僕らのダンジョンアタカッーズ!
ようこそ!ファンタジア学園へ!~昨晩はお楽しみではありませんでした~
「はぁー、お腹いっぱいだ。満足」
「そいつは良かった」
あの後、僕とレティアはバスターとロデルの二人にアルネイを案内してもらい、前持って宿を借りた後、二人が行き着けるレストランで夕食を楽しんだ。レティアが「メニューに書いてあるの全部!」って言った時は即座にチョップを繰り出して止めた。まぁ、それでも結構な量を頼んでいたけど。
「プハー!うまかったな!」
「うん。特にあの赤い魚が美味しかった」
「ああ、ブラッドフィッシュのことか。あれはこの町の名物だよ」
「この辺りの海で取れる魚の中でも特に旨いぜ!」
ブラッドフィッシュ。何だか物騒な名前だ。色合いが血のように赤いからそう呼ばれてるらしい。何でも赤ければ赤いほど味が濃くなるんだとか。
ーーさて、お腹も膨れたしそろそろ宿に戻って明日に備えよう。あ、ちなみにレティアとは部屋は別々です。最初はお金がもったいないし、レティアと一晩過ごすのものも今さらかと思い一部屋にしようとしたけど、宿屋の主人が、「今夜はお楽しみですかね?」と真顔で聞いて来るもんだから即座に二部屋借りてしまった。そしてレティアが可愛らしく首を傾げて、僕の袖を引っ張ってーー
「お楽しみってなんだ?ゲームでもするのか?」
ーーって聞いてくるものだから、僕はいたたまれない空気で宿屋を後にすることになってしまった。
今にして思えば、あれは主人が僕に二部屋借りさせるための誘導だったのではないかと思う。というかそうであってほしい。
「それじゃあ僕達はそろそろ宿に戻るよ。レティア行こう」
「うん!」
「なんだよ、もう行くのか?もう少しゆっくりしてもいいだろうが」
バスターが口を尖らせて僕らを引き止めてくる。それを制止するように、隣に座るロデルが会話の後を引き継ぐ。
「いいじゃないか別に。明日はファンタジア行きの船が出向するんだ。今日くらいゆっくり体を休めないと明日に響くだろ」
ロデルの言うとおり、明日はいよいよファンタジア学園に行くんだ。どんな所かわからない以上ある程度体調管理をしっかりしておかないと、いざという時に体が動かないなんて事になれば笑い話にもならない。まあ、結局は学園なんだからいきなり命の危険があるなんてことはないかもしれない。ただ、僕はこの世界についてなにも知らない異邦人だ。それがどんな命取りになるかわからない以上、警戒をしておいて損はない。
「なんだよぉ。明日学園に行くからこそ今日はパーッと派手に遊びてぇのによぉ」
「駄目だ、俺達ももう帰るぞ。クニハルとレティアも明日備えて今日は早めに寝とけよ」
「うん、ありがとう」
「ありがとうな!ロデル!」
「おう、また明日な。ほら行くぞ」
「うげぇ!」
ロデルはテーブルに代金を置いてくと、いまだにブー垂れてるバスターの首根っこを掴みあげ、そのまま引きずりながら店を出ていった。
「アデデデ!おいやめろ!離せロデルおいっ!ぅおーいっ!!」
「……いこっか」
「うん」
僕達も代金を払い店を後にした。
ご馳走さまでした。
宿に戻ってきて、僕らはそれぞれの部屋へと入る。僕は机に荷物を置くとそのままベッドに着替えないまま飛び込む。
「あ”~疲れた~」
今日はアルネイの町を色々と見て回ったからかなり疲れた。やはり今日はもう寝てしまった方がいい。でもその前にシャワーを浴びないと。それに『確認』しないといけないこともある。取り敢えず先に此方を片付けるとしよう。そういって僕は眼鏡を外す。そうして見えてくるのは例のステータスだ。
シンドウ・クニハル level.3
HP : 43/43
MP: 31/31
状態:正常
攻撃力 20
耐久力 23
魔力     28
俊敏力 19
智力     39
汎用スキル:無し
