ポンコツタロット

黒シャツ

鳥と三輪車

…と、まぁそんなわけでおれは異世界にいるわけだが、さてさて、どうしたものか。
見渡す限り広大な荒野。人っ子一人いやしない。どこかへ行くもどこへ行けば町があるのかわからない状態で動くのは危険すぎる。それに俺はジーパンにシャツ、ジャンパー、靴はスニカーといった非常にラフな格好。これでは危険だろう。

俺がウンウン悩んでいると幼女神から貰ったカードケースが光り、一枚のカードが飛び出してきた。

そのカードは俺の頭の上で一回転し、ボンっと煙を出したかと思うと一匹の虹色のオウムのような鳥に変わった。

「はじめましてご主人。私、タロットの案内人、零を冠する愚者を司りし者、フールです。女神様からご主人のお世話をするようにと仰せつかっております」

そう言うとオウムもといフールは翼を器用に使い一礼をする。

オウムは喋る鳥だ。だが、最近のオウムはここまで流暢に喋るのか…驚きだな。

「成る程…もしもの時はお前を非常食にしろってわけだな」

「なっ ︎ち、ち、ち、違いますっ ︎断じて、違うのです ︎」

俺が冗談めかしにそう言うとフールは慌てたように羽を顔の前でバタバタと振る。
このオウムなかなか器用だ。

「わ、私はご主人の身の回りのお世話をしろと仰せつかったのです ︎たっ、例えば、ほら、お料理とか、お洗濯とか、お風呂とか、おトイレとか ︎」

こいつ、パニックになってるのか?天然だったら恐ろしいな…流石にトイレはいらん。お風呂もいらん。料理、洗濯は確かにありがたいが…

「何言ってんだ。お前、鳥だろ。お料理も何もお前が料理になる側だと思うが」

「ちっ、違いますって!そ、それにほらっ、タリラリーラ♪」

フールはえらく音程の外れた歌?のようなものをいきなり唱えた。するとフールの体は七色の光に包まれ、その中から七色の羽根の生えた少女が現れる。

「…うん。チェンジで」

「なんでですか!折角、ご主人に喜んでもらおうと美少女に変身したのに!」

非常に申し訳ないのだが俺は幼女趣味は無い。いつもなら、オシメが取れてからまた来な、っとカッコつけるのだがトラウマがあるのでやめておこう。
出来る男は同じ失敗を繰り返さないのだ。

「はぁ、ですがこればっかしは仕方ありません。ご主人は熟女好きと覚えておきましょう。これで私が非常食じゃなく、ちゃんとしたお世話係だって認識してくれましたか?」

なんだかとんでもない誤解が生まれたような気がするがまぁいいだろう。

「ああ、了解した。これから宜しくな、フール」

「はい!」

フールはにこやかに笑い俺と握手を交わした。

「さて、これからのご主人の予定ですが実は女神様から指示を頂いています。ご主人にはこの世界の7つのギルドのどれかに所属してもらいます」

ほぅ、幼女神から事前にここは剣と魔法の世界だとは聞いていたがギルドとか本当にあるんだな。

「取り敢えず、候補としては…えっと…第1候補が『黄金の上腕二頭筋』「チェンジ」…即答ですか…じゃあ、第2候補、『仏智義理』「次!」…これもダメっと…第三候補『乙女の花園』「俺、男」…ですよね…第四候補『紅の騎士団』「赤点集団」…えー、ダメですか…そうなると…『銀の槍』は貴族専用だし…『亡霊の城』は活動してるかわからないし…そうなると残りは…弱小って噂の『金のガチョウ』しか残りませんよ?」

弱小のギルドか…逆に丁度いいかもしれないな。それに噂なんで当てにならない。人が立てる噂なんてものは殆どが勘違いか偏見だ。真実なんざこれっぽっちもないもんだ。
特に噂での番付なんてもんはその最たるものだ。

「よし、そこにしよう」

「わかりました…ご主人がそれでいいなら従います。では、早速、ギルドに向かいましょう!金のガチョウはここから東へ30キロほど先の『グリム』という街にあります!」

成る程、30キロ…30キロね…

「どうしたんですか、ご主人?いきなり、死んだ魚みたいな目をして」

30キロ…これはなかなか遠い。普通に歩いても七時間以上はかかるだろうし、直線距離では30キロということは実質、もっとということだ。こんな何もない荒野、真っ直ぐ歩けるわけないからな…

