僕らのダンジョンアタカッーズ!
ようこそ!ファンタジア学園へ!~僕はこうして異世界へとやって来ました~
 ーー僕の名前は新堂 邦治。
今年の3月に中学を卒業したばかりの冴えない眼鏡小僧です。
先ずは、そうですね。何から話すべきでしょうか。 
とりあえずこれだけは伝えなきゃと思うので言っておきますね。 僕はーー
「ーーここどこですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」
ーー僕は、異世界に飛ばされちゃいました。
~事の始まりは数ヶ月前ほど遡る~
「新堂、お前進路先どうする気だ?進路希望調査、出てないのお前だけだぞ?」
職員室に呼び出された僕はクラスの担任である武田先生(通称・似非八先生)にそういわれる。僕は今進路先について悩んでいた。今じゃクラスで進路先について悩んでいるのは僕だけらしい。
「何処にしましょう」
「いや俺に聞かれてもな」
そういって武田先生は机に向き直る。
「正直な所、お前の成績は決して悪くはない。行こうと思えば上のレベルの高校も目指せるだろう」
だがな、そう武田先生はそう続ける。その言葉にはどこか呆れの感情が見え隠れしていた。
「なぁ、新堂。お前は何になりたいんだ?」
「何に、ですか?」
どうも漠然としすぎている気がする。何になりたいと言われて何々になりたいです!と即座に答えられたら僕は進学先で悩んだりしない。
「いやぁ、分かりません」
「だろうな」
分かっていた答えだったのかあっさりそう返される。
「お前からはそういう意欲というか、情熱というかそういうのが足りん気がする。冷めてるというわけでもないし、なんというか…なぁ?」
武田先生がそうばつが悪そうに言う。先生の言わんとしていることは僕自身気がついていることでもあるから理解できる。
 僕はどうも何かに情熱を込めるという事がない。単にそう言った趣味に出会っていないだけかもしれないが、少なくとも現時点でそういった趣味はない。体育祭も文化祭も基本的にクラスに合わせたり、流されたりで自分から意欲的に活動したことはない。
 そのためか僕は自分の願いというものが分からないのだ。
「まぁ、とりあえずこれ以上は進路調査も待てんからな。中卒で就職なんて望めんだろうし、とりあえずは希望は進学で通しておくがそれでいいか?」
「…はい。お願いします」
結局今日の所は進学という形で問題を解決、いや先送りにした。
「ただいま」
学校から家に帰って来た僕は先ず始めに家の中にある仏壇へと足を運ぶ。
「ただいま父さん」
僕はそういって手を合わせる。僕の父は僕が物心つく前に母と離婚して男で一つで僕を育ててくれた。そんな父はもうこの世にいない。数年前に突然の事故で亡くなってしまった。父は知り合いこそ多くいたが、親戚のいない天涯孤独の身だったらしく、僕を引き取るという人も現れなかった。
そのため今の僕はこの家で独り暮らしをしている。お金に関しては父が残してくれた保険があったため、学校に通いながら暮らしていく分には問題はない。
「ふぅ…」
僕は軽く息をつく。考えているのは進路についてだ。亡き父の事を思うなら、僕がいい学校に通い、いい会社に就職して、家庭をもって、安定した暮らしをするのがベストなのだろう。
しかしーー
「本当に、それでいいのかな」
ーーお前は何になりたいんだ?
武田先生の言葉が僕の頭の中で繰り返される。自分がなりたいものが分からない。ならばそれを探すために進学するか?でもどこに進学しよう?
考えれば考えるほどに思考の深みにはまっていく感じがする。
「とりあえずネットでも見よ…」
そう思った僕はパソコンを起動しネットでいい進学先を探す。
ーーそんな時に見付けてしまったのだ。事の元凶であるあの広告に。
「ん?なんだこれ」
ネットサーフィン中に僕が見つけたのは
「きたれ!ファンタジア学園!」と書かれた広告だった。
 変な広告だったら直ぐに戻ればいいかと思い、クリックする。そしたら出てきたのがーー
ーーダンジョン!
 それは、人々の夢と希望がつまったロマンの体現!
ーーダンジョン!
それは、常に未知の危険が伴うスリルの権化!
ーーダンジョン!
それは、冒険者達が昼夜を問わず、己が名声・願望・達成感を求めるため、人生をかけた大博打である!
さあ!貴方も今日から冒険者になりませんか!?
え?冒険者になるにはどうすればいいかって?
簡単です!
