キャラ選択で異世界漫遊

あしや

旅は道連れ

 検兵から親切にも帝都入りを助けられた玲子は屯所の裏から続くいりくんだ路を歩いていた。
 今では何が書いてあったか読むことの出来ない風化した紙や割れたガラス、空っぽの酒瓶が散乱する小汚ない有り様から需要のない裏路なのだろうと察する。

 変な輩に絡まれなきゃ良いけど。玲子は懸念を抱きながら十字に別れた路を直進した。

「どこ行くんだぁ?」
「ひひっ、遊ぼうぜ~」
「逃げんじゃねーよ」

 ほーら、予想的中である。フラグ回収の早さに戦慄しながらも定番である雑魚キャラ登場にドキドキと心が高鳴る。アホ面を拝むべく振り返った先には


____誰も居なかった。

 やがて玲子が普通に通りすぎていた十字路を右から左に黒髪の女性が駆け足で横切っていく。そして、間髪いれずに女性を追い掛けて3人組の男が姿を現わした。

「「「「ん?」」」」
 玲子と3人組の視線が交わり互いに困惑した。

(わ、私にじゃなかった。ナニコレ恥ずかしっ)
 声かけられたと思って反応したら別の人だったパターンに玲子は"え?私が何かしましたか?"と苦し紛れに明後日な方角を見上げた。

「あ?バッチリ見といて今さらだろぉ」
 呆れた目で玲子を見る赤髪雑魚A。
「ひひっ、お綺麗ななりしてら~」
 妬ましいと卑下た笑みを浮かべた青髪雑魚B。
「金目のもの置いていきゃ俺等も見てない振りしてやるぜー?」
 玲子を馬鹿にしうそぶく緑髪雑魚C。

 涎が出るほど贅沢なローブを身に纏いながらも武器を所持していない玲子は彼等にとって鴨が葱背負ったと同じ。ナンパを止めて金むしりへ急転向も分かると言うもの。足並み揃えて雑魚ABCは玲子に迫る。

(カラフルな頭に得意な属性を当てはめるなら火、水、草タイプかな)

 玲子はとあるゲームの初期に選択するオトモを連想し、浮かんだ妙案にニンマリと笑む。

(オトモ達も最初は雑魚だった。中盤から終盤は某センターに預けたままになるけど、それでも強く成長してた。ならコイツらも……)

 怪しげな気配を駄々もれさせ始めた玲子に雑魚ABCが訝しみ、一畳くらいの微妙な距離を空けて止まった。

「君達は金目の物が欲しいのか?」
耳に心地好い落ち着いた声が雑魚ABCの心を揺さぶる。

「はぁ?テメェざけてんのかぁ」
「ハイって言ったらくれんの~?」
「コイツうぜー」

 三者三様の反応に玲子はその間延びは口癖かよ!?とツッコミたくなったが円滑に話し合う為にぐっと堪えた。

「気に障ったのなら謝るよ。すまない」
 玲子は口調が女っぽくならないように意識しつつ話を続ける。

「それに私は至って真面目に聞いているよ。金目の物はあげると約束しよう。ただ、それは君達が私の話を聞いてくれたらだ」

 逃げだしもせず、怯えてもいない余裕綽々な玲子に雑魚ABCはどうする?とアイコンタクトで問い掛けあう。

「けっ、誰が聞くかよ面倒くせぇ」
 赤髪雑魚Aはとても怠そうだ。
「奪えばいいだけだぜー」
 緑髪雑魚Cは戦いたくてウズウズしている。
「…………」
 おや、青髪雑魚Bの様子が?

(なんちゃって。でも、彼なら少しは脈はありそうかな)
 心の中でゲーム風に実況した玲子は一人だけ話を聞きたそうな顔をしながらも仲間に事の流れを任せている青髪雑魚Bにターゲットを絞る。

___君に決めた!

「交渉決裂か……」
「あったり前だろぉ」
「クソだっせー」

 ゲラゲラ嗤う2人に玲子はさも残念そうに告げる。

「仕方ない。君たち2人は諦めよう」
「はぁ?」
「あ"ー?」

 意味が分からないと渋い顔をする2人を無視して玲子は青髪雑魚Cへ手を差し出す。

「っ、なんだよ~!?」
「交渉席に着いたのは君だけだ」

 言い切るのは彼が仲間に対し引け目を抱くように。否定される前に玲子は話を進める。

「私は今から夕暮れまで君を雇いたい。してもらう仕事は私のパーティーとしてギルドに一緒に行って登録。それから1つ簡単な依頼を受ける。報酬は依頼で稼いだ額の半分と私からの雇用料として換金アイテムだ」

「そんな事言われたってさ~」
(その言葉の続きは"無理"?いや、違う。仲間にハブられたら"困る"でしょ?)

