ニゲナイデクダサイ

玉子炒め

住居

案内されたのは、駅構内の一角だった。
ホームレスのたまり場になっているらしく、饐えたニオイが鼻をついた。黒ずんだダンボールが端々に置かれている。住人の姿は見当たらなかった。
「久志」
 一刻も早くここから出たい。聖二は大きな声で呼びかけるが、返答はなかった。
「久志」
 依然として返答はない。気絶しているのだろうか ?
大柄はキョロキョロと辺りを見渡し、まごついている。嘘をついているようには見えなかった。
聖二は歩を進める。靴の裏がべとべとする。一歩踏み出す度に滑るような感覚が増していく。
靴の片方を脱ぎ、裏側を確認する。
赤いガムのような物体が、溝にこびりついていた。
下を見る。滑りの正体が、まんべんなく床を濡らしていた。

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