マジックスキル:無し
オリジナルスキル
能力表示 level.Max:パッシブ 対象の能力をデータ表示する 解析していないものは表示されない
異世界言語level.Max:パッシブ アーテリアの言葉を自動で翻訳する
解析能力 level.1:アクティブ あらゆる物を解析出来る能力 この熟練土では解析出来る情報は限られるうえに時間を要する 
「何とかレベル3にまでこじつけたけど、これで学園に入れるだろうか……」
アルネイに到着する道中でモンスターを狩りまくった努力が身を結んで僕はレベル3にまで上げることに成功していた。能力自体は上がっているけどスキルに関しては何の変化も見られない。まだレベルが低いからなのかもしれないけど。
道中レティアから聞いたのだが、スキルに経験魂はあまり関係ないらしい。あくまでスキルは自分で発言するか、誰かから教わる技術だから魂というよりも体に刻むというのが正しいということだろう。ーーだが『オリジナルスキル』。これだけは未だによく分からない事が多いらしい。
レティアの『超絶切り』は、彼女の師匠から言われた素振りを続けていたらいつの間にか覚えていたらしい。でも僕の『解析能力』や『異世界言語』は僕がこの世界に来て、最初からあったものだ。
そしてオリジナルスキルは、生まれつき持っている人もいるらしい。つまりこれらのスキルが僕が初めから持っていたものなのかそれとも、誰かに植え付けられたのかそれは分からない。いや、ほぼ間違いなく後者だろう。おそらくこの世界に来たときのあの声の主、奴が僕にこのスキルを与えた張本人だろう。何でこんな能力を僕に寄越したのかは分からないけど、現段階ではこの能力は有用だ。警戒こそすべきだが、全く使わないというわけにもいかないだろう。
そしてもうひとつ気になることがある。僕は机の方に目を向ける。
「解析能力」
『解析能力』
机:何の変哲もない木製の机
……これだ。この『声』だ。僕が解析能力を使うたびに、頭の中で復唱する機械のような声。この声は一体何処から来ているのか、誰が喋っているのか全然解らない。
スキルそのものが意思を持っている?ともすればこのスキルは生きている?ーー馬鹿馬鹿しい。自分で考えたことだがあまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。スキルは本人の技術だ。それが息をして、喋るなんて。……でも否定しきれない。情報が足りないから。
ーーあ”ー、駄目だ!考えても次々に疑問が出てくるだけだ!……さっさとシャワーを浴びて寝よ。
「はぁ~……何か余計に疲れたな」
いづれにせよ全てはファンタジア学園に行ってからだ。そこで知識を身につけてあの声の主を探す。先ずはそこからだ。僕は目的をハッキリさせてシャワールームへと向かっていった。
チュンチュン……ピチチ……
「……ぅ、ぅう~ん?」
……朝か。
「くぁっ……ぁああ~……んん」
欠伸と伸び。この一連の流れで自分の脳が冴えてきて漸く起きたと確認できる。
「……お早う御座います」
誰に言うでもなくそう呟く。強いて言うなら自分に対して言っている。昔からの習慣なのだ。ルーチンワークだ。
にしても、もう朝か。何か昨晩色々考えていたせいであまり寝たという実感が「おはようございますだ」……んん?
「おはようございますクニハル」
「………………おはようございます
                  ーーーーじゃないよっ!!!!!!!」
ーー何で!?何でここにレティアがいるの?それも寝間着姿でどうして僕のベッドの中に潜り込んでるのっ!!?えっなに!??お楽しみでしたの!?!?そうなのっ!!?
「何してんのレティア!?何で僕のベッドに!?いいいつ、いつ潜り込んだの!?」
「えー、クニハルがうんっていったんだぞ」
ーーはあっ!?
