ノーヘブン

暇人001

#7 貴族と冒険者

「なるほど…… 娘を助けてもらった事、誠に感謝する」

「いえいえ、アリサ様の方から感謝の言葉は十分に頂いておりますので」

「ところで、お父様。この方ミカドに何か褒美を差し上げたいのですが……」

 アリサのその言葉に頷き一呼吸置いてから口を開きこう言った。

「ユークリア・エルナンド・バミロニアの名においてミカド殿に降りかかる一切の厄から保護する事を誓おう」

 その言葉を聞くなりアリサが腕を絡ませてくっついてきた。

「え、え、どういうこと……」

「流石お父様、私がミカド様に好意を抱いている事を見抜いていたのですね?」

「あぁ、勿論だとも。それにミカド君になら任せられる」

「いや、ちょっと待ってください!何を言っているですか!?」

「「いや、だから結婚をだな(ですね)」」

 2人が同時に顔を向けてそう言う。

「ちょっと待ったぁっ!展開が速い!そしていつアリサは俺のことを好きになったんだ!」

「ほほぅ……もうその様な話し方をするほど仲が良いのだな?」

「いつって、貴方が私を救ってくれたあの時からに決まっているじゃない。強さと優しさにやられてしまったわ」

 おいおい……異世界だからってこんなのアリかよ……

「まぁ、なんだ。流石に今すぐに結婚しろとは言わない。じっくり考えて決断を出すと良い」

「いい返事期待してますね!」

「いやいや……速すぎるでしょ……それに俺がもしアリサさんを襲うような事があればどうするんですか」

「やだ、ミカドさん。襲うだなんて……嫌いじゃないけど……」

 変な妄想をして自分の世界へ行ってしまっているアリサは一旦おいといて。今はユークリアさんとしっかり話をしなければ……

「構わない。それに君からは異常なまでの魔力をヒシヒシと感じる。その力は紛れもなく本物だろう」

 ……!?なぜだステータスも確認していないのにどうしてわかったんだ?

「いま、どうしてそんな事が分かったんだ? と思っただろう?私はね魔眼の持ち主なのだよ」

「魔眼……?」

「あぁ、数百万分の1の確率で発症すると言われている先天性無魔力症。私はその症状を患っていたのだが、それと同時に魔眼という固有スキルも持っていたのだ」

 後から聞いた話によると、無魔力症を患った人の中から極少数の人たちは魔眼と言われる固有スキルを得るらしい。

 だが、その魔眼も統一した効果ではなく人それぞれ効果は異なるらしい。

「その魔眼という固有スキルを持って俺のステータスを覗いたという事ですか?」

「いいや、魔眼にそこまでの正確さは無い。ボンヤリとしたオーラのようなモノを感じ取るくらいの事しかできないが、何も私の魔眼はステータスを見破る為だけのものではない、例えば対話している相手が今何を考えているかという事くらいは薄っすら程度ではあるが感じ取ることは可能だ」

「すごいですね……しかし、無魔力症と言う名前からして魔力は無に等しいと思うのですが魔眼は魔力の消費など無いのですか?」

 ミカドは魔眼に興味を持ち深く話を聞いてみることにした──

「魔眼とは──」

 魔眼について語り合う事15分程度、聞いた話によると魔眼は魔力の塊でできているらしく魔力の消費は無いがもしかすると魔眼内で魔力を少しずつ消費しているのかもしれない。との事だった。

