勇者が救世主って誰が決めた

えう

00000_むかし、むかし

昔々、遠い昔。ある国に勇者がいました。


その国は長きに渡り、魔王率いる魔族と熾烈な殺し合いを続けており、
人々も、土地も、財政も大きく傷つき……国が力尽きるのは、もはや時間の問題でした。
勇者はそんな国の切り札として、さまざまなものを犠牲にして『作られ』ました。
その『犠牲』の中には、勇者の大切なものも多く含まれていました。

勇者は止まることも死ぬことも赦されず、人のために魔族を殺す存在となってしまいました。





昔々、遠い昔。ある国を治める女王がいました。


女王は魔力の扱いが極めて得意な王で、人とは異なる姿形の者たちを治めていました。
しかしある人の国は、女王を『魔王』と、その国民を『魔族』と呼び、
あらゆる手段で、執拗に、徹底的に殺そうとしました。
魔族の民もまた、何を犠牲にしてでも人を殺そう、と思うようになりました。

そして女王はそんな国民に、だんだんと失望するようになってしまいました。




あるとき勇者は思いました。

『人なんて滅んでしまえばいい』と。


あるとき魔王は思いました。

『魔族なんて滅んでしまえばいい』と。




やがて出会った勇者と魔王は取引を交わし、
互いの望みを叶えるために……


―――世界を、滅ぼしました。








 …………………………………


千と数百余年の後。

かつて一度、滅びを迎えた世界。


わずかに残された人々が力を尽くし、長い年月を掛け、
ようやく再び世界中で暮らせるようになり、さらに長い年月が経ちました。




あるとき、蘇った世界の片隅で、
かつて世界を滅ぼした『勇者』が目覚めました。


それはとても、とても小さく可愛らしい、
愛らしい姿の『元・勇者』だったのです。

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