勇者が救世主って誰が決めた
28_元勇者と奥の手中の奥の手と
顔を上げる。腕を上げる。
剣を持ち上げ……殺意を研ぎ澄ます。
夜目が効くシアの誘導もあり、文字通りほぼ一直線でここまで駆け抜けた。
恐らく相当疲れただろうに。シアは暗視の上に飛翔魔法を駆使してまで、全力疾走するわたしを導いて来てくれた。
そのおかげで、なんとか間に合った。
……いや、まだだ。まだ何も終わっていない。
『あれはあと八つ。残り時間はざっくり三分。……落ち着いてよーく考えるんだ。駆除して終わりじゃないだろう?君のお父様も助けなくちゃならない。……わかるね?』
『とうぜん。……ぜったいに、ころす』
『……やれやれ』
「ら・まーだー、ぐりーめ。……ある・りーまーら。 りいんふぉーす、あーで、ら・えくすてんど……いる」
疾走に割いていたリソースを戻し、感覚強化に充てる。身体全強化によって高められていた知覚能力が更に一回り補強され、周囲のあらゆる情報、そしてあらゆるものの位置が、頭の中に入ってくる。
たとえ周囲が暗闇だろうと、目が見えていなくても問題ない。音波反響、赤外線、呼気、空気の流れ、魔力分布、重力場…等々。そいつがそこにいることで生ずる、ありとあらゆる変化を感知する。
僅かな痕跡さえ、見逃すことはあり得ない。
今のわたしを欺くことなど、不可能。
………ぜったいに、逃がさない。
「……まーふあ、ふぉーあ。しゅうぃると…いる」
解号の声とともに、白塗りの剣が光を放つ。
元々真っ白な刀身に…更に光を纏うように。
視界の端に……補完された感覚の中に、背中を抉られる重症を負ったリカルドが映る。その命の鼓動はとても頼りなく、今にも消えてしまいそうで。
泣きたくなるのを必死に堪え、代わりに剣を握り締める。
彼を助けるためにも、まずはこの場の安全を最優先で確保しなければならない。
「………りかるの。まってて」
すぐに、かたづけるから。
身体全強化の恩恵の下、文字通り地面を踏み砕きながら駆ける。
こちらを見て間抜けにも硬直しているその顔面に向かい剣を振り抜き……勢い余って腰から上を消し飛ばし、先程まで勇者と斬り結んでいたヒトガタが即座に絶命する。
同胞を呆気なく葬り、尚も向かってくるわたしに対応しようとしたものの……それ以上は何も出来なかった、手負いのヒトガタ。
「まぬけめ」
その脚が、腕が、そして頭が、バラバラに分断される。
この速度の前に、回避は不可能。
この剣を前に、防御は不可能。
わたしから逃げ切る速さを持たないものが、わたしの攻撃を防ぐ守りをもたないものが、
わたしを前に、生存できるはずもない。
ぜったいに、ころす。
リカルドを傷つけた。ネリーを泣かせた。殺そうとした。
……こいつらは、ゆるさない。
焚き火の明かりの外、
岩影に隠れていたヒトガタが、身を潜めていた岩ごと真っ二つに分断される。
それを追うように、同様に遮蔽物に隠れていた筈のヒトガタ達が……ひとつ、またひとつと、その遮蔽物ごと断ち斬られる。
『あと二分』
「ちっ」
『……女の子が舌打ちなんてするもんじゃないぞ?』
頭に響く茶茶入れを無視し、更に外周……身を屈め潜んでいたヒトガタへ飛びかかる。迎撃しようと爪を構えた反応は立派だが、そんなもので防ぎきれるほど、今の剣はナマクラではない。
剣が触れたところから……いや触れる直前から、剣が纏う光から生じた高熱がヒトガタの甲殻を蝕む。
抵抗も、防御も許さずに、真っ二つに焼き切る。これであと二つ。
一つは、面倒なことに真反対方向。しかも全力で逃げに入り、既に駆け出してしまっている。今から全力で追えば、あいつも殺すことは出来るだろう。……だがそれで終わるわけにはいかない。
