勇者が救世主って誰が決めた

えう

xxxx_02__xx40_12_19

 「君は、どうしたい?」


 僕の目の前に立つ緋色の悪魔は……突然呟いた。






 魔王城。人類に仇なす、巨悪の巣窟。
 生きとし生けるもの全ての敵。我々が心命を賭して討ち滅ぼさなければならない、この世のありとあらゆる諸悪の根元。意思を持った災害。動く天災。破壊と殺戮の権化。
 『魔王』。……その、居城である。


 未だ周囲には轟音が響き渡り、多数の砲火が空を赤く染め飛び交っている。一つ、また一つと空翔ぶ船が赤黒い華を咲かせ、続々と射落とされていく最中。
 その戦場にあって、文字通り桁違いの巨大さと威圧感。比肩するものなど存在し得ないとばかりに堂々と空に浮かぶ……その巨城。

 揺るぎない守りと絶対の制圧力を誇る、魔王軍の総指揮砦にして総旗艦・・・



 その最上部…発令棟にて、僕達・・は対峙していた。





 「聞こえているかい? 思考を巡らせることくらいは出来るだろう? それでは、改めて訊こう。……は、どうしたい?」
 「何をワケの解らないことを!! は勇者だ! 貴様を倒し、全ての人々に救いをもたらすことこそ我が使命!!」



 僕の口が……思ってもいない言葉を口走る。


 …なにが『全ての人々に救いをもたらす』だ。我が口ながら虫酸が走る。
 それが世迷い事であることを……むしろおまえのせいで不幸になった者達がいたことを………
 そしてそれを知る者が………最早殆ど生きては居ないことを、僕は知っている。



 「魔王よ! 貴様の悪しき野望もここまでだ!!」

 だが僕の口は相も変わらず、僕の意思とは無関係に……薄っぺらい台詞を好き勝手に喋る。


 見たところ……というか見るまでもなく、目の前の魔王の力は強大そのもの。挑み掛かるのも馬鹿馬鹿しい程だ。正直逆立ちしたって勝てっこない。
 これまで僕と寸分違わず、全く同じ場数を踏んでいる筈なのに……何故こいつは解らないのだろうか。巻き込まれる僕のことも少しは考えてほしい。……望むだけ無駄だが。

 どうせ今までと同じだ。僕は為す術なく殺され……しかし死ねず、蘇り、修復(回復)と強化(レベル上げ)を施され………そして無謀な突貫を繰り返すのだろう。


 何度でも。何度でも。

 魔王を倒すまで……何度でも。



 ……バカみたいだ。
 いつになったら終わるんだ。
 魔王が僕……いや、あいつごときに倒せるものか。
 一体いつまで付き合えば良いんだ。
 もう……何もかも疲れた。


 『君は、どうしたい?』……か。
 そんなのは決まっている。



 僕の望み。…もし叶うのなら。


 ……全て。全てを・・・終わりに・・・・してほしい・・・・・





 そのとき……人類の怨敵『魔王』が。

 微かに、だが確かに、………笑った・・・



 「…………成程。ふふ、よく解った」
 「もはや何も語るまい! 魔王よ! いざしょう
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――










 ………………………



 ………………………………え?



 回りの音が、魔王の声が、自分の声が、…………消えた。





 発令棟の窓の外……先程まで絶えず砲火を上げ続けていた対空砲座も、その砲口から吹き出した光も、敵の船から放たれた砲火に翼を撃ち抜かれた翼竜騎兵も、


 目に見える何もかもが、ぴたりと動きを止めている。


 勿論自分も………魔王さえも、微動だにしない。





 『御機嫌よう。……はじめまして、かな?』


 あまりにも理解し難い状況に混乱しきった頭に、突如として聞きなれない声が響いた。


 『私だよ私。目の前に立っているだろう? いやーいやー……やーっと捉えることが出来たよ。苦労したんだ』



 目の前。立っている。……私。



 まさか………この声の主は、魔王だとでも言うのだろうか?


 『その通りだよ? 『はじめまして』で合っているよね、ドライツェーン。……実は、君には前々から目を付けていてね。………ああ、突然すまない。混乱していることとは思うが……一度、どうしても落ち着いて話がしたかったのでね。少々強引だが招待させてもらったよ。……あ、何か言いたいことがあったら遠慮なく思い・・浮かべて・・・・ね。大丈夫、ちゃんと拾うから』


 あっさりと正体を明かし……その上いとも容易く僕の思考を読み取って見せた、魔王。
 その声は、目の前の緋色の悪魔の……恐怖の代名詞『魔王』のイメージから掛け離れた……何か楽しみなイベントを心待ちにしている少女のような………若々しく弾んだ声だった。



 『私が名乗らないのも不公平だよね。ご存じの通り、私は『魔王』。人呼んで………魔王プリミシアだ。可愛い名前だろう?』


 名前で呼ぶヒトなど居ないけどね、と魔王は笑う。
 確かに、色々と魔王らしくはない。名前といい、割りと軽い口調といい……この悪魔然とした見た目からは、にわかに信じがたい。


 『まあ、この魔王ってただのガワだからね。操り人形的な。影武者的な。本来の私はもっと可愛いよ』


 ………影武者にすら、敵わないのか。
 そもそもこんなことを平然とやってのける存在だ。初めから勝ち目など無い。
 最早抵抗するだけ無駄だろう。もとより僕にできる抵抗なんて無いのだが。

 自分の身体すら思い通りに動かせない………そんな無力な僕に、魔王自ら何の用なのだろう。
 降伏勧告だろうか。出来るものなら即受け入れたいのだが。


 『えっ本当? 本当なら話が早いんだけど………』


 受け入れたいのは山々だが。
 ……しかしながら、僕の身体は僕のものではない。たとえ僕の意志が魔王に下ったとしても、指揮者プレイヤーはそんなこと一切気にせず、魔王を倒そうとするだろう。
 僕の意思など関係ない。
 考えるだけ無駄。頭を使うだけ無駄なのだ。


 それでも…アイツらをどうにかできるというのなら。

 そのときは魔王だろうと、たとえ悪魔だろうと。
 ……喜んで魂を売ってやる。


 『そのへんは大丈夫。考えてあるから。………じゃあ、そうだね。改めて聞こう』



 (自称)魔王の言葉は、勿体ぶった様子で口調を改めると……


 そして運命の問いを、口にした。





 『私と一緒に、このクソッタレで下劣で最悪な世界を………ブチ壊す滅ぼす気はあるかい?』





 某年。………十二月、十九日。

 その日、あまりにもあっさりと……



 世界の命運は、決まったのだった。

「勇者が救世主って誰が決めた」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く