勇者が救世主って誰が決めた
47_衣類と雑貨と実用性
可愛い子には、可愛い格好をさせたい。
それは……私に限らず、世の可愛い物好き達の恐らく総意であろう。
いや勿論、この考えを他人に無理強いするつもりは無いし、ときと場所に応じては臨機応変さを備えるべきだとは思う。
さすがの私も…森や洞窟に赴くときに薄っぺらいイブニングドレスなどを着てこられたら……いくら可愛くても精神を疑わざるを得ない。その場でひん剥いてやる。
だが……街中で過ごすときくらいは、可愛い格好をさせても罰は当たらないのでは無いだろうか。
そんな下心が、知らないうちに口から漏れ出たのだろうか。
服飾店を後にしたノートの格好は私たちの意に反して………
言い方は悪いが、非常に無難な格好だった。
……数刻前。
やけにやる気に満ち溢れた店員達と、彼女に似合いそうな服をあれこれ勧たものの……それらには頑として首を縦に振らなかった。
宥めすかしてなんとか試着にこぎつけ、いっときの幸福を得ることまでは出来たものの…とうの本人は可愛らしい顔を不満げにしかめ………購入までには至らなかった。不機嫌そうな顔も可愛らしくはあったのだが。
斯くして、我々の一押しだった花柄レースに彩られたブラウスは、綿生地の丈夫そうなチュニックへと姿を変え……彼女の動きに合わせて靡く淡い桃色のフレアスカートは、これまた頑丈そうなショートパンツへと、無情にも姿を変えた。
せめてこれだけは、どうかこれだけはと……渋る彼女に半ば懇願するように羽織らせた、露草色の可愛らしいケープ。
その一点が……双方の妥協点だったようだ。
意にそぐわないであろう可愛らしいケープを被せられ、難しい顔で鏡と向かい合ってくるくる身を翻すノートをよそに……
次は絶対に可愛らしく着飾ってやろうと、店員たちと密かに…決意を新たにしたのだった。
その間ヴァルターはずっと所在なさげにしていた。
手持ち無沙汰だったヴァルターに戦利品を……ノートの予備の服を持たせ、服飾店を後にする。時間は限られているのだ、商店街が本格的にごった返す前に用事を済ませなければ。
しかしながら……一体どういうことか、可愛らしい服を微塵も着たがらない彼女。この子くらいの年頃であれば、そろそろおしゃれにも気を使い始める頃なのではないのだろうか。よく知らないけど。
…にもかかわらず彼女が採決した衣類は、予備も含めて現在着ているものと似たり寄ったりだった。
……要は、華がない。
良く言えば、実用性最重視。
肩に羽織るケープで無理矢理誤魔化したものの……このままでは我々のNKP(ノート着飾りプロジェクト)は失敗に終わってしまう。
今日は無理でも、少しずつ彼女の牙城を攻略して行かなくては。
未だに落ち着かない様子でケープを翻し、くるくる回っている彼女。白く煌めく髪を靡かせ舞うその姿は、贔屓目に見ても神秘的。かつ可愛らしい。
……当然のように、目を引く。
とうの本人の関心をよそに、目を見開いて硬直する周囲の人々。そんな彼らに勇者共々軽く会釈をすると、それで大体の事情を察してくれたらしい。
皆一様に暖かな笑みでもって、可愛らしく踊るノートを……天使ちゃんを見守っていた。
………………
靴ともなると、服飾以上に実用性が如実に出てくる。
可愛らしい靴を履かせよう作戦は、案の定水泡に帰した。
可能な限り粘ってみたものの……実用性重視という彼女のスタンスは、ついに崩せなかった。
服飾店で時間を使いすぎたため、この時点で既に陽は傾きつつあった。当初考えていたよりも大幅に押してしまったため、分担して買い出しを行うことにした。
水筒やカップ等の雑貨類をヴァルターに丸投げし、私とノートで靴を探しに来たのだった。
結果として……可愛い靴は認められなかったものの、とりあえず彼女のお眼鏡にかなう靴は買うことが出来た。
今まで履いていたものよりは……サンダルを無理やり合わせたような履物よりは、随分と動きやすそうだ。
だが、私と……恐らく勇者は気づいていただろう。
一時期よりも幾分改善しているものの……彼女の足取りが、相変わらずどこか覚束ないことに。
