キャラ選択で異世界漫遊

あしや

手続きと礼


 相対すると検兵の雰囲気が一段と硬化し、剣柄を握る手に力を入れたのが見えた。まさか、抜刀するつもりなのか?と玲子は驚き、いつでも対処できるよう兵の一挙一動を見逃すまいと注視する。


「っ、帝都交易の要である検門でこの様な騒ぎを起こすとはいったい何を考えているのだ!」

 検兵は当然ながら無闇に剣を抜くことはなかった。
 代わりに頭から足先までビリビリ痺れる程の剣幕でお叱りを頂く羽目になったが。
 ただ、一言だけ言い訳させて貰うならば列の妨害をしようなんて玲子はこれっぽっちも考えていなかった。
 
 この女性を助けようとスキルを発動したら、存在を忘れていた[舞台演出]さんがここぞとばかりに主張してきたのだ。

(ある意味、気付くきっかけをくれたこの娘に感謝かな)
 玲子が女性に黙礼すると、目敏く検兵が反応した。

「この者がどうかしたのか?」
「ええ、彼女が倒れたので介抱していたんです」

 玲子が女性を助け起こしたところは見ていなかったのか検兵が目を丸くし一瞬固まった。それから周囲で見物している人々に「それは本当か?」と聞き込む。

 検兵と目があった者は玲子を気にしながらも頷くか 関わりたくないと目を逸らす者で別れた。
 なんとなしに玲子が女性を見ると、女性も玲子を見ていたのかバチっと視線が噛み合った。

(ん?何か言いたそう……)
 玲子が促すように小首を傾げると、女性はブンブンと首を横に振った。

(ちょっ、止め!?検兵さんに見られたら誤解されるでしょ!!)

 女性も気づいたのか、今度は激しく頭を上下に振りだした。
 なんやかんやあったが検兵は一つ頷き、だいぶ進んで間が離れてしまった前列を指差して指示をだす。

「そうか。なら、よし。戻って整然と列に並びなさい」

 おとがめ無しとは大変喜ばしい。列に戻っていく女性の後に続こうときびすを返した玲子。だがしかし、すかさず検兵から呼び止められた。

「あぁ、待て。貴方は着いてきてくれ」
___まじか。
 前言撤回である。激しく嬉しくない。油断させあげて落とすとか鬼じゃなかろうかと玲子はフードで表情が見えづらいのを良いことにジトーっと恨めしい視線を送った。
 
 案内された先は実家にある物置小屋に似ていた。知識の指輪によって検兵が駐屯する所__所望、交番のようなものだと玲子は自然と理解できた。

「さぁ、入ってくれ」
 屯所の扉を開いた検兵が招く。此処まで来てごねる訳にもいかず、玲子は其ならば手短に済ませてしまおうとそそくさ示された椅子へ腰をおろすのだった。

「少し狭いが詳しい話を聞くなら十分だろう」

 検兵が棚に飾られたドライフラワーを弄った。
 この世界でもドライフラワーを愛でる文化があるようだ。むしろ、漢方医学に近い薬学と考えれば馴染みあるのが普通あたりまえといったところか。

「詳しい話ですか?……先の彼女が急に立ち止まり、不審に思った私が見ていた目の前でフラりと倒れたので助けた。それだけですよ。」

 玲子が事のあらましを説明する間も検兵の視線は幾度となくドライフラワーへと向けられた。

(そんなにドライフラワーが好きか?っよし、今から検兵さんきみはフラワーさんと呼ぶとしよう)

 なんて素敵なネーミングセンスだろうか。自画自賛する玲子

「___法だろう?」

(ハッ、しまった。最初の方聞いてなかった)

「助ける為とは言え人が大勢いるなか、しかも門の前で許可なしに魔法を放てば牢に入れられたとしても文句は言えないのだぞ?__何故、魔法を使った?」

 フラワーさんは玲子が聞いてなかった事を指摘せず、もう一度 今度は噛み砕いて言葉を紡いだ。

「……薬を手に持っていたなら使っていましたよ。彼女を見ぬ振りで順番を抜かすのは気が引けますし」

 居たたまれなさすぎて、そっぽ向く様な態度をとってしまった。重ね重ね申し訳ないと玲子は内心で頭を下げる。

「経緯は把握した。なら、入国する際における身分の確認をしたい。入国許可証かギルドカードを提示してくれ」

 その両方を出せない玲子は首をふった。
「どちらも持っていません」
 本当に申し訳ありません

(もう土下座した方が良くない?それに失礼な態度もとってしまったし土下寝くらいの誠心誠意を見せなきゃ入国は駄目なんじゃ……)

 玲子が葛藤を振り切って実行に移そうと膝に力を入れた。その脳裏に浮かび上がったのは、いつもmy物で遊ぶ時に目にしていたCSキャラセレクト画面で選択した際に悠然と笑み恭しく一礼するアレイスタークの姿

(__無理っ、こんなしょうもない事でアレイスタークに膝を付けさせるなんて!例え相手がフラワーさんだとしても赦せざる蛮行だ!)