「いや、言った覚えないんだけどそんな事!というか僕が言うわけないでしょ!」
「いったんだぞ!」
~昨晩の出来事~
「んんん……。落ち着かない……。このベッド寝苦しいぞ……」
レティアはベッドの上でうんうん唸って、身動ぎを右へ左へと繰り返す。彼女は普段からキャンプで野宿をして過ごすことが多いため、宿のベッドで寝ることに慣れていないのだ。加えて明日はファンタジア学園への出港の日。幼子のような心を持つ彼女は、その事に少なからず興奮して寝付けにくくなっている。
「なんか物足りない」
せめて何か安心出来るような何かがあれば……。そう考える彼女の頭の中で一つの答えが生まれる。
「そうだ!クニハルのとこに行こう!」
そうして思い出したのが昨日、同行人であるクニハルを抱き枕にして眠ったことだった。あの時のレティアは自分でもよくわからない安心感があり、いつも以上に安眠快眠であったと記憶している。そのため、こんな寝苦しい夜でもきっとグッスリと眠る事ができるだろうと考える。
「でも、クニハル怒るからなぁ……」
それと同時に思い出すのが同行人が自分の行動を嗜めてきたこと。只でさえ彼女はクニハルに対して何度か心労を与えているし、本人にもその自覚は少なからずある。故に自分はどうすべきなのか考えて、
「よし!一回頼み込んでみよう。それで駄目なら寝袋で寝る!」
そう結論を出した。有言実行、彼女は即座にベッドを抜け出し、クニハルがいる部屋へと移動する。そして到着し、音を立てないようにゆっくりと扉を開けて部屋の中へと入る。
余談だが、ちゃんと部屋には鍵がついているのだが、彼は今日までの旅の疲れと、先程までの長考により注意力が低下しており、うっかり鍵をかけ忘れていたのだ。
レティアはクニハルのベッドの近くに寄り静かに彼に呼び掛ける。
「クニハル。寝れないから一緒に寝ていいか?」
まるで隠し事がばれた小さな子供のようにおずおずと問いかけるレティア。勿論肝心のクニハルは既に夢の中へと旅立ってしまっているため彼女の声など聞こえるはずがない。しかし、クニハルは彼女に背を向けるように寝返りをうちーー
「……う~ん……」
ーーとタイミングがよすぎる寝言を言ったのだ。
「ホントか!?」
これを肯定と捉えた彼女は即座に目の前のベッドに潜り込み、クニハルの脇腹辺りへ抱き着く。
「……えへ~。安心する」
こうして、心を落ち着かせる事に成功した彼女も、夢の中へと旅立っていくのだった。
これが昨晩の事の顛末である。
 
「なっ!ちゃんと許可とったろ!」
「……………………」
何処からツッコめばいいんだろう。取り敢えずはーー
「えい」
「あいた!?」
ーー軽くチョップだな。
「いい?レティア。女の子が軽々しく男の人と一緒に寝るのはよくないんだよ?」
「ごめんなさい……」
現在僕はレティアを床に正座させて説教中である。といっても出来る限り優しく嗜める程度に押さえているのだが。どんどん縮こまっていく彼女を見るかぎり、これでも十分効果はあるようだ。
「うん、まぁでもいきなりベッドに潜り込むんじゃなくて、ちゃんと一回良いかどうか聞いたのは偉かったね」
「ホント?」
「うん。偉い偉い」
「にへへ……」
あぁ、こうしてまた甘やかしてしまっている。でも、あんまり強くも言えないんだよなぁ。彼女の小動物みたいな様子を見てるとつい怒る気が失せてしまう。
「取り敢えずそう言うのはあらかじめ言っておくか、僕が起きてるか確認して、寝てたら起こしてね」
「うん!じゃあなじゃあな!今日も一緒に寝て「駄目」なぁ!?」
「いや普通に駄目だからね?」
「なんでだ!?あらかじめ言っておいたらいいんじゃないのか!?」
それはそれ、これはこれです。不純異性交遊、駄目絶対。
それでもレティアは納得がいかないらしく、キャンキャンと騒がしくしている。このままだと周り客に迷惑がかかるかも。よし。
「さあ、早く自分の部屋に戻って準備してきて?朝食食べたら港に行くよ?」