「あ!もしかして、ご主人、歩くと思ってるんですか?違いますよ!タロットの力を使うんです!」

そういえば、そんなものもあったけか。だが、使い方がわからんぞ。

「大丈夫です!そんな時のための私、タロットの案内人ですから!」

そう言うとフールは誇らしげにない胸を張る。

「むっ!なんか失礼なこと考えてますね!」

こいつ、なかなか勘がいいな。獣の勘ってやつか。仕方ない。適当に誤魔化すとするか。

「そんなことはない。大いなる零を感じただけだ」

「え?まぁ、確かに私は零を冠する愚者ですけど?」

なんだか訳のわからんことを言っているが誤魔化せたならそれでいい。

「それよりご主人、今の状況でオススメなのは7を冠する戦車、メルカバーですね。神の戦車、天の車。その速さは地上、天界の存在を凌駕し、行く手を遮る如何なるものも粉砕する無敵の戦車です!」

なんだかとても物騒なものを紹介された。別に戦争に行く訳じゃないんだからもっと平和的、かつ安全なものを紹介してもらいたいのだが…例えば、ただの軽自動車とか。
だが、まぁ、この際、贅沢は言ってられない。出来るだけゆっくり、慎重に走れば軽自動車だろうが神の戦車だろうが変わらんだろ。
一つ心配な点があるとするならば俺がペーパードライバーである点か…そういえば、戦車に免許はいるのだろうか?

「よし。じゃあ、それにしよう。どうすればいいんだ?」

「えっとですね、戦車のタロットカードを空に掲げて『出でよ!7を冠する戦車、メルカバー!』と、かっこよく叫んでください!」

「なんというか…すごい恥ずかしいな…それ。どうにかならないのか」

「どうにもなりません。女神様がそうお決めになったんでしょうがありません」

くそ、あの幼女神め。嫌がらせだな。
はぁ、だが、背に腹は代えられない。仕方あるまい。

「出でよ。7を冠する戦車、メルカバー!」

俺がフールに言われた通りそう叫ぶとタロットカードは輝き、俺の頭の上を一回転するとボンっと煙を出して金色の…金色の…うん…こりゃ…アレだな…三輪車だな。

「おい、フール…コレはなんだ?」

「メルカバーですよ、ご主人」

「メルカバーって…確か、神の戦車だよな?」

「はい、そうですよ」

「ほぅ、じゃあ、何か?神は三輪車でブイブイ言わせるのがお好きか」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。女神様はアメリカンでブイブイ言わせてます」

そら、驚きだ…ってそんなことどうでもいい。
いや、確かに平和的で安全なものとは言ったが限度というものがある。バイクと三輪車では月とスッポンだ…ちなみにここで言うスッポンはトイレのスッポンだからな。

「まぁ、このタロットカードは神の力の1000分の1省エネバージョンですからね。バイクが三輪車になっても仕方ありません。あ、でも、安心してください、ご主人!スピードは並みのスポーツカーより速いですから!」

そうか、なら安心!…とは決してならない。逆に危なすぎる。今更だが俺は今年で24である。背丈は平均より少し高いぐらい。そんな奴が三輪車に乗れるだろうか?…いいや、乗れない!サイズが合わない!なんせ、三輪車より体の方が大きいからな!
しかも、コレ、スポーツカーより速いときた。うっかり振り落とされでもしたら一貫の終わりだ。

「まぁまぁ、ご主人。案ずるより生むが易しですよ。とりあえず、乗ってみましょうよ。女神様曰く、安全性は五つ星だそうですよ?それに乗らなきゃ歩くことになりますよ…30キロ」

うっ…フールの奴め。痛いところを突いてくる。確かにこのままじゃどうしようもない。水もなし、食糧もなし、コンパス等、方角を示すもの無しの状態で歩いてもうっかり干物になるのがオチだ。
だが、この三輪車もうっかりミンチになって、そのままハンバーグにでもなりそうで怖い。
はぁ、だがまぁ、悩んでても仕方あるまい。この際どうとでもなれだ。三輪車で峠最強にでもなってやる。

「お!やっとやる気になりましたか!では、出発進行なのです!」

そんなこんなで俺は嫌々ながら20年ぶりかの三輪車デビューを果たすのだった。



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