出しの太ももに乗っかられると、非常に癒される。シアはとても軽いので負担にもならない。存分に至福の感触を味わうことが出来るのだ。

 「どうだお嬢。シアのお尻サイコーだろ?」
 「んい……ふわふわ……あったか……」
 「ぴぴ。ぴちちち」
 「よーしよしよし。シアお嬢の腕抑えとけ」
 「ぴっぴゅ!」


 お膝に乗られるだけでは満足できず、腕を回して抱きつき、身体全体でシアの体温を満喫している様子。
 口をつぐんで黙秘を決め込んでいたお嬢は目論見通り、今やすっかり骨抜きにされてしまっている。



 …………ここまでは計画通り。


 「お嬢、大変だな。………動けないよな?」
 「んん…………んいい……」
 「ぴぴ? ぴゅぴぴ」
 「……んい……うごけ、ない」
 「ぴぴゅぴゅ」

 そうだろう、そうだろう。

 シアの身体……全身ふわふわあったかの魅力にぞっこんしてしまったが最後。生半可な覚悟では、この誘惑から逃れることは出来ないだろう。


 ……そこで、これ・・の出番だ。



 シアによって椅子に拘束され、身動きが取れない容疑者ーーノート。

 彼女の視界に入らないよう、つい先程配備された秘密兵器・・・・をこっそりと籠から取り出して彼女の鼻先に掲げると………



 お嬢ノートが壊れた。



 「あ…………ぁああ……、 ああ……ああああ……!」
 「どうだお嬢。おっちゃん特製サンドイッチだぞー。燻製肉とチーズとタマゴのボリューム満点サンドイッチだぞー」
 「んぃあ…………っあぁ……ぃあああ………ぁあぇ……っい………っんぃぃ……」


 焼きたての具材と軽く熱を加えたバンズ。食欲をそそる香りと見るからに美味しそうな断面。
 それらは柔肌を幸せな感触で満たされ感情が昂っているお嬢の精神を、情け容赦なく打ち据えていく。


 彼女の視線は私の手の先、眼前のごちそうに釘付けだった。



 「んひ……っ、んひいぃぃ…………」


 可愛らしいお口を中途半端に開け、紅潮し熱に浮かされたような顔で、言葉にならない声を漏らすお嬢。
 私は当然、彼女の口に届くか届かないかの距離を維持しつつ、最終兵器サンドイッチをさ迷わせる。

 彼女の意識は今や、目の前のごちそうにそのすべてが注がれていた。
 とろんと溶けたような目元と声色は…………控えめに言って、とても興奮する。


 「…んん………んひっ…………」
 「ふふ……よく耐えてるようだが……我慢の限界のようだな。いやらしくお口を開きやがって……こんなにもよだれが溢れてるじゃねぇか……」
 「んひ、んぇあぁ………やらぁぁ……」
 「…………」
 「ホラホラ、コイツが欲しくて堪らないんだろ? コイツをお腹の中に入れちまいたいんだろ? 我慢しなくても良いんだぞ? ……どうだ、欲しいか?」
 「んい、…………ほしぃ……ほしい、のぉ……」
 「…………」
 「くくく………だんだんと正直になってきたじゃねぇか……良い子だ。……さぁて、コイツが欲しいなら……解るな? 何て言えば良いか、解るよな?」
 「……んぃ……んぃぃ……わた、し…わたし……は…………んいぃ………」
 「…………ノリノリだなお前」


 暴力的なまでに美味しそうな香りと、思考を溶かし眠りに誘うかの如きシアの抱き心地に……


 ついに彼女は陥落した。



 …………………………




 洗いざらい全てを吐露し、シアと並んで寝台に腰掛け泣きながらサンドイッチにかぶりつく、今や全ての戒めから解放されたノート。彼女が先程供述した内容を反芻し、がっくりと項垂うなだれる三人。

 一連の事件……メアの貞操と尊厳が弄ばれた、痛ましい事件の犯行理由は…………とても釈然としないものだった。


 供述は、ヴァルターの剣が持つ伝達魔法を通じて行われた。
 ノートの伝えたいものを表す単語を、彼女はまだ学習していないらしく、私たちの言葉による事情聴取は難航すると思われたためだ。

 そうして聞き出した内容は…………ひどいものだった。



 思い通りに通じる思念で……忌憚の無い意見を聞いた結果。

 彼女は………その……………


 自分の股間には存在しない、ヴァルターやメアの股間にぶら下がっているものが…………『うらやましい』と、

 男性器が羨ましいと。
 そんなことを……言ったのだ。



 「…………どういうことだよ……なんであの子は『チンチン羨ましい』とか言い出すんだよ……」
 「………………俺が知るか……」
 「すみません…………すみません…………」
 「いや私こそ………はぁ…もう訳分かんねぇ……何でチンチンなんだよ……」



 そう……こともあろうに男性器チンチンである。
 年頃の女の子ならば忌避したり避けたり、嫌がるのが真っ当な反応であろうに。

 「羨ましいとか言ってる分にはまだ良い……いや良くないけどよ…………とりあえず、なんとしてもこのあたりで止めるべきだろう。あんな儚げな美少女が『ちんちんほしい』とか口にしてみろ。戦争が起こるぞ」
 「お前はもう少し恥じらいってものを持たねぇのか」
 「何言ってんだ? そんなモン私に期待すんなよ」
 「期待とかそういう意味じゃねえよ! 周りが困惑すんだよ! お前だって一応女の子だろう! ほら見ろメア顔真っ赤じゃねえか!」
 「私のせいにすんな! あと一応って何だどう見ても可愛いエルフちゃんだろ! それに女の子がチンチン言って何が悪い! 男だってオッパイ言う癖によ!!」
 「今はそんな話じゃ無ぇだろ!! 教育上良く無ぇって話だ!!」


 はっ、と思い至り……今は幸せを堪能している筈の少女を見遣る。
 朝ごはんを咀嚼し、ゆっくりと嚥下し、きょとんとした愛らしい表情で首をかしげ……



 「んい…………ちんちん?」
 「ぴゅっぴゅい?」




 ぎぎぎぎ、と……軋む音が出そうな様相で首を回すと…………ヴァルターの咎めるような視線とぶつかった。
 いや……ような、では無い。これは確実にお咎めの視線だろう。


 「ネリーお前………取り返しのつかないことをしてくれたな……」
 「いや…………その……」




 やってしまった。

 「んいい…………ちん、ちん? ふぃにえ、えす……ちんちん? んい! やうす!」

 彼女に言葉を……男性器ちんちんを示す言葉を与えてしまった。


 「………ヴァル……」
 「……………責任持って躾けろよ」
 「…………………ウッス」


 この子の周りは……一体どうなってしまうのだろうか。

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