 玲子の高ぶりに若干引いてなくもないフラワーさんが取り繕いながら他の方法での帝都入りを告げる。

「そ、そうか。なら帝都に入る為には入都税10,000Eが必要だ。後日、ギルドカードか入国許可証を持ってきて貰えれば5,000Eが返金される。ただし、入国許可証の有効期限は1ヶ月間だから滞在期間が長期となる場合は更新が必要になるぞ」

 手続きする為にフラワーさんが棚の引き出しをあさりだした。完璧に視界が外れたタイミングで玲子は目録インベントリから金に換わりそうな金品を物色し、イベントの名残である指輪を取り出した。

 碧色の小さな宝石が輝く指輪[イベ限装飾品:友情の証]である。これは、期間中に現れるマップ 皇居内でわがまま皇女から課せられる指令をクリアすると入手できるアイテムだ。
 イヤリング(右)/イヤリング(左)/ペンダント/指輪の4種類がある。

 __コト

 指輪をテーブルに置いた音でフラワーさんが棚をさぐるのを止めて此方をみた。

「っ!?」
 息をのみ、まじまじと指輪を見つめるフラワーさん。やっぱり現金じゃないと駄目だっか

「これは私の大切なものです。売れば10,000Eなど軽く下らないでしょう。此の指輪を質として預けますので今回だけ通して頂けませんか?後日、改めて入都税を支払いに参ります……きちんと"礼"もさせて頂きます」

 つい、しかめそうになる顔を堪えて玲子は笑みをのせた。無理やり過ぎて上手く笑えた気がしない。

「いや、此は無くせないモノだろう!大事に持って行ってくれっ、いや、持って行って下さい!」
「入都税は」
 どうするのか?そう後に続ける前にフラワーさんが玲子の台詞をぶった切った。
「要りません!調書も此方で書き換えて措きます!」

 フラワーさんの仰天解答に玲子は耳を疑った。
 正規での帝都入りを見逃し、あまつさえ不祥事を無かった事にすると検兵の職に就きながら言ってのけたのだ。バレたらクビ間違いなしである。

 フードの下からフラワーさんを見れば、彼の目が潤んでいた。
(金もなく身一つで帝都に来たと思って同情している?あー、だから態度も急変したのか)
 涙を堪えて凄い眼力になっているフラワーさんに玲子は納得した。
 
「つまり、私に協力してくれると?」
「はい!ですから俺っいや私めの事はどうかっ」
「勿論、分かってますよ」
 彼が密入国の手助けした事は二人だけの秘密だ。
「安心して下さい」
 涙脆く情に流されやすいフラワーさん。後日、払えなかった10,000Eとドライフラワーを持ってお礼しに来ようと玲子は誓う。

「さ、その指輪をしまって下さい。お早く。他の者に見つからぬ内に裏戸ここから抜けて下さい」

 玲子が指輪をはめるのを確認したフラワーさんが奥に面する何の変哲もない壁に向かった。そして、徐に壁に手をかけると外に繋がる隠し戸を開く。

「ありがとう」

 玲子はフラワーさんの横を通る寸前、言い忘れていた感謝を口にした。アレイスタークよりも玲子の素に近い口調となってしまった。

(まぁ、違和感を感じるほど長く一緒に居たわけじゃないからセーフセーフ)

 それに相手はフラワーさんだ。大抵の事は誤魔化されてくれるだろうと玲子は本能的に悟った。

「貴方になら良いかな……」
 玲子はアイテムバックに移していたHP回復薬ライフポーションの中から、my物時代にわりと重宝していた特級薬を堂々と取り出した。

「此は特級HP回復薬ライフポーションです。効能はHPを70%回復させるもの__もしも大怪我を負うような事態があれば使って下さい」

 此は保険だ。10,000Eを支払いに来るまでの間にフラワーさんに何があったとしても大丈……大丈夫か?
 致死ダメージはどう足掻いても癒せないのだ。生きててくれよと玲子は願いを込めて彼の武骨な手に握らせた。

「お世話になりました」
 玲子が開け放たれた扉から帝都内へと一歩踏み入れる。その瞬間を狙って[舞台演出]が玲子に「アシストは任せろ」と強烈な照射を行い姿を眩ませた。

 背後でパタンと戸が閉じる。

(そりゃ、眩しいよね。戸があったら誰でも閉めるわ)
 やはり最後までしまらないらしい

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