ダンジョン冒険者育成学園ファンタジアに入学すれば今日から貴方も冒険者の仲間入りです!
さて、入学する決意は固まりましたか?
ダンジョンに挑む意気込みはありますか?
あるなら結構!
あとは下にある「入学」のボタンをクリックするだけ!
面接無し!試験無し!一発合格です!
それで今日から貴方もファンタジアの生徒です!
貴方の色好い返事を御待ちしております!
                   入学                
                  
                   入学しない
「ーーーなにこれ?」
いや、ほんとなんだこれ?一瞬何かのゲームのキャッチコピーかなと思ったけど他の場所で調べようともこのページ以外に何もない。明らかに怪しいと確信した僕は直ぐ様戻ろうとブラウザバックを押す。
「あれ?何で?全然戻んない」
しかし、いくら押してもページが戻る気配がない。ページそのものを消そうとしても、うんともすんともいわない。パソコン自体が壊れたのかと他のページを開き試してみると正常に作動した。
このページだけが残り続けているのだ。なんと忌々しい。
「なんだよこれ!新手のウイルスにでもかかったかぁ~」
何をしても駄目なため僕は匙を投げる。こうなったらいっそ強制シャットダウンをするしかないか、そう決意した時、再びページが目に映る。
「冒険者にダンジョンねぇ」
ホントにゲームのような話だ。一瞬専門学校かなにかかなとも考えたが、そもそもそんな職業があるわけない。どう考えても達の悪い悪戯だ。
ーーでもなぜだろう、妙に目が離せないのは。
自分がこんなしょうもない広告に引っかかるとは思えない。
そう思っているはずなのに自分の手はどうしてマウスを動かしているんだろう。どうして矢印が入学の二文字の上にあるんだろう。
(もしかしたらと考えているのか?そんなあり得ないだろ?)
でも、もしそうなら自分を変えられるだろうか。
自分な夢を、成りたいものを見つけられるだろうか。
冒険が出来るのだろうか。
そう考えた瞬間ついに僕の右手の人差し指が右クリックを押した。
「…あっ!」
完全な無意識の行動、おそらく本能的に求めたが故の行動。
だが一瞬で僕の思考は現実に戻されらる。
何をやってんだ僕は!変な請求書とか来たらどうするんだよ!とにかく直ぐにでもシャットダウンをしようとした瞬間、先程のページが変わっていることに気がつく。
CONGRATULATION!!
ファンタジアへの入学おめでとうございます!!
これで貴方は冒険者のたまごです!!
入学式は4月の始めに行われますので遅れないように現地集合で御願いします!
案内状を後日発行致しますのでその案内に従って学園へ入らしてください!
それでは貴方の御入学を御待ちしております!
                                     新堂 邦治 殿
「なん…で、僕の…なまえ!」
言い様のない恐怖が僕の体を襲う。
何で僕の名前を知っている?そもそもどうやって、いつ調べた?それとも最初から知っていたのか?
これは何なんだ!?わざわざ僕だけを狙った悪戯だとでも言うのか!?だとしたら何でこんな手のこんだやり方をする!
思考が思考を呼び自分でも一体何が起きてるのか分からなくなり軽いパニック状態になる。
「消さなきゃ…!」
とにかく今はこのページから離れないといけない!そのために僕はパソコンの電源をOFFにした。
「なんだったんだよ…今の…」
パソコンの電源を落としたら大分落ち着いてきた。
冷静になった僕は再びパソコンを起動し、先程のサイトを探す。しかし、いくら探しても先程のページへのリンクが出来ないし、履歴を探ってもあのページだけがピンポイントで無くなっていたのだ。まるで最初からそこに無かったように。
「もう寝よ」
もう色々と疲れてしまった。明日もう一度調べて何もでなかったら、警察に連絡するか無視しよう。そう考えた僕は今日はもう寝ることにした。
ーーあれから数日、特にこれといった問題も起きずに僕は日々を過ごしていた。あの後いくら調べてもファンタジア学園なる場所の情報は出てこない。警察に連絡しようにも、このままではただの悪戯と処理される可能性が高く連絡の仕様がない。
「ホントになんだったんだろ。アレ」
特に何かが起きたわけでもないし、謎の請求書が来たわけでもない。例のページに書いてあった案内状とやらも届く気配がなく、僕はあの広告を次第に気にしないようになっていった。
「そんなことより進学先だな」
一応、進路は進学で通してる訳だから幾つか候補をピックアップしておかないといけない。といってもこれを一人で決めるのも難しいし、仕方ないから武田先生の所にいくとしよう。
「失礼します」
「ん?おお、新堂!待ってたぞ!」
職員室に行くとやけに嬉しそうな武田先生がいた。僕を待っていたようだが何かあったのだろうか。
「どうしたんですか?先生」
「どうしたもこうしたもあるか!何で言わなかったんだお前!」
言わなかったって…何が?
