学生騎士と恋物語《パンドラボックス》

福乃ミナ

第19話 月野流奥義

スキルを発動すると同時に蛍は勢いよく亜紀斗の懐に飛び込み、顔を思い切り殴る。
殴られた途端、さらに数発殴られる。あまりの出来事に反応が一瞬遅れる。
が、亜紀斗も負けじと反撃をする。
顔目掛けて来たパンチを避け、来た腕を掴みへし折る。
折ると同時に蛍の腹に蹴り、リリーの方へと飛ばす。
リリーは飛んで来た蛍の頭を手で受け止め、そのまま地面に叩きつける。その衝撃で地面が少し凹む。
会場は一気に静かになる。
『…こ、これは月影選手。月野選手を地面に叩きつけたー!!』
キラの声で会場全体は再び盛り上がる。
観客からは亜紀斗コールまで飛んで来る。最初とは大違いだな。
観客席を見た後、亜紀斗は地面に埋まる蛍の方を見る。
「どうするんだ?ここで降参するのか?」
亜紀斗は蛍の聞こえる位置までしゃがみ、質問する。
返事が無い。気絶してるのか?
そう思うが、さっき手が少しだけ動いたので気絶はしていないだろう。多分意識が盲ろうとしているかも知れない。
これはもう試合の続行は不可能だな。
亜紀斗は立ち上がり、審判に試合続行は不可能の合図を送る。
その合図に審判も頷き、腕を上げようとする。
すると、

「私は…まだやれます!」

足がふらふらになりながらも蛍は太刀を支え棒代わりにして立ち上がり、審判にまだ継続の合図を出す。
審判は少し焦るも、選手の意見を尊重するとして試合は継続の合図を亜紀斗に送る。
「まじかよ。見掛けによらず案外タフだな」
「ハァ…ハァ…あれくらいの攻撃…大したことないわよ」
口ではそう言うも、顔はしんどそうな顔をしている。なるほど痩せ我慢か。
「嘘をつけ。身体は悲鳴を上げてるぞ」
「悲鳴は上げても降参だけは絶対にしないわ。そんな事をしたらお父様に見せる顔が無いわ」
家の看板の事を気にしているのかヤケに落ち着きが無いように見える。
こいつは一体何を焦っているんだ?
「弱った相手を…特に女はあんまり傷つけたく無いんだよ。弱いものいじめはごめんだ」
最後の一言が蛍の逆鱗に触れたのか、蛍は太刀を腰の所まで下げ、構える。
「そうですか。私は弱いですか」
「いや、弱いって訳では」
「でもさっき弱いものいじめと言っていたけど?」
「それはお前の身体がボロボロだから…これ以上無理をしたらまずいと思ってだな。まず、第一にそんな身体じゃあ技の一つも打てないだろ!?」
「打てるかどうかは私が決める事。それにあの技は今の状態でこそ最強の威力を発揮する」
ただのハッタリにしては顔がマジって言っているし。それにあの構えは月野流の奥義を打つつもりなのか?どちらにせよ刀は構える必要はあるな。
亜紀斗はそっと刀を構え直し、蛍が技を打つのをジッと待つ。
「流すつもりですか。けどこの技は絶対に流せない!月野流奥義天ノ一閃!」
蛍が刀を斜めに斬り上げると、その数秒後に亜紀斗に斬撃が飛ぶ。飛んで来るまでの速さは約0.3秒ほぼ肉眼では確認出来ないほどの速さで飛んで来る。
クソッ、間に合わない!
0.3秒で飛んで来る斬撃。それを捉えるのはまず不可能。
こうなったらこれを使うしかない!
「能力解放悪魔の目デビルアイ!」
キュウの持つ7つの目のウチの一つ悪魔の目デビルアイは自分の目の精度を上げる。いつもは早く見える車や人がゆっくり移動しているように見える。
蛍の放った斬撃もこの目があれば確実に捉えられる。
が、亜紀斗はあえてその斬撃を避ける。




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