バカと天才は“神”一重

抹茶

第3話 望まぬ来客



 ビトーは大きな村じゃない。
 だから本気で走れば1分もしないで店に着いた。

「どーもいらっしゃいませ、お客様?」
「兄さん!」

 俺は嫌味を込めてそう呼んだ。フィルと何やら会話をしていたようだが俺の声に反応して振り返った。
 だが両親がいないからか、余裕の表情を浮かべる2人組の男女。女の方は茶髪ロングで背丈はそれほど高くはない、男の方は黒髪短髪で背丈は俺とほぼ同じ。2人共ニヤニヤしている。

「あらあら? お父様とお母様はいらっしゃらないの?」
「おやおや? リオード君とフィルちゃんの2人だけかな?」
「へぇ? いつも赤い顔して帰らされるのに2人に用事があったんですか? 」

 さっき村長に良い子と言われたが、俺だって煽られたら煽り返す。別に聖人になりたい訳じゃない、ただの1人の人間だ。

「くっ、まぁ居ないなら仕方ないわ。アンタレスに依頼を出しに来ました。」
「当然、達成できないと店として機能してないと判断し、我々ミストレア支部から活動停止処分を下す。」

 やっぱりそう来たか。
 毎度毎度、無理難題を吹っかけてくるこの2人。まぁこの付近での高い難易度の依頼なんてたかが知れてるが。
 
「今日の依頼は何ですか?」
「そうねぇ…。どうする?」
「名簿によると、リオード君とフィルちゃんは今日誕生日らしいじゃないか」
「ええっ? そうなの〜?」

 こいつら……特に女の方、わざとらし過ぎる。
 それも知ってて来てるってことは、依頼内容はただひとつ。

「成人おめでとう、リオード君。じゃあこの村の外にも出られるわね?」
「依頼内容はホールベアの捕獲、でどうだ?」
「やっぱりそうなるか」

【ホールベア】、ビトーから少し離れた山の麓に生息している3メートル級の中型獣だ。
 ホールと付いているのは穴を掘って移動する変わった生物だから。移動も食事も睡眠も全て穴の中で行う。
 毎回両親にその依頼をしては簡単にこなされるのを繰り返すこの2人。他に依頼は無いのだろうか。まぁこの辺で最大限の難易度で尚且つ依頼として成立していると言ったらこれくらいしか無いんだけど。

「無理なら諦めていいのよ? まぁその場合は依頼達成出来ず、という事でこの店は―――」
「依頼承りました。では行きましょうか」
「――え?」
「お、おいリオード君? 本気でやるのか?」
「それが依頼でしょう?」
「そ、そうだが……」
「兄さん、まさか」
「大丈夫だよ、《《あの力》》を使うまでもない」

 俺の冷静な対応に焦りを見せている。
 まぁ普通はそうだ、成人したての16歳が3メートルを超えるであろう獣を捕獲…つまり戦闘して勝てと。未成人は村から出れない、つまり戦闘した経験がある訳もなく、せいぜい本で知識として頭の片隅にあるくらいだ。
 正気を疑うだろう。

「では行きましょう、ホールベアのいる山の麓へ」

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