以前……とはいえたった数週期前のことだが……蟲の毒に足裏を灼かれたことによる後遺症だろうと、周りは判断していた。鎮痛魔法で幾らか誤魔化しているのだろうが、やはりそれでも違和感は拭いきれないようだ。
普段は何でもないように振舞っているが、時折誰も見ていないようなところで顔をしかめているのを……私は知ってしまった。
この子にとって、靴擦れは他者以上に苦痛なのだろう。彼女の足の形に合わせたオーダーメイドでも頼んでみたほうが良いかもしれない。
いっそのこと脚甲と併せて注文しても良いかもしれない。
この子は見た目こそ可憐で華奢で、どう見ても守られる側なのだが……その中身は恐らくこちら側、他者を守りたがる側の人間なのだということも、私たちは知っている。
「お嬢どうだ? 履き心地いいか?」
「やうす! やー! んい……あり、がとう!」
「よしよし。お嬢ホント可愛いなぁ……何で可愛い服着ないんだ? 絶対似合うのに…」
「んんん……んいい………」
ノートの頭を撫でながら、商店街を歩く。
既に夕方。家路につく人が多いのか、人通りも激しくなってきた。はぐれないようにしなければ。
ふと、左手に刺激を感じる。
目をやると……ノートが私の手を握り、じっと見上げていた。
「ど……どうした? お嬢」
正直、堪らない。ここが往来で無ければ、思わず抱き着いていたかもしれない。
「ねりー」
「なんだ? どうかしたか?」
何かを考え込むように、じっとしている彼女。
やがて意を決したかのように、その小さな唇を開いた。
「んいい……ねりー、は、……わたしが、かわいい、ふく………すき?」
「勿論! あ、いや……多分皆そうだぞ。お嬢が可愛い服着たら……多分みんな喜ぶ」
「…んん………んんんんいい…………ほんと?」
「あ、ああ! 勿論!」
「……そう」
それっきりノートは前を向いて……黙りこくって歩き出してしまった。
いつになく真剣な……深刻そうな顔をして、まっすぐ前を見据えている彼女。
私は……そんな彼女に声を掛けずにはいられなかった。
「……お嬢」
「んい?」
「宿……逆方向だぞ」
………………
宿屋の前でヴァルターと合流し、三人揃って扉をくぐり……首をかしげる。
食堂となっている一階部分、その店内は既に満席だった。残念ながら座れる席は無さそうだ。
ホール係の女の子達も、忙しそうに駆け回っている。
仕方ない、後で何か探しに出よう。とりあえず部屋に戻ろうと、階段室へ繋がる扉をくぐる。
するとすぐ左手の…従業員室に繋がる扉が開き、この宿の主人が出てきた。
「これは皆様! お帰りなさいませ」
「ああ、わざわざ済まん」
「おっちゃんすげーな。……大繁盛じゃん」
主人曰く『そこまで繁盛していない』とのことだったので……失礼にもそれを鵜呑みにしてしまっていた。考えてみれば失礼な話なのだが、勝手に空席があるものと思い込んでしまっていた。
……しかし、主人は首を横に振る。
「いえいえそんな。……恥ずかしい話、昨日までは半分も埋まらなかったですよ」
「マジで? ………つまり」
「ええ………恐らくは」
「なるほど……」
三人の視線が一点に……新品のケープを未だ気にした様子で…指先で弄んでいる少女へと集中する。
まあ…特に隠し立てているわけでもないし、先程も商店街ではこの上なく注目を浴びていた。ある程度予想は出来ていたことだ。
……ただ少々早かった。それだけだ。
「宜しければ……お席が空き次第お知らせに伺いましょうか?」
「良いのか? 店も忙しいだろうに」
「いえいえ。その程度、大した手間でもありませんし」
「では……お言葉に甘えようか。ネリー、それでいいか?」
「了解。じゃあそれまで成果確認な」
頭を下げる主人にこちらも頭を下げ、階段を上っていった。
階段の堪能はもういいのか、ノートはぽんぽんと……軽々と駆け上がっていった。
………………
「ヴァルターお前……これはお前………」
「な、何だ? マズかったか?」
ここは三階上がってすぐ左手、ノートの私室。
とりあえず買ってきた衣類を袋ごと収納に収め、ヴァルターに頼んでおいたものを確認した。
そして奴が取り出したのは………
