勇者が救世主って誰が決めた

えう

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 ……何者かの話し声が聞こえる。
 恐らくは四人か。仰向けに安置されたを取り囲むように、声の発生元が感じられる。

 確認しようにも、まぶたはまるで縫い合わせられたかのように、微動だにしない。
 それどころか身体のどこを動かそうにも、こちらの意思に反応を返す部分が無かった。



 ……ああ。『あの日』か。
 この感覚には身に覚えがある。


 ーーー麻酔。
 薬物的要因により強制的に意識を飛ばす、ないしは麻痺させる。まさにそれである。
 視界を完全に閉ざされ、身じろぎ一つできない。あまつさえ、身を守るものは何一つとして纏っていない。普通の人であれば底知れぬ不安に苛まれ、憚らず泣き叫びたくなるであろう、完全な無力。しかしにとっては悲しいかな…非常に日常的なことだった。


 「……なんだこれは。脚……というか下半身全部がガタガタではないか」
 「…前回の記録では……特に異常は無いようだが」
 「単にこいつが酷使し過ぎただけだろう。気にする程でもないわ」
 「いや、補強しておいた方が良いのでは?これはコイツの癖だろう。直ることはない。悪化するぞ」

 周囲の彼らが何事か議論する声が、ただ頭に響いてくる。


 今のは、一糸纏わぬ文字通りの裸そのものだ。寝返りすら打てない狭い寝台の上に、微動だにせず横たわっている状況であろう。

 最初の頃は『あの日』の度に、それこそ完全に意識を飛ばされていたが……免疫がついたのか慣れてしまったのか、回を追うごとに麻酔の効きが弱くなっている気がする。
 今では彼らの会話を聞きながら、周囲の状況を伺うほどにまで余裕が出来てきた。

 ……それでいいのか?いまに抵抗しようと思えば出来るくらいまで免疫が付くんじゃないのか?
 …まぁ、面倒だからやらないが。


 「どちらにせよ、コイツは貴重な生き残りだ。これまでの成果も申し分無い。今後に備えるに越したことは無かろう。……下手に出し惜しみして壊されるのも面倒だ、この際やってしまえば良いのでは?」
 「そうだな……最近は後続の成果も今一つだ。使えるものは使わねば」
 「……思えばコイツも長いものだな。最初はいきなり壊れたのかと肝を冷やしたものだが」
 「今更情でも湧いたか。らしくもない」
 「否定はせぬよ。同一ロットが全滅する中での、唯一の生存だ。感慨深くもなろう」


 何やら到底理解の及ばない会話が飛び交っているが、どうでもいい。もとよりに聞かせるつもりもないのだろう。ならば聞いたところでどうしようもない。
 どうでもいい。たとえが何を思ったところで、それは何一つの例外なく無駄なのだ。

 ーーどうでもいい。


 ただ、願わくば……室温はもう少し、高く設定して欲しかった。

 厚手の白衣を着込んだ彼らは、低い音を立てる機材の排熱で暑いのかもしれないが……こちとら全裸である。
 出来れば次の『あの日』は部屋を暖かくして欲しいものだが……

 まあ、どうでもいい。


 どうせ考えるだけ、願うだけ無駄なのだ。



 「では早急に手配するとしよう。腰から下全て入れ換えてしまうか?」
 「いや脚だけで良かろう。大腿部以下だ。例え面倒でも脊柱は残せ。でないと伝達に齟齬が出る」
 「そうだな。少しでも負荷を減らさねば」
 「ここまで育てて廃棄などなれば……さすがに気落ちせずには居られまい」
 「ではそれで。宜しいな」
 「然り」
 「よかろう」


 身体のあちこちに取り付けられた管が、次々と外される。熱を発し続ける機材が、車輪の転がる音とともに次々と離れていく。

 それきり声は聞こえなくなった。どうやら彼らは退出したらしい。残されたのは狭い寝台と、その上にただ置かれた、一糸纏わぬの身体。

 ……完全に静寂に包まれた。目も開かないことだし、これではまるで眠りに落ちたかのようだ。



 ……仕方ない。寝よう。





 ……………………………



 次に目が醒めたときは、打って変わって人工的な光に照らされた、個室のような空間。……有り体に言えば、宿屋だった。
 危惧していた身体を確認すると、果たしてちゃんと服を着ていた。良かった。
 しかしながら、誰かに着せられたふうでもない。まるで自分が・・・無意識の・・・・うちに・・・勝手に・・・自動で・・・装備した・・・・かのようだが、まあどうでもいい。気にするだけ無駄である。


 『さ、て……始めよう。今回の目標は……』

 唐突に、頭の中に自分のものではない声が響く。



 ……この声は気に入らない。

 何故かは解らないが、この声には逆らえない。抵抗する意思を無条件で放棄させられるような、反抗するという選択肢・・・がそもそも存在出来ないかのような、頭の中を書き換えられるような、生理的な嫌悪感が駆け巡る。


 ……気に入らない。が、仕方がない。



 どうせ拒否することなど出来ないのだ。
 心の底から、どうでもいい。

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