ポンコツタロット

黒シャツ

自転車にあって三輪車に無いもの

「どうするんですか!ご主人!」

「どうするもこうするもないだろう…こうなった以上、誠心誠意説明して無罪を勝ち取るしかないだろう」

「いやいや、どっからどう見ても私たち有罪ですよ!」

フールがピーチクパーチク騒ぐ。そもそもここはどこかと言うと俺たちが目指していた辺境都市『グリム』の牢の中だ。

どうしてこうなったかと言うと…


「ご主人!風が心地よいですね!」

「よく分からんものを五、六匹目轢いたせいで妙に生臭い風だがな…」

「私たちの前にいるから悪いんですよ!ほら、ご主人!もっとこいでください!GO GO GO!」

こんな感じで俺たちは目的地であるグリムを目指していた。
乗る前に心配していた安全性もそれほど悪いものではなく、風圧もバリア的な何かによって軽減されていた。ただ馬鹿みたいに速いのでウッカリしてると色々轢いてしまうのだ。現に蛙のような何かを3匹、ヤドカリのような何かを2匹、熊のような何かを1匹と計6匹の犠牲が出ている。そのせいで服はその返り血?でグッチョグチョ。ものすごく生臭い。フールもさっきからテンションがおかしいし…

そんなことを考えながら三輪車を走らせていると目の前に都市が見える。
周りは壁に囲まれており城塞といった感じだ。

「ご主人!見えてきました!あれがグリムです!」

「思っていたより大きい都市だな」

「辺境の地とはいえ荒野に面していますからね!それなりに栄えているようです!」

ん?荒野に面していたら栄えるのか?よく分からんがまぁ、そう言うものだとでも思っていよう。
そう思って進んでいると次はピー、ピー、笛のような音が聞こえた。
よく前を見てみる槍を持った兵士のような出で立ちの集団が隊列を組んで並んでいる。

「止まれ!止まれ!そこの…えっと…あー…とにかく止まれ!」

隊列の先頭にいる男が真っ赤な顔で何やらこちらに向かって叫んでいる。
メルカバーをどう表現するかで悩んでいるみたいだが普通に三輪車でいいと思う。

「フッ、愚かな人間め!今の我々に止まると言う選択肢はないのだ!立ち塞がる敵は粉砕あるのみ!さぁ、ご主人!あの隊列を木っ端微塵にしてやりましょう!」

何を言ってるんだ、この阿保鳥は…。さっきから思っていたがコイツ、スピード狂か?さて、こんな阿保は無視してブレーキ、ブレーキ…

その時、俺はあることに気づいた。これまでの人生の中で一番、後悔した。俺はメルカバーが三輪車である時点で気づくべきだったのだ…

自転車や自動車、バイクにはあって三輪車には無いものはなーんだ?

答えは…

ブレーキである。

確かによくよく幼少の頃の三輪車を思い出してみると確かにブレーキらしき物体は無かった。まぁ、三輪車程度ではそもそもまともなスピードが出ないから必要もないのかも知れない。だが、それが三輪車の形をした神の戦車では話が違う。まさにブレーキの無いブッ壊れスポーツカーである。

「おっ、おい、フール?これ…ブレーキ無いんだが…?」

「我々に止まると言う選択肢はない!」

「そういうの今はいいから…止まる方法教えてくれない?」

「突撃!突撃!」

「え…マジで無いの?ねぇ…ねぇ?」

「粉砕!粉砕!」

「あっ…コレ…マジでヤバいやつだわ」

「木っ端微塵!」

ヤバい、ヤバい。このままいくと本当にフールの言う通りあの隊列を木っ端微塵にしてしまう。隊列は逃げる気配はないし…このままではキーワードに残酷な描写ありを入れなければならなくなるぞ。…って馬鹿なことを考えてる間にもう隊列が目の前に!

くそッ!こうなったら一か八かだ!死んだら、幼女神に死ぬ程文句言ってやる!えいっ!