「あの~…何の話ですか?」
「惚けるなよ。知ってるんだぞ!お前が外国の高校に合格したって!」
ーーーーは?
「驚いたぞ!まさかお前が外国に進学するとはな!それも特待生だって!お前何したんだ!」
ちょっ、ちょちょちょ!ちょっと待ってくれ!!
「ちょっと待ってください!何ですか外国って!そんなの聞いてませんよ!?」
「聞いてないって…あっ。もしかしてまだ合格通知書見てなかったのか?あ~すまん。悪いことしたな」
「いやっ、ちが!」
違う。違う違う違う!そうじゃない!!外国の高校なんて受験した覚えないのにどうしてそんな話が持ち上がってるんだ!!
「先生!どこですか!その外国の高校って!!」
「おお、なんだ急に職員室では静かにーー」
「いいからっ!答えてください!」
「どこってお前、ファンタジア学園とかいう新しく出来る高校なんだろう?ウチの学校にも連絡が来たぞ」
ーーファンタジア学園。忘れもしないその名前は、あの広告の……!
嫌な予感はしていた。いや、ほぼ確信していたんだ。ただ、そうあってほしくなかっただけで…。
「何でも先進国の技術をこれでもかって詰め込んだ新しい高校なんだってな!いや~まさか内のクラスから海外留学するやつがでるとはな~」
海外留学だって?冗談じゃない!あんなふざけた広告一つで人生の分岐点を決められてたまるか!!
辞退をしないと!
「先生!」
「ん?どうした?」
僕はそんな学園知りません!何かの間違いの筈です!だからーー
「頑張って高校生活を満喫したいと思います!(その話、辞退させてください!)」
ーーえ?
「おお、そうか!海外だから不安もあるだろうが頑張れよ!」
ちっちが……
「はい!誠心誠意努めたいと思います!(違います、僕はそんなの望んでいない!)」
ーーまただ!本心と全く違う答えが口から勝手に飛び出てくる!どうなってるんだ!!
「それでは僕は準備がありますからこれで失礼します。(先生!違うんです!これは僕の本心じゃないんです!)」
「おう、頑張れよ!応援してるぞ!」
「それでは失礼します。(待ってください!先生まっーー)」
ーーっが!?体が勝手に職員室を出ようとする!?
言葉がだけじゃなく体まで言うことを利いてくれない!まるで自分が操り人形になったようだ。そのまま一体どこまで行く気なんだこの体は!?
(くっそ!動けよ!動けぇぇ!)
いくら踏ん張ってもまるで意味をなさない。
そのまま僕の体は自分の家へと帰ってきていた。
そして僕の体はポストに入っている一通の手紙を取り出す。宛先はファンタジア学園。
(ファンタジア学園!これが案内状ってやつか!)
忌々しげに手紙を睨む。本当ならこのまま中身を読まずにビリビリに引き裂いて燃やしてやりたい気分だがこの体がそれを赦してくれない!
言うことを利かない体が無理矢理手紙を読ませる。
お久しぶりです!!新堂 邦治 殿
此度はダンジョン冒険者育成学園ファンタジアへの合格おめでとうございます!!
貴方は映えある我がファンタジア学園の特待生としての御入学が決定しております!
此方はファンタジア学園の案内状となっております!
これさえ所持していればファンタジア学園への入学が完全に完了します!
因みにこれは特待生としての証にもなります!
ですので決してなくさないようにしてくださいね!!
え?もしもなくしちゃったらどうするのって?
ご安心ください!!
なくしても大丈夫なようにこの案内状には数々の制約が盛り込んであります!
制約その1 この案内状を忘れる、紛失した場合、新堂 邦治 殿の体が手紙のある場所へと自動で向かいます
制約その2 この案内状が破れたり、燃えたりした場合、その場で再生をします
制約その3 貴方はこの案内状、引いてはファンタジア学園に関する事柄を一般人に話すことが出来ません
制約その4 貴方は本学園の入学を取り消すことが出来ません
制約その5 貴方の卒業式終了後、この案内状を所持致しますと文字通り案内をしてくれます
制約その6 上記の制約は本学園に正式に入学を果たした場合のみ解除されます
これらの制約によって 新堂 邦治 殿の安全は保証されています!