 玲子は差し出した腕を下ろし、ローブの袖に指を隠してアイテムバックから[換金アイテム:砂金(小)]を取り出す。そして2つの咎める厳しい視線に狼狽えている最中の青髪雑魚Bに「落とすなよ?」と一声かけて投げた。

 小さな金色が宙に放物線を描く。
 途端に金貨と勘違いした3人がワタワタと慌てたが運動神経は鈍くないようで青髪雑魚Bが砂金を確りとキャッチした。

「「「?」」」
 手の中で輝く小さな黄金の粒を見た3人が同時に首を傾げた。

「話を聞いてくれたら金目の物をあげると言っただろう?その小さなモノでも質屋で売れば3000Eにはなる金の粒__砂金さ」

 玲子が砂金の説明をすれば誰かの喉がゴクリとなった。

「マジかよぉ」
「信じらんねー」
 赤髪雑魚Aと緑髪雑魚Cが食い入るように砂金を見つめ、青髪雑魚Bは鳩が豆くってぽー…… 豆鉄砲くらった顔して玲子を真っ直ぐに見ていた。

「その砂金は君のだよ。好きにすると良い」
 と言っても、砂金を売った金は3人で仲良く分けるのだろうと想像出来てしまう。

「そ?なら貰っとく~」

 青髪雑魚Bが砂金を落とさぬように握りしめると赤髪雑魚Aが青頭をぺしっと軽く叩き、緑髪雑魚Cが嘆息した。
 そこには「知らない人からお菓子貰っちゃいけません」と嗜める大人と叱られる子供の図が出来上がっていた。

 玲子はコホンと咳払いをして注目を集める。

「因みに、夕暮れまで雇われた際の私から支払われる換金アイテムはその砂金を3つだ。1日の小遣い稼ぎにしては充分な額になるはずだよ。どう、雇われてくれるかな?」

「はっ、俺等の仲間を勝手に連れて行こうなんて駄目に決まってんだろぉ」
「胡散臭いテメーなんかにコイツを任せるつもりねーよ」

 最終確認をする玲子に雑魚ACがいきりたつ。
(そーかそーか、君たちそんなに仲良しか……)

「心配なら君たち2人も来れば良い」
「「は?」」

 飛び火?否、飛び込んできたのは彼らだ。

「さぁ、行こう間延び3人衆」

 玲子は歪んだ口角を見咎められぬようさっと背を向けて裏路をずんずん歩き出す。

「行くって言ってないだろぉ!」
「変な呼び方すんじゃねー!」

 もっともな台詞である。しかし"そんな知りません"と玲子は遠ざかっていく。結果、来ないなら来ないで別に良いのだ。オトモ育成計画を諦めるだけ。


「っ、待ってよ~!」

 葛藤を振り切って青髪雑魚Bが玲子を追った。
「おぃっ!」と呼び止める赤髪雑魚Aと目を剥く緑髪雑魚Cに足を止めず顔だけ振り返った青髪雑魚Bが手を振る。

「オレが帰ったらさ皆で旨い飯食いに行こうね~」
「「…………」」

 取り残された2人は横目で意思を確認し合う。赤髪雑魚Aが乱雑に頭を掻き、緑髪雑魚Cが肩を竦てみせた。やがて、どちらともなく駆け出した。
 ぞろぞろ、ぞろぞろ。
 玲子は背後で響く足音にぐっと拳を握る。

 ___ゲットだぜ!!
 オトモを得た玲子が揚々とつき進む。そのスピードはアレイスタークのステータスに補正され競歩並となっていた。しかし、テンション 上々アゲアゲな玲子は止まらない。

「ちょ、早ぇ!?」
「此で歩いてんのー!?」
「待って~」

 地面を滑る様に不思議な移動をする玲子に驚異な眼差しを向けながら、オトモ達はギルドに着くまで小走りで着いていく羽目になるのだった。

  玲子の異世界漫遊の旅は締まる事などないのかもしれない。


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