俺は隊列にぶつかる直前にサドルをきり、そしてそのまま、グリムの城壁に激突したのであった。
その後のことは記憶がない。気づけば俺たちはこの牢に入っていたわけだ。




「ちょっと!聞いてるんですか、ご主人!」

「ああ、聞いてるぞ。てゆうか、危ないのはお前だけだろ。突撃だの粉砕だの物騒なこと言って兵士をブチ殺そうとしてたのはお前だしな。俺はそれを体張って止めたんだから文句言われる筋合いはないしな。もしもの時はお前をあの兵士達に差し出して事なきを得るつもりだ」

「な!裏切るんですか!この裏切り者!薄情者!スカポンタン!おたんこなす!泥棒ネコ!」

罵倒がよく分からんことになっているぞ。裏切り者も何もさっき言ったことが真実なのだ。それにそもそもなんで俺たちは牢に入れられているんだ?
兵士達には一切危害を加えなかったはずだし…まぁ、怪しいからと言われればそれまでなのだが。

「なんや、なんや。思ったより元気やないかい。あんたらが三輪車で城壁に突っ込んでどえらい穴空けたっちゅうアホ二人組か」

成る程、城壁に穴を空けたのか。じゃあ、仕方ないな…って誰だコイツ?
俺たちの牢の前に着物姿で顔の上半分を天狗のようなお面で隠している男が立っていた。

「あの〜、どちら様でしょうか?」

「羽の嬢ちゃん、大丈夫や。ワシは怪しいもんちゃう。嬢ちゃんらを助けにきたんや」

「助けに来た?どう言うことだ」

「お!兄ちゃんもやっと興味持ったか。実はな、ワシはこの街のギルド、金のガチョウのギルドマスターのカザマっちゅうもんや」

カザマか…着ている着物といい、その妙なお面といいやけに日本っぽい奴だな。異世界でしかも剣と魔法の世界と聞いていたからてっきりそう言うものは無いと思っていたのだが…

「ああ、名前は聞いてわかる通り勿論、偽名や。訳やって本名は名乗られへんねん。このお面も似たような理由や。堪忍な」

うーむ、ますます怪しいやつだ。だがまぁ、ここから出してくれると言うなら疑っていてもしょうがない。それに金のガチョウのギルドマスターだと言うのなら俺たちの目的でもある訳だ。

「えっと、そのギルドマスターのカザマさんが私達を助けてくれるんですか?」

「おう、そうや。実はな、ついさっき守護兵団の方から『果ての荒野』の方角からものごっついスピードの三輪車に乗って城壁に突っ込んで穴開けた馬鹿がおると。んでその扱いに困っとるちゅう連絡が来てな。そいでまぁ来たわけやねんけども」

成る程、守護兵団というのがさっきの兵士達で、果ての荒野というのが俺たちがさっきいた場所だな。それで馬鹿というのが俺たちというわけか…情けない。

「そいでまぁ、来たわけやねんけど…いきなりやけどあんたら、ウチのギルドに入らんか?」

なんと…いきなりだな。まぁ、元々、金のガチョウに入るためにこの街に来たわけだし願ったり叶ったりなのだが…

「本当ですか!私達、元々そのつもりで来たんです!」

「おう!そうかそうか!そいつはええ偶然やったな!」

「おいおい、フール。ちょっと待て。カザマさん、コイツが言う通りありがたいのは間違いないんだが…一応、理由だけ聞かせてくれないか?」

「簡単な話や。あんたらがここにいる理由は城壁を破壊したからや。やが、アレは守護兵団から話を聞く限り恐らく事故やってんやろ。やけど、城壁を破壊したことには変わりない。事故やからってほな、さいならっちゅうわけにもいかんのや。だが、ワシのギルドに所属するっちゅうなら話は違う。あんたらは見たところ相当な腕が立つやろ?」

全くもってそんなことはない。寧ろ、ポンコツだ。そもそも、この事故だって俺たちのポンコツさの賜物だ。

「いーや、誤魔化しても無駄やで。ワシをなめてもらっちゃ困る。城壁を壊すほどの三輪車…ここの城壁、相当丈夫やねんで。それに羽の嬢ちゃん、アンタの使い魔やろ。人型のしかも知性を持った使い魔。それだけでアンタが相当優秀な召喚系の属性を持った魔導師やっていうことはアホでもわかるわ」

うーむ、相当、複雑な勘違いをしているようだな。最後の辺り、よく分からんかったぞ。属性って何だ?

「とまぁ、あんたらが優秀ってことは分り切っとる。やから、あんたらをウチのギルドで雇う代わりにワシがあんたらの罪をもみ消すっちゅうわけや。そっちの方がこの街の為やしな。ちゅう訳やから、改めてウチのギルドに来おへんか?」

成る程、所謂、司法取引ってやつか。こちらには一切デメリットが無いしこれは受けないでは無いな。変に勘違いされているのが少し厄介だが…

「ああ、分かった。よろしく頼む」

「よし、交渉成立や!これからよろしく頼むで!」

そう言って俺とカザマは牢屋越しに握手を交わしたのだった。


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