ですのでどうか御安心してください!
それでは 新堂 邦治 殿の御入学を御待ちしております
「ざっけんなっ!!」
ーーふざけてやがる!!何ともきな臭い内容だが、実際に自分の体が言うことを利かないことが、この制約4の影響であるなら、この制約というのは事実なのだろう。ということは僕はもうこの学園に入学するまで何も出来ないと言うことじゃないか!
「ちっきしょうめえええええええ!!」
結局あの後、何かしようにも、文字通り何も出来なかったため残りの日々をふて腐れながら過ごすことにした。相談をしようにも、あの制約のせいで本音を喋ることが出来ないため、ストレスが溜まる一方だ。
そしてあっという間に数ヶ月がたちいよいよ僕は中学を卒業することとなった。
『以上を持ちまして卒業式を終わります。卒業生起立』
そして卒業式も滞りなく終わり、クラスのみんなとの中学最後の交流を深めていた。
「新堂!お前留学するんだって?凄いな!」
「ほんとほんと!新堂くんって頭良かったんだね!」
「ねねね!何処の国なの!?マイナーな国!?」
「外国とか絶対楽しいだろ!つか絶対楽しいだろ!」
「あ~あはは…うん。そうだね。楽しみだよ僕も」
ーーってそんなわけないだろう!本当に海外かどうかも怪しいオカルト学園だぞ!本当なら今すぐにでも断りの電話をして潔く浪人になりたいわ!
「けど外国かー。いいなー!俺も行きたいなー!」
「君の分まで楽しんでくるよ。(なら今すぐ代わってください、お願いします)」
くっそ!またこの口は本音と違うことを喋る!
はぁ…。もういい加減疲れてしまった。結局あの後クラスのみんなの会話なんてほとんど頭に入ってこないし、人の気持ちも知らないで羨ましいと連呼するクラスメイトから一刻も早く離れたかったため、僕は早々に教室を出ていく。
帰る途中で卒業式を見に来た家族連れの様子を見て複雑な気持ちになったのも早く帰りたい理由の一つでもある。といっても、
「…帰った所でどうしろっていうんだ」
このまま本当にあの案内状に誘われるままにファンタジア学園に行ってしまおうか。
というかここまで来た以上それしか道は残されていない。あの制約がある限り無理矢理にでも入学はさせられる。だったらもういっそのこと、こっちから入学してやれば………うん?
「待てよ?入学?」
ーーそうだ!そうだよ!入学してしまえばいいんだ!
あの制約は入学すれば解除されるって書いてあった!
だったらいっそのことこっちから入学して、その後自由になった体で自主退学してやればいい!
いやでもこんなオカルトじみた力を持った連中だ。そう簡単にいくだろうか?
いやいやいや!だからって他に選択肢はないだろう!
たとえ退学届けを受理されなくてもそのまま学園から逃げ出すことだってできる!
「ふ、ふふふ。見えてきた…。希望が見えてきたぞおおおお!!」
そうと決まれば早速あの案内状をとりにいかねば!
ってもう家の前じゃん!考えているうちにいつの間にか到着していたらしい。
まあいいや。今はそれよりも案内状だ。
「フッフッフッ。もうお前も恐くないぞ謎技術で出来た案内状め!」
僕はせめてもの抵抗にゴミ箱に投げ込んでいた案内状を手に取る。
「さあ!ファンタジアだろうが、オカルトだろうがかかってこいやぁぁぁぁぁ!!」
ーーーーその瞬間、案内状が光を放つ。
「ーーまぶっ」
あまりにつよい光に目もまともに開けられない。そんな光に包まれた僕の頭の中に男性とも女性とも取れる不思議な声が響く。
ーーさあ!いよいよ貴方の冒険が幕を開けます!
ーーこれより訪れるは人々が夢を求め、夢を叶える場所!
ーー貴方の夢は何ですか?金銀財宝?永遠の名声?それとも命をかけた特大のスリル?
ーーどれでも良いし、どれでもなくても構いません!
貴方の夢は貴方の中に必ず存在します!
ーー故に探すのです!この場所で!
ーー異世界『アーテリア』で!そして、
ーーようこそ!ファンタジア学園へ!