「お?おー!ついにか!」
秘技!唐突な話題そらし!これによってレティアは自分の部屋へと寝間着を着替えに行った。
僕も直ぐに着替えて、一階のリビングへと降りていった。
リビングを降りるとそこには宿屋の主人が朝食の準備を整えてる最中だった。そして主人は僕を見掛けると此方へ一礼しながらやって来てーー
「昨晩はお楽しみでしたか?」
ーー違います。
「そいつは良かった」
あの後、僕とレティアはバスターとロデルの二人にアルネイを案内してもらい、前持って宿を借りた後、二人が行き着けるレストランで夕食を楽しんだ。レティアが「メニューに書いてあるの全部!」って言った時は即座にチョップを繰り出して止めた。まぁ、それでも結構な量を頼んでいたけど。
「プハー!うまかったな!」
「うん。特にあの赤い魚が美味しかった」
「ああ、ブラッドフィッシュのことか。あれはこの町の名物だよ」
「この辺りの海で取れる魚の中でも特に旨いぜ!」
ブラッドフィッシュ。何だか物騒な名前だ。色合いが血のように赤いからそう呼ばれてるらしい。何でも赤ければ赤いほど味が濃くなるんだとか。
ーーさて、お腹も膨れたしそろそろ宿に戻って明日に備えよう。あ、ちなみにレティアとは部屋は別々です。最初はお金がもったいないし、レティアと一晩過ごすのものも今さらかと思い一部屋にしようとしたけど、宿屋の主人が、「今夜はお楽しみですかね?」と真顔で聞いて来るもんだから即座に二部屋借りてしまった。そしてレティアが可愛らしく首を傾げて、僕の袖を引っ張ってーー
「お楽しみってなんだ?ゲームでもするのか?」
ーーって聞いてくるものだから、僕はいたたまれない空気で宿屋を後にすることになってしまった。
今にして思えば、あれは主人が僕に二部屋借りさせるための誘導だったのではないかと思う。というかそうであってほしい。
「それじゃあ僕達はそろそろ宿に戻るよ。レティア行こう」
「うん!」
「なんだよ、もう行くのか?もう少しゆっくりしてもいいだろうが」
バスターが口を尖らせて僕らを引き止めてくる。それを制止するように、隣に座るロデルが会話の後を引き継ぐ。
「いいじゃないか別に。明日はファンタジア行きの船が出向するんだ。今日くらいゆっくり体を休めないと明日に響くだろ」
ロデルの言うとおり、明日はいよいよファンタジア学園に行くんだ。どんな所かわからない以上ある程度体調管理をしっかりしておかないと、いざという時に体が動かないなんて事になれば笑い話にもならない。まあ、結局は学園なんだからいきなり命の危険があるなんてことはないかもしれない。ただ、僕はこの世界についてなにも知らない異邦人だ。それがどんな命取りになるかわからない以上、警戒をしておいて損はない。
「なんだよぉ。明日学園に行くからこそ今日はパーッと派手に遊びてぇのによぉ」
「駄目だ、俺達ももう帰るぞ。クニハルとレティアも明日備えて今日は早めに寝とけよ」
「うん、ありがとう」
「ありがとうな!ロデル!」
「おう、また明日な。ほら行くぞ」
「うげぇ!」
ロデルはテーブルに代金を置いてくと、いまだにブー垂れてるバスターの首根っこを掴みあげ、そのまま引きずりながら店を出ていった。
「アデデデ!おいやめろ!離せロデルおいっ!ぅおーいっ!!」
「……いこっか」
「うん」
僕達も代金を払い店を後にした。
ご馳走さまでした。
宿に戻ってきて、僕らはそれぞれの部屋へと入る。僕は机に荷物を置くとそのままベッドに着替えないまま飛び込む。
「あ”~疲れた~」
今日はアルネイの町を色々と見て回ったからかなり疲れた。やはり今日はもう寝てしまった方がいい。でもその前にシャワーを浴びないと。それに『確認』しないといけないこともある。取り敢えず先に此方を片付けるとしよう。そういって僕は眼鏡を外す。そうして見えてくるのは例のステータスだ。
シンドウ・クニハル level.3
HP : 43/43
MP: 31/31
状態:正常