『優先順位を誤るなよ』
『わかってる。………ちくしょう』
『女の子が畜生とか言うもんじゃないぞ?』
既にだいぶ離れた一匹を苦渋の思いで無視し、最後の一匹目掛けて飛翔する。こちらも奴なりに頑張って対処しようとしたらしく、大上段からの斬り掛かりを避けて見せた。だからどうしたとばかりに切り返された剣で腰から二つに分断されたので、やはりその程度ではあったのだろうが。
……ともあれ、これでこの範囲の敵は駆逐された筈。
一匹逃げられたのは腹立たしい限りだが、今はそれよりも先にやることがある。
『一分半だ』
「わかった」
一足飛びで、リカルドのもとへと戻る。
「………ノー、ト………、すま……な、…い」
「しゃべらないで」
…この者は。この状況で、尚もわたしを気遣うのか。
自分の身体とか、仲間のこととか、
家族とか、もっとこう………あるだろうに。
「………ばか」
「……………すま、………な…」
息も絶え絶えに、それでも言葉を紡ごうとするリカルド。
勇者がネリーに詰め寄るように、どうにかならないのかとまくし立てている。おい何してやがる馬鹿勇者。ネリーが泣いてるじゃないか。ころすぞ。
『オッケー把握した。結論から言おう、治すことは出来る。ただし』
『じゃあやる。おしえて』
『最後まで聞きたまえ。簡潔に言うよ。…君の今持てる魔力を全て使う。治癒魔法の最上級、奥の手中の奥の手だ」
『それで助かるなら、やる』
『魔力が回復するまでは、身体強化も沈痛魔法も使えない。君は見た目通りの幼児に成り下がる。それでも?』
『くどい。ぜったいにやる』
『……わかった。貸したまえ』
その言葉を合図として、
手足の………いや、体の感覚が無くなる。自分のからだが自分のものでないように。自分のからだが勝手に動き、自分は頭の中からそれを眺める観覧者になったかのように。
『………おねがい。…たすけて、………おねがい』
「……………解っているさ。他ならぬ君の頼みだ」
わたしのものではなくなったわたしの口が、滑らかに言葉を紡ぐ。その耳障りの心地よい声、流暢な言葉は…まるでわたしの声ではないみたいだ。
「……ノート?」
わたしではないわたしに、勇者が勘づいたらしい。
怪訝な表情で、こちらを見る勇者。ああ。なにみてんだこら。がんとばしてんじゃねーぞ。おめえどこちゅーよ。ころすぞ。
「退きたまえ。邪魔だよ」
「………ッ!!?」
それを一睨みして硬直させる先生。かっこいい。勇者ざまぁ。
『照れるね』
『てれてないで。はやくして』
『解っているさ』
「………勇者。ならびに貴様ら。…聞くが良い」
「……なん………!?」
「反駁も赦さぬ。拒絶も赦さぬ。唯、従え。……この身体を、………この子を、貴様らの命に代えても守り抜け。………出来るな?」
「当然だ…!これ以上惨めな真似が出来るかよ…!」
ぼろぼろ涙を溢しながら、その目に明らかな決意を湛え、エルフの少女が勢いよく頷く。彼女の傍らには心配そうに見上げる、小さな青い人鳥の少女。
『………ねりー……』
『成程、この子か…』
『…ねりー、いいこ』
『そうさな』
どうやら他の面々にも異存はないようだ。
時期も期間も告げていないというのに、誰一人として異議を唱えるものがいない。
……愛されておるな。
ならば、自分も最善を尽くそう。
愛しい教え子の、たっての望みと在れば。
未成熟かつ未発達とはいえ、
かつての自分の身体、その複製品であれば。
「………彼の者を、取り戻す」
それは、十二分に可能だ。
「コーマ。コーマ。メィクーア」
教え子の手前、情けないところは見せられない。
万にひとつも失敗するわけにはいかない
「トレーフ、ドリーフ。ホールァ、ラーファ」
………まあ尤もこの私が、
