ポンコツタロット

黒シャツ

お約束のアレ

ギルドの地下。そこは何やら闘技場のようになっていた。地下の割には天井も高く、なんだか妙な感じである。

「ほな、始めよか!リリアちゃん、宜しく!」  

「頑張るのだ!」

そう言って俺の向かい側に立っているリリアが拳をあげる。
いや、待て待て。まだ、俺は何をやるか聞いてないぞ。正直言うと闘技場、向かい側にいる相手とまぁ、この状況である程度、予想はつくのだが…

「マスター、結局、なにが始まるんだ?」

「なんや、知らんかったんか?今からワトソンとフールちゃんにはリリアちゃんの創り出すゴーレムと戦ってもらうんや」

「そうなのだよ。ワタシの属性はゴーレム属性と言って様々な性質を持つゴーレムを生み出すことができるのだよ」

うむ…また出てきたな。属性。さっきからこの言葉がよく出てくるのだが意味が分からん。この世界で重要なものっぽいのだが…あとでフールに聞いてみよう。

「そうそう、リリアちゃんの属性で創り出すゴーレムはその強さまである程度、操作出来るから力試しに持って来いなんやわ」

つまり、リリアは属性…今は魔法的な何かだと解釈しよう…によってゴーレムを創り出すことができ、そして今からそれで模擬戦をするわけだな。
成る程、全くもって宜しくない状況だな。そもそも、俺は戦えない。当たり前だ。俺の故郷は愛と平和の我等が地球だぞ。出来るはずがない。
確かにあちらでは一般人とは言い難い荒れた生活をしていたがそれでもしたことがあるのは喧嘩か鼻くその付け合いぐらいだ。

「大丈夫ですよ、ご主人。私たちにはタロットがあります!」

それが一番信用ならないんだよ、バカ。三輪車の惨劇を忘れたのか?

「よっしゃ、んな始めんで!」

あ!コラ!ちょっと待て!

「ワタシもいくのだよ!"ゴーレム属性、トロールゴーレム"!」

俺の気持ちは他所にマスターが開始の合図をするとリリアが呪文のようなものを唱える。
するとリリアの足元の土がボコボコと隆起したかと思うとそのまま、クネクネと形を構成していき、最後には大きな人の形となる。 
背丈は俺の2倍ほどあり、しかも異様にデブい。絶対に関わっちゃダメなタイプのヤツだ。

「いくのだよ!」

リリアがそう言うとゴーレムは俺を見据え、ものすごい速度で突進して来た。
何!速い!コイツ、動けるデブか!
俺とフールは咄嗟に後ろ右に飛び退た。
その直後、ゴーレムは俺たちが元いた場所に拳を振り下ろし、地面にクレーターを作った。

いきなり動いたので履いていたスニカーの靴紐側解けたがそんなことどうでもいい。俺はゴーレムが作ったクレーターを見て、もし俺たちがあの場にいたならば、と考え、戦慄した。
ヤバい、本日、2度目の死ぬかもしれない状況だ。

「お、おい、フール。俺たち、死ぬのか?」

「いえ、大丈夫ですよ、ご主人!タロットを使うのです!」

なんでそんなにあのタロットを妄信できるんだか…だがこの際、仕方ない。溺れる者は藁を掴む、だ。

「フール!出来るだけ強いやつを教えろ!」

俺とフールはとりあえず、ゴーレムに捕まらないよう走りな回りながらフールに尋ねる。

「はい、ご主人!11を冠する力『ミョルニル』は如何でしょう?その力はまさに神の鎚。あらゆるものを粉砕し、決して壊れることはありません!」

フールからそれを聞くと直ぐにタロットを取り出す。

「出でよ!11を冠する力、ミョルニル!」

するといつものようにタロットが光り輝き、黒い鎚が現れ、地面に落ちる。俺は直ぐ様、それを取ろうとしたのだが…

「重!」

俺は必死になってミョルニルを持とうとするのだが持つどころかウンともスンとも言わない。

「あ!女神さま曰く、140トンほどあるらしいんで気をつけるようにとのことです!」

持てるか!ボケ!どこの人間がシロナガスクジラ並みの鎚を持てるんだ!くそッ!やっぱり、ポンコツだ!