「なるほど、貴重なお話ありがとうございました」

「なんのなんの。わからないことがあったらなんでも聞いてくれ」

「そうですか……でしたらお言葉に甘えて──」

 ミカドはこの世界の情勢や大まかな国対国の勢力図を教えてもらった。

 まず、此処シンシェル国は世界五大国と呼ばれており、世界を大きく5つに分けて西側に位置する。
 シンシェル国は製造や生産を主流にしている。

 また、世界の東側に位置するのはジパングと呼ばれる国だ。
 ジパングは加工と食物の生産を主流にしているようだ。

 それから、世界の南側に位置する国はセントクリフォートと呼ばれる魔法が発展した法国とも呼ばれている国だ。

 そして、世界の北を統べているのは魔王率いる魔王軍たちだ。正式な名前が未だに無い為、人々は魔国と呼んでいる。

 それから最後、世界の中央に置かれた国の名前、オリンパスと言う。その国には神が住んでいると言われておりどの国に属する者も侵害する事は決して許されない。

 世界五大国の1つに選ばれているオリンパスだがその規模はとんでも無く小さく、1つの都市どころか1つの小島くらいの大きさしか無い。

 実質の所は東西南北の4カ国が主流の国だとのことだ。


「詳しく教えて頂きありがとうございました」

「問題ないとも、それよりミカド君は幾つなんだい?」

「18ですね今年で19になります」

「ほう、ならばもう嫁の1人くらいはいてもいい時期だな……」

「直ぐに良い返事をすることはできませんよ」
 ユークリアがボソッと呟いたその一言をミカドは聞き逃さなかった。

「わ、わかっておる。まぁゆっくり考えてくたらいい。しかし、この結婚は君にとって十分有利な効果を期待できるものだと思うぞ?」

 貴族との結婚、それがどのような意味を持つのか、それは現代の日本で生活していたミカドにとっても理解できない事では無かった。

「しかし──、俺みたいな何処の馬の骨かもわからぬ者と結婚してアリサ様は本当に幸せなのでしょうか……」

ソレ・・を見ても本当にそう思うのかい?」

 アリサは未だに1人妄想の世界に浸り続け顔を赤く染めていた。

「い、いえ……」

「おい、アリサ」

「は、はいっ!なんですか?」

 自分の世界から戻ってきたアリサは恥じらうこともなく、ケロっとした表情でユークリアに言葉を返す。

「14日間だ。14日間時間をあげるから十分に考えて答えを出しなさい」

 その言葉はミカドだけに向けられたものではなく、アリサに対しても向けらた言葉だった。

「私の答えは決まっていますけどね!」
「わかりました……」

「うむ、ではアリサ、ミカド君を部屋に案内してあげなさい」

「はい! ミカド様部屋を案内致しますので後についてきて下さい」

 2人はユークリアに一礼して応接室を後にした。


「ミカドの部屋は2階よ」

「うん、ありがとう」

「食事は部屋まで届けるようにメイド達に伝えておくわ」

「メイドもいるのか……」

 日本では、なおかつミカドの住んでいた家では決してありえないメイドという存在に少々驚きながらも、貴族というのはそういうものなんだなと割り切っていた。

「お風呂は好きな時間に入って良いからね」

「お風呂!?」

「な、なによ急に大きな声を出して……」

 異世界に来て早1週間近く経つが未だにお風呂と言う物に身を預けたことは無かった。

「どこにあるんだ!?出来れば今すぐ案内して欲しい!」

「い、いいけど……」

 ミカドのあまりの食いつきぶりにアリサは少し引き気味になりながらも風呂場まで案内した。

「ここがお風呂場よ、服は……着替えってある?」

「……無い」

「まぁ……1日くらいなら着回しても大丈夫かしら」

「え?」
 ミカドは思わずそう言ってしまう。

「やっぱり嫌よね、どんな服が良い?要望があればすぐにでも買って来させるけど……」
 そして、ミカドが驚いたのはそう言う意味ではなく──

「1日どころかもつ1週間近く着回しているんだけど……」

「ええっ!?」

 お風呂場にアリサの声が響き渡った。

「それに、風呂に入るのも1週間ぶりくらいだし……」

「嘘でしょ……?」

「本当だよ」

「嘘よ……1週間もお風呂に入らない人なんているわけ無い……」

 コレは貴族と平民の圧倒的な差でもあった。
 この世界で毎日風呂に入ることができるのは貴族だけ、平民も風呂には入るが2週間に1度程しか入らない。

 それも平民が入る風呂は平民専用の大衆浴場の様な場所で一斉に入るのだ。この事はラザーより前々から聞いておりミカドはそんなに大人数で入浴して汚れなんて取れるのだろうか?と考えていたのだ。

 そのことをアリサに伝えるなりアリサは驚きを隠せずにいた。

「ってな訳だからさっそくだけどお風呂に入らさせて貰っても良いかな?」

「良いわよ……」

「でわお言葉に甘えて。 あ、服はコレを着回すから大丈夫だよ」

「大丈夫じゃないっ! メイド達に用意させる!どんな服でもいいわね!?」

 コレでもかと言うほど拒否されるミカドであった。

「なんでもいいけど、派手なのはやめて欲しいかな……」

「わかったわ。そのように伝えておく。ゆっくり・・・・お風呂に浸かってね!」

 ミカドはアリサに言われた通りゆっくりと長い時間をかけて1週間分の汚れを洗い流した。

「ふぅ……久しぶりの風呂は気持ちいいもんだな〜」

 脱衣所には黒を基調とした上・下の服が用意されておりその服の間に挟み込まれるように黒色の下着も準備されていた。

 また、それらの横に真っさらなバスタオルが1つ置かれておりそれを使い十分に体についた水分を取ると用意されていた服に着替えミカドはふと気付く──

「あれ……ここに脱いであった俺の服は……」

 ──そう、自分の服が無いことに。

「もう服は着たかしら?」

 そう言いながらアリサは男性浴場の脱衣所へなんの躊躇もなく入ってきた。

「普通入ってくるかよ……」

「なにか?」

「いや、別に何も…… ところでここに置いてあった俺の服は何処に?」

「あぁ、それならさっき処分に出したわよ」

「え……? 今なんて?」

「だから、処分したって……」

「ちょっとぉぉっ!何してんだよ!」

 ミカドは脱いだついでに洗濯しようとしていたのだ。

「1週間も着ていたならもういいかなって…… 勝手なことしてごめんなさい」

 少し泣きそうな声でそう言われたミカドはあたふたして、最終的に取った行動は許すという行為だった。むしろそれ以外にこの状況を上手くやり過ごす手段はないのでは無いだろうか。

「い、いや。全然問題ないよ。汚いから自分で捨てようと思ってたんだよ」

「そうなんだ……よかった。怒られるかと思った……」

 まぁ、また買い直せばいい話だ。
 そう思いミカドは脱衣所を後にした。

◇◇◇◇◇

「ミカドの部屋はここよ、中に夕飯が準備されてるから好きな時に食べて食べ終わったら食器とトレーは部屋の外に出しておいてくれたらメイド達が片付けてくれるからそのようにしておいて!」

「うん、ありがとう。明日の昼までには出て行くよ」

「そう……わかった!」

 アリサはどこか寂しげにそういうとミカドの部屋を後にした。


「さて……晩飯食って寝るか」

 鏡面仕上げの木製の机の上にはシチューとパンが数枚用意されていた。

 それらを綺麗に平らげたミカドは食器とトレーを廊下に起きベットに意識を預けた。





「昨日はお世話になりました。宿泊させていただきありがとうございました」

「なんのなんの。ミカド君なら、いつでも寄ってくれて構わないぞ」

「また、必ず来てくださいね!」

(えらく信用されてるな……)

 ミカドは、アリサとユークリアに別れを告げて1週間前に注文していた服を取りに行くのであった。



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