キャラ選択で異世界漫遊

あしや

うま茸狩り達成(verレンゲ

 後ろ髪を引かれる思いだったけれど、オレたちは雇い主であるアレイスターク様から指示され た通りに進んで行くと拓けた場所に出た。

 中央には横幅が大人の背丈程ある巨大な木の幹が横倒しになっていた。余程の年月が経っているのだろう外皮は苔むして中は腐り落ちてしまったのか空洞化していた。 
 中には白い茎に茶色の傘をした茸が所狭しと生えていた。傘の形が特徴的で、馬の耳に似ている突起が2つピンと立っている。そう、此が今回の目的の茸であるうま茸だ。

「さっさと採っちまうぞぉ」
 チャモが面倒さそうに倒木の傍らにしゃがみ、空洞化した幹へと腕を突っ込んではモソモソとうま茸を採り始めた。 オレも同様に地に膝をついてうま茸に手を伸ばす。

 ギルドの納品数は10個。あっという間に採り終ってしまう。チラッと隣を見ればチャモも手に持ったうま茸に視線を落としていた。

「ラーク袋持ってきてるかぁ?」 
「持ってきてないね~。あと、今はレンゲだよ」

 アレイスターク様から名付けられた偽りの名を口にすれば、あ?とチャモが僅かに眉を上げたあと怠そうな顔をした

「レンゲなレンゲ。にしてもお前が蓮の華ねぇ?」
「はは、別に自分で付けた訳じゃないし~」

 それに割りと気に入っているんだよ。
 チャモが此方に視線を流し、目が合うと小さく嘆息した。

「チャモだって火の鳥からとったって言ってただろ~」
 おもむろに聖杯ローブを脱ぎだしたチャモに言葉を投げる。チャモは此方を見ずに器用にローブの袖を結んで簡易な袋を作りあげた。

「ダサいだろぉ……」
 そして乾いた笑みを浮かべつつ、ぽぽいとうま茸を簡易袋に投げ込んでしまう。ついでにオレのも入れて貰おうかな。

「良いんじゃない?可愛くてさ~。っそれ」
「おい!?投げんなっ」

 慌ててチャモが簡易袋の口を開いてうま茸を回収した。そのままオレが採った残りのうま茸も全てしまってくれた。

『______』

 不意に身がすくむ程に恐ろしい咆哮が森に響き渡った。

「これって……」
 脳裏に先ほど別れたばかりのアレイスターク様の姿が浮かぶ。恐らく、アラクネと遭遇したのだろう。チャモも同じ予想をしたのか険しい眼差しで、俺達が来た方角を睨んでいた。

「無事でいろよぉ」
 奥歯を噛み締め、拳を震わせているチャモは酷く悔しそうだ。仲間を自分の手で助ける事が出来なくて歯痒いのだと思う。だってオレもそうだから。

「アレイスターク様なら心配ないよ~」
「あぁ?」
「ちゃんとメレオを連れ戻してくれる」
「……ッチ」

 チャモは視線を外すと無言でうま茸を採りだした。
既に目標の数より余分に採取してあるが、今の俺達にはうま茸を刈る以外なにも出来ないのだ。

ぶちぶち、ぶちぶち
ぶちぶち、ぶちぶち

「もう入らないね~」

 パンパンに膨らんだ簡易袋を手で軽く叩く。チャモがオレを見て……正確にはオレのローブを見ていた。

「いや、お前のそれ袋にしたらいけるだろぉ」
「え、やだよ」
「……………」

 そんな呆れた顔をされても嫌なものは嫌なのだ。
チャモからローブを守るように腕を交差させてバツを作り、そのままジリジリと後退していく。
 ふざけていると背後から草を掻き分けて近づいてくる物音が耳に届いた。
 
 小動物かもしれないのにビクリと震えてしまう。そんなダサい俺を背に庇う様にチャモが素早く移動した。その右手に魔力が集まっていく。

「ちょ、なにしてんのさ~」
「うっせぇ」

 茂みを掻き分ける存在がいよいよ迫り

___ガサッ!!

 茂みから飛び出した何かに向けて間髪いれずにチャモが魔法を叩き込む。

「フレイムランス!」
 一瞬だったけど飛びだしたのは白い人に見えたような。

「おわっ!?」
「ぐえっ!?」

 放たれた炎の槍が白い人に直撃し、その姿が再び茂み奥へと消えていった。あの白、どおにも見覚えがある気がするんだけど……

「あぁ?」
「ん~?」

 怪訝そうなチャモと顔を見合せ、二人で茂みを覗き込む。

「退け、重いってーの!」
「ごめんごめん」

 そこには仰向けで倒れるメレオとその上からひょいっと軽やかに退くアレイスターク様が居た。

 アレイスターク様の着ているローブが聖杯のものから、初めて会った時に着ていた高級純白なローブに変わっていた。見覚えがあったのは気のせいじゃなかったらしい。

__ならフレイムランスが直撃したのはアレイスターク様のはず。

 だと言うのに平然と笑みを浮かべる姿に空恐ろしいものを感じてしまう。本当にアレイスターク様って何者なんだろう。


「アンタならあれぐらい防げただろうがよー」
「ははは、油断してたよ。立てる?」

 メレオが立ち上がり、恨めしげにアレイスターク様を睨む。下敷きになった拍子に捻ったのか左手首を擦っている。

「すまん。無事かぁ?」

 チャモがばつが悪そうに声を掛ければ、メレオが眦を吊り上げて「っの、バーカ!!」と幼稚な罵声を上げた。らしいといえばメレオらしい。
 それに手首は深刻な痛みではないのかもう気にしていない。

「平気そうだね~」
「お前は少しくらい心配しろ!?」

 ありゃ、心配したのにな?