攻撃力 20
耐久力 23
魔力     28
俊敏力 19
智力     39
汎用スキル:無し
マジックスキル:無し
オリジナルスキル
能力表示 level.Max:パッシブ 対象の能力をデータ表示する 解析していないものは表示されない
異世界言語level.Max:パッシブ アーテリアの言葉を自動で翻訳する
解析能力 level.1:アクティブ あらゆる物を解析出来る能力 この熟練土では解析出来る情報は限られるうえに時間を要する 
「何とかレベル3にまでこじつけたけど、これで学園に入れるだろうか……」
アルネイに到着する道中でモンスターを狩りまくった努力が身を結んで僕はレベル3にまで上げることに成功していた。能力自体は上がっているけどスキルに関しては何の変化も見られない。まだレベルが低いからなのかもしれないけど。
道中レティアから聞いたのだが、スキルに経験魂はあまり関係ないらしい。あくまでスキルは自分で発言するか、誰かから教わる技術だから魂というよりも体に刻むというのが正しいということだろう。ーーだが『オリジナルスキル』。これだけは未だによく分からない事が多いらしい。
レティアの『超絶切り』は、彼女の師匠から言われた素振りを続けていたらいつの間にか覚えていたらしい。でも僕の『解析能力』や『異世界言語』は僕がこの世界に来て、最初からあったものだ。
そしてオリジナルスキルは、生まれつき持っている人もいるらしい。つまりこれらのスキルが僕が初めから持っていたものなのかそれとも、誰かに植え付けられたのかそれは分からない。いや、ほぼ間違いなく後者だろう。おそらくこの世界に来たときのあの声の主、奴が僕にこのスキルを与えた張本人だろう。何でこんな能力を僕に寄越したのかは分からないけど、現段階ではこの能力は有用だ。警戒こそすべきだが、全く使わないというわけにもいかないだろう。
そしてもうひとつ気になることがある。僕は机の方に目を向ける。
「解析能力」
『解析能力』
机:何の変哲もない木製の机
……これだ。この『声』だ。僕が解析能力を使うたびに、頭の中で復唱する機械のような声。この声は一体何処から来ているのか、誰が喋っているのか全然解らない。
スキルそのものが意思を持っている?ともすればこのスキルは生きている?ーー馬鹿馬鹿しい。自分で考えたことだがあまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。スキルは本人の技術だ。それが息をして、喋るなんて。……でも否定しきれない。情報が足りないから。
ーーあ”ー、駄目だ!考えても次々に疑問が出てくるだけだ!……さっさとシャワーを浴びて寝よ。
「はぁ~……何か余計に疲れたな」
いづれにせよ全てはファンタジア学園に行ってからだ。そこで知識を身につけてあの声の主を探す。先ずはそこからだ。僕は目的をハッキリさせてシャワールームへと向かっていった。
チュンチュン……ピチチ……
「……ぅ、ぅう~ん?」
……朝か。
「くぁっ……ぁああ~……んん」
欠伸と伸び。この一連の流れで自分の脳が冴えてきて漸く起きたと確認できる。
「……お早う御座います」
誰に言うでもなくそう呟く。強いて言うなら自分に対して言っている。昔からの習慣なのだ。ルーチンワークだ。
にしても、もう朝か。何か昨晩色々考えていたせいであまり寝たという実感が「おはようございますだ」……んん?
「おはようございますクニハル」
「………………おはようございます
                  ーーーーじゃないよっ!!!!!!!」
ーー何で!?何でここにレティアがいるの?それも寝間着姿でどうして僕のベッドの中に潜り込んでるのっ!!?えっなに!??お楽しみでしたの!?!?そうなのっ!!?
「何してんのレティア!?何で僕のベッドに!?いいいつ、いつ潜り込んだの!?」
「えー、クニハルがうんっていったんだぞ」
ーーはあっ!?