俺たちがそんなアホをしているといつのまにかゴーレムが近づいてきて、拳を振り上げる。
ヤバい!俺は直ぐに右側へ避けようと跳び上がる。
しかし、何かに足がとられてその場に転ける。

何があったのか?何故か、周りがスローモーションのようにゆっくり進んでいるので落ち着いて解説するとしよう。死に間際になると時間がゆっくりになるって本当なんだな。
簡単に言うと原因はミョルニルだ。どういうことかと言うとさっき言った通り、俺は今、スニカーの紐が解けている。最初の一撃の時に解けたのだがそれどころではなかったので放っておいたのだがそれが良くなかった。
その靴紐をミョルニルが踏んづけてしまったのだ。ミョルニルの重さは140トン…つまり、俺はここから動けない。good-by今生。

そう思い、俺は静かに目を閉じた。



…が、しかし。いつまでたってもゴーレムの拳は降ってこない。
恐る恐る、目を開けてみるとなんとゴーレムの拳をフールが片手で受け止めていたのだ。

「もう、何やってるんですか、ご主人。しっかりしてください」

ゴーレムは全身の体重をかけて俺を殴ろうとした態勢のままフールに拳をつかまれているので動けない。
違う方の手を使ってフールを殴ろうとしたがそれも甲斐無く止められる。

「さてと…ご主人を仇なした罪です。受けなさい。おりゃ!」

そう言うとフールはゴーレムので腹に蹴りを入れ、ゴーレムを粉砕する。
ガラガラと音を立てて崩れゆくゴーレムを見て俺はこう思った…えっ?フールって強かったの?じゃあ、タロット云々より前にお前が戦えば良かったじゃん、と…

「そこまで!」

マスターがそう叫ぶと同時に観ていたギルドのメンバーが騒ぎ出す。

「スゲェ!スゲェぞ!おい!あのトロールゴーレムを一撃かよ!」

「確か…一撃粉砕はアタシ以来じゃなかったけ?」

「ええ、私は最古参なので全員の模擬戦を見てますが一撃はセシルさん以来でしたね」

「ムゥ、一撃は結構へこむのだよ〜」

「いや〜、お二人さん、お疲れ。期待通りの実力やったわ!」

マスターそう言っていつまでも仰向けに転がったままの俺に手を差し出す。俺はその手を掴み立ち上がった。 
一応、靴紐を踏まれているだけなので立ち上がれるには立ち上がれるのだが…

「ご主人、ご主人、消えろと念じれば消えますよ」

どうするものかと悩んでいるとフールがそっと俺に耳打ちをする。
成る程、出来れば先に言って欲しかった。
フールに言われた通り、消えろと念じてみると確かにミョルニルは光り、タロットに戻った。

「良かったで〜、二人とも!なかなかええコンビやった!」

ん?二人とも?確かにフールは凄かったが俺は見事に駄目駄目だったぞ。やったことは逃げる、コント、転けるの三つだし…ああ、成る程、お笑いのコンビとして笑えたと言うことか。

「はい!凄かったです!最初の一撃を避けてからのフールさんを召喚したままでの召喚!僕、同時召喚なんて初めて見ました!しかも、その召喚は相手を油断させるためのブラフ!そして、殴られそうになったところをあえて体勢を崩して相手の重心を前にさせ、後ろに引けなくした状態でフールさんが捕まえ、粉砕する!素晴らしい、コンビネーションです!」

なんだかよくわからんことをルークが饒舌に語っている。勘違いもいいところだ。召喚はブラフじゃない。ただただ思った以上にミョルニルがポンコツだっただけだ。転けたのもあえてじゃない。フツーに転けただけだ。

「成る程!そうだったんですね!ご主人!」

フールがキラキラした目でこちらを見てくる。
何言ってんだ、このアホ鳥。せっかく、見直したというのに、全く。
というか、そんな目で見るな!俺がなんか居た堪れないだろ!

「よっしゃ、じゃあ、ギルドカード作るから上あがろか。ほな、後はマリアさん、宜しく!」

「承知しました。じゃあ、ワトソンさん、行きましょうか」

そう言われて何を作るのかよくわからないが俺はとりあえずマリアについていった。



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