 暫くぎゃいのぎゃいのと騒ぎ、落ち着いた所でアレイスターク様が「うま茸は採取出来た?」と今回の目的を確認してきた。

「それなら充分な量採れてるよ。あとはギルドに報告するだけ~」

 うま茸がみっちり詰った聖杯ローブ作の袋をアレイスターク様に見せれば目をまん丸にしていた。
 人形めいた冷めた顔に反して、意外と表情がころころ変わる人なんだよな。

「ふは、そんなつめなくてもっっ、ふふ。チャモ、レンゲお疲れ様。それじゃギルドに戻ろうか」

 白いローブをユラリと揺らしてアレイスターク様は森の中を游ぐように歩いていく。まるで木の根や遮る草弦など無いかのように足取りは淀みない。

 ギルドに向かう時もだったけど、なんでそんな歩くの早いわけ?置いていかれないように着いていくだけで必死なんだけど。

「だから早いって言ってんだろうがぁ!?」
「俺たちを巻く気かー!?」
「待てって~」

 ギルドに到着するまでアレイスターク様がスピードを緩める事はなかった。

 聖杯の玄関前で座り込みバテるオレ達。そんなオレ達をみてアレイスターク様が僅かに口端をクイッと上げたのをオレは見た。

___まさか、わざと?


「私は報告に行ってくる。皆も一緒にくるかい?」

 アレイスターク様がその腕にうま茸で膨らんだ簡易袋を抱え直して入り口の扉に手を掛ける。

「あぁ?報告ぐらい一人で行けよ面倒くせぇ」
「依頼は終わったんだ解散で良いだろー」

  チャモが怠そうに、メレオはアレイスターク様から視線を反らして立ち上がった。
 オレも2人につられるように立ち上がり、不意にアレイスターク様と視線が絡む。

「それもそうだね。レンゲ此方に来てくれる?」

 何だろ?呼ばれる理由があったかな?

 訳も分からぬままアレイスターク様の傍に寄ればずいっと皮の袋を差し出してきた。訳のわからぬまま受け取ると、袋の中で硬質な音が転がった。

「はい、出発前に約束していた報酬の砂金だよ。依頼に最後まで付き合ってくれてありがとう」

「い、良いの~?」

 此の中に大金に換わる金の粒が__ゴクリと喉が鳴る。

「もちろん。受付で報告と納品が済んだら、うま茸狩の報酬も渡すつもりだ。少し待っていてくれ」

 そう言い残しアレイスターク様が聖杯の中へ入ろうとするものだから。「ちょ、まって」と慌てて引き留める。この人、利益を考えてないの?!

「報酬は此だけで良いから!うま茸の報酬までは貰えないよ~」
「いや、そういう訳にも」
「良いんだってば!」

 アレイスターク様の言葉をぶったぎる。

「メレオを助けてもらった恩があるし!雑用でもなんでも手伝うから、その時はギルドの伝報鳩を寄越してよ」

 ノンブレスで伝えたい事を吐き出し、アレイスターク様がまた何か言う前に「それじゃあね~」と挨拶を済ませ、唖然と固まるチャモとメレオの腕を掴んでさっさと大通りの人混みに紛れた。

 こうでもしないとあの人の事だから絶対に依頼報酬を貰わないだろう。

  ある程度歩いてから二人の手を放す。暫く誰も口を開かなかったが、やがてチャモが苦虫を噛み潰した顔で確認してきた。

「雑用って本気かぁ?」

 その目が、あの人と関わり続ける事に反対だと語っていた。恐らくは彼の容姿__あの瞳の色から彼が厄介事を抱えていると践んだのだろう。

「当然。嘘ついてどうするのさ。アレイスターク様から呼ばれたら何でもするよ。メレオは反対しないっしょ~?」
「アイツには借りがあるからなー」

 つんとそっぽを向くメレオ。まったく素直じゃないったら。チャモに視線を投げ掛ければ諦めたような笑みを浮かべた。なんやかんや言いつつも最後には付き合ってくれるのだ。

「よっしゃ~!今此処にアレイスターク様にお供し隊結成~!!」
「「はぁ!?」」



 これはチャンスなんだ。

 真っ当な暮らしから爪弾きされ、鬱屈した生活の中で燻り生きてきたゴロツキ紛いのオレ達が生まれ変わるためのおそらく最後の機会。

 最初に手を差し出したのはそちらなのだ。

 面倒になったからと繋いだ手を途中で振り払われたってオレは……オレ達はどこまでも付いていく。

 希望をちらつかせた責任なんて問うつもりは無いけれど"覚悟"はしといてよ。




ね?__アレイスターク様。




久しぶりの更新です。栞をそのまま残して下さっていた方や新しく栞を挟んで下さった方に感謝を捧げ、間延びトリオ視点で1ページアップさせて頂きました。

稚拙な文、内容にも関わらず目を通して下り誠にありがとうございました。

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