「いや、言った覚えないんだけどそんな事!というか僕が言うわけないでしょ!」
「いったんだぞ!」
~昨晩の出来事~
「んんん……。落ち着かない……。このベッド寝苦しいぞ……」
レティアはベッドの上でうんうん唸って、身動ぎを右へ左へと繰り返す。彼女は普段からキャンプで野宿をして過ごすことが多いため、宿のベッドで寝ることに慣れていないのだ。加えて明日はファンタジア学園への出港の日。幼子のような心を持つ彼女は、その事に少なからず興奮して寝付けにくくなっている。
「なんか物足りない」
せめて何か安心出来るような何かがあれば……。そう考える彼女の頭の中で一つの答えが生まれる。
「そうだ!クニハルのとこに行こう!」
そうして思い出したのが昨日、同行人であるクニハルを抱き枕にして眠ったことだった。あの時のレティアは自分でもよくわからない安心感があり、いつも以上に安眠快眠であったと記憶している。そのため、こんな寝苦しい夜でもきっとグッスリと眠る事ができるだろうと考える。
「でも、クニハル怒るからなぁ……」
それと同時に思い出すのが同行人が自分の行動を嗜めてきたこと。只でさえ彼女はクニハルに対して何度か心労を与えているし、本人にもその自覚は少なからずある。故に自分はどうすべきなのか考えて、
「よし!一回頼み込んでみよう。それで駄目なら寝袋で寝る!」
そう結論を出した。有言実行、彼女は即座にベッドを抜け出し、クニハルがいる部屋へと移動する。そして到着し、音を立てないようにゆっくりと扉を開けて部屋の中へと入る。
余談だが、ちゃんと部屋には鍵がついているのだが、彼は今日までの旅の疲れと、先程までの長考により注意力が低下しており、うっかり鍵をかけ忘れていたのだ。
レティアはクニハルのベッドの近くに寄り静かに彼に呼び掛ける。
「クニハル。寝れないから一緒に寝ていいか?」
まるで隠し事がばれた小さな子供のようにおずおずと問いかけるレティア。勿論肝心のクニハルは既に夢の中へと旅立ってしまっているため彼女の声など聞こえるはずがない。しかし、クニハルは彼女に背を向けるように寝返りをうちーー
「……う~ん……」
ーーとタイミングがよすぎる寝言を言ったのだ。
「ホントか!?」
これを肯定と捉えた彼女は即座に目の前のベッドに潜り込み、クニハルの脇腹辺りへ抱き着く。
「……えへ~。安心する」
こうして、心を落ち着かせる事に成功した彼女も、夢の中へと旅立っていくのだった。
これが昨晩の事の顛末である。
 
「なっ!ちゃんと許可とったろ!」
「……………………」
何処からツッコめばいいんだろう。取り敢えずはーー
「えい」
「あいた!?」
ーー軽くチョップだな。
「いい?レティア。女の子が軽々しく男の人と一緒に寝るのはよくないんだよ?」
「ごめんなさい……」
現在僕はレティアを床に正座させて説教中である。といっても出来る限り優しく嗜める程度に押さえているのだが。どんどん縮こまっていく彼女を見るかぎり、これでも十分効果はあるようだ。
「うん、まぁでもいきなりベッドに潜り込むんじゃなくて、ちゃんと一回良いかどうか聞いたのは偉かったね」
「ホント?」
「うん。偉い偉い」
「にへへ……」
あぁ、こうしてまた甘やかしてしまっている。でも、あんまり強くも言えないんだよなぁ。彼女の小動物みたいな様子を見てるとつい怒る気が失せてしまう。
「取り敢えずそう言うのはあらかじめ言っておくか、僕が起きてるか確認して、寝てたら起こしてね」
「うん!じゃあなじゃあな!今日も一緒に寝て「駄目」なぁ!?」
「いや普通に駄目だからね?」
「なんでだ!?あらかじめ言っておいたらいいんじゃないのか!?」
それはそれ、これはこれです。不純異性交遊、駄目絶対。
それでもレティアは納得がいかないらしく、キャンキャンと騒がしくしている。このままだと周り客に迷惑がかかるかも。よし。
「さあ、早く自分の部屋に戻って準備してきて?朝食食べたら港に行くよ?」
「お?おー!ついにか!」
秘技!唐突な話題そらし!これによってレティアは自分の部屋へと寝間着を着替えに行った。
僕も直ぐに着替えて、一階のリビングへと降りていった。
リビングを降りるとそこには宿屋の主人が朝食の準備を整えてる最中だった。そして主人は僕を見掛けると此方へ一礼しながらやって来てーー
「昨晩はお楽しみでしたか?」
ーー違います。
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