可愛らしさの欠片もない、無骨極まりない雑貨類だった。
家畜の胃袋を革袋で覆った…革製の水筒。見るからに耐久性に優れていそうな、野営向きの金属カップ。口を縛れるように紐が備えられた、麻製の大袋。などなど。
用途上は、全くもって問題ない。……だが。
「あのな。新人冒険者の旅支度じゃねぇんだぞ」
「…はい」
「使うのは誰だ。お前のか? お前の持ちモンか?」
「……ノートの、です」
「そうだろう? 女の子の持ち物だ。……何がいけないのか、解るな?」
「………はい」
本当彼は……周りへの配慮が足りない。
……だが幸いというか、ノート本人の受けは良かった。
服飾からして実用性重視の彼女だったが、それは日用雑貨に関しても同様の基準だったようだ。
「お嬢ホントにそれでいいか? 明日別の買いに行くでもいいんだぞ?」
「んい。いい。……これが、いい」
「ノート、良いのか? ……もっと可愛いやつのほうが」
「いい。ゆうしゃ、かってくれた、やつ。……いい」
「ノート……」
「ゆうしゃ。……あい、がとう」
女の子らしからぬ、無骨な品々を手に取り……やんわりと笑み浮かべる彼女。どうやらヴァルターの選んだもの……実用性と耐久性に優れた品々は、ノートのお気に召したようだ。
私としてはなんとなく負けた気がして少々腹立たしいし気に食わないし正直八つ当たりでもしてやりたいが…………彼女が気に入ってくれたなら、それがなによりだ。
「んい。……ゆうしゃ、ねりー。……わたし、おれい、ありがとう」
静かに、それでいて意思を湛えた目つきで……彼女はすくっと立ち上がる。
「お礼? いや…別に気にするな」
「そうだって! どうせ勇者の財布なんだから!」
「でも……ありがとう、は、……だいじ、だから」
「ノート……」
そうして……彼女曰く………お礼。
何事かと行く末を見守る私たち二人の前で、
彼女が履いていたはずのショートパンツが、床に落ちた。
ケープは既に外され、寝台の上に置かれている。
呆然とする私たちの目の前で……
彼女はおもむろに、服を脱ぎ始めた。
それは……私に限らず、世の可愛い物好き達の恐らく総意であろう。
いや勿論、この考えを他人に無理強いするつもりは無いし、ときと場所に応じては臨機応変さを備えるべきだとは思う。
さすがの私も…森や洞窟に赴くときに薄っぺらいイブニングドレスなどを着てこられたら……いくら可愛くても精神を疑わざるを得ない。その場でひん剥いてやる。
だが……街中で過ごすときくらいは、可愛い格好をさせても罰は当たらないのでは無いだろうか。
そんな下心が、知らないうちに口から漏れ出たのだろうか。
服飾店を後にしたノートの格好は私たちの意に反して………
言い方は悪いが、非常に無難な格好だった。
……数刻前。
やけにやる気に満ち溢れた店員達と、彼女に似合いそうな服をあれこれ勧たものの……それらには頑として首を縦に振らなかった。
宥めすかしてなんとか試着にこぎつけ、いっときの幸福を得ることまでは出来たものの…とうの本人は可愛らしい顔を不満げにしかめ………購入までには至らなかった。不機嫌そうな顔も可愛らしくはあったのだが。
斯くして、我々の一押しだった花柄レースに彩られたブラウスは、綿生地の丈夫そうなチュニックへと姿を変え……彼女の動きに合わせて靡く淡い桃色のフレアスカートは、これまた頑丈そうなショートパンツへと、無情にも姿を変えた。
せめてこれだけは、どうかこれだけはと……渋る彼女に半ば懇願するように羽織らせた、露草色の可愛らしいケープ。
その一点が……双方の妥協点だったようだ。
意にそぐわないであろう可愛らしいケープを被せられ、難しい顔で鏡と向かい合ってくるくる身を翻すノートをよそに……
次は絶対に可愛らしく着飾ってやろうと、店員たちと密かに…決意を新たにしたのだった。
その間ヴァルターはずっと所在なさげにしていた。
手持ち無沙汰だったヴァルターに戦利品を……ノートの予備の服を持たせ、服飾店を後にする。時間は限られているのだ、商店街が本格的にごった返す前に用事を済ませなければ。
