姉小路の野望~技術と知識で小国から成り上がる!?~
一話 鉄砲伝来~
―さて、皆さんは知っているだろうか。
現在の岐阜県、昔は二つの国に分かれていたのだ。
一つは、美濃国と言われ、岐阜県の平地の大半部分をこの国が占めていた。と、なればもう一つの国は山国で、山ばっかり。山姥が今にでも飛び出て来そうなくらい樹木が続き、生い茂った草々が人を迎え入れてくれない程、神聖なところである。
その国の名前を飛騨国と言う。飛騨山脈は有名である。この国、何故だか周りには大国ばかりに囲まれ睨まれ……。北には、加賀・一向一揆によって、仏教徒達が武士達を追い出し、一代国家を作り上げ、越中は仏教徒による大支配が続いていた。
西には越前国を拠点として活動している豪族の朝倉氏がいた。長年、越中の仏教徒と戦いを繰り広げ、過激な戦いは今も続いている。その下には、京極家家臣である浅井氏が居る。中でも当主の浅井亮政は、現在の浅井氏の権力を築き上げた人物である。
南には、油売りから下克上で成り上がった美濃の蝮と言われる斉藤道三が目を光らせていた。東には、信濃国の国衆である村上氏や、諏訪氏が。その下の甲斐国には、源氏の血筋である武田氏が国主として君臨していた。
▼天文十八年(一五四九) 長月
夏が過ぎ、秋を迎えようとしていた。今年も豊作であると良いのだが、と一人廊下を歩きながら一人の男は考えを巡らせていた。
「父上えええ!!!」
廊下を歩く男に、廊下を走る男。歩く方に父上と言うのだから、コイツは息子なのだろう。
「なんだ、良頼」
走る男、良頼は父上の前にまで到達すると、息を荒くしてその場で立ち止まった。
「お前ももう良い歳だろう、廊下を走るなどみっともないぞ!」
「はぁ……はぁ……そんなことよりも、父上!! 大変でございますぞ!!」
そんなことよりも、と父上の話が全く耳に入っていない良頼。これだから、いつまでも子供の様に見られてしまう。跡取りとして恥ずかしい限りだ。と、父の直頼は頭を悩ませていた。
直頼はもう五十後半の年齢となり、そろそろ隠居を考えている頃であった。しかし、息子の良頼は三十を超えながらも腕白で、子供の様な性格。なんとか飛騨の情勢を保てているのも、父の直頼が当主として顕在しているからであり、このまま良頼に家督を継がせてしまっては、再び飛騨で内乱が起こるのではないか、と気が気ではない程心配していた。
「で、大変とは一体なんなのだ……?」
直頼は呆れた顔で、しぶしぶ良頼に訊いてみる。
「知っておりますか!! 一月前、薩摩の方に南蛮の者が流れ着いたと言う話を!!」
確か、おかっぱ頭の宣教師なるものが、薩摩に漂流したと言う話だったか。
「それが、どうしたのだ?」
「その南蛮者が持っていた、数多くの貢物の一つを!! 遂に私が入手致しましたぞ!!」
「……またそうやって訳の分からぬことをやっているのかお前は!! そんなことはどうでもよい!! お主は次期三木の当主となるのだぞ!! 跡取りらしく、儂の傍で学問をすると、思い浮かばんのか!!!」
またくだらない事をしている良頼に腹を立てた直頼は、大声で怒鳴りつけた。
「まぁ、父上! そう怒鳴らずに。きっと、それを見て頂ければ考えを改めてくれると思いまして」
「何を言うか! 何故そのようなガラクタを見てやらねばならぬのだ! 儂は遊んでばかりの御主の様に、暇ではないのだぞ!!」
と、直頼はそう言いつつも良頼に言われるがままに連れていかれ、いつの間にか大広間の御前に座らされていた。
「父上、此方にございます」
直頼は、横に長い正方形の箱を目の前に差し出すと、スーッと此方に近づけた。
「……なんだ、この長い箱は」
どうせろくなものではないと思いつつ、直頼は箱の蓋を開ける。
「これは……なんだ?」
蓋を開けると、中には得体の知れない何かが入れられていた。よく見ると、細長く鉄と木材で作られたモノ。なんだこれは?
