バカと天才は“神”一重

抹茶

第5話 今後の進路


 時刻はだいたい18時頃。
 ミストレアから来た2人はホールベアを置いて村から去っていった。
 恐らく、もうアンタレスに付け入る隙がないことも分かっただろうし、停止処分とかの心配はもう無いだろう。

「うんめ〜〜!!」
「兄さん、はしたないですよ?」
「いやいやフィル、肉は思い切りかぶりつくもんだぞ? おばちゃんおかわり!」
「はいよ! ホールベアはそのまま切って焼くと恐ろしく硬い肉なんだが、隠し包丁を入れてやるだけでほろりと柔らかい肉に変わるのさ。これお代わりの分、あと……お姉さんな?」
「ふぁ、ふぁい……」

 ギロりと睨まれた。女性とは恐ろしいものだ。フィルにも「レディにそれはないです」と言った視線を向けられた。
 ちょっとこれから女性に対する態度を改めよう。

「まだまだあるからたんとお食べ!」
「うす!」

 今いる所は村一大きい食堂、【バーバリアン】。名前は物騒だが、誰でも迎え入れてくれる暖かい食堂だ。
 俺はそこにホールベアを持ち込み、希少部位を頂いている。

 ――ギィ…
 誰かが木製の手押し扉を押した音。
 バーバリアンの客だろうと流し目で扉の方を見てみる。

「お、いるなリオード! フィル!」
「父さん、帰ってきたのか」
「おかえりなさい、父上」
「おう。その肉はホールベアだな? 俺にも食わせてくれよ」
「ああ、おば…んんっ、お姉さんホールベアの肉を追加で!」
「はいよ!」

 びっくりした。おばちゃんと言いかけたほんの一瞬で睨まれた…。あの反応スピード何かに活かせるんじゃないだろうか。

「お待ち、ホールベアだよ」
「おう、サンキューなおばさん!」
「お礼は息子に言うんだよ」
「お父さん、おばさん呼びして大丈夫なのですか?」
「付き合いなげーからな、そんなことより村長から聞いたぞリオード。アンタレス守ってくれたらしいじゃねぇか」
「当然のことしただけだよ」

 褒められるのはやはり嬉しい。つい鼻の下を掻いてしまった。フィルも自分の事のように喜んでくれている。
 ふと父さんに視線を向けると、何か考え事をしている様な表情だ。

「どうしたんだ?」
「なぁリオード、お前、もう成人したろ? やっぱり店継ぐのか?」
「当たり前だろ? 俺の夢だ」
「そうか、悪いな」
「ん、悪い?」
「ああ悪い、店閉める事にしたんだわ」

 ……ん?
 聞き間違いか? きっとそうだよな?
 もう一度聞き直そう。

「父さん、今――」
「――店閉める。今日一杯で」
「……はぁぁぁぁぁぁあ!!?」

 俺の叫び声は食堂に響き渡った。
 他の客が一斉にこちらを見る。 いたたまれない感じになっているがそんなのは今は関係ない。

「ど、どういうことだよ!  店閉めるって! しかも今日一杯だと!?」
「店閉めるって言っても仕事の一環だ。ちょっと遠出しなきゃ行けなくなったんだよ。フィルも村のみんな知ってるぞ?」
「息子にも言えよっ!?」
「ちなみに3年くらい閉めようと思ってる」
「さ、3年って…俺はじゃあどうしたら」
「ふっ、ついてきな。家に帰るぞ」

 父さんはお金をおばちゃんに支払って俺とフィルを連れて店を出ていく。
 外に出ると陽はもう沈んでいて、あかりが灯っていた。

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