ーー光が収まっていく。まだ目がシパシパするが開けられないほどではない。
一体何が起きたのか、確認するべく目を開けた僕は絶句する。
 目の前に広がるのは緑の生い茂った山脈や森に、巨大な湖、見たこともない生き物が空を飛び、闊歩する幻想的な風景。だがこれは一体、いやそもそもーー
「ーーここどこですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」
今年の3月に中学を卒業したばかりの冴えない眼鏡小僧です。
先ずは、そうですね。何から話すべきでしょうか。 
とりあえずこれだけは伝えなきゃと思うので言っておきますね。 僕はーー
「ーーここどこですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」
ーー僕は、異世界に飛ばされちゃいました。
~事の始まりは数ヶ月前ほど遡る~
「新堂、お前進路先どうする気だ?進路希望調査、出てないのお前だけだぞ?」
職員室に呼び出された僕はクラスの担任である武田先生(通称・似非八先生)にそういわれる。僕は今進路先について悩んでいた。今じゃクラスで進路先について悩んでいるのは僕だけらしい。
「何処にしましょう」
「いや俺に聞かれてもな」
そういって武田先生は机に向き直る。
「正直な所、お前の成績は決して悪くはない。行こうと思えば上のレベルの高校も目指せるだろう」
だがな、そう武田先生はそう続ける。その言葉にはどこか呆れの感情が見え隠れしていた。
「なぁ、新堂。お前は何になりたいんだ?」
「何に、ですか?」
どうも漠然としすぎている気がする。何になりたいと言われて何々になりたいです!と即座に答えられたら僕は進学先で悩んだりしない。
「いやぁ、分かりません」
「だろうな」
分かっていた答えだったのかあっさりそう返される。
「お前からはそういう意欲というか、情熱というかそういうのが足りん気がする。冷めてるというわけでもないし、なんというか…なぁ?」
武田先生がそうばつが悪そうに言う。先生の言わんとしていることは僕自身気がついていることでもあるから理解できる。
 僕はどうも何かに情熱を込めるという事がない。単にそう言った趣味に出会っていないだけかもしれないが、少なくとも現時点でそういった趣味はない。体育祭も文化祭も基本的にクラスに合わせたり、流されたりで自分から意欲的に活動したことはない。
 そのためか僕は自分の願いというものが分からないのだ。
「まぁ、とりあえずこれ以上は進路調査も待てんからな。中卒で就職なんて望めんだろうし、とりあえずは希望は進学で通しておくがそれでいいか?」
「…はい。お願いします」
結局今日の所は進学という形で問題を解決、いや先送りにした。
「ただいま」
学校から家に帰って来た僕は先ず始めに家の中にある仏壇へと足を運ぶ。
「ただいま父さん」
僕はそういって手を合わせる。僕の父は僕が物心つく前に母と離婚して男で一つで僕を育ててくれた。そんな父はもうこの世にいない。数年前に突然の事故で亡くなってしまった。父は知り合いこそ多くいたが、親戚のいない天涯孤独の身だったらしく、僕を引き取るという人も現れなかった。
そのため今の僕はこの家で独り暮らしをしている。お金に関しては父が残してくれた保険があったため、学校に通いながら暮らしていく分には問題はない。
「ふぅ…」
僕は軽く息をつく。考えているのは進路についてだ。亡き父の事を思うなら、僕がいい学校に通い、いい会社に就職して、家庭をもって、安定した暮らしをするのがベストなのだろう。
しかしーー
「本当に、それでいいのかな」
ーーお前は何になりたいんだ?
武田先生の言葉が僕の頭の中で繰り返される。自分がなりたいものが分からない。ならばそれを探すために進学するか?でもどこに進学しよう?
考えれば考えるほどに思考の深みにはまっていく感じがする。
「とりあえずネットでも見よ…」
そう思った僕はパソコンを起動しネットでいい進学先を探す。
ーーそんな時に見付けてしまったのだ。事の元凶であるあの広告に。
「ん?なんだこれ」
ネットサーフィン中に僕が見つけたのは
「きたれ!ファンタジア学園!」と書かれた広告だった。
 変な広告だったら直ぐに戻ればいいかと思い、クリックする。そしたら出てきたのがーー
ーーダンジョン!
 それは、人々の夢と希望がつまったロマンの体現!
ーーダンジョン!
それは、常に未知の危険が伴うスリルの権化!
ーーダンジョン!
それは、冒険者達が昼夜を問わず、己が名声・願望・達成感を求めるため、人生をかけた大博打である!
さあ!貴方も今日から冒険者になりませんか!?
え?冒険者になるにはどうすればいいかって?
簡単です!
ダンジョン冒険者育成学園ファンタジアに入学すれば今日から貴方も冒険者の仲間入りです!
さて、入学する決意は固まりましたか?