こと魔法において失敗する筈も無いのだが。
「スィレィア、コンフォア。リフィード、リーヴ。トレーフ、ドリーフ。リヴィン、ギー・バゥ」
唱える祝詞に乗せて、身体の中の魔力が物凄い速度で流出している。放出されたそれらはゆっくりと渦を巻き、眼前で倒れ伏す者の身体へとゆっくりと注がれていく。
今やノートの身体の周囲には、生命の大樹を模した空間魔方陣が、幾重にも書き拡げられていた。それは時間と祝詞の経過と共に、徐々に大きさと密度を増していく。…まるで樹木が成長するように。枝葉が色濃く茂るように。
尚も祝詞を紡ぎ、両の手を掲げ、我が救うべきものへと……
命を取り戻すべきものへと、大樹の枝葉を導いていく。
……とはいえ、やはり未成熟な身体だ、目減りする魔力の量が半端ない。まぁそもそもの貯蔵量が低いからな。仕方ないか。
「コーマ。コーマ。メィクーア」
だが、その程度で失敗するようなヘマなどしない。
我こそは魔王。魔を司る王なれば。
たとえ因果の改編だろうと。神に仇為す行為だろうと。
その冒涜が、こと魔法によるものであれば。
「リヴィン、ヴィダー。ジ・ディ・ザル、ヒーア」
――全ての魔法は、我が意のままに。
「コーマ・エイル。………イル」
瞼を閉じ、
ぱん、と、手を打つ。
乾いた音が響く。その瞬間。
生命の大樹が一瞬で燃え上がるように
闇夜を塗り潰すかの如き光が迸り……
その光が収まった後。
そこには致命傷ともいえる傷が綺麗に癒え、死の間際であったことが嘘のように回復を果たしたリカルドと、
断たれた首、潰された頭が綺麗に元通りとなり、今は確かに命の鼓動を取り戻した兵士二名。
噛まれ、毒を注がれ、組織が壊死した筈の傷さえ塞がり、何事もなかったかのように無傷そのものの一同と……
力なく横たわる、白い小さな少女が残された。
剣を持ち上げ……殺意を研ぎ澄ます。
夜目が効くシアの誘導もあり、文字通りほぼ一直線でここまで駆け抜けた。
恐らく相当疲れただろうに。シアは暗視の上に飛翔魔法を駆使してまで、全力疾走するわたしを導いて来てくれた。
そのおかげで、なんとか間に合った。
……いや、まだだ。まだ何も終わっていない。
『あれはあと八つ。残り時間はざっくり三分。……落ち着いてよーく考えるんだ。駆除して終わりじゃないだろう?君のお父様も助けなくちゃならない。……わかるね?』
『とうぜん。……ぜったいに、ころす』
『……やれやれ』
「ら・まーだー、ぐりーめ。……ある・りーまーら。 りいんふぉーす、あーで、ら・えくすてんど……いる」
疾走に割いていたリソースを戻し、感覚強化に充てる。身体全強化によって高められていた知覚能力が更に一回り補強され、周囲のあらゆる情報、そしてあらゆるものの位置が、頭の中に入ってくる。
たとえ周囲が暗闇だろうと、目が見えていなくても問題ない。音波反響、赤外線、呼気、空気の流れ、魔力分布、重力場…等々。そいつがそこにいることで生ずる、ありとあらゆる変化を感知する。
僅かな痕跡さえ、見逃すことはあり得ない。
今のわたしを欺くことなど、不可能。
………ぜったいに、逃がさない。
「……まーふあ、ふぉーあ。しゅうぃると…いる」
解号の声とともに、白塗りの剣が光を放つ。
元々真っ白な刀身に…更に光を纏うように。
視界の端に……補完された感覚の中に、背中を抉られる重症を負ったリカルドが映る。その命の鼓動はとても頼りなく、今にも消えてしまいそうで。
泣きたくなるのを必死に堪え、代わりに剣を握り締める。
彼を助けるためにも、まずはこの場の安全を最優先で確保しなければならない。
「………りかるの。まってて」
すぐに、かたづけるから。