しかしながら……一体どういうことか、可愛らしい服を微塵も着たがらない彼女。この子くらいの年頃であれば、そろそろおしゃれにも気を使い始める頃なのではないのだろうか。よく知らないけど。
…にもかかわらず彼女が採決した衣類は、予備も含めて現在着ているものと似たり寄ったりだった。
……要は、華がない。
良く言えば、実用性最重視。
肩に羽織るケープで無理矢理誤魔化したものの……このままでは我々のNKP(ノート着飾りプロジェクト)は失敗に終わってしまう。
今日は無理でも、少しずつ彼女の牙城を攻略して行かなくては。
未だに落ち着かない様子でケープを翻し、くるくる回っている彼女。白く煌めく髪を靡かせ舞うその姿は、贔屓目に見ても神秘的。かつ可愛らしい。
……当然のように、目を引く。
とうの本人の関心をよそに、目を見開いて硬直する周囲の人々。そんな彼らに勇者共々軽く会釈をすると、それで大体の事情を察してくれたらしい。
皆一様に暖かな笑みでもって、可愛らしく踊るノートを……天使ちゃんを見守っていた。
………………
靴ともなると、服飾以上に実用性が如実に出てくる。
可愛らしい靴を履かせよう作戦は、案の定水泡に帰した。
可能な限り粘ってみたものの……実用性重視という彼女のスタンスは、ついに崩せなかった。
服飾店で時間を使いすぎたため、この時点で既に陽は傾きつつあった。当初考えていたよりも大幅に押してしまったため、分担して買い出しを行うことにした。
水筒やカップ等の雑貨類をヴァルターに丸投げし、私とノートで靴を探しに来たのだった。
結果として……可愛い靴は認められなかったものの、とりあえず彼女のお眼鏡にかなう靴は買うことが出来た。
今まで履いていたものよりは……サンダルを無理やり合わせたような履物よりは、随分と動きやすそうだ。
だが、私と……恐らく勇者は気づいていただろう。
一時期よりも幾分改善しているものの……彼女の足取りが、相変わらずどこか覚束ないことに。
以前……とはいえたった数週期前のことだが……蟲の毒に足裏を灼かれたことによる後遺症だろうと、周りは判断していた。鎮痛魔法で幾らか誤魔化しているのだろうが、やはりそれでも違和感は拭いきれないようだ。
普段は何でもないように振舞っているが、時折誰も見ていないようなところで顔をしかめているのを……私は知ってしまった。
この子にとって、靴擦れは他者以上に苦痛なのだろう。彼女の足の形に合わせたオーダーメイドでも頼んでみたほうが良いかもしれない。
いっそのこと脚甲と併せて注文しても良いかもしれない。
この子は見た目こそ可憐で華奢で、どう見ても守られる側なのだが……その中身は恐らくこちら側、他者を守りたがる側の人間なのだということも、私たちは知っている。
「お嬢どうだ? 履き心地いいか?」
「やうす! やー! んい……あり、がとう!」
「よしよし。お嬢ホント可愛いなぁ……何で可愛い服着ないんだ? 絶対似合うのに…」
「んんん……んいい………」
ノートの頭を撫でながら、商店街を歩く。
既に夕方。家路につく人が多いのか、人通りも激しくなってきた。はぐれないようにしなければ。
ふと、左手に刺激を感じる。
目をやると……ノートが私の手を握り、じっと見上げていた。
「ど……どうした? お嬢」
正直、堪らない。ここが往来で無ければ、思わず抱き着いていたかもしれない。
「ねりー」
「なんだ? どうかしたか?」
何かを考え込むように、じっとしている彼女。
やがて意を決したかのように、その小さな唇を開いた。
「んいい……ねりー、は、……わたしが、かわいい、ふく………すき?」
「勿論! あ、いや……多分皆そうだぞ。お嬢が可愛い服着たら……多分みんな喜ぶ」
「…んん………んんんんいい…………ほんと?」
「あ、ああ! 勿論!」
「……そう」
それっきりノートは前を向いて……黙りこくって歩き出してしまった。
いつになく真剣な……深刻そうな顔をして、まっすぐ前を見据えている彼女。
私は……そんな彼女に声を掛けずにはいられなかった。
「……お嬢」
「んい?」
「宿……逆方向だぞ」
………………
宿屋の前でヴァルターと合流し、三人揃って扉をくぐり……首をかしげる。