ダンジョンに挑む意気込みはありますか?
あるなら結構!
あとは下にある「入学」のボタンをクリックするだけ!
面接無し!試験無し!一発合格です!
それで今日から貴方もファンタジアの生徒です!
貴方の色好い返事を御待ちしております!
                   入学                
                  
                   入学しない
「ーーーなにこれ?」
いや、ほんとなんだこれ?一瞬何かのゲームのキャッチコピーかなと思ったけど他の場所で調べようともこのページ以外に何もない。明らかに怪しいと確信した僕は直ぐ様戻ろうとブラウザバックを押す。
「あれ?何で?全然戻んない」
しかし、いくら押してもページが戻る気配がない。ページそのものを消そうとしても、うんともすんともいわない。パソコン自体が壊れたのかと他のページを開き試してみると正常に作動した。
このページだけが残り続けているのだ。なんと忌々しい。
「なんだよこれ!新手のウイルスにでもかかったかぁ~」
何をしても駄目なため僕は匙を投げる。こうなったらいっそ強制シャットダウンをするしかないか、そう決意した時、再びページが目に映る。
「冒険者にダンジョンねぇ」
ホントにゲームのような話だ。一瞬専門学校かなにかかなとも考えたが、そもそもそんな職業があるわけない。どう考えても達の悪い悪戯だ。
ーーでもなぜだろう、妙に目が離せないのは。
自分がこんなしょうもない広告に引っかかるとは思えない。
そう思っているはずなのに自分の手はどうしてマウスを動かしているんだろう。どうして矢印が入学の二文字の上にあるんだろう。
(もしかしたらと考えているのか?そんなあり得ないだろ?)
でも、もしそうなら自分を変えられるだろうか。
自分な夢を、成りたいものを見つけられるだろうか。
冒険が出来るのだろうか。
そう考えた瞬間ついに僕の右手の人差し指が右クリックを押した。
「…あっ!」
完全な無意識の行動、おそらく本能的に求めたが故の行動。
だが一瞬で僕の思考は現実に戻されらる。
何をやってんだ僕は!変な請求書とか来たらどうするんだよ!とにかく直ぐにでもシャットダウンをしようとした瞬間、先程のページが変わっていることに気がつく。
CONGRATULATION!!
ファンタジアへの入学おめでとうございます!!
これで貴方は冒険者のたまごです!!
入学式は4月の始めに行われますので遅れないように現地集合で御願いします!
案内状を後日発行致しますのでその案内に従って学園へ入らしてください!
それでは貴方の御入学を御待ちしております!
                                     新堂 邦治 殿
「なん…で、僕の…なまえ!」
言い様のない恐怖が僕の体を襲う。
何で僕の名前を知っている?そもそもどうやって、いつ調べた?それとも最初から知っていたのか?
これは何なんだ!?わざわざ僕だけを狙った悪戯だとでも言うのか!?だとしたら何でこんな手のこんだやり方をする!
思考が思考を呼び自分でも一体何が起きてるのか分からなくなり軽いパニック状態になる。
「消さなきゃ…!」
とにかく今はこのページから離れないといけない!そのために僕はパソコンの電源をOFFにした。
「なんだったんだよ…今の…」
パソコンの電源を落としたら大分落ち着いてきた。
冷静になった僕は再びパソコンを起動し、先程のサイトを探す。しかし、いくら探しても先程のページへのリンクが出来ないし、履歴を探ってもあのページだけがピンポイントで無くなっていたのだ。まるで最初からそこに無かったように。
「もう寝よ」
もう色々と疲れてしまった。明日もう一度調べて何もでなかったら、警察に連絡するか無視しよう。そう考えた僕は今日はもう寝ることにした。
ーーあれから数日、特にこれといった問題も起きずに僕は日々を過ごしていた。あの後いくら調べてもファンタジア学園なる場所の情報は出てこない。警察に連絡しようにも、このままではただの悪戯と処理される可能性が高く連絡の仕様がない。
「ホントになんだったんだろ。アレ」
特に何かが起きたわけでもないし、謎の請求書が来たわけでもない。例のページに書いてあった案内状とやらも届く気配がなく、僕はあの広告を次第に気にしないようになっていった。
「そんなことより進学先だな」
一応、進路は進学で通してる訳だから幾つか候補をピックアップしておかないといけない。といってもこれを一人で決めるのも難しいし、仕方ないから武田先生の所にいくとしよう。
「失礼します」
「ん?おお、新堂!待ってたぞ!」
職員室に行くとやけに嬉しそうな武田先生がいた。僕を待っていたようだが何かあったのだろうか。
「どうしたんですか?先生」
「どうしたもこうしたもあるか!何で言わなかったんだお前!」
言わなかったって…何が?
「あの~…何の話ですか?」
「惚けるなよ。知ってるんだぞ!お前が外国の高校に合格したって!」
ーーーーは?
「驚いたぞ!まさかお前が外国に進学するとはな!それも特待生だって!お前何したんだ!」
ちょっ、ちょちょちょ!ちょっと待ってくれ!!
「ちょっと待ってください!何ですか外国って!そんなの聞いてませんよ!?」
「聞いてないって…あっ。もしかしてまだ合格通知書見てなかったのか?あ~すまん。悪いことしたな」
「いやっ、ちが!」
違う。違う違う違う!そうじゃない!!外国の高校なんて受験した覚えないのにどうしてそんな話が持ち上がってるんだ!!
「先生!どこですか!その外国の高校って!!」
「おお、なんだ急に職員室では静かにーー」
「いいからっ!答えてください!」
「どこってお前、ファンタジア学園とかいう新しく出来る高校なんだろう?ウチの学校にも連絡が来たぞ」
ーーファンタジア学園。忘れもしないその名前は、あの広告の……!
嫌な予感はしていた。いや、ほぼ確信していたんだ。ただ、そうあってほしくなかっただけで…。
「何でも先進国の技術をこれでもかって詰め込んだ新しい高校なんだってな!いや~まさか内のクラスから海外留学するやつがでるとはな~」
海外留学だって?冗談じゃない!あんなふざけた広告一つで人生の分岐点を決められてたまるか!!
辞退をしないと!
「先生!」
「ん?どうした?」
僕はそんな学園知りません!何かの間違いの筈です!だからーー
「頑張って高校生活を満喫したいと思います!(その話、辞退させてください!)」
ーーえ?
「おお、そうか!海外だから不安もあるだろうが頑張れよ!」
ちっちが……
「はい!誠心誠意努めたいと思います!(違います、僕はそんなの望んでいない!)」
ーーまただ!本心と全く違う答えが口から勝手に飛び出てくる!どうなってるんだ!!
「それでは僕は準備がありますからこれで失礼します。(先生!違うんです!これは僕の本心じゃないんです!)」
「おう、頑張れよ!応援してるぞ!」
「それでは失礼します。(待ってください!先生まっーー)」
ーーっが!?体が勝手に職員室を出ようとする!?
言葉がだけじゃなく体まで言うことを利いてくれない!まるで自分が操り人形になったようだ。そのまま一体どこまで行く気なんだこの体は!?
(くっそ!動けよ!動けぇぇ!)
いくら踏ん張ってもまるで意味をなさない。
そのまま僕の体は自分の家へと帰ってきていた。
そして僕の体はポストに入っている一通の手紙を取り出す。宛先はファンタジア学園。
(ファンタジア学園!これが案内状ってやつか!)
忌々しげに手紙を睨む。本当ならこのまま中身を読まずにビリビリに引き裂いて燃やしてやりたい気分だがこの体がそれを赦してくれない!
言うことを利かない体が無理矢理手紙を読ませる。
お久しぶりです!!新堂 邦治 殿
此度はダンジョン冒険者育成学園ファンタジアへの合格おめでとうございます!!
貴方は映えある我がファンタジア学園の特待生としての御入学が決定しております!
此方はファンタジア学園の案内状となっております!
これさえ所持していればファンタジア学園への入学が完全に完了します!
因みにこれは特待生としての証にもなります!
ですので決してなくさないようにしてくださいね!!
え?もしもなくしちゃったらどうするのって?
ご安心ください!!
なくしても大丈夫なようにこの案内状には数々の制約が盛り込んであります!
制約その1 この案内状を忘れる、紛失した場合、新堂 邦治 殿の体が手紙のある場所へと自動で向かいます
制約その2 この案内状が破れたり、燃えたりした場合、その場で再生をします
制約その3 貴方はこの案内状、引いてはファンタジア学園に関する事柄を一般人に話すことが出来ません
制約その4 貴方は本学園の入学を取り消すことが出来ません
制約その5 貴方の卒業式終了後、この案内状を所持致しますと文字通り案内をしてくれます
制約その6 上記の制約は本学園に正式に入学を果たした場合のみ解除されます
これらの制約によって 新堂 邦治 殿の安全は保証されています!
ですのでどうか御安心してください!
それでは 新堂 邦治 殿の御入学を御待ちしております
「ざっけんなっ!!」
ーーふざけてやがる!!何ともきな臭い内容だが、実際に自分の体が言うことを利かないことが、この制約4の影響であるなら、この制約というのは事実なのだろう。ということは僕はもうこの学園に入学するまで何も出来ないと言うことじゃないか!
「ちっきしょうめえええええええ!!」
結局あの後、何かしようにも、文字通り何も出来なかったため残りの日々をふて腐れながら過ごすことにした。相談をしようにも、あの制約のせいで本音を喋ることが出来ないため、ストレスが溜まる一方だ。
そしてあっという間に数ヶ月がたちいよいよ僕は中学を卒業することとなった。
『以上を持ちまして卒業式を終わります。卒業生起立』
そして卒業式も滞りなく終わり、クラスのみんなとの中学最後の交流を深めていた。
「新堂!お前留学するんだって?凄いな!」
「ほんとほんと!新堂くんって頭良かったんだね!」
「ねねね!何処の国なの!?マイナーな国!?」
「外国とか絶対楽しいだろ!つか絶対楽しいだろ!」
「あ~あはは…うん。そうだね。楽しみだよ僕も」
ーーってそんなわけないだろう!本当に海外かどうかも怪しいオカルト学園だぞ!本当なら今すぐにでも断りの電話をして潔く浪人になりたいわ!
「けど外国かー。いいなー!俺も行きたいなー!」
「君の分まで楽しんでくるよ。(なら今すぐ代わってください、お願いします)」
くっそ!またこの口は本音と違うことを喋る!
はぁ…。もういい加減疲れてしまった。結局あの後クラスのみんなの会話なんてほとんど頭に入ってこないし、人の気持ちも知らないで羨ましいと連呼するクラスメイトから一刻も早く離れたかったため、僕は早々に教室を出ていく。
帰る途中で卒業式を見に来た家族連れの様子を見て複雑な気持ちになったのも早く帰りたい理由の一つでもある。といっても、
「…帰った所でどうしろっていうんだ」
このまま本当にあの案内状に誘われるままにファンタジア学園に行ってしまおうか。
というかここまで来た以上それしか道は残されていない。あの制約がある限り無理矢理にでも入学はさせられる。だったらもういっそのこと、こっちから入学してやれば………うん?
「待てよ?入学?」
ーーそうだ!そうだよ!入学してしまえばいいんだ!
あの制約は入学すれば解除されるって書いてあった!
だったらいっそのことこっちから入学して、その後自由になった体で自主退学してやればいい!
いやでもこんなオカルトじみた力を持った連中だ。そう簡単にいくだろうか?
いやいやいや!だからって他に選択肢はないだろう!
たとえ退学届けを受理されなくてもそのまま学園から逃げ出すことだってできる!
「ふ、ふふふ。見えてきた…。希望が見えてきたぞおおおお!!」
そうと決まれば早速あの案内状をとりにいかねば!
ってもう家の前じゃん!考えているうちにいつの間にか到着していたらしい。
まあいいや。今はそれよりも案内状だ。
「フッフッフッ。もうお前も恐くないぞ謎技術で出来た案内状め!」
僕はせめてもの抵抗にゴミ箱に投げ込んでいた案内状を手に取る。
「さあ!ファンタジアだろうが、オカルトだろうがかかってこいやぁぁぁぁぁ!!」
ーーーーその瞬間、案内状が光を放つ。
「ーーまぶっ」
あまりにつよい光に目もまともに開けられない。そんな光に包まれた僕の頭の中に男性とも女性とも取れる不思議な声が響く。
ーーさあ!いよいよ貴方の冒険が幕を開けます!
ーーこれより訪れるは人々が夢を求め、夢を叶える場所!
ーー貴方の夢は何ですか?金銀財宝?永遠の名声?それとも命をかけた特大のスリル?
ーーどれでも良いし、どれでもなくても構いません!
貴方の夢は貴方の中に必ず存在します!
ーー故に探すのです!この場所で!
ーー異世界『アーテリア』で!そして、
ーーようこそ!ファンタジア学園へ!
ーー光が収まっていく。まだ目がシパシパするが開けられないほどではない。
一体何が起きたのか、確認するべく目を開けた僕は絶句する。
 目の前に広がるのは緑の生い茂った山脈や森に、巨大な湖、見たこともない生き物が空を飛び、闊歩する幻想的な風景。だがこれは一体、いやそもそもーー
「ーーここどこですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」
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