バカと天才は“神”一重

抹茶

第7話  進路決定


 扉の中に父さん、俺、フィル、母さんの順に1人ずつ入っていく。
 中の通路は入口ほど狭くなく、ちゃんと上下左右舗装されていて、ギリギリ2人並んで進めるくらいの幅は取られている。
 というか家の地下にこんなとこあったなんて知らなかったんだけど…。本当に俺息子だよね? 最奥に着いた時に実は本当の息子じゃなかったなんて言われても逆に心当たりありすぎて信じちゃうよ? 

「見えてきたな」

 わずか15秒ほど歩いた所で通路は更に広くなった。どうやらここがゴールのようで、宝箱があった。
 なんで家の下にダンジョンがあるの?

「ダンジョンじゃねぇからな? これは容量無限の固定型アイテムボックスだ」
「容量無限ってやばくね?」
「持ち運びは出来ないわよ、残念ねリオード」
「いや母さん、さすがに取ろうとしないから」
「ふふ、早速本題に入りましょう?」

 フィルはどうやら早く俺を驚かしたいようで、父さんを急かす。
 それを汲み取った父さんは宝箱を開いて中に手を突っ込んだ。
 すげぇ、宝箱の中が時空が歪んでいるみたいに見える。

「ほらこれ、お前にやる」
「これは……?」

 俺は1枚の横約200ミリ、縦約300ミリほどの紙を受け取った。
 えーなになに。ミストレア学園入学採用通知書…?

 ん?

「なんだこれ!?」
「ふふっ、やはり驚かれましたね」
「いや驚くも何も、そりゃ驚くよ!?」
「お前は来週からフィルと一緒にミストレア学園に進学するってことだ」
「兄さんと一緒…えへへ」
「いやいやいや……第一どうやってこの紙を……」

 俺自身ミストレア学園にアプローチした事は無い。むしろ敷地内にすら入ったことがないのだ。フィルは母さんと一緒に受験しに行ってたが。

「それは秘密だ」
「また秘密が増えたんだが……。てかフィルはいいのか? 自分は正当に受験して合格を勝ち取ったのに兄は何もせずに受かってるなんて」
「兄さんと一緒に通えるのならそんな事は些事です」
「些事……ねぇ」

 さすが双子の妹ということか。考え方がよく似ている。

「まだあるぞ、成人祝いにこれもやる」
「おっと」

 宝箱から取り出され、雑に投げられたものは巾着袋だった。
 口を開いて中を覗くと、指輪やネックレスなどのアクセサリーがじゃらりと入っていて、その他雑貨も入っている。

「お前の力を存分に活かすアイテムだ。《《縛りプレイ》》ではさすがにあの学園ではやっていけないだろうしな」
「暇を見つけてファングと一緒に遊びに行くからね」
「ありがと、父さん母さん。店閉めるなら仕方ないし、この際だからフィルと一緒に色々学んでくるよ」

 そういって袋の口を閉めようとした時、1枚のカードが見えた。それを取り出して見てみる。

「それはバンクカードよ、あなたが今までアンタレスで受けて来た仕事の報酬は全てそこに貯金してあるわ」
「え、マジ?」
「マジだ。息子から金入れてもらうほど貧乏じゃねぇようちは」
「あなたとフィルの分もちゃんと別に分けてあるから、大事に使うのよ」

 ここまでしてくれた親には感謝しかない。
 実を言うとフィルが学園に行くと初めて聞いた時、寂しさ一杯で仕事に手が付かなかった時期がある。けどフィルが目標にしてた事であり、俺は俺で店を継ぐ事を目標にしていた。妹の目標を兄は応援しようと、そう決めていたのだが、わずか数年程のお別れですら俺には心苦しかったようで、シスコン度が自分でも計り知れない。

 それを知ってかどうか、いや、十中八九知られているだろう親に仕組まれたこの件。

「父さん、母さん、フィル、本当にありがとう」
「一緒に親孝行しましょうね、兄さん」
「頑張れよ」
「連絡送るからね」

 俺の進路が決まった。
 夢まで少し寄り道するだけだ。

 だが俺はまだ知らない。
 この寄り道が、先が全く見えない、数多に枝分かれした、途方も無く無限のように続いている道であることに。


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