ニゲナイデクダサイ

玉子炒め

名前

抵抗を続けていると、あるものが自分の側に投げられてきた。
先端の折れ曲がった傘だ。
すかさず手に取り、寸のところで二体の怪物に傘を突き刺した。
傘を投げてくれたのは大柄だった。
死骸を外に放り出し、喫煙所に入る。アンモニアとスカートルのニオイがツンと三人の鼻孔をついた。煙草が燻るときに発するものだ。
「……なんなんだ、あいつらは」
 聖二は問いかけるが、二人とも知っているはずがなかった。
連中はなんなのか。今朝の急病人と関係はあるのか。外はどうなっているのだろう?家族は、真美は無事なのか?
不安が頭を占める。
これからを早急に決めねばならない。そのためには、今共にいる二人の名前を知るのが先決だ。
「おれは臥雲聖二。18歳で、新大学生になる予定。二人の名前を教えてくれない?」
 聖二は口火を切った。
続いて、女性が名乗る。
「春野みかです。14歳」
 自分と同じくらいだと思っていた彼女が、年下であることに聖二は驚いた。
制服ではなく私服を着ているからそう見えたのかもしれない。
そういえば、彼女は学校には通っていないのだろうか?受験シーズンのただ中すぐAO入試に受かった自分はともかく、普通の学生はまだ制服を着ているような時間帯だ。
深く突っ込むのも野暮な気がしてきたので、次に進む。
「で……」
 無言のうちに大柄を促す。久志の件で八つ当たりをしてしまったので、少なからずばつが悪い。その気持ちを知ってか知らずか、へらへらしながら大柄は頭をかいた。粉雪の如くフケが落ちてきて、喫煙所の床が少し白ばんだ。
「え、えーと。宗和一寿っていうんです。古臭い名前ですよね。あ、17歳です。へへ」
 みかはぽかんと口を開けて宗和を見ている。今になって蛇のタトゥーと話し方のギャップに驚きを覚えた様子だ。
「宗和くんっていうのか。さっきはごめんな、気が動転して八つ当たりしてしまった」
 宗和たちが久志にカツアゲを行ったのは事実だが、久志が化け物になったのは彼らのせいではない。パニック状態にあったとはいえ、胸ぐらを掴んだりと申し訳ないことをしてしまった。今後協力するにしてもそこは謝らねばならない。
聖二の謝罪を受けた宗和は、探し物でもするかのように目を泳がせた。
「いや、わ、悪いのはおれだし。臥雲くんが謝ることはないんじゃないのかな」
 かえって困惑させてしまったらしい。そこまで言われてしまうと引き下がるしかない。
気持ちを切り替えるべく、聖二は深呼吸する。いや、正確には切り替えたかったと言うべきかもしれない。頭の中で、表情が能面のように凝り固まった久志がこちらを見つめている。当面は気分の切り替えなどできそうにない。 
「いつまでもここにいるわけにはいかない。これからどうするか考えよう」
 それでも、状況は切り替えなければならない。聖二は二人を勇気づけるべく、小さめに手を叩いた。

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