食堂となっている一階部分、その店内は既に満席だった。残念ながら座れる席は無さそうだ。
ホール係の女の子達も、忙しそうに駆け回っている。
仕方ない、後で何か探しに出よう。とりあえず部屋に戻ろうと、階段室へ繋がる扉をくぐる。
するとすぐ左手の…従業員室に繋がる扉が開き、この宿の主人が出てきた。
「これは皆様! お帰りなさいませ」
「ああ、わざわざ済まん」
「おっちゃんすげーな。……大繁盛じゃん」
主人曰く『そこまで繁盛していない』とのことだったので……失礼にもそれを鵜呑みにしてしまっていた。考えてみれば失礼な話なのだが、勝手に空席があるものと思い込んでしまっていた。
……しかし、主人は首を横に振る。
「いえいえそんな。……恥ずかしい話、昨日までは半分も埋まらなかったですよ」
「マジで? ………つまり」
「ええ………恐らくは」
「なるほど……」
三人の視線が一点に……新品のケープを未だ気にした様子で…指先で弄んでいる少女へと集中する。
まあ…特に隠し立てているわけでもないし、先程も商店街ではこの上なく注目を浴びていた。ある程度予想は出来ていたことだ。
……ただ少々早かった。それだけだ。
「宜しければ……お席が空き次第お知らせに伺いましょうか?」
「良いのか? 店も忙しいだろうに」
「いえいえ。その程度、大した手間でもありませんし」
「では……お言葉に甘えようか。ネリー、それでいいか?」
「了解。じゃあそれまで成果確認な」
頭を下げる主人にこちらも頭を下げ、階段を上っていった。
階段の堪能はもういいのか、ノートはぽんぽんと……軽々と駆け上がっていった。
………………
「ヴァルターお前……これはお前………」
「な、何だ? マズかったか?」
ここは三階上がってすぐ左手、ノートの私室。
とりあえず買ってきた衣類を袋ごと収納に収め、ヴァルターに頼んでおいたものを確認した。
そして奴が取り出したのは………
可愛らしさの欠片もない、無骨極まりない雑貨類だった。
家畜の胃袋を革袋で覆った…革製の水筒。見るからに耐久性に優れていそうな、野営向きの金属カップ。口を縛れるように紐が備えられた、麻製の大袋。などなど。
用途上は、全くもって問題ない。……だが。
「あのな。新人冒険者の旅支度じゃねぇんだぞ」
「…はい」
「使うのは誰だ。お前のか? お前の持ちモンか?」
「……ノートの、です」
「そうだろう? 女の子の持ち物だ。……何がいけないのか、解るな?」
「………はい」
本当彼は……周りへの配慮が足りない。
……だが幸いというか、ノート本人の受けは良かった。
服飾からして実用性重視の彼女だったが、それは日用雑貨に関しても同様の基準だったようだ。
「お嬢ホントにそれでいいか? 明日別の買いに行くでもいいんだぞ?」
「んい。いい。……これが、いい」
「ノート、良いのか? ……もっと可愛いやつのほうが」
「いい。ゆうしゃ、かってくれた、やつ。……いい」
「ノート……」
「ゆうしゃ。……あい、がとう」
女の子らしからぬ、無骨な品々を手に取り……やんわりと笑み浮かべる彼女。どうやらヴァルターの選んだもの……実用性と耐久性に優れた品々は、ノートのお気に召したようだ。
私としてはなんとなく負けた気がして少々腹立たしいし気に食わないし正直八つ当たりでもしてやりたいが…………彼女が気に入ってくれたなら、それがなによりだ。
「んい。……ゆうしゃ、ねりー。……わたし、おれい、ありがとう」
静かに、それでいて意思を湛えた目つきで……彼女はすくっと立ち上がる。
「お礼? いや…別に気にするな」
「そうだって! どうせ勇者の財布なんだから!」
「でも……ありがとう、は、……だいじ、だから」
「ノート……」
そうして……彼女曰く………お礼。
何事かと行く末を見守る私たち二人の前で、
彼女が履いていたはずのショートパンツが、床に落ちた。
ケープは既に外され、寝台の上に置かれている。
呆然とする私たちの目の前で……
彼女はおもむろに、服を脱ぎ始めた。
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