身体全強化の恩恵の下、文字通り地面を踏み砕きながら駆ける。
こちらを見て間抜けにも硬直しているその顔面に向かい剣を振り抜き……勢い余って腰から上を消し飛ばし、先程まで勇者と斬り結んでいたヒトガタが即座に絶命する。
同胞を呆気なく葬り、尚も向かってくるわたしに対応しようとしたものの……それ以上は何も出来なかった、手負いのヒトガタ。
「まぬけめ」
その脚が、腕が、そして頭が、バラバラに分断される。
この速度の前に、回避は不可能。
この剣を前に、防御は不可能。
わたしから逃げ切る速さを持たないものが、わたしの攻撃を防ぐ守りをもたないものが、
わたしを前に、生存できるはずもない。
ぜったいに、ころす。
リカルドを傷つけた。ネリーを泣かせた。殺そうとした。
……こいつらは、ゆるさない。
焚き火の明かりの外、
岩影に隠れていたヒトガタが、身を潜めていた岩ごと真っ二つに分断される。
それを追うように、同様に遮蔽物に隠れていた筈のヒトガタ達が……ひとつ、またひとつと、その遮蔽物ごと断ち斬られる。
『あと二分』
「ちっ」
『……女の子が舌打ちなんてするもんじゃないぞ?』
頭に響く茶茶入れを無視し、更に外周……身を屈め潜んでいたヒトガタへ飛びかかる。迎撃しようと爪を構えた反応は立派だが、そんなもので防ぎきれるほど、今の剣はナマクラではない。
剣が触れたところから……いや触れる直前から、剣が纏う光から生じた高熱がヒトガタの甲殻を蝕む。
抵抗も、防御も許さずに、真っ二つに焼き切る。これであと二つ。
一つは、面倒なことに真反対方向。しかも全力で逃げに入り、既に駆け出してしまっている。今から全力で追えば、あいつも殺すことは出来るだろう。……だがそれで終わるわけにはいかない。
『優先順位を誤るなよ』
『わかってる。………ちくしょう』
『女の子が畜生とか言うもんじゃないぞ?』
既にだいぶ離れた一匹を苦渋の思いで無視し、最後の一匹目掛けて飛翔する。こちらも奴なりに頑張って対処しようとしたらしく、大上段からの斬り掛かりを避けて見せた。だからどうしたとばかりに切り返された剣で腰から二つに分断されたので、やはりその程度ではあったのだろうが。
……ともあれ、これでこの範囲の敵は駆逐された筈。
一匹逃げられたのは腹立たしい限りだが、今はそれよりも先にやることがある。
『一分半だ』
「わかった」
一足飛びで、リカルドのもとへと戻る。
「………ノー、ト………、すま……な、…い」
「しゃべらないで」
…この者は。この状況で、尚もわたしを気遣うのか。
自分の身体とか、仲間のこととか、
家族とか、もっとこう………あるだろうに。
「………ばか」
「……………すま、………な…」
息も絶え絶えに、それでも言葉を紡ごうとするリカルド。
勇者がネリーに詰め寄るように、どうにかならないのかとまくし立てている。おい何してやがる馬鹿勇者。ネリーが泣いてるじゃないか。ころすぞ。
『オッケー把握した。結論から言おう、治すことは出来る。ただし』
『じゃあやる。おしえて』
『最後まで聞きたまえ。簡潔に言うよ。…君の今持てる魔力を全て使う。治癒魔法の最上級、奥の手中の奥の手だ」
『それで助かるなら、やる』
『魔力が回復するまでは、身体強化も沈痛魔法も使えない。君は見た目通りの幼児に成り下がる。それでも?』
『くどい。ぜったいにやる』
『……わかった。貸したまえ』
その言葉を合図として、
手足の………いや、体の感覚が無くなる。自分のからだが自分のものでないように。自分のからだが勝手に動き、自分は頭の中からそれを眺める観覧者になったかのように。
『………おねがい。…たすけて、………おねがい』
「……………解っているさ。他ならぬ君の頼みだ」
わたしのものではなくなったわたしの口が、滑らかに言葉を紡ぐ。その耳障りの心地よい声、流暢な言葉は…まるでわたしの声ではないみたいだ。
「……ノート?」
わたしではないわたしに、勇者が勘づいたらしい。
怪訝な表情で、こちらを見る勇者。ああ。なにみてんだこら。がんとばしてんじゃねーぞ。おめえどこちゅーよ。ころすぞ。
「退きたまえ。邪魔だよ」
「………ッ!!?」
それを一睨みして硬直させる先生。かっこいい。勇者ざまぁ。
『照れるね』
『てれてないで。はやくして』
『解っているさ』
「………勇者。ならびに貴様ら。…聞くが良い」
「……なん………!?」
「反駁も赦さぬ。拒絶も赦さぬ。唯、従え。……この身体を、………この子を、貴様らの命に代えても守り抜け。………出来るな?」
「当然だ…!これ以上惨めな真似が出来るかよ…!」
ぼろぼろ涙を溢しながら、その目に明らかな決意を湛え、エルフの少女が勢いよく頷く。彼女の傍らには心配そうに見上げる、小さな青い人鳥の少女。
『………ねりー……』
『成程、この子か…』
『…ねりー、いいこ』
『そうさな』
どうやら他の面々にも異存はないようだ。
時期も期間も告げていないというのに、誰一人として異議を唱えるものがいない。
……愛されておるな。
ならば、自分も最善を尽くそう。
愛しい教え子の、たっての望みと在れば。
未成熟かつ未発達とはいえ、
かつての自分の身体、その複製品であれば。
「………彼の者を、取り戻す」
それは、十二分に可能だ。
「コーマ。コーマ。メィクーア」
教え子の手前、情けないところは見せられない。
万にひとつも失敗するわけにはいかない
「トレーフ、ドリーフ。ホールァ、ラーファ」
………まあ尤もこの私が、
こと魔法において失敗する筈も無いのだが。
「スィレィア、コンフォア。リフィード、リーヴ。トレーフ、ドリーフ。リヴィン、ギー・バゥ」
唱える祝詞に乗せて、身体の中の魔力が物凄い速度で流出している。放出されたそれらはゆっくりと渦を巻き、眼前で倒れ伏す者の身体へとゆっくりと注がれていく。
今やノートの身体の周囲には、生命の大樹を模した空間魔方陣が、幾重にも書き拡げられていた。それは時間と祝詞の経過と共に、徐々に大きさと密度を増していく。…まるで樹木が成長するように。枝葉が色濃く茂るように。
尚も祝詞を紡ぎ、両の手を掲げ、我が救うべきものへと……
命を取り戻すべきものへと、大樹の枝葉を導いていく。
……とはいえ、やはり未成熟な身体だ、目減りする魔力の量が半端ない。まぁそもそもの貯蔵量が低いからな。仕方ないか。
「コーマ。コーマ。メィクーア」
だが、その程度で失敗するようなヘマなどしない。
我こそは魔王。魔を司る王なれば。
たとえ因果の改編だろうと。神に仇為す行為だろうと。
その冒涜が、こと魔法によるものであれば。
「リヴィン、ヴィダー。ジ・ディ・ザル、ヒーア」
――全ての魔法は、我が意のままに。
「コーマ・エイル。………イル」
瞼を閉じ、
ぱん、と、手を打つ。
乾いた音が響く。その瞬間。
生命の大樹が一瞬で燃え上がるように
闇夜を塗り潰すかの如き光が迸り……
その光が収まった後。
そこには致命傷ともいえる傷が綺麗に癒え、死の間際であったことが嘘のように回復を果たしたリカルドと、
断たれた首、潰された頭が綺麗に元通りとなり、今は確かに命の鼓動を取り戻した兵士二名。
噛まれ、毒を注がれ、組織が壊死した筈の傷さえ塞がり、何事もなかったかのように無傷そのものの一同と……
力なく横たわる、白い小さな少女が残された。
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