ノーヘブン
#4 冒険者組合
時計の針が午前10時を指す頃ようやく眠りから目覚める。
「くぁぁ……」
昨日の疲れがまだ少し残っているもののかなりスッキリした気分だ。
「時間を気にしない朝ってのはなかなか快適なもんだな…… さて、このまま無職のまま生活するのもどうかと思うし職を探しに行くか」
死ぬまで働かずとも生活水準さえ高くしなければ暮らしていけるだけのお金はエーシェルから貰っている。恐らくエーシェルもスキル等の特殊な力が渡せない代わりに、不自由なく暮らせるように便宜をはかってくれたのだろう。
だが、いくら金を持っていても何も職に属さないというのは流石に不味いし、何よりこの世界の職業というものに少しばかり興味がある。そう冒険者という職業に。
冒険者組合ーー
「おぉ……これは聞いていた話よりも随分と大きな施設だな……」
俺は、元冒険者でもあるエルファンスから何処に行けば冒険者になれるのかを尋ねると彼は、冒険者組合に行って登録を済ませればその日から冒険者になれると簡潔かつ十分な情報を提供してくれた。
冒険者組合またの名をギルドとも呼ぶそうだ。そして今俺はギルド自身の建物を見て圧倒されている。何故なら、スケールがあまりに大きすぎるからだ。比較対象がボロ宿のラザーという点が難儀だがそれでも、東京ドーム1個分くらいの大きさはあるだろう。
それだけの大きさを誇るギルドはなんと全て木材で作られている施設なのだった。360°どこから見ても同じ表情を見せるギルドの天井部分には巨大な角を生やした龍の骸が置かれている。
「それにしても、あの骨は一体なんなんだろう……」
ドンっ
骸を見入るように眺めているとギルドから出てきた男と肩がぶつかる鈍い音が聞こえた。
「ってぇな! どこ見て歩いてんだぁ?」
「すいません」
(なんだこの如何にも柄の悪そうな男は……つか、俺止まってただけなんだけどな……)
「すいませんじゃねぇだろ!? 俺の服が汚れちまったじゃねぇかよ」
確かに男の服は汚れている。だがそれは俺と接触した事による汚れではなく元から汚れているものだ。むしろ俺の服の方が接触したせいで汚れている。
いやいや、そんな冷静な解説をしている場合ではない。コイツは恐らくーー
「アタリ屋ですか?」
「何言ってんだテメェ! 痛い目みねぇとわかんねぇのか?」
男はそう言いながらジリジリと近づいてメンチを切りまくってくる。
しかし時が止まるように男の歩みがピタリと止まる。柄の悪い男の背後には見覚えのある大男の姿があり、大男は柄の悪い男の肩をガッシリと右手で掴んでいる。
「あ、エルファンスさん。どうしてこんなところに?」
「ギルドの場所を聞いてきた時にピンと来てな、ミカド君は冒険者になるつもりだろ? それでこの機に俺ももう一度冒険者に再就職しようと思って登録しに来たってわけだ」
「え、エル、エルファンスっ!?」
肩を掴まれたまま感嘆の声を上げる男性。
「そんな大声を出すな。それから喧嘩を売る相手を間違えるなよ小僧」
「ど、どういう事だ」
エルファンスと男、そのあまりの体格の違いから親子の様にも見える。
「お前が喧嘩売った相手は俺よりも強いぞ?」
「なっ!? い、いやそれはありえない……」
「残念ながら真実だ。今謝れば許してくれるかもしれないぞ?」
そう言うと、エルファンスは男の肩をパッと離した。
「す、すいませんでしたァッ!」
清々しいほどの謝罪と美し過ぎるほどの礼を見せる男。当然俺は怒ってすらいなかったので二つ返事で許す事にした。
「構いませんよ」
そっと男性に告げるようにそう言うとエルファンが口を開いた。
「おぉ、良かったな。次からは相手見て喧嘩売れよ」
いや、どうして喧嘩を推奨するんだこの人は。
男はエルファンスの助言を聞き受けると逃げるように場を立ち去った。
「ミカド君はもう冒険者登録を済ませたのか?」
「いえ、まだです。エルファンスさんはもう済ませたんですか?」
「いいや、俺もまだだ。 あと、さん付けいらないからな気軽にエルファンスと呼んでくれて構わない」
「じゃあ、俺の事もミカド君じゃなくてミカドって呼んで下さい」
俺とエルファンスは流れるような動作でお互いの右手を強く握った。
「どうだ、これから一緒に登録をしに行かないか?」
「是非ご一緒させていただきます」
木製の扉を開けギルドの中に入るとそこにいた人たちの視線はなぜか俺たちの方に向けられていた。
「受付はまっすぐ行ったあの窓口だ、さぁ行こう」
注がれる視線の中を堂々と歩くエルファンス。その後を追いかけるようにって行く俺。
「冒険者の登録を行いたい。頼めるか?」
受付を担当したのは清楚な30代半ばの女性だった。女性は座りながら軽くお辞儀すると微笑みながらこう言った。
「もちろんです。お待ちしておりました」
「特別扱いはやめてくれ、他の奴等と同等の対応を頼む」
その言葉を聞いた女性はギョッとした顔でこう言った。
「貴方様に対して他の冒険者と同じ対応をしろだなんて、私に死ねとおっしゃるのでしょうか?」
なんだその解釈、どういう思考回路してんだこの人。いや……もしかするとそれ程の事を言わせるくらいこの人は凄い人なのかもしれない……
「確かに、一昔前なら死ねと言う意味だったかも知れないが今は違うだろう。何より、俺は既に引退した身だその点においては逆に一般人と同じ対応をしない方がまずいんじゃないのか?」
女性は渋々と言わん表情を見せながら小さく頷いた。
「では、こちらの石板を触れてください……」
女性はの声らどこかぎこちなさを残した物だった。これでも十分なほど丁寧な対応だと思うのだがこれでぎこちないと言うことはコレ以上の対応をしていたのだろうか……
「あ、コイツも一緒に登録したいんだが頼めるか?」
エルファンスは俺の肩を掴んでそう言った。
「ええ、もちろん構いませんが…… パーティを組む予定でしたらご遠慮願います」
女性の言わんとする意味はわかる。恐らく力の差がありすぎる場合、強すぎる敵に挑む際に俺が足手まといになる事を考慮して事前に言ってくれたのだろう。
元より俺も力量の差が歴然としている人と同じレベルの仕事を受けようとは思っていない。
「わかって──」
俺の言葉を遮る様にエルファンスが口を開く。
「あまりふざけた事を言わないで欲しいなレフィリアさんよ。 何故俺が冒険者を引退し、そして何故今俺が復帰を決意したと思う?」
レフィリア、受付の人の名前だろう。名前に似合って美人……ってそう言う事を言っている場合ではない。受付の人の顔が明らかに青ざめているのだけど。
「そ、それは、つ、つまり…… 申し訳ありませんでしたっ!」
レフィリアは青ざめた顔が完全に見えなくなるほど深くお辞儀をした。
「おう」
レフィリアの行動に対してエルファンスが返した言葉はそのたった二文字だけだった。
「じゃあ、測定頼む」
エルファンスはそういうとタブレットほどのサイズの石板に手のひらをそっと置いた。
「かしこまりました。それでは始めます『オープンステータス/2st』」
瞬間手のひらが置かれた石板は眩い光を放った。
光が収まる頃には石板には日本語では無い文字がびっしりと刻まれていた。
「流石ですエルファンス様、引退され長らく月日が経ってもこのステータス…… 感服いたします」
レフィリアは文字が彫刻された石板を見ながらそう言った。
「流石に、現役時代よりかは劣っているか」
エルファンスは悲しげにそう言った。
俺はエルファンスのステータスか記された石板を覗き込むように見た。すると、象形文字や楔文字のような理解することすら出来ないはずの文字がまるで日本語のように理解する事が出来た。
エルファンス・ラザー
称号:鬼力の英雄
攻撃:S+
防御:AA
敏捷:A-
魔力:A
固有能力:『豪腕』
スキル:<グランドインパクト> <クラッシュインパクト> <エターナルインパクト> <デモンズストライク>
魔法:《ボディオブデルファルション/2st》《アブソリュートパワード/3st》《ファイヤーペイン/1st》《ヒール/1st》
「このステータスって高いんですか?」
俺は率直な感想を2人に問いかけた。その答えを返してくれたのはレフィリアの怒号だった。
「当たり前でしょ!?このギルドにはこれ以上のステータスを持つ冒険者はいないわっ!」
穏やかなレフィリアの声色が大きく変化した。
「まぁ、そんな怒鳴るな。さぁミカド次はお前の番だ」
「わ、わかりました……」
エルファンスに言われるまま俺は彼と同じように手を置きレフィリアが先ほどと同じように魔法を唱える。
同じ様に眩い光が視界を奪った後ステータスが石板に彫り込まれる。
「な、なによこれ……」
1番初めに俺のステータスを確認したレフィリアの言葉がソレだった。
その後に続くように俺がステータスを確認する。
ミカド・サイオンジ
称号:武人
攻撃:EX+
防御:SS+
敏捷:EX
魔力:EX-
固有能力:『武術の極み』『修羅』『人外』『高徳』
スキル:無し
魔法:無し
EX……なんだこのステータス、何の補正もされていないんじゃ無かったのか?
「どれ、俺にも見せてくれ」
エルファンスがジリジリと近づいて俺のステータスを確認する。
「まさか、ここまでとはな…… ステータスEXか、俺がどれだけ手を伸ばしても届かぬ領域だな」
「ミカド様、少々お待ちください。ギルドマスターを呼んで参ります」
なんだか面倒な事になりそうだ……
レフィリアが席を外してから5分、俺とエルファンスの間には沈黙という壁が生まれてしまっていた。
「あ、あのぉ……」
俺が、堪らず沈黙を破った途端、渋みのある一斉が俺の言葉をかき消す。
「待たせてすまない!ギルドマスターのベルシヤだ」
「久しぶりだなベルシヤ」
エルファンスは、綺麗な白髪を生やし深みのある目を持つ老体にそう言った。
「おぉ、エルファンス殿久方ぶりではないか!」
2人の仲は相当良いものだと瞬時に判断することが出来た。
「ベルシア、こいつのステータスは一般には公開しないで欲しい」
エルファンスは俺の方を親指で指差しながらそう言った。正直この配慮はとてもありがたい。
「承知した、ミカド君もそれで良いかね?」
「もちろんです、俺もあまり目立ちたくは無いのでもし公開する必要がある場合には一般的なステータスを代わりに公開してください」
「うむ」
ベルシアはその一言だけ発言するとエルファンスにA4サイズほどの1枚の紙を渡した。
「なんだこれは?」
「契約書だよ。そこに書いてある条件で良ければ名前を書いてくれ」
俺は内容が気になり横目でチラチラと覗き見る。そこにはびっしりと文字が綴られておりその内容文とは主に急な脱退を禁ずるとの事だった。
「ほぅ…… 良いだろうこの条件受けようじゃないか」
決断早くない?本当に大丈夫なのか……?
俺がそんな心配をしているのを他所にいつのまにか差し出されていたペンを握り署名欄に躊躇なくサインした。
「うむ、確かに受け取った。 して、隣に座っているミカド君と言ったかな?」
「何でしょうか?」
「君にはこの国の冒険者としてその生涯を終えて欲しい」
淡々とした口調でとんでもないこと言うんだな……
「少しお時間を頂けないでしょうか?今すぐに決断するのは難しいです」
「それもそうだな。わかった、1週間後また顔を出しに来てくれ。その時に改めて応えを聞くとしよう」
1週間か……まぁ、十分だろう。
「わかりました。では今日はこれで……」
別れの挨拶を切り出した途端、ベルシアが俺の声をかき消す。
「君たちにはこのクエストを請け負って貰いたい。もちろんそれなりの報酬と地位は用意してある」
ベルシアはその言葉と同時にクエスト内容が書かれた紙を滑らすようにこちら側に渡した。
「おい……これはなんの冗談だ?」
エルファンスは顔色と声色を変えてそう言った。
クエスト用紙にはこう書かれていた。
紅炎竜討伐
報酬:白金貨25枚
レッドドラゴン……初めてのクエストにしちゃあなんだか強そうな名前だが大丈夫なのか?
「レッドドラゴンなんて、こんな依頼受けられるかっ!」
「まぁまぁ、そう慌てるな。なにもお主ら2人だけで行けと言っているわけでは無い」
「エルファンスさん、とりあえず話だけでも聞きましょうよ」
「そ、そうだな……」
「それじゃあ説明する。が、その前に此処では余りに注目の目が多すぎる。今更だが場所を移しても構わないか?」
辺りを見渡すと沢山の冒険者たちがこちらを見ている。それを見た二人は同時に頷き別室での話を希望した。
「くぁぁ……」
昨日の疲れがまだ少し残っているもののかなりスッキリした気分だ。
「時間を気にしない朝ってのはなかなか快適なもんだな…… さて、このまま無職のまま生活するのもどうかと思うし職を探しに行くか」
死ぬまで働かずとも生活水準さえ高くしなければ暮らしていけるだけのお金はエーシェルから貰っている。恐らくエーシェルもスキル等の特殊な力が渡せない代わりに、不自由なく暮らせるように便宜をはかってくれたのだろう。
だが、いくら金を持っていても何も職に属さないというのは流石に不味いし、何よりこの世界の職業というものに少しばかり興味がある。そう冒険者という職業に。
冒険者組合ーー
「おぉ……これは聞いていた話よりも随分と大きな施設だな……」
俺は、元冒険者でもあるエルファンスから何処に行けば冒険者になれるのかを尋ねると彼は、冒険者組合に行って登録を済ませればその日から冒険者になれると簡潔かつ十分な情報を提供してくれた。
冒険者組合またの名をギルドとも呼ぶそうだ。そして今俺はギルド自身の建物を見て圧倒されている。何故なら、スケールがあまりに大きすぎるからだ。比較対象がボロ宿のラザーという点が難儀だがそれでも、東京ドーム1個分くらいの大きさはあるだろう。
それだけの大きさを誇るギルドはなんと全て木材で作られている施設なのだった。360°どこから見ても同じ表情を見せるギルドの天井部分には巨大な角を生やした龍の骸が置かれている。
「それにしても、あの骨は一体なんなんだろう……」
ドンっ
骸を見入るように眺めているとギルドから出てきた男と肩がぶつかる鈍い音が聞こえた。
「ってぇな! どこ見て歩いてんだぁ?」
「すいません」
(なんだこの如何にも柄の悪そうな男は……つか、俺止まってただけなんだけどな……)
「すいませんじゃねぇだろ!? 俺の服が汚れちまったじゃねぇかよ」
確かに男の服は汚れている。だがそれは俺と接触した事による汚れではなく元から汚れているものだ。むしろ俺の服の方が接触したせいで汚れている。
いやいや、そんな冷静な解説をしている場合ではない。コイツは恐らくーー
「アタリ屋ですか?」
「何言ってんだテメェ! 痛い目みねぇとわかんねぇのか?」
男はそう言いながらジリジリと近づいてメンチを切りまくってくる。
しかし時が止まるように男の歩みがピタリと止まる。柄の悪い男の背後には見覚えのある大男の姿があり、大男は柄の悪い男の肩をガッシリと右手で掴んでいる。
「あ、エルファンスさん。どうしてこんなところに?」
「ギルドの場所を聞いてきた時にピンと来てな、ミカド君は冒険者になるつもりだろ? それでこの機に俺ももう一度冒険者に再就職しようと思って登録しに来たってわけだ」
「え、エル、エルファンスっ!?」
肩を掴まれたまま感嘆の声を上げる男性。
「そんな大声を出すな。それから喧嘩を売る相手を間違えるなよ小僧」
「ど、どういう事だ」
エルファンスと男、そのあまりの体格の違いから親子の様にも見える。
「お前が喧嘩売った相手は俺よりも強いぞ?」
「なっ!? い、いやそれはありえない……」
「残念ながら真実だ。今謝れば許してくれるかもしれないぞ?」
そう言うと、エルファンスは男の肩をパッと離した。
「す、すいませんでしたァッ!」
清々しいほどの謝罪と美し過ぎるほどの礼を見せる男。当然俺は怒ってすらいなかったので二つ返事で許す事にした。
「構いませんよ」
そっと男性に告げるようにそう言うとエルファンが口を開いた。
「おぉ、良かったな。次からは相手見て喧嘩売れよ」
いや、どうして喧嘩を推奨するんだこの人は。
男はエルファンスの助言を聞き受けると逃げるように場を立ち去った。
「ミカド君はもう冒険者登録を済ませたのか?」
「いえ、まだです。エルファンスさんはもう済ませたんですか?」
「いいや、俺もまだだ。 あと、さん付けいらないからな気軽にエルファンスと呼んでくれて構わない」
「じゃあ、俺の事もミカド君じゃなくてミカドって呼んで下さい」
俺とエルファンスは流れるような動作でお互いの右手を強く握った。
「どうだ、これから一緒に登録をしに行かないか?」
「是非ご一緒させていただきます」
木製の扉を開けギルドの中に入るとそこにいた人たちの視線はなぜか俺たちの方に向けられていた。
「受付はまっすぐ行ったあの窓口だ、さぁ行こう」
注がれる視線の中を堂々と歩くエルファンス。その後を追いかけるようにって行く俺。
「冒険者の登録を行いたい。頼めるか?」
受付を担当したのは清楚な30代半ばの女性だった。女性は座りながら軽くお辞儀すると微笑みながらこう言った。
「もちろんです。お待ちしておりました」
「特別扱いはやめてくれ、他の奴等と同等の対応を頼む」
その言葉を聞いた女性はギョッとした顔でこう言った。
「貴方様に対して他の冒険者と同じ対応をしろだなんて、私に死ねとおっしゃるのでしょうか?」
なんだその解釈、どういう思考回路してんだこの人。いや……もしかするとそれ程の事を言わせるくらいこの人は凄い人なのかもしれない……
「確かに、一昔前なら死ねと言う意味だったかも知れないが今は違うだろう。何より、俺は既に引退した身だその点においては逆に一般人と同じ対応をしない方がまずいんじゃないのか?」
女性は渋々と言わん表情を見せながら小さく頷いた。
「では、こちらの石板を触れてください……」
女性はの声らどこかぎこちなさを残した物だった。これでも十分なほど丁寧な対応だと思うのだがこれでぎこちないと言うことはコレ以上の対応をしていたのだろうか……
「あ、コイツも一緒に登録したいんだが頼めるか?」
エルファンスは俺の肩を掴んでそう言った。
「ええ、もちろん構いませんが…… パーティを組む予定でしたらご遠慮願います」
女性の言わんとする意味はわかる。恐らく力の差がありすぎる場合、強すぎる敵に挑む際に俺が足手まといになる事を考慮して事前に言ってくれたのだろう。
元より俺も力量の差が歴然としている人と同じレベルの仕事を受けようとは思っていない。
「わかって──」
俺の言葉を遮る様にエルファンスが口を開く。
「あまりふざけた事を言わないで欲しいなレフィリアさんよ。 何故俺が冒険者を引退し、そして何故今俺が復帰を決意したと思う?」
レフィリア、受付の人の名前だろう。名前に似合って美人……ってそう言う事を言っている場合ではない。受付の人の顔が明らかに青ざめているのだけど。
「そ、それは、つ、つまり…… 申し訳ありませんでしたっ!」
レフィリアは青ざめた顔が完全に見えなくなるほど深くお辞儀をした。
「おう」
レフィリアの行動に対してエルファンスが返した言葉はそのたった二文字だけだった。
「じゃあ、測定頼む」
エルファンスはそういうとタブレットほどのサイズの石板に手のひらをそっと置いた。
「かしこまりました。それでは始めます『オープンステータス/2st』」
瞬間手のひらが置かれた石板は眩い光を放った。
光が収まる頃には石板には日本語では無い文字がびっしりと刻まれていた。
「流石ですエルファンス様、引退され長らく月日が経ってもこのステータス…… 感服いたします」
レフィリアは文字が彫刻された石板を見ながらそう言った。
「流石に、現役時代よりかは劣っているか」
エルファンスは悲しげにそう言った。
俺はエルファンスのステータスか記された石板を覗き込むように見た。すると、象形文字や楔文字のような理解することすら出来ないはずの文字がまるで日本語のように理解する事が出来た。
エルファンス・ラザー
称号:鬼力の英雄
攻撃:S+
防御:AA
敏捷:A-
魔力:A
固有能力:『豪腕』
スキル:<グランドインパクト> <クラッシュインパクト> <エターナルインパクト> <デモンズストライク>
魔法:《ボディオブデルファルション/2st》《アブソリュートパワード/3st》《ファイヤーペイン/1st》《ヒール/1st》
「このステータスって高いんですか?」
俺は率直な感想を2人に問いかけた。その答えを返してくれたのはレフィリアの怒号だった。
「当たり前でしょ!?このギルドにはこれ以上のステータスを持つ冒険者はいないわっ!」
穏やかなレフィリアの声色が大きく変化した。
「まぁ、そんな怒鳴るな。さぁミカド次はお前の番だ」
「わ、わかりました……」
エルファンスに言われるまま俺は彼と同じように手を置きレフィリアが先ほどと同じように魔法を唱える。
同じ様に眩い光が視界を奪った後ステータスが石板に彫り込まれる。
「な、なによこれ……」
1番初めに俺のステータスを確認したレフィリアの言葉がソレだった。
その後に続くように俺がステータスを確認する。
ミカド・サイオンジ
称号:武人
攻撃:EX+
防御:SS+
敏捷:EX
魔力:EX-
固有能力:『武術の極み』『修羅』『人外』『高徳』
スキル:無し
魔法:無し
EX……なんだこのステータス、何の補正もされていないんじゃ無かったのか?
「どれ、俺にも見せてくれ」
エルファンスがジリジリと近づいて俺のステータスを確認する。
「まさか、ここまでとはな…… ステータスEXか、俺がどれだけ手を伸ばしても届かぬ領域だな」
「ミカド様、少々お待ちください。ギルドマスターを呼んで参ります」
なんだか面倒な事になりそうだ……
レフィリアが席を外してから5分、俺とエルファンスの間には沈黙という壁が生まれてしまっていた。
「あ、あのぉ……」
俺が、堪らず沈黙を破った途端、渋みのある一斉が俺の言葉をかき消す。
「待たせてすまない!ギルドマスターのベルシヤだ」
「久しぶりだなベルシヤ」
エルファンスは、綺麗な白髪を生やし深みのある目を持つ老体にそう言った。
「おぉ、エルファンス殿久方ぶりではないか!」
2人の仲は相当良いものだと瞬時に判断することが出来た。
「ベルシア、こいつのステータスは一般には公開しないで欲しい」
エルファンスは俺の方を親指で指差しながらそう言った。正直この配慮はとてもありがたい。
「承知した、ミカド君もそれで良いかね?」
「もちろんです、俺もあまり目立ちたくは無いのでもし公開する必要がある場合には一般的なステータスを代わりに公開してください」
「うむ」
ベルシアはその一言だけ発言するとエルファンスにA4サイズほどの1枚の紙を渡した。
「なんだこれは?」
「契約書だよ。そこに書いてある条件で良ければ名前を書いてくれ」
俺は内容が気になり横目でチラチラと覗き見る。そこにはびっしりと文字が綴られておりその内容文とは主に急な脱退を禁ずるとの事だった。
「ほぅ…… 良いだろうこの条件受けようじゃないか」
決断早くない?本当に大丈夫なのか……?
俺がそんな心配をしているのを他所にいつのまにか差し出されていたペンを握り署名欄に躊躇なくサインした。
「うむ、確かに受け取った。 して、隣に座っているミカド君と言ったかな?」
「何でしょうか?」
「君にはこの国の冒険者としてその生涯を終えて欲しい」
淡々とした口調でとんでもないこと言うんだな……
「少しお時間を頂けないでしょうか?今すぐに決断するのは難しいです」
「それもそうだな。わかった、1週間後また顔を出しに来てくれ。その時に改めて応えを聞くとしよう」
1週間か……まぁ、十分だろう。
「わかりました。では今日はこれで……」
別れの挨拶を切り出した途端、ベルシアが俺の声をかき消す。
「君たちにはこのクエストを請け負って貰いたい。もちろんそれなりの報酬と地位は用意してある」
ベルシアはその言葉と同時にクエスト内容が書かれた紙を滑らすようにこちら側に渡した。
「おい……これはなんの冗談だ?」
エルファンスは顔色と声色を変えてそう言った。
クエスト用紙にはこう書かれていた。
紅炎竜討伐
報酬:白金貨25枚
レッドドラゴン……初めてのクエストにしちゃあなんだか強そうな名前だが大丈夫なのか?
「レッドドラゴンなんて、こんな依頼受けられるかっ!」
「まぁまぁ、そう慌てるな。なにもお主ら2人だけで行けと言っているわけでは無い」
「エルファンスさん、とりあえず話だけでも聞きましょうよ」
「そ、そうだな……」
「それじゃあ説明する。が、その前に此処では余りに注目の目が多すぎる。今更だが場所を移しても構わないか?」
辺りを見渡すと沢山の冒険者たちがこちらを見ている。それを見た二人は同時に頷き別室での話を希望した。
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