「一体これはなんなのだ?」
「それは、種子島と言いまして。遠くに飛んでいる鳥や、遠くに置いてある的などを撃ち抜くことが出来る南蛮の新兵器なのです!」
南蛮の新兵器だと?このような、鉄くずで作ったような兵器が?く、笑わせるな。
「く、これが新兵器? 笑わせるな。この馬鹿げた兵器の何処が素晴らしいと言うのだ?」
良頼の言葉を信じられない直頼が、目の前にある兵器を馬鹿にするように高飛車な物言いをする。
「ほう、父上は私の言葉を信じられないと申しますか。では、宜しいでしょう!! 私がその兵器の素晴らしさ、お教えしましょう!!」
良頼はそういうと、拳を握って立ち上がる。
まだ嘘か本当なのか信じられない直頼は、良頼を疑いつつも立ち上がって良頼と共に大広間を後にする。
現在の岐阜県、昔は二つの国に分かれていたのだ。
一つは、美濃国と言われ、岐阜県の平地の大半部分をこの国が占めていた。と、なればもう一つの国は山国で、山ばっかり。山姥が今にでも飛び出て来そうなくらい樹木が続き、生い茂った草々が人を迎え入れてくれない程、神聖なところである。
その国の名前を飛騨国と言う。飛騨山脈は有名である。この国、何故だか周りには大国ばかりに囲まれ睨まれ……。北には、加賀・一向一揆によって、仏教徒達が武士達を追い出し、一代国家を作り上げ、越中は仏教徒による大支配が続いていた。
西には越前国を拠点として活動している豪族の朝倉氏がいた。長年、越中の仏教徒と戦いを繰り広げ、過激な戦いは今も続いている。その下には、京極家家臣である浅井氏が居る。中でも当主の浅井亮政は、現在の浅井氏の権力を築き上げた人物である。
南には、油売りから下克上で成り上がった美濃の蝮と言われる斉藤道三が目を光らせていた。東には、信濃国の国衆である村上氏や、諏訪氏が。その下の甲斐国には、源氏の血筋である武田氏が国主として君臨していた。
▼天文十八年(一五四九) 長月
夏が過ぎ、秋を迎えようとしていた。今年も豊作であると良いのだが、と一人廊下を歩きながら一人の男は考えを巡らせていた。
「父上えええ!!!」
廊下を歩く男に、廊下を走る男。歩く方に父上と言うのだから、コイツは息子なのだろう。
「なんだ、良頼」
走る男、良頼は父上の前にまで到達すると、息を荒くしてその場で立ち止まった。
「お前ももう良い歳だろう、廊下を走るなどみっともないぞ!」
「はぁ……はぁ……そんなことよりも、父上!! 大変でございますぞ!!」
そんなことよりも、と父上の話が全く耳に入っていない良頼。これだから、いつまでも子供の様に見られてしまう。跡取りとして恥ずかしい限りだ。と、父の直頼は頭を悩ませていた。
直頼はもう五十後半の年齢となり、そろそろ隠居を考えている頃であった。しかし、息子の良頼は三十を超えながらも腕白で、子供の様な性格。なんとか飛騨の情勢を保てているのも、父の直頼が当主として顕在しているからであり、このまま良頼に家督を継がせてしまっては、再び飛騨で内乱が起こるのではないか、と気が気ではない程心配していた。
「で、大変とは一体なんなのだ……?」
直頼は呆れた顔で、しぶしぶ良頼に訊いてみる。
「知っておりますか!! 一月前、薩摩の方に南蛮の者が流れ着いたと言う話を!!」
確か、おかっぱ頭の宣教師なるものが、薩摩に漂流したと言う話だったか。
「それが、どうしたのだ?」
「その南蛮者が持っていた、数多くの貢物の一つを!! 遂に私が入手致しましたぞ!!」
「……またそうやって訳の分からぬことをやっているのかお前は!! そんなことはどうでもよい!! お主は次期三木の当主となるのだぞ!! 跡取りらしく、儂の傍で学問をすると、思い浮かばんのか!!!」
またくだらない事をしている良頼に腹を立てた直頼は、大声で怒鳴りつけた。
「まぁ、父上! そう怒鳴らずに。きっと、それを見て頂ければ考えを改めてくれると思いまして」
「何を言うか! 何故そのようなガラクタを見てやらねばならぬのだ! 儂は遊んでばかりの御主の様に、暇ではないのだぞ!!」
と、直頼はそう言いつつも良頼に言われるがままに連れていかれ、いつの間にか大広間の御前に座らされていた。
「父上、此方にございます」
直頼は、横に長い正方形の箱を目の前に差し出すと、スーッと此方に近づけた。
「……なんだ、この長い箱は」
どうせろくなものではないと思いつつ、直頼は箱の蓋を開ける。
「これは……なんだ?」
蓋を開けると、中には得体の知れない何かが入れられていた。よく見ると、細長く鉄と木材で作られたモノ。なんだこれは?
「一体これはなんなのだ?」
「それは、種子島と言いまして。遠くに飛んでいる鳥や、遠くに置いてある的などを撃ち抜くことが出来る南蛮の新兵器なのです!」
南蛮の新兵器だと?このような、鉄くずで作ったような兵器が?く、笑わせるな。
「く、これが新兵器? 笑わせるな。この馬鹿げた兵器の何処が素晴らしいと言うのだ?」
良頼の言葉を信じられない直頼が、目の前にある兵器を馬鹿にするように高飛車な物言いをする。
「ほう、父上は私の言葉を信じられないと申しますか。では、宜しいでしょう!! 私がその兵器の素晴らしさ、お教えしましょう!!」
良頼はそういうと、拳を握って立ち上がる。
まだ嘘か本当なのか信じられない直頼は、良頼を疑いつつも立ち上がって良頼